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中露戦争  作者: 集束サイダー
国境
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中南海での出来事

「本質を見極めろ」 大日本帝国陸軍大将 土肥原 賢二

2015年 8月22日 PM10:32 中国 北京 中南海 



中国の高官の居住地である中南海の中で、中国共産党党員の凌順、(あざな)は関越は、先程の周銀平が言った核攻撃のことが頭から離れず、うつむきながら塀の側を歩いていた。


(攻撃まであと四十五分。主席は本当に核攻撃を命令するのか・・・!?だとしたら、いや。あのとき朝鮮半島に核を撃てと軽々口にしたのを見るかぎりはきっと本当だろう。)


凌順はそんなことを思いつつ、主席官邸の壁によしかかり、金属製のライターで火をつけ、煙草を一本吸い始めた。


(やはり元を絶つしかないか・・・主席・・・中華人民共和国の最高指導者、周銀平を消すしか・・・)


凌順は内ポケットをまさぐり、自前のワルサーP99拳銃が入っているかどうかを確かめる。これを手に入れるのは非常に苦労した。


周銀平・・・俺はもう四十七だが、こう見えていても元機関銃手だった。胴体は逆三角だし、筋肉はまだ残ってる。一流の兵士にはかなう自信はないが、良民から巻き上げた税金で妻子(さいし)をほっといてセクキャバ行ってる奴(周銀平)には正直言って勝てるつもりだ。覚悟してください。主席。


凌順はP99のスライドを引き、いつでも抜けるようにして右手を裾に入れつつ周銀平のいる部屋に向かって歩く。


(軍の最高指導者が死んだら周りは大騒ぎになるし、核攻撃の優先度もそれより低くなるだろう。殺せなくとも、核攻撃の中止を無理矢理進言することもしなければ。これ以上核を使うなんて、一体全体どこまで我が祖国を孤立させたいんだ・・・)


凌順の歩幅は広くなっていく。それに反比例して主席の部屋が近くなってくる。


ふと、そのとき、周銀平の部屋の前に二人の警備隊員がいるのが目に入った。


彼らは、ボディアーマーを着用し、大きな背嚢を背負い、近年配備されたブルハップ式の「JS7.62mmSMG」や武骨な形をした「79式SMG改」を手に持ち、挙動不審のように辺りをせわしなく監視していた。


(と、特警総隊だと!?くそ、周銀平め・・・)


特警総隊(MPST)とは、中国の北京公安部がテロ対策部隊、暴力犯罪を取り締まる突撃隊、不測の事態に対処する特殊部隊としての三つの役割をこなすハイブリッドな特殊部隊として創設した。


これにならって、他の大都市もこぞって特警を編成、展開した。兵力は二十万人ほど。彼らは黒い服を纏い、どんな局面にも対応できるように様々な装備を入れた背嚢を背負っている。


創設直後に起きた立てこもり事件では、特警が真っ先に突入、犯人を制圧し人質を救出したというエピソードもある。


特警の一人が、凌順に気付き、声をかけた。


「どうかしましたか?何か主席にご伝言等ございましたらその旨お伝えしておきますが」


特警の一人が凌順に近寄り、話し掛けてきた。


「い、いや、その・・・トイレはどこにある?」


凌順はつい別のことを聞いてしまった。本来の目的とはかけ離れている。


「トイレならそこの突き当たりを右に曲がった所の第二会議室の隣です。」

特警隊員は速やかに返答した。


「ああ、ありがとう。」



「なぜ右手を裾にいれているのです?」


「その、腹が痛いから押さえているんだよ・・・」

凌順は自分が未だに裾に手を入れていることに今気づいた。


「腹痛なら『蒙脱石散』が効きますよ。薬局で十元程で売っています。これは私のですが、よければどうぞ」


そういって隊員が黄色い小さな袋を凌順に手渡した。隊員はバラクラバ越しに微笑んでいるようだったが、目は全く笑っていなかった。


(本当に私を警戒しているのだな。さっきから彼らは日本の新型戦車のように私から目を離さない。流石だ。)


凌順は礼をいい、トイレに向かった。そして、個室の便座に座り、P99を取り出す。


(だめだったか・・・彼らと撃ち合って勝つ自信はない。周銀平・・・絶対に・・・)


凌順はそう思い、壁を張っていた小さなアシダカグモにP99を向けた。アシダカグモはピクッと震え、ヨガのように脚を重ねて伸ばし動かなくなった。


(・・・本当にしたくなってきたな・・・)

