機械の赤虎
もつれあった戦闘機の残骸が上から落下し、中国軍の09式歩兵戦闘車をめちゃくちゃに押し潰した。人民連邦軍の兵士が重機関銃を乱射し、突出した中国兵を無惨に射殺する。
ロシア軍戦車隊長であるダニエル・ボロディンは、中国兵になり済まして中国軍の部隊に紛れ込んでいた。
『狙撃兵!!回り込んで重機関銃を撃ってる奴をぶっ殺せ!!早くしろ!!』
『ああ、また一人撃たれた!!即死だ!!』
重機関銃によって部隊は足止めを食らっている。88式狙撃銃を持った兵士が瓦礫の影から銃を構え、奥の建物の二階から重機関銃を撃っている人民連邦兵に二発撃ち込んで射殺した。
そしてその建物に後からやって来た97式歩兵戦闘車が百ミリ低圧砲と三十ミリ機関砲を叩き込み始める。
建物の至るところに潜む人民連邦兵が銃撃してくる。ダニエルも95式小銃をアパートの二階に数発撃ち込んだ。だが、直ぐ様銃撃を受けてダニエルは首を引っ込める。WZ-19が部隊の前でホバリングし、二十三ミリ機関砲を建物の窓に掃射した。
薬きょうが次々とアスファルトに音を立てて落ちる。人民連邦の機関銃兵達が土嚢ごと砕け、建物から次々と落下していく。WZ-19の青黒い機体に小銃弾が命中し、はねかえった幾つかの弾丸が回転しながらダニエルたちの側に着弾した。
路肩の電話ボックスの影からRPG-7が発射され、白煙を引きながら飛翔する成形炸薬弾頭がWZ-19の機首に突き刺さり、そのままWZ-19の機首を押し潰して爆発した。
『うわあああっ!!』
『避けろ!!あぶねえ!!』
そのまま後ろにのけぞったWZ-19がローターを振り回しながら中国軍歩兵分隊に向けて墜落した。
回転するローターがアスファルトを砕き、幾人かの中国兵を弾き飛ばした。弾かれた中国兵達の骨は易々と砕け、血を撒き散らしながらアスファルトに倒れていく。そしてWZ-19が炎を上げ始めた。
すぐさま他の中国兵達がヘリに殺到し、コクピットからぐったりとしたパイロットを引き抜く。
左足と左手の指を失ったパイロットが泣きそうな表情で許してくれ、許してくれとひたすらに叫んでいる。もう一人は即死してしまったようだ。ダニエルはその光景を横目で見たあとに正面を向き直る。すると、左側の建物の窓が一瞬煌めいた。
刹那、衛生兵に抱き抱えられていたWZ-19の操縦士が胸に弾を受けて絶命した。その弾は衛生兵の腰椎をも粉砕し、押し殺すような呻き声と共に衛生兵はうずくまった。
さらに二発の銃弾が飛来し、分隊長の胸に穴があいた。そしてうずくまる衛生兵の頭が炸裂した。ダニエルは銃撃地点に何発か弾を撃ち込む。すると、それに同調して他の中国兵達も小銃を撃ち始めた。
『狙撃兵が潜んでるぞ!!』
『畜生、下衆共が!!』
『衛生兵を撃つだなんてふざけたことを平然とやってのけやがる!!』
前方の97式歩兵戦闘車が百ミリ低圧砲を狙撃兵がいた地点に撃ち込み、建物の外壁が粉々に吹き飛ばされる。更に05式自走迫撃砲がその建物に百二十ミリライフル迫撃砲を叩き込むと、狙撃兵の銃撃はもうなくなった。
ビルに囲まれて視界が限られた上空を物凄い轟音を轟かせながらJ-11が飛行していき、人民連邦のM1991二百四十ミリロケットが何発も空を横切る。
96式戦車や05式水陸両用車が道路を振動させながらダニエル達の横を通り、「勝利」トラックをはねのけて前進していった。
ビルの屋上から二発のTOW対戦車ミサイルが飛来し、96式と09式装輪装甲車が上面装甲を貫通されて大破した。ダニエル達も人民連邦兵の銃撃によって身動きが取れず、戦車の支援すら出来ない。
『発煙弾を投げろ!!』
中国軍の分隊長が叫ぶ。ダニエルは95式小銃の弾倉を新しい物と取り替えた。
『おい!!お前もだ!!早くしろ!!』
分隊長がダニエルが装備している発煙手榴弾を指差して怒鳴る。ダニエルは何もしゃべらないまま発煙手榴弾のピンとレバーを外し、瓦礫の向こうに投げ入れた。それと同時に何人かの中国兵も発煙手榴弾を投げた。
