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海賊のギア

プロローグ


 奇妙な光景だった。夜深い海路を浮かんだ校舎が急ぐ事自体、奇妙奇怪なのは間違いではない。ならその校舎が、火を噴き沈没しかけているのもまた然りである。

 火に近づき、焼かれる羽虫のような軌道が一つ、二つと幾つも幾つも…いや違う、焼かれているのではない。叩き落とされているのだ。海面に。

 羽虫よりももっと恐ろしい何かに。


「HMS部隊全滅!艦長!」


 報告とパニックで埋まる指揮室から声が響く。

「クソッタレ!沈むのか!また沈まされるのか!?」

 被っていた帽子を床に叩きつけ踏み潰した。


 奥から爆発音が響く。熱風と共に悲鳴も連れて。

 積荷を積んだ体育艦が弾け飛んだ様だ。


「本校舎の方のエンジンも持ちません!艦長!」


 報告なのだろうが、早く艦長なるものに決断を迫るものにも聞こえた。


「…脱出だ!」


 その言葉を直ぐ様全乗組員に伝える。こんな状況下でも指揮系統のみはしっかり確立されていた。

 大柄な校舎艦と比べると、小柄なボートが幾つも海面に浮かぶ。辺りは火の海でありとても熱く、明るい。


 幸いにもHMS部隊の兵士も殺されず脱出し海上に漂っているところをボートに拾い上げられた。


「なんだあの強さ…あんなのに勝てる訳ねぇだろ…」

「俺、黒いのにやられた…」

「俺は白の…なんだよあれ…鬼か…」


 皆思い思いの感想をぶちまけているのを横にいる艦長が流し聴きする。しかし、艦長は知っている。お前たちは生かされたのだと。アレが手加減をしたから生きているのだと。


「これで何度目だ…この海域での襲撃は」


 隣にレポートなる報告書を作成してる兵に問いかける。


「えー…4度目です」淡々と答えた。


 燃え盛り、沈む自分の艦、その上にまるで勝ち誇ったかのように立ち乗り、こちらを一瞥した後、信じられない加速度で虚空へ消える一つの光の筋を睨みつけた。

 そして呟く。


「海賊の…ギアめ…!」


 目は血走り、喉から吐き捨てるように…。






第1話 海賊のギア


 熱い…熱い…とても熱い…真っ暗で…道がなくて…熱い…熱い…喉が…喉が渇いた…とっても喉が…水…水…水…水水水!水が!水が飲みたい!水水水水水!!


「水ッ!!」


 喉を抑え、手を暗闇に伸ばす。求めた先に水は無く虚空へ虚しく手を空ぶかした。目を見開く。上半身はガバリと跳ね起こし、寝そべる体をL時に曲げた。

 眼前に広がるは無機質な灯や壁や窓、窓の外には漆黒が広がっていた。

 頬に手を当てポカンと眺めていると


「気が付いたか」


 視界に入れてなかった真横から声が響く。声のする方に顔を傾けてみると、呼んでいた本をパタリと閉じ立ち上がらんとする端正な顔立ちの女性がいた。

 ミディアムショートでありながら右目が隠れるほどに前髪は伸びている。

 唯一見えている左目の目力は強い。左耳にイヤリングが見え、クールな印象を強めた。


「何処か痛いところはないか?」


「……?え…?貴女は…?え…?ここは何処…?」


 体調の有無よりもまずは情報が欲しかった。辺りをキョロキョロと見回し一定のリズムで揺れている事に気付く、ここが船の内部という事に。


「それぐらいの疑問を感じ取る体力があるのなら大丈夫そうだな。紹介が遅れた、私は四宮早希。君は?」


「私は…新垣…時沙…」


「時沙か。さて時沙、水と言ったな。腹が減っただろう。飯を取ってくるから話はその後だ…」


 退室しようとすると


「ち、ちょっと待ってください!一つだけ…一つだけ良いですか!?」


「なんだ?」


 もう一度目を見開き、今度は答えを聞きたくなさそうに尋ねる。


「私は…死んでしまったの…?」


「…今は落ち着け」


 四宮はそれだけを答えた。



 四宮は飯だけではなく人も連れてきた。


「おぉ!やっと目が覚めたか!はいお水」


「あ、ありがとうございます…」


 控えめな態度とは裏腹にググイっとグラスの水を飲み干す。申し訳なさそうに見つめるとまたお代わりが貰えた。当然飲み干す。


「私が持ってきたんだぞ…」


 不満そうに口元をへの字に曲げる早希の手元にはロールパンやゆで卵と言った簡易的なメニューが盆の上に乗せられてた。

 しかし、時沙が何より嬉しかったのは何より水である。



 一通り食事をし終えると、水を寄越した女性が声を掛ける。


「さて、腹も膨れたことだし互いの事を話そうか。時沙…だっけ?」


「はい…えっと…あの…」なんと呼べば良いのか分からない。髪型は早希と同じか少し多いぐらいのミディアムロング、7:3の自然な明るい感じで分けられておりヘアピンがより元気で明るい印象を加速させる。食べている様子の時沙を様々な顔で観察しており表情豊かであった。


