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クロスボーン・バンガード・上

 2話 クロスボーン・バンガード・上



 大抵、聞きたくなかった、知りたくなかったと言った事実は不意に、また突然にやってくるものである。

 所謂、災害のようなものだ。


 あの戦闘から一夜明けた。時沙はあの後艦長と話した後にバタリと倒れ込んでしまったそうだ。目が覚めると今度は誰も側にいなかった。


「その様子ならもう大丈夫そうだね」


 いや、いた。カーテン越しの向こうで椅子に座る白衣の男性が。ガラリと開ければ、見るからに"お医者さん"の肩書きが似合いそうな柔らかな雰囲気を出していた。


「新垣時沙…だったね。寝てる間に色々と身体状況を調べさせてもらったけど特に異常はなし、健康体そのものだ。キャプテンが12時…そうだね今から1時間後に艦長室へ出向けとの事だ。ご指名頑張ってね」


「は、はぁ…」


「あ、僕の名前は岩坂峯太。この艦の医療班の班長をしている。よろしくね」


 寝起きの頭にいきなり色んなことを叩きつけられたが、正常に機能はしていないように見えた。適当に会釈をしながらヒタリヒタリと医務室を後にする。

 歩き出す最中会話を反芻する途中に、ん?調べさせてもらった?って事は勝手に身体を…時沙はそれ以上の事を考えるのは止めにした。


 艦内は思いの外広い。しかし、どうにも時沙には引っかかることがあったのだ。


「これって…学校…?」


 妙な既視感の正体に気付いたのだ。昨晩は余りにも事が立て込んでた為気にも留めてなかったが、いざこうして探索すると疑問という名の壁に直面する。ここは学校ではないのか、と。