薄い灰色の煙が大量に沸きだし、たちまち辺りが煙におおわれていく。すると、ダニエル達が移動していると思ったのか、銃弾は別の場所にも飛ぶようになった。
『俺らはこっちだ!!ついてこい!!』
『了解!!』
中国軍の隊長がそういい、分隊を引き連れて建物の側を移動し始める。赤外線スコープを装備した99式戦車が暴風号戦車に主砲を放ち、一撃の元に大破せしめた。
97式歩兵戦闘車や96式戦車が煙の中を突っ切って機関銃陣地を粉砕する。96式戦車が主砲を放ってTOWを発射しようとした人民連邦兵を建物の一部ごと吹き飛ばす。
人民連邦軍も装甲車両を出して反撃するが、圧倒的な戦力の前に次々と撃破されていく。だが、建物からゲリラ的に攻撃を行ってくる人民連邦兵や敵味方の残骸によって進撃を阻まれてしまう。
瓦礫の中から白燐手榴弾のレバーを握りしめた二人の人民連邦兵が現れ、09式歩兵戦闘車に飛び乗ってハッチを無理矢理開け、中に白燐手榴弾を投げ入れた。
レバーが外れた二秒後に白燐手榴弾は爆発し、09式装甲車の狭い車内に大気と反応して一千度の高熱で燃え盛る燐を撒き散らした。
09式歩兵戦闘車の砲口やハッチ等から見え隠れする炎と共に石炭のような色の煙が立ちのぼり、耳を塞ぎたくなるような乗員の呻き声が車内から響いた。白燐手榴弾を投げ込んだ人民連邦兵が全速力で逃走を図る。
必死に側の戦車兵が機関銃を発砲するが、狙撃を受けてハッチにもたれこんでしまう。彼らは遂に人民連邦兵達を逃してしまった。
K1戦車がK200装甲車と共に現れ、中国軍の歩兵に対して銃砲を撃ち込み始める。先頭を行く99式や96式戦車等には叶わないと踏んで歩兵を優先的に狙ったのだろう。それも、撃破されることを分かっていてだ。彼らの敢闘精神も立派なものであるかもしれない。
ダニエルの前にいた中国兵が体を引きちぎられて倒れ込む。先頭のK1が96式戦車に撃破されると、K200はM2重機関銃とM240機関銃を撃ちながら後退し始めた。
そこに09式装甲車が三十ミリ機関砲をK200に連射し、K200は巨大な穴を次々と穿たれて煙を吐いた。09式装甲車はタイヤをアスファルトに擦り付けて残骸をかわす。
すると、上空から火を吐いたH-5がアパートに落下し、エンジンを吊り下げた主翼が飛来して電柱を吹き飛ばし、パチンコ屋のガラスを粉々に砕いた。
『上の奴等、きっちり航空優勢確保してくれるのだろうか』
『さあな・・・まあ、攻撃機が進入してこないだけましだろう』
『人民連邦の連中も・・・うわっ!!』
突出した09式装甲車が道路上に敷設されていた百五十五ミリ砲弾改造の即席爆弾の爆発で車体を吹っ飛ばされた。
アスファルトが蛸壺のように抉られ、前進していた99式戦車が陥没したアスファルトに落ち込む。そして、白燐手榴弾を持った人民連邦兵が随伴していた97式歩兵戦闘車の上に飛び乗り、ハッチに手をかけた。
『開けさせるな!!俺達もああなりたいか!?』
『なりたくありません!!』
『畜生が!!』
車内の中国兵も必死に抵抗する。だが、人民連邦兵にハンマードリルでハッチの蝶番を無理矢理抉られて二発の白燐手榴弾を放り込まれてしまった。同時に99式戦車の後部にも人民連邦兵が白燐手榴弾を投げつけた。
乗員はすかさず白燐手榴弾を外に投げ返そうと手榴弾を掴んだが、投げ返されないように時限信菅を二秒に設定された白燐手榴弾を投げ返せる人間はいなかった。
97式歩兵戦闘車の車内でまたしても爆発が起き、乗員達が焦熱の燐に食い荒らされて焼かれていく。陥没したアスファルトに落ち込んで身動きがとれない99式も燐に車体を蝕まれていった。
『逃がすな!!そいつらを絶対逃がすな!!』
逃走を図る人民連邦兵に05式自走迫撃砲の乗員が重機関銃を放ち、彼らを無慈悲に射殺した。
