所詮はどうしようもないゲーム
「がぁ……あぁ……」
俺は船の甲板の上で呻きながらゴロゴロと転がる!!
だっ!かっ!らっ!!
本気で痛いんだって!!
ゲームなんでしょ!!夢の中なのに、なぜこんなに痛いのか!!それとゲームなのに、なぜこんなに痛いのか!!
どこから突っ込めばいい!?
「ジーク!!」
ムンクが慌てて俺に近寄って来ようとする!!
「来るな!!」
俺は痛みに耐えながら叫ぶ!!今俺に近づけば、俺と一緒にパウルに殺されるかもしれない!!
俺の言葉にムンクは立ち止まった!!
そして俺はパウルの追撃を受けぬように起き上がろうとするが、もう起き上がる事も出来ない!!
俺が慌ててパウルの方を見ると、パウルは余裕の笑みでこちらを見ている!!
俺はこんな時に使ってみたい言葉があった。今からそれを使う!!
……万事休すだ!!
もう身体が動かない!!
先ほど、吹っ飛ばされた時にスマホを落としてしまったようで、目の前にスマホが転がっている。俺は寝転がったまま、そのスマホを掴んだ。
パウルはすぐに、俺にトドメを刺そうとはしないようだ。
理由はほんの少し分かる。
「俺に逆らう奴は容赦しねえ!拷問の準備をしろ!!」
やはりかっ!!
やはり拷問か!!クソゲーめ!!
おかしいだろ!!なんでゲームの中で拷問を受けるんだよ。
これがロール・プレイング・ゲームなら、俺は主人公だろ!!
主人公が拷問を受けるゲームなんて聞いた事が無いわ!!
腹立たしいが仕方が無い。俺はスマホを操作して、ゲームを終了する方法を「HELP」から探す。
こんな動けなくなる程の攻撃を受けても目が覚めないのだから、自然に目がさめる事は無いのだろう。何かゲームの終了方法があるはずだ。
俺は寝転んだまま、スマホを操作する。そして極力周りは見ないように努めた!!
パウルの手下が、拷問の道具らしき物を準備し始めたからだ。
ノコギリみたいな刃物や大型のペンチみたいな物を用意してい……なんだっ!?あれは!!鍋だ!!奴ら鍋を用意したぞ!!まさか、俺を食う気か!?
し、信じられん……
いや、違う。あれは俺を熱湯につけるつもりだな!!昔の大泥棒がやられた刑だ。
俺はこのゲームの中途半端さにムカついてきた!!船の上でどうやってお湯を沸かすつもりだ!!リアルの追求はどこにいったんだ!!
ずっとリアルを追求してきたのに、ここに来て鍋なんか出すな!!
アイドルが出てきたあたりから、お前おかしいぞっ!!
とにかく、俺が慌ててゲーム終了方法をスマホの「HELP」から探していると衝撃の事実が分かった。
本当に衝撃だった……
「ゲームの終了」ボタンがメニュー画面にあったのだ……
いや、正確にはメニュー画面に「航海日誌」というボタンがあり、クリックすると「航海をおわる」というボタンがある……
なんじゃそりゃっー!!
ただのゲームじゃねえか!!
まあ、ゲームなんだが……
特殊技能は掛け声で発動出来るんだから、ゲーム終了も様になる掛け声でいいじゃねえか!!
だから、ちょこちょこクソゲーの香りをさせるんじゃねぇ!!
とにかく、終わりだ、終わり!!
こんな身体もろくに動かない状態じゃどうしようも無い。
忌々しい。これだけリアルを追求しながら、結局はただのゲームだな!!
……
…………俺はゲームというフレーズで何かに気付く!
なんだ?今、何かに気付いたぞ!ゲーム……ゲーム……裏技……
俺は何かを見落としている。
そうだ、これはただのゲームだ。それもどうしようも無いゲーム。
な、何か思いつきそうだ!!
俺はスマホを操作して所持品一覧を確認する。
俺が所持しているアイテムは「黒闇のショーテル」のみ……薬草やポーションのような回復系のアイテムっぽい物は無い……
んっ!?これは!?
……なんで?
そうか!?確かに書いてあった!!
俺は慌てて、スマホを操作して、「オーバー・ヒート」の説明画面を見る!
そうかっ!!
「よし、準備は整った。奴を抱えあげろ!」
パウルが楽しそうに言う。俺を拷問する準備が整ったのだろう。
「やめろっ!!」
えっ!?
俺が見ると青い顔をしてムンクがパウル勢を睨みつけている!!
残念だが、ブルグン勢とあの奴隷部屋の連中は……俺がパウルにやられた後に武装解除をされて、周りを武器を持ったパウル勢に取り囲まれている。
「なんだぁ~?」
パウルはあの凶悪な顔でムンクを睨みつける。
可哀想にムンクは青い顔でガタガタと震えるばかりだ!!