「あぁ、私は刀華。金ヶ崎刀華って名前なんだ。この艦でパイロットをやってるの」


「パイロット…?」


 目を丸くさせた。パイロットと聞いて時沙が思い浮かべたのは電車の車掌や航空機のパイロットだからだ。そんな大人が務める仕事をこの目の前の年も変わらないであろう少女が?パイロット?時沙の脳内は"?"で埋まる。


「刀華、 話が飛びすぎた。いきなりパイロットなんて言われてもわからん」


 至極当然のツッコミが入る。しばし刀華は悩むとある案を出した。


「あ、そっか…じゃあ…実際に私たちが何をしてるか見せた方が良いよね?早希」


 急に顔は明るくなり声色も高くなる。


「まぁそれなら…立ち上がれるか?」時沙の方を見て。


「…はい、それぐらいなら…」軽くストレッチをしながら大丈夫である事をアピールする。


「じゃあ、ちょっと付いてきてよ」


 ぞろりぞろりと3人組が医務室から退室する。残されたのは空の水が入っていたジョッキに皿だけであった。


 道中人と会うことは無かった。ただ忙しいのか上からも下からも足音が聞こえてくる。


 目的の場所に到達したのか先頭の刀華は扉を開けた。


「ここは…?何だか油の匂いが…それに…なんだあれ…?」


 まず鼻に、次に時沙が気になったのは目に飛び込んできた謎の鎧の様な"なに"か。白と黒の対になっているのか2つある。


「ここは格納室だよ。えーと…あ、おっちゃーん!ちょっと良いかなー?」


 軽い説明を時沙に投げると、一人で行ってしまった。


「…賑やかな人ですね」素直な第一印象を吐く。


「だろう?私もよく手を焼いたものだ」


 それに早希が便乗した。腕を組み刀華の帰りを待つ。


「貴女もパイロットなんですか?」思い出したかのように尋ねた。


「あぁ、時々私もあいつも危なっかしい所があるが互いに支え合う私の大切な………仲間だ」


「そうですか…」大切なの後に随分間をとったのが気になった。


 が、そんな感想もすぐに刀華が上書きする。


「時沙ー!ちょっとこっち来てー!」大きく手招きを行う。早希の方を向いてみると行ってこいと頷かれた。


 とこりとこりと行ってみれば


「はい、何でしょうか?」


「ここならとりあえず安全だからちょいとこのモニターをずっと見ててね?」椅子を引き、座るように催促する。


 隣には少し無精髭が目立つツナギ姿の男性がいた。


「全く…突然来たと思ったら、子守かよ…」背もたれに寄っ掛かり恨めしそうに二人を見上げた。


「まぁまぁそう言わないでさ。じゃ、時沙をよろしくね!変な事しちゃ承知しないよ?」


 念を押しながらその場を後にしようとする刀華、なんというか器用なものである。


「わーってるよ!さっさと行ってこい!整備は万全だ!…ったく俺はお前らと2つも違わねぇよ…」後半部分は明らかに愚痴に近く、誰にも聞こえないように呟いた。


 格納室からは四宮も金ヶ崎も消えてしまい残るは二人だけとなってしまった。変な事をするなと念を押すのは聞いていたがいざ、残されるとなるとやはり不安なものがある。

 それに二人がパイロットと言っていたがなんのパイロットなのかも気になった。まだモニター上に変化はなく、油臭い部屋をキョロキョロと見回していると


「………」


「お嬢ちゃん、何が何だか分からないって顔してんな…」


 気だるそうに声が響く。


「はい…」


「ま、最初はそんなもんさ。だがお嬢ちゃんもこの艦で働くってんなら奴らが、そして俺たちが何をしているか見ておく必要がある」


「はぁ…」


 まだ働くと何も言ってはいないのだが。

 それに働く?つまりこの船は商業活動でもしているのか?様々な疑問を時沙が抱いていると


「おっ!出るぞ」


 モニター上にさっきの二人が映った。

 顔を初めて合わせた時や格納室に連れてこられた時などは気にも止めていなかったがその左腕に何か巻かれているのを今気が付いた。


「腕時計…?いや違う…アレは…髑髏?」


 長針、短針が走る代わりにデフォルメされたドクロマーク、その下には二本の交差した骨が添えられてる。

 また、その下には大きな棘のような物が生えていた。


「今日もよろしくね、早希」


「…背中は預けたぞ刀華」


 眼前に広がるは漆黒にうねる海。明かりがなければまるで墨汁の海のようだった。そんな黒も二人の背後からの明かりで掻き消される。準備が整ったようだ。

 照らし出され、そこに広がるは決して墨汁なんかではなく、黒の中にも青さを残す力強い海である。


 二人の影が一回り大きく伸びた。


