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中露戦争  作者: 集束サイダー
大国同士の息継ぎ
45/55

エアショー・MAKS

2015年 10月17日 ロシア モスクワ ジュコーフスキー空港




モスクワ近郊のジュコーフスキー空港には、軍用機、民間機問わず百種類をゆうにこえる飛行機やヘリコプターが展示されており、各国の関係者を含む多数の入場者が何万と詰めかけている。


なぜかと言うと、本日はロシアのモスクワでエアショーMAKSが開催されているからだ。二年に一回開かれるこの大規模エアショーは夏に行われるのが普通だが、中露の対立の影響で延期されてしまった。


『今大空に悠々と姿を表したのは我が国の有する近代化改修型のTu-160M戦略爆撃機です!!』


エアショーは後半に入っている。アナウンスが入って観客が一斉に左を振り向くと、轟音をがなりたてて二機のSu-35Sを伴ったTu-160Mが飛来してくる。


『この爆撃機は1980年代に初期型が開発され、我が国の虎の子として活躍を続けてきました!この前の戦争では一機が撃墜されるも爆弾や巡航ミサイルを搭載しての攻撃を行い戦果を上げています!近代改修型は三十機が生産される予定です!』


カメラのシャッターの音が響くなか編隊はそのまま通りすぎていった。Tu-160Mは空の向こうに消えていったが、Su-35Sはそのまま上昇していく。


『今上空に上っていったのはSu-35S戦闘機です!あの戦闘機は我が軍の主力戦闘機Su-27の発展機であり、長大な航続距離、後方の敵AWACSをも捉えるレーダー、そして推力変更ノズルとスラストベクタリング装備で得た機動性は他の追随を許しません!』


二機のSu-35Sが急降下を行って高度を下げ、滑走路スレスレを低空飛行する。大きな歓声が沸き上がった。そのあと、二機編隊を組んだSu-35Sが同時に機首を持ち上げ、高度を変えないまま元の姿勢にもどるパフォーマンスを披露した。


『これはすごい!皆さん、今の機動はコブラと呼ばれています!高度をほとんど変えぬまま、機首を持ち上げてそのまま元に機首を戻します!Su-35Sは高空でのドックファイトにて真の機動性を発揮しますが、ご覧の通り低空でも卓越した機動飛行が可能なのです!ですが、パイロットがあまり機動飛行をやると後々登場するアクロバットチームの皆さんがむくれてしまうので止めると言っているようですね』


冗談交じりのアナウンスに会場がどっと笑いに包まれる。そんなジュコーフスキー空港に展示された一機のSu-35の操縦席から機動飛行を眺めているのは、南米の国家、ベネズエラのヒャロイ首相だ。


「しかし凄い飛行機ですな。遠距離でも近距離でも強いし、航続距離も長い戦闘機は我が国にうってつけです」

「ありがとうございます。ヒャロイ首相。貴国ベネズエラにこの機体が納入される日がくることを切望しています」


ヒャロイの言葉にロシア軍の案内係がお礼の言葉をのべる。


「ですが、残念ながらSu-35はステルス性を著しく欠きます。航続距離を生かして領内を飛び回る根っからの制空戦闘機という訳になってしまうのです」

「構いませんよ。ステルス戦闘機を持っている国等は限られています。少なくとも我が国の回りにステルスを持つ国は居ないので問題はありません」

「我がロシアはSu-35と共にMiG-35戦闘機の売り込みも狙っています。貴国にとってはMiG-35の方が使い勝手が宜しいかもしれませんね」


案内係がベネズエラに自国の戦闘機を売り込もうといい話を持ちかける。ちょうど上空に展示用のミサイルを満載したMiG-35が現れた。


「ヒャロイ首相、あれがMiG-35です。価格は約十六億ルーブルになる予定ですが、輸出が増えると価格もそれに伴って下落致します」

「うーむ、MiG-35も捨てがたいですな・・・推力変更ノズルを排除してアビオニクスのみを最新型とするモンキーモデルなら購入する余裕があるかもしれません」


MiG-35が轟音を立ててフライパスし、Su-35Sと編隊を組む。MiG-35とSu-35、35の数字を授かった二機の戦闘機が共に編隊を組んで飛行している光景に観客たちは目を見開いていた。それを尻目に案内人がカバンの中からファイルに挟んだプリントを取り出す。