凌順はベルトを緩め、ズボンを下ろして、下腹部に力を込めた。




主席の部屋の前で、周銀平の秘書に特警隊員と部下が報告をしていた。


「で?凌関越氏の様子はどうだ?」


「はっ。凌関越氏は特に目立った行動をしませんでしたが、裾に手を入れていました。恐らく拳銃が入っていたかと」


「私は凌関越氏がワルサーP99拳銃を手にとり、そして拳銃を裾に隠して主席の部屋へ向かうのを見ました。」


特警隊員が答える。それに対して凌順を尾行していた部下が付け加えた。


「そうか。P99・・・流通経路はヨーロッパか・・・?まさか・・・凌順氏が・・・周銀平主席を・・・」


「ですが、ただ所持していただけかもしれません。明確に殺すという意思が我々からは確認できないので証拠不十分になりますね。」

もう一人の特警隊員が言う。



それに対して秘書は、

「そうか。ならこれからも監視と警戒を厳重にしてくれ。」


秘書はそういい、主席の部屋へ入っていった。




アフリカ シエラレオネ共和国 マケニ郊外



シエラレオネ、マケニの郊外のとある村は、地獄と化していた。


家という家の中では人が横たわり、悲鳴や苦しみの声が響き、人々がひたすら血を吐いている。中には全身から血を流して白目を剥く人間もいる。それを看病している人間もへとへとで、村中が惨憺(さんたん)たる状況と化していた。


また一人死んだらしく、うつむいた男たちが死体を運びだしていた。


彼らの村を襲ったのは、2014年に西アフリカで大流行し、数千人規模の死者を出した、「エボラ出血熱」だった。


すでにアフリカには多数の医師や救助隊が展開しているが、被害範囲があまりにも多いため、一部の町村には手が回らなかった。この村もその一つだ。


エボラウイルスは、アフリカで多く発生している病原菌で、ウイルスが皮膚に直接接触することで感染する。


感染すると、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、食欲不振、下痢、腹痛などの症状を発する。


ここまではマラリアなどと似ているが、エボラウイルスは血管の中にある血小板(けっしょうばん)を溶かしてしまう。よって、血が塞き止められずに体外に流出してしまい、皮膚の毛穴、口、鼻、耳、消化器官から血という血が噴出し、たちまち死に至るといわれている。


潜伏(せんぷく)期間は一週間程で、致死率は90%といわれる。


現在絶対的に有効な治療法はない。ワクチンも開発されているが、100%ウイルスを無力化出来るとは限らない。


シエラレオネの淡水域(たんすいいき)面積は0.2%と非常に少ない。よって貧困層は慢性的な水不足に見舞われ、手を洗う水もなく、衛生状態は非常に悪い。



西アフリカの民族は猿やゴリラからカメムシに至るまで、食べられるものなら何でも食べる風習があるので、エボラの宿主(しゅくしゅ)となっている動物や虫を食したからエボラが蔓延したのだろうと推測される。


「うわああああああ!!!たすけてくれっ!!たすけっ・・・!!」


一人の患者から血が噴き出してきた。

「ひいっ!血がっ!!」


その血が看病していた男にふりかかり、男は恐怖に体を震わせた。


その時、二人の防護服をきた人間が家に入ってきた。彼らは注射器を取り出した。それを見た村人たちが我先にと自分の患者を指し、

「お医者さん!!彼を助けてやってください!!」と懇願した。村人たちは彼らを医師だと思ったのだ。


だが、彼らは血を噴き出した男の腕に注射器を刺し、注射器を一気に引いた。


注射器に血が溜まり、それをビニール袋に溜めていく。それを十回繰り返すと、ビニール袋の口を閉じ、ビニール袋をポリエチレン袋にいれ、口を縛って金属性のカバンにしまい、家を後にした。


「早くにげるぞ!!村人たちが!!」


「車まで300mだ!この為に徒競走の練習をしてきたんだ!!いけるぞ!!」


彼らは疾駆し、噂を聞き付けた村人たちが彼ら二人に追走する。村人たちは次々に患者を治療するよう頼むが、二人は無視して走った。


車のドアを素早く開け、二人は車に乗り込むと、アクセルを踏んで、ギアを一段上げつつクラッチを切る。またそれを繰り返し加速する。だんだん村人達が遠ざかっていく。


そして下り坂を惰性(だせい)走行しながら二人は息を吐いた。


「助かったな・・・」


「ああ。だが・・・本当にやるのだろうか・・・ロシアでエボラを散布するなんて・・・」


「わざわざ俺らにここまで来させてエボラのサンプルを採取させるってことはやるんだろ。感染用の猿まであるからな・・・」


「非核核兵器、か・・・」


車はほとんど音を立てずに走り、砂ぼこりをあげて砂漠を疾駆していった。

そういえば、1992年10月にエボラが流行ったときに、オウム真理教の教祖以下幹部数名が救援の名目でザイールを訪れたことが確認されていますが、これはエボラウイルスのサンプルを入手するためだったとのことです。

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