「解除<アンロック>!ギア・クロスボーンX1!金ヶ崎刀華、出撃する!」


「…解除<アンロック>四宮早希、X2、出るぞ!」


 額の前にドクロを掲げる。掛け声と共に下に伸びてた棘が二つに割れ、競り上がり両端で天の方向を向いた。

 ドクロマークを基点に二本の角がV字にそそり立ったのだ。

 ドクロから眩い光が放たれる。


「毎度この光はなんとかなんねぇのか…おい嬢ちゃん、大丈…」


 目を遮らねばならぬ程の発光がある事を伝え忘れ申し訳ないと思いつつ、自分が初めて見た時と同じ状況だろうと時沙の方に目をやった。

 男が見たのは


「………」


 瞬きすらせずじっと画面を見続ける少女であった。


 時沙の目には左腕を起点に装甲が展開されていく二人の姿があった。

 一通り全身の装甲が展開し終わると、今度は背部に大きな4本の物体が生えた。まるで背骨から骨が飛び出したかのようにのように。X字に伸びた物体は先端のバーニアに少し焔を灯す、折りたたまれたと思えば今度は全身を覆うマントが出現した。

 最後に掲げてたドクロが額へと張り付き変化は、変身は終了する。

 時間としては本の1〜2秒であった。しかし時沙の目にはしっかりと、くっきりと焼きつく。


 心臓の鼓動が昂りを抑えきれてない。うるさいぐらいに激しい。


「まさかっ!」


 ガバリと勢いよく振り返ると先程気になってた2体の鎧が無くなってた。


「無事転送完了か…まぁ俺が整備してるしな」


 そんな時沙に横目にし、何処かへ報告を投げていた。


 自分の予想が当たっている事を確認すると時沙はゆっくりとモニターへ目を戻した。


「じゃあ行こうか!」


「あぁ!」


 刀華は白い鎧を身に纏い、右手には海賊が持つようなナックルガードのある銃を握っていた。

 対して早希の鎧は黒く右手には大振りな…例えるのなら中世の騎士が使うランスが備えられてる。額の角は刀華とは違い羽の意匠が凝らされてた。


 二人とも飛び降りたと思えばそんな事はなく背部のX字スラスターを吹かせ夜を駆けた。




 ____ここからは冒頭の戦いへと繋がる___





「スゴイ…圧倒的だ…でもなんでこんなことを…」


 モニターに映し出されるのは恐らく記録用の随伴機が後から飛び出したのであろう彼女達の獅子奮迅なる活躍であった。

 無敵、そんな言葉が時沙の脳をよぎる。だがよぎると同時に疑問も湧いた。なぜこの人たちはこんな事をしているのだろうと。

 浮かせた疑問を解こうと横を向いた瞬間後ろから声が響いた。


「その疑問は最もだ」


「あなたは…?」


 今になって漸くと言っていいのか発光の後遺症が出てくる。明るい場所から暗い場所へと視線を移したため、見えづらい。声をした方へ向いてみたが顔はよく確認出来ず、眼帯をしてる事だけが分かった。


「医務室から抜け出したとは本当だったのか…まぁ良い」


「あ、艦長、どうされましたこんな所に」


 艦長?自分の聞き間違えなのかは分からないがこの眼帯の人は艦長なのだろうか。


「君も相変わらずだな。そこの娘を探していたんだ」


「私ですか?」


「そうだ。ちょうど疑問も呟いていたところなので私が答えてあげよう」


「あの襲撃はもう何回か繰り返してはいるが確実に言える事はまだ我々の戦いは終わっていないということ。そして始まってるかすらまだ分からない事だ」


「あの戦い…」


 脳裏にはっきりと過る先の映像。


「これは互いに知られてしまったからには潰し合うしかない泥沼の戦争へとなってしまった」


 時沙の目が見えなくなってる事を察したのか言葉を続ける。


「規模としては小さいが例え1県の1部隊同士でも立派な戦争になってしまった」


「戦争…はダメです…戦争は…」


 絞り出すように感想を述べる。とても稚拙なものではあるが、紛れもなく本心から出た言葉であった。


「君がそう思っても、もう動き出した流れは止められないのだ。やるからには勝つしかない。それが我々の生き残る道だ」


「一体…一体何が…何で戦争なんかに…あなた達は何者…?」目が慣れてくる。そこに立っていたのは左目に眼帯をした長身の男性が立っていた。年齢はこの場の誰よりも年老いて見える。


「我々は高知県軍第97独立実験連隊…またの名をクロスボーン・バンガード」


「クロスボーン・バンガード…?」


 そう呟きながらふとモニターへ視線を戻す。

 画面に向かって手を振る彼女たちは髑髏とマントが合わさってまるで海賊のように見えた。


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