出会い
「これ、おいしいって思って食べてるの?」
皿に乗せられたそれの見た目は、厚さのあるフレークみたいな感じだ。でも、ポソポソしてるのに、変にしっとりしているし、においもあんまりよくない。なんだか賞味期限の切れたクッキーみたいな感じだ。それも、口を開けて、残りは後で食べようと思って取っておいたらいつの間にか賞味期限が切れてたって感じのやつ。
「おいしいってわけじゃないが……、ずっとこれを食べてるからなあ。食べるのが当たり前なんだ。」
ふうん、と相槌を打ちながら、ちょっと失礼だったかな、と思う。一応初対面でご馳走になってるわけだし。
「あのさ、あんた、こっちのエリアに住んでるやつじゃないよな。」
彼の目は見える限り四つあり、そのうち二つが複眼になっていた。どの目を見たらいいのかわからないな、と思った。
「やっぱりわかる?」
「そりゃあ、こっちにはあんまり地球人が住んでないからな。」
だいたい、と彼は怒ったように続けた。
「声をかけたのは俺だけど、それに簡単についてくるのもどうなんだ?」
私だってむやみやたら知らない人物についてきたわけじゃない。AAGマガジンを読んで、彼の種族が道徳的理念を尊ぶ種族だと知っていたからついていったのだ。まあ、彼が一番最初に声をかけてきたからというのもあるけれど。彼は私の軽率さについて一家言あるようだったが、私にとっては楽しくもなんともないので聞き流しておく。
彼の部屋を見ると綺麗に整頓されていて、性格が簡単に読み取れるようだった。ついでに窓辺には花まである。花びらや葉っぱの具合を見ると生花のようだ。私の部屋とは大違いだ。彼は私が話を聞いていないことに気づいたようだったが、特にそれを怒るわけでもなく、小さく息を吐き出した。
「なんだってここに来たんだ?他にも場所は沢山あるだろう。ここは特に何があるわけでもなし、居住エリアしかない惑星だ。」
「一番すぐ出発する船に乗ったの。今まで乗ったことない方向に行く船だったから、よくわかんないままここで降りたの。」
そう説明すると、彼は驚いたように、四つの視線をこっちに向けた。
「まあ、いわゆる家出なの。喧嘩して、飛び出して来ちゃった。」
でも、悪いのはパパの方で、私にそんなに悪いところはないはずだ。
「あー、理由を聞いてもいいか?」
彼は嫌だったら話さなくていい、と言ったけれど、ここまできたら話すしかない。
「実は、パパが、勝手に決めた婚約者を連れてきたの。でも、その婚約者ってネビューグル人なのよ!たぶん、パパは洗脳されてるんだわ。だって、ネビューグル人って人種交配ばっかりやってるじゃない!地球人の血が欲しいからって、やったのよ。」
パパったら、おんなじことを繰り返し喋るのよ、そう言い終えると、彼は本当に驚いたようだった。
「それは、うん、大変だな。俺でもきっと家出するよ。」
きっと九割以上の人が私と同じ選択をするはずだ。思い出すとなんだか腹がたつし、悲しいような気もするし、悔しい感じもする。頭が重くなって、目に熱い液体の膜が張ってきた。霞の中にいるように周りがよく見えない。うう、と唸り声を漏らすと、彼が隣に来て背中をさすってくれた。
私は、この時、彼が運命なのではないかと感じた。もうここまで来たんだから私を助けてくれないと困るとさえ思った。彼が助けてくれたら、私はこの変な味のするものよりよっぽどおいしいものを作ってあげるし、他になんだってするだろう。
「とりあえず、家に戻って、お父さんがどうなってるか見てこよう。」
一緒行くから、と彼は言った。
ばかな人だ、と思った。初対面の私に、頼まれてもいないのにこんな親切にする人がいるだろうか。彼は種族の中でも飛び抜けて優しい人なんだろう。私は幻聴を聞いたのかと思うくらい嬉しかった。私は泣いてしまって、お礼を言うにもろくに声が出なくて、ありがとうというのに精一杯だった。絶対にこの人を逃がしたら駄目だ、と頭のなかで声が叫んでいた。運命だと思って、最後まで付き合ってもらおう。