激突!ジーク対パウル・ハウゼン
俺は気付いた!!
「オーバー・ヒート」は無敵である!!
いや、不死身であると言うべきか?
「オーバー・ヒート」は一度発動すると明示的に解除するか、「海賊力」が無くなるまで使い続けることが出来る!!
そして「オーバー・ヒート」を発動すると全てのパラメーターがMAXになるのだ。その中にはもちろん「体力(HP)」と「生命力(VIT)」も含まれる。
そしておそらく、発動中は「体力(HP)」と「生命力(VIT)」は減らない……「オーバー・ヒート」という特殊技能が、ステータスをMAXにする技だからだ。
つまり、何が言いたいかと言うと、この反則技を発動中は死なないのだ!!だからゲーム・オーバーにならない!!
だって「体力(HP)」も「生命力(VIT)」も「0」にならないのだから!!
よって、何も気にせず、パウルを攻撃出来るという訳だ!!
もう、正面から突っ込み、斬られようが撃たれようが、パウルを思いきりこのショーテルで斬り刻む!!
もちろん、俺は「海賊力」が「0」になった瞬間に死んで、ゲーム・オーバーになるが、そんな事は関係ない!!
俺としては、こんな最悪のクソゲーとさよなら出来て万々歳だ!!
問題は「海賊力」残り「2」ポイントで、あの狂人パウルを倒せるかどうかという事だが、それはやってみないと分からない。
それとパウルは銃を持っている。それも問題だ!!このゲームは妙なところでリアルを追求する!!あのパウルの銃で手や足を吹っ飛ばされて戦闘力を削がれてしまっては、「海賊力」残り「2」ポイントでパウルをやっつけるのは余計に難しくなる!!
しかし、俺は知っている……
パウルが使える銃はあと一つだ!
なぜかは知らないが、あの銃は一挺で一発しか弾が撃てない!
そして奴は既に五発の弾を撃っている!!
最初の威嚇で二発、仲間を二人撃って二発、ベルンを打ち損ねて一発だ。
そして奴は上着に六挺の銃をぶら下げている。
一挺は俺との対決の為に取っているのだろう……
「ジ、ジーク……だ、大丈夫なのか?」
パウルと対峙する俺に、ムンクが後ろから声を掛けて来る。
目の前にパウルがいるので俺は後ろを振り向く事が出来ないが、雰囲気で分かる。ブルグン勢や例の部屋の者達は完全に戦意喪失している。
それはそうだろう!!
登場と同時に銃を二発ぶっ放し!!そして仲間を撃ち殺す様な無法者が現れたのだ!!戦意を失っても仕方が無い。
俺もこれが現実世界であれば恐怖で戦う勇気を失うかもしれない。しかしこれはゲーム!!臆する事は無いっ!!
俺はムンクに言う。
「俺は大丈夫だ、ムンク」
「……」
「あれ?お前には言って無かったか?」
俺はとぼけた口調で言う。
「な、何をだ?」
「我は……」
「……」
「……不死身である!!」
そう叫んで、俺はパウルに向けてダッシュをした!!想像以上に身体が重い!!しかし、まだ「オーバー・ヒート」を使っては駄目だ。
出来るだけ近づいて発動する!!
案の定パウルは銃を握った!!ここで俺を、どんな方法でも良いので倒せたなら、この場は掌握したも同然だ!!
とても生き残りのブルグン勢はパウルに逆らう勇気を持てないだろう。
俺は小声で「オーバー・ヒート」を発動させる!!
すると!あんなにも重かった身体が、嘘のように軽くなる!!
パウルは銃の引き金に掛けた指に力を込める!!
「させるか!!」
俺は一度身体を横に振り、次の瞬間にはまた逆に振る!!
スピードがMAX状態の俺はとにかく速い!!
その為、パウルは銃の狙いが定まらず、フラフラと手を動かす!!
ぐんぐんと、俺はパウルとの距離を詰めた!!
これ以上、パウルが銃に固執するのであれば、俺は楽にパウルを打ち負かす事が出来るだろう!!
パウルは腰に剣をさげているが、銃から剣に持ち替える前に仕留めてやる!!
ダッーン!!
パウルもこれ以上はまずいと感じたのか、狙いも定まらぬまま銃を発射した!!
その闇雲に撃った弾は俺の頬をかすめる!!!!
勝った!!
もう、俺はパウルの目の前だ!!今から奴が銃を捨てて、剣を抜いても間に合わない!!
その前に、俺のショーテルは奴の胸を……
ブンッ!!