「これがベネズエラ仕様のSu-35Sの想像図です。この日のためにパソコンをいじって作り上げました」


案内人がプリントを首相に渡す。プリントにはベネズエラの国籍マークをつけたSu-35Sが四機、編隊を組んで飛行しているCGが印刷されていた。


「おお・・・なんと用意周到な・・・これは買わざるを得ませんな」

「おい、聞こえたか?首相が・・・冗談だろう・・・原油安によるハイパーインフレ起こした我が国にそんな高価な戦闘機を買う金があるというのか?」

「し、知らねえよ・・・知らんからな」


ベネズエラの空軍関係者が首相の言葉に驚きの言葉を漏らしている。MiG-35とSu-35が車輪を下ろし、同時に着陸態勢に入った。


新鋭戦闘機たちが歓声を浴びながらドラッグパラシュートを開いて綺麗に着陸していく。Tu-204旅客機の改良版であるTu-204SMのデモ機が代わりに離陸していった。


『今離陸したのはTu-204SM型です!従来のTu-204よりも燃費、速力が向上し、コクピットにも新技術が取り入れられています!!』

「おお・・・」


スーツを着たドモジェドヴォ航空の関係者がTu-204SMを仰ぎながら感嘆の声を漏らす。他の関係者がA-40「マーメイド」飛行艇の近代化改修型の模型を眺めている。このエアショーでは他国の他、ロシア本国への宣伝も行っているのだ。

滑走路ではアクロバットチームの「ルスキーイェビチャジ(ロシアン・ナイツ)」と今年新たに結成された練習機チーム「クリリヤ・タヴリージ」、さらにゲストとして招待されたアラブ首長国連邦の「エミレーツ・ナイツ(アル・フルサン)」の搭乗機が整列し、エンジンを始動させていた。




『さて、皆さんおまちかねのアクロバットチーム、ルスキーイェビチャジとアラブ首長国連邦から遙々飛来してきたエミレーツ・ナイツ、そして今年が初のお披露目となるクリリヤ・タヴリージによる展示飛行に入ります!!』


観客が沸き立つなか三つのアクロバットチーム、計十九機が同時にタキシングしていき、滑走路の前にたどり着く。スモークを装備していないルスキーイェビチャジ以外の機体がスモークを少し放出し、問題がないか確認した。


『三つのアクロバットチームが同時に離陸していきます!これはなかなか見られない光景でしょう!まず離陸した彼らは右手の方向から全十九機による編隊飛行でフライパスを行い、そのあとに空中上向き開花及び下向き開花を同時に敢行します!上向き下向き開花を同時に行うのは世界初となります!』


十九機による大編隊を組みながら離陸した三つのアクロバットチームは、右手の方向に消えていった。観客がかたずを飲んで今か今かと待ち焦がれている。



数十秒の間を置いて爆音が轟く。すると観客たちが歓声をあげ始め、曲芸飛行史上まれに見る大編隊を組んだルスキーイェビチャジとクリリヤ・タヴリージとエミレーツナイツが一糸乱れぬ緻密な編隊を組みながらフライパスしていった。


そして編隊を組んだまま三つのグループにわかれ、決められたポジションについていく。そして、エミレーツとタヴリージが互いに相対して一気にすれ違い、花が花弁を開くようにスモークを出しながら上下に広がった。そしてその中心でルスキーイェビチャジのSu-27が上向き空中開花を行いながらフレアを放出する。それは花弁に飾り付けられた雄しべと雌しべのようであった。


先程とは比肩にならないシャッターの音と大歓声が沸き起こる。アメリカや欧米、中国の関係者も思わず大きな拍手をしていた。三つのアクロチームが共同で史上初となる同時上下空中開花を披露したのだ。この出来事は世界中の航空雑誌で取り上げられるだろう。