そのうちの一人が持っていた白燐手榴弾のレバーが外れ、彼ら全員が炎に包まれる。それも何人もの人間を無惨に焼き尽くした彼らの業であるのかもしれない。
ダニエルは戦車の横に隠れながらその光景を見つめていた。先程から執拗に戦車兵を狙っていた人民連邦軍の狙撃手は中国軍の狙撃手に射殺されていた。思えば小銃を握るダニエルの手は小刻みに震え、そこに立ったまま動けていない。
『おい!!突っ立ってると狙撃されちまうぞ!!』
後ろから走ってきた中国兵にそう怒鳴られる。はっと気付くと、中国軍の部隊そのものが前進を開始していた。
WZ-9戦闘ヘリが二機、低空を飛行して部隊の上を通り越していくが、直後に屋上からVADS-1改の銃撃を受けて一機がたちまち墜落した。
もう一機はすぐさま高度を上げて機関砲をVADSに叩き込んでVADSを撃破した。だが、エンジン出力が間に合わなかったのか、突然的に高度が下がり始める。
辛うじて高度を立て直したかと思うと建物の外壁に回転するローターをぶつけてしまい、そのまま建物の影に消えていった。
墜落の振動は聞こえなかったが、もう上がってこないということは誰の目にも明らかだった。味方にミストラル対空ミサイルを喰らって尾翼を吹き飛ばされた人民連邦のSu-25UBが旋回し、ミストラルを操作していた人民連邦兵を機銃で吹き飛ばした。
そんなSu-25も垂直尾翼を失ったために機体が安定せず、結局旋回の際にきりもみを始めてしまい墜落してしまう。
ダニエルは中国軍部隊と共に建物の内部で人民連邦の部隊と銃撃戦を行っている。中国兵の一人が胴体を撃ち抜かれ、敵の射線の中で悶えている。
95式小銃を何発か発砲する。人民連邦の兵士がちらちらと頭を出しているが、なかなか弾が当たらない。敵も同じで、敵弾が壁や床の至るところに命中する。倒れていた中国兵が銃弾を受けて絶命した。
『このままじゃあきりがないぞ!?』
『捫林!!援護してやるからコピー機の辺りに手榴弾を投げ入れろ!!』
『了解!!』
中国兵の一人が手榴弾のピンを抜き、一秒待ってから壁の向こうに投げ込んだ。
間髪入れずに爆発音が響き、人民連邦兵の手足が飛び散った。すかさず中国兵が前進していく。ダニエルも最後尾で彼らに追従した。
95式小銃を構えながら壁の向こうの部屋に進入すると、散乱する死体に紛れている人民連邦兵がぴくりと動いた。
『こいつ生きてるぞ!!』
二人の中国兵が直ぐさま小銃を発砲し、拳銃を握りしめて死んだ振りをしていた人民連邦兵を射殺した。
所々割れている大型のガラス窓からは何両もの中国軍の車両が見え、人民連邦の中心へと進撃していく。
96式戦車が対人地雷を履帯で踏みつけ爆発させながら主砲を放ち、人民連邦の69式戦車を撃破する。
ふと、ダニエル達のいる建物の屋上からRPGが発射され、92式装甲車を破壊した。反撃のため97式歩兵戦闘車が砲塔をこちらに向けた。
『危ない!!退避!!』
『くそっ!!逃げろ!!』
中国軍の隊長が叫び、中国兵達が真っ先に階段へと向かって走る。ダニエルも後を追った。
背後から爆発音が響く。壁やガラスの破片が飛び、ダニエルの背中を打つ。思わずそのまま前に転がりこんだ。
『おい、大丈夫かよ』
中国語で聞いてくる中国兵に対して何も言わずにジェスチャーで大丈夫だ、と答える。中国兵は怪訝な顔つきをしたが、直ぐに振り向いて階段を降りていった。
ダニエルも後を追う。三十ミリ機関砲を撃ち込み、RPGと対空ミサイルの弾薬が爆発を起こして屋上が砕け散った。
天井が次々と崩壊していく中、ダニエルは何とか外に出ることが出来た。中国兵の隊長が97式歩兵戦闘車の車長と話しているようだ。
『危ないところだったぜ。味方に殺されるところだったよ』
『すまないな。あんたらがいるとは思わなかった』
『まあ、屋上に撃ってくれて良かったぜ・・・』