 窓の外を見下げるが広がるは海、海、海である。

 ここから考えられるに


「この学校って…船なの…?」


 しか思いつかなかった。


 船であり学校でもあり、何とも珍妙なものに乗り込んでしまったのだなぁ。


「おぉーい、時沙!」


 見下ろし感想に耽っていると上からの声に反応してしまい、窓枠に頭をぶつけてしまう。


 軽い痛みが頭部に響いた。


「あはは、何やってんのさ時沙」


 声を掛けた主が上から降りてくる。

 ぶつけた頭を抑えながら


「いつつ…刀華さん?何をやってるんです?」


「何って?あぁこれのこと?」


 両腕を伸ばし服などとは圧倒的に違う装甲をくるりと見せびらかす。


「今は飛行の訓練中…だっけ?早希」


「違う…破損した箇所が無いかマザーバンガードの点検だ…全く刀華は」


 返答しつつ上からふんわりと早希も降りてきた。

 マザーバンガード、その耳慣れない単語に時沙は反応する。


「マザー…バンガード?ってこの学校の名前なんですか?」


「学校?違うよこれは校艦って言うんだ」


 逆に刀華がキョトンとした顔で答えた。


「校艦?」いまいち理解が出来ない。


「早希、見せた方が早いんじゃない?」


「それもそうだな」


 そう言うと


「ほら時沙」


 目の前に手が差し伸べられる。訳も分からずにただ流れるままその手を取ってみた。


「わぁ!?」


「私たちが暮らしてる家を見せてあげるよ!」


 刀華に引っ張られる。お姫様だっこをされ、潮風が、波飛沫が顔に掛かるのものともしなかった。眼前に広がる光景に心奪われたからだ。


「…これは…」


 想像していた通りではあった、それは突拍子も無い夢幻、まさか、まさか校舎が海上に浮かび、ゆったりとではあるが進んでいるなんて。

 至って普通の校舎、横に長い直方体が2つあり間に繋ぐ通路の様なものが1つ。上から見れば「凹」の形に見えた。


「これが私達の家、マザーバンガードだよ!時沙!」


「すごい…でもなんで校舎なんですか?」


「それは私から説明しよう」


 傍の早希が語る。


「その理由としてなんだが元々この地極という地はかつて大きな戦乱があったそうなんだ」


「あった…そう?」


「流石に50年も前の事だからなぁ。私も話でしか聞いたことがない。この校舎…いや校艦ってのはその戦乱時に使われた名残だ。このマザーバンガードは新造艦だけどね」


「昔は凄かったそうだよー。それこそ今以上に校艦がビュンビュン飛び回っててさぁ」


 昔がどの程度なのか予想が出来ないが恐らく話に出た大戦時なのであろう。


「校艦は学兵の生活や訓練の場、物資の運搬、HMSといったものの発艦基地として設計、開発がされたんだ」


「...」開いた口が塞がらなかった。


「まぁ私も無玄の受け売りだから詳しいことが知りたいならそっちに聞いてもらった方が早いかもな」

 四宮も彼女なりに潮風を楽しむ、いやそれよりも抱きかかえられている時沙の反応を見て面白がっているのか。


「無玄?」


「艦長の名前だよ。まだ教えてなかったっけ」上から声が、上というか斜め横から刀華の補足が入る。


 無玄、なんだか昔の武将のような名前だなぁと感心してる真っ只中、何かせねばならないことがあったのではないかと脳内アラームがけたたましく鳴る予兆を見せる。


「へぇ...無玄艦長...?…あれ、今何時でしたっけ」背中に冷や汗。


「えーと11時55分かな」早希は腕時計なるものの確認


「何かあったの?」ニシシと笑顔を見せながら刀華が時沙の顔を覗き込めば


「...正午に...呼び出しを...」背中からの冷や汗が顔面へコートチェンジを果たす。


「へぇ正午に呼び出しかぁ艦長に?それは大...変...」

「「「あっ」」」」


 その場にいた2機、いや3人の行動は迅速であった。

 時沙はまたあの窓へ戻り、違う点としては装甲を解除した2人の少女が側におり、共に走ってる点であった。

「艦長室ってこっちだったけ早希-!?」


「そっち指令室!なんで覚えてないの刀華!?」


「あぁぁあと2分!2分ですお二人ともぉ!」


 とても姦しかった。


「お、遅れてしまいす、すみません!」


 バタバタと司令室へ流れ込む、倒れこみながらの入室の方が正解に近かった。厳粛には遠いがよほど静かであった部屋へざわめきが乱入する。


「おおお遅れてしまってませんか!?」


 ここで時沙まさかの質問、遅刻への謝罪や慌ただしい入室の事について喋り出すと思っていた二人の装着者の目を丸くさせた。事前に待っていた男は


「いや…問題ない20秒前だ」


 腕時計と窓の外を交互に眺めながら安堵の一言を申し渡す。呼吸音が未だ定まらぬ者たちを目の前のソファーにかけさせる。


「えーと…」


 一息ついたところで次第と、尽きぬ疑問が続々と。キョロリと見回しての感想はただ「校長室みたいだな」と一言ぼそりと小さく。無論その呟きは目の前の本人は届いていない。横の二人には感知されたようだが。


「改めて自己紹介としよう。私はこのマザーバンガード艦長である金ヶ崎無玄だ」

 時沙たちから見えているのは右目だけだが真っ直ぐに見据えながらの自己紹介、声色は低く腹に響く。


「ご、ご丁寧に。私は新垣時沙と言います...ん?金ヶ崎?」

 右隣に座る同じ苗字の彼女は

「そうだよー私のお兄さん、形式上ね」


「形式上?」

 ピンとこない言葉が続く。


「それについてはまた後々説明しよう本日呼んだのは他でもない、君と私達での情報交換だ」


「情報交換ですか?」


「そうだ、まずは君がどうやってこの地に辿り着いたか、そして我々が何をしているか。それを知って君がどうするか、この3点を話し合いたくて呼んだのだ」


「はぁ…どうやって、ここ…ここ?ここって日本…いやいや海と関係無くて日本じゃないんですか…え?それは今この船ににどうやって辿り着いたって…どうやって?」

 額に手を当て必死に自己が納得できるような答えを組み合わせるが上手くかみ合わない。噛み合わないというよりは脳自体がその事柄に向かってマトモに取り合わない感覚の方が近い。


「なぁ無玄、いきなりアレと向き合わさせるのは…」何かを察した四宮が発す。


「いや、これでいい、これが必要なのだ。今ここで生きる者全てには」ジッと残る左目が彼女が悶える様を貫く。


「私…なんで……………あっ…私…船の中で____」


 ちぐはぐではある、虫食い状態ではある。でも着実に、一歩ずつ彼女は真理へと近づく。何があったかを。

 かき集め混ぜ合わせ形成されていった。

 脳内の引き出しを片っ端から荒らしまくり到達する事実。

 まず見つかるキーワード、ぽつりぽつりと狂ったラジオのように言葉を零していく。

 熱い、水、暗い、足場が無い、火、火、火火火火火火赤赤赤赤....

 煙、息苦しい、一人、柱、倒壊....ああああああああああああああ。


 最後の引き出しに残っていたのは残骨と人を合わせて構成された分かりやすい一文字。




「そうだ、そうだそうだそうだ嘘だ…私は…私はあの船の中で…死…」

 心臓の辺りをぎゅしりと皺にする。認識させるために。二度と忘れないように。

 反発するかのようにどくりどくりと鼓動は大きくなる。喉は乾き鳴らすが唾は出ない、首元あたりに必死に涎を出そうと舌が躍動する音しか残らない。

 段々と俯き、開きそうで開かない、閉じるようで閉じれない拳が顔、胸、膝を行き来する。


 その様子を傍らの二人はただ黙って見ていることしか出来なかった。これは彼女の問題だと理解しているからこその反応でもある。


 不意に肩に置かれる手。

 跳ね上げるように目の前の男の顔を時沙は視る。

「もういい。すまなかった大体事情は把握した」男は答えた。


「そうか…船の事故じゃああの場所にいても納得はつくねぇ」時期を見計らったように、いや喋れないというのも関係していたのかは不明だが刀華は天井見上げあの時の場面を思い出す。


「こ、ここは...」

 左右を見渡す。

「ここは何なんですか...!?」


 ゆっくりと、確実に、自身が求める情報の要求を行うしか今の彼女には精いっぱいだった。




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