『ルスキーイェビチャジのソロ機がダブルテイルスライドを行います!エアショー・チャイナ2014にて初めて披露されたフレアを撒きながらのダブルテイルスライドはやってくれるのでしょうか?』


アナウンスの後に、ルスキーイェビチャジのSu-27が一機だけ上昇し、機体を水平にスピンさせながら落下するダブルテイルスライドを開始した。戦闘機にしては大型の機体がぐるぐるとスピンしていき、声援が上がる。その時、大量のフレアがばらまかれた。ルスキーイェビチャジによって新たに編み出されたダブルテイルスライド中のフレア放出だ。これは過去に一回しか行っていないので非常に貴重な光景である。


『やってくれました!やはりルスキーイェビチャジは我々の期待を裏切りません!残念ですがルスキーイェピチャジはもう一回のフォーメーションフライパスの後に着陸し、演技を終えます!きっとエミレーツとクリリヤ・タヴリージ両チームへの配慮でしょう!』


短い演技を終えたルスキーイェビチャジがパラシュートを開いて滑走路に降り立っていく。観客の残念がる声が聞こえるなか、エミレーツがカラースモークを吹きながら優雅な飛行を魅せ、タヴリージがバレルロールを行う。


二十分程の観客を沸き立たせた展示飛行の後、エミレーツとタヴリージも滑走路に着陸していき、アクロバット飛行展示は無事閉幕した。




『次は我が国の新型飛行機の展示飛行です!斜め左後ろに見える格納庫から姿をあらわします!!』


機体から降りたアクロバットチームの操縦士達がサインをもらおうと押し掛ける観客に取り囲まれている。それを尻目に、先程からずっと閉じられていた格納庫の扉が開き、整備士たちが新型と思われる飛行機を牽引し始めた。


観客がざわめく。思わず叫び声を上げる観客も居た。牽引される新型戦闘機は傾いた二枚の尾翼やすりおろしたような形状のエアインテークなどステルス性を意識したデザインで、F-35BとYak-141を融合させたようないでたちをしている。何より、その大きな胴体から垂直離着陸用らしき装置を閉じている蓋が開け放たれていたことに観客たちは驚いていた。


『今格納庫から現れたこの機体はヤコブレフYak-141Mと呼称されます!V/STOL機能を付与され、対空ミサイル六発又は対地、対艦ミサイル二発又は爆弾三トンを搭載可能であり、アビオニクスの性能はMiG-29SMTに匹敵します!!』


耐熱板に載せられたYak-141Mがエンジンを始動させたらしく、整備士達がその場から離れる。


『Yak-141は以前ソビエトにて開発されていましたが、財政破綻により開発が中止されました!ですが、我がロシアがVTOL機の利便性に注目しYak-141のエンジンをベースに様々な改良を加え、ステルス性にも配慮を行って開発されたのが本機なのです!』



増槽とミサイルを装備したYak-141Mが甲高い音を撒き散らしながら浮き上がり、大歓声が沸き起こる。Yak-141Mは実に安定した垂直離着陸を行えることが証明されていた。欧米のF-35Bもヤコブレフ社から垂直離着陸エンジンの技術を導入して開発されているのだ。


ちなみに、後にNATOがYak-141Mに「フィンガープリント(指紋)」というコードネームを名付けている。


『このYak-141Mは最大百二十秒間のホバリングが可能であり、水平飛行時の最大速度はマッハ一.二にもなります!この機体は最新技術を詰め込みすぎないように配慮したため生産コストが下げられ、航空母艦への搭載も検討されています!』


かつての試作V/STOL機であるYak-141を再設計し、完全に生まれかわったYak-141M「フィンガープリント」が大空に飛びたち、今まさに世界中の注目を浴びている。ロシアが新型のV/STOL機を開発したという出来事はロシア空海軍の航空戦力の勢力図を少しだけ変えることになった。




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