「おい、そいつを連れて来い!」
パウルはムンクを指差して子分に命令をした。
パウルの子分がムンクに近づいて行く!
「待てっ!!」
甲板に寝転んだまま、俺は大声で言う。
「ムンク、俺は大丈夫だから、黙って見てろ」
「ジーク……」
周りのパウル勢は俺を馬鹿にしたようにニヤニヤと笑う。
それはそうだろう。もう動くこともままならず、これから拷問を受けようとする者が「俺は大丈夫」と言っても説得力が無い。
俺は少しスマホを操作してから言う。
「ムンク。俺の言葉を覚えているか?」
ムンクは俺に心配そうに聞く。
「な、なんだ?言葉って?」
「我は……」
「わ、我は?」
「……不死身である!!!!」
その言葉と同時に俺は例の反則技を発動し、パウルに向かって走る!!
俺が動けるとは思っていなかったパウルは慌てふためきながら、自分の剣を構えた!!
キンッ!!ギンッ!!キュイッーン!!
俺はパウルに連続攻撃を仕掛ける!!
MAXパワーになっても、パウルと俺の力はほぼ互角!!
しかし、スピードに関してはこちらに分がある!!
俺は右へ左へとフェイントを入れてパウルを翻弄する!!
キュイッーン!キンッ!!ギンッ!
シュッ!!シュッ!!
俺の攻撃は、パウルの肩に腕にかすり傷はつけるが致命傷は与えられない!!
俺は自慢のスピードを生かしてパウルを翻弄した。
丁寧に攻撃を積み重ねながら、俺は左手に持ったスマホで自分のステータスを見る。
敵はパウル一人、奴はベルン程は速くないのでMAXパワー時の俺のスピードには全くついてこれていない。
だから、スマホの画面を見たい瞬間だけ、大きくパウルから距離を取ればいいのだ!!
しかし、奴に妙な動きはされたくないので、確認後はすぐに距離を詰める!!
現在の俺のステータスは……
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【ステータス】
Lv : 1
HP :60
STR :60
VIT :60
INT :60
AGI :60
LUK :60
PIR : 7
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素晴らしい!!惚れ惚れする!!とにかく数字が綺麗に並んでいるのは気持ちの良いものだ。
海賊力はもう「3」も減ってしまっているが仕方が無い!!
「オーバー・ヒート」は海賊力の消費が激しい。
しかし、まさか、あんな方法で海賊力を増やせるとはな!!
ゲームならではだ!
単純に言えば「課金」したのだ。課金をすれば「海賊力」が買える。
普通のゲームなどで120円課金すれば、ライフを一個買えるようなイメージだ。
もちろん、俺はこんなクソゲーに課金はしない。
ではどうやって「海賊力」を増やしたのか?
「HELP」で「海賊力」の回復方法を読むと「ゲーム内通貨で一気に回復させる事も可能」と書いてあるのだ!!
このゲームを始めたばかりの俺に所持金など無いと思ったが、先程、所持品一覧を見たら、アイテムは「黒闇のショーテル」のみだが、画面下の「所持金」の欄に「1,000」との数字が入っていた。
なんだ?これは?と俺もビックリしたが、よくよく考えれば最初ゲームを始める時にクリックした広告に書いてあった。《今ならゲーム内通貨1,000ピース・オブ・エイトをプレゼント》と。
ちょっとピース・オブ・エイトというのは分からないが、つまり俺はゲーム内のお金を持っているのだ!
すぐさま、「海賊力」の「HELP」ページに戻った。
書いてある。「海賊力」を回復させるには海賊力「1」につき、「100」ピース・オブ・エイトが必要だと!
俺はすぐに「1,000」ピース・オブ・エイトを海賊力「10」に交換したという訳だ!!
やはりゲームはゲームだ!!課金をさせようとの魂胆が丸見えである。
まだそこまで読んでいないが、たぶん100円でゲーム内通貨が「1,000」でも買えるようになっているのだろう。ハマれば課金する奴もいるかもしれない。クソゲーめ!!
俺はパウルに攻撃を仕掛けながら、たまにスマホから自分のステータスを確認した。
とうとう「海賊力」が「3」になってしまった。しかし、俺はまだパウルに致命傷を与えてはいない!!
だが、俺に焦りは無い!!
俺はアレを待っているのだ!!
キンッ!!ギンッ!!
延々と俺はパウルを攻撃し続ける!!
とうとう「海賊力」は「2」となった!!
俺の「海賊力」が尽きれば、拷問の続きが行われるだろう。
そして、このゲームはリアルに痛みを感じる!!「体力(HP)」が尽きるまで無闇に苦しめられてゲーム・オーバーだ。
俺の「海賊力」は「1」となる!!
もう間に合わないかと俺が思った瞬間!!アレは来た!!
パウルの動きが急に悪くなる!!
俺が待っていたアレとは「疲労」だ!!