なにぃ!!
パウルが俺に向けて、発射後の銃を投げつけたのだ!!
俺はかろうじてショーテルで奴の投げた銃を弾く!!
キーンッ!!
くそっ!勢いが少し殺された!!
ブンッ!!
俺は奴の銃を弾いた剣を、今度はパウルに向けて振る!!
ギッン!!
くそっー!!
バウルは腰の剣を抜き、俺のショーテルを受けた!!
奴の銃を払いのけた分だけ動作が遅れたのだ!!
ギリッギリッ!!
俺とバウルは互いに相手の剣を押し合う!!
なんて力だ!!岩に向かって剣を押し付けているかのようである。
こちらはステータスMAXだというのにビクともしない!!
しかし、さすがのパウルも俺のパワーにはビックリしているようだ!!
とにかく俺の頭の中は「海賊力」で一杯だ!!
今更に思う!!くそっ!変な名前をつけやがって、海賊力?なんだ、そりゃっ?もうちょっとマシなネーミングは無かったんか!?
どっかのマンガみたいにコ◯モとかチャ◯ラとかでいいじゃねぇか!!
海賊力……そんな単語で頭の中が一杯だと思うと悲しいわ!!
しかし、俺にはこんな馬鹿らしいネーミングのモノが最後の頼みの綱でもある。
念の為にスマホは左手に握っている!!
こうやってパウルと剣の押し合いをしている時は、スマホを握ったまま剣に手を添える!!
もしかしてそれのせいで今ひとつ力が入らず、パウルに押し勝てないのかもしれない!!
しかし、今更スマホをポケットにしまう余裕も無い!!
そして画面を見る余裕も無い!!
最悪の状況だ!!
一度距離を取った方が良い!!
キンッ!!
俺は一度パウルの剣を弾いて大きく後ろに跳んだ!!
すぐにまた飛び込んで行こうかと思ったが、パウルに隙が見当たらない!!
それとパウルの迫力にも押される!
くそっ!!俺は一度「オーバー・ヒート」を解除した。少しも「海賊力」を無駄には出来ないからだ!!
パウルは豪快に言う。
「ガハハッ!!若いのに、たいした腕前だ。しかし、俺には勝てねぇ!!」
「……」
「選べ!!俺の子分になるか!?死んで朽ちるか……どっちだっ!?」
パウルはこの後も御託を並べるが、俺としては聞く耳は持てない!!
俺は言ってやる!!
「悪いが、あんたの部下になる気は無い。そしてもちろん……殺されるつもりも無い!!」
俺は「オーバー・ヒート」を発動させてパウルに突進をする!!
タッ!!
俺はパウルに向かう途中!床を蹴りサイドに跳ぶ!!そして横からパウルに突きをお見舞いした!!
キッンッ!!
タッ!タッ!!
俺はベルンの動きを真似て床を蹴り、パウルを思いも寄らぬ方向から攻撃する!!
キッンッ!!キュイッーン!!
ベルンほど華麗では無いが俺は左右の動きでパウルを翻弄し、次々と攻撃を繰り出す!!
別にベルンほど華麗で無くても良いのだ!!「オーバー・ヒート」発動時の俺はとにかく速い!!
その速さでパウルを翻弄する!!
やはりパウルはベルン程は速く無かった!!
ザシュッ!!
やった!!俺のショーテルがパウルの左腕を傷付ける!!
「くっ!」
ブンッ!!
パウルは力任せに剣を振るが俺はそれを避けた!!
俺はキモを冷やす!
食らえば一発で身体が真っ二つになりそうだ!!いくら「オーバー・ヒート」発動中で「体力(HP)」と「生命力(VIT)」が減らないと言ってもこれは食らえない!!戦闘不能になってしまう。
俺はショーテルで華麗なフェイントを入れて、パウルに攻撃をする!!
ズシュッ!!
また新しくパウルの腕に傷をつけた!!
ブンッ!!
バワーは凄いがパウルの俺への攻撃は空をきる!!
いける!!
やはり恐るべしは「オーバー・ヒート」!!
ゲーム・バランス完全無視の反則技であ……
……あっ、あれっ?
なんだ……?
……しまった……身体が重い……
ガッツッ!!
俺はパウルの痛恨の一撃を食らう!!
「がはっ!!」
どうにかショーテルで受けたので斬られる事は無かったが、パウルの剣で吹っ飛ばされ、俺は床に叩きつけられた!!
……やばい!……海賊力が……きれた……