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中露戦争  作者: 集束サイダー
極東の等活
34/55

磁気嵐の元の狂気

同時刻 ロシア モスクワ



「大統領」


ドアを開けて執務室に入室してきた部下にラスプーチンが反応する。


「大統領、人民連邦の春川市に中国軍が侵攻しました。弾道ミサイルでの攻撃は一定の戦果こそ挙げましたが、実質的に中国軍を春川市においやったことになりますね」

「そうか・・・我々はまだ艦隊の整備も完了していない。まだ作戦行動は不可能だろうな」

「それと、太陽フレアによって磁気が乱れ、通信障害が発生している模様です」

「ふむ。おそらく磁気嵐で半島のみならず世界的に被害が及んでいるだろうな。まあ、人民連邦と中国軍をしばらく戦わせておくのが最善だと思う。そして残った方を我が軍が掃討すればいい。この際どっちが勝ってもいいな」


そして、あまり口に出したくない事を言わなければならないらしく、部下の顔が曇る。それに呼応してラスプーチンも怪訝な顔つきになった。


「それと・・・大統領・・・昨日臨時に行われた国連総会で国連が常任理事国である我が国と中国の拒否権を認めないと発表しました」

「・・・・・・そうか。確か、国連事務総長はリトアニアの何だかとかいう老人だったな。我が国がこそげおとした垢の癖して偉そうに・・・タンザニアの激安ホテルの汚い共同トイレに奴めの顔を突っ込んでやりたいくらいだ」


ラスプーチンの顔が憎悪に染まる。以前在籍していた韓国人の事務総長は朝鮮半島の騒乱により国籍不詳となったため総長の任を解かれ、代替としてバルト三国の一つであるリトアニアから次期の事務総長が選ばれたのだ。


「は、はい・・・」

「奴等・・・我が国と中国が枯渇するまで放置するというのか・・・」

「因みにカザフスタンは欧米による我が国への経済制裁で同じく経済が悪化しています。ルーマニア、ブルガリア等の旧ワルシャワ条約機構加盟国は現在こそEUに所属していますがヨーロッパ経済の悪化により我が国に頼りたいとする素振りを見せていますね。欧米は相変わらず結集し、『垢』もそれに同調しています」


「・・・そういえば、ルーマニアの独裁者についてKGB時代の上官が『奴は胡麻すりの老人だ』と言っていたのを覚えているな・・・昔話をするのも老化の証拠だが。・・・カザフスタンも我が国と同じ産出国だ。カザフスタンも相当苦しんでいるだろう・・・インドにもアメリカが絡んでいる」


ラスプーチンは頭を抱える。相当ストレスも溜まっているようだ。


「少し一人にしてくれないか?」

「りょ、了解!失礼します!」


ラスプーチンに促されるままに部下は退室する。ドアを閉めると、そこには同業の補佐官が居た。


「大統領はやはりお疲れか?」

「ああ。驚いたことに少し一人にしてくれと言っておられた。記者はシャットアウトさせといたほうがいい。やはり欧米の経済制裁が効いている。確実にな」









人民連邦 春川市



春川市の至るところに配備されている対空ミサイルや対空機関砲が物凄い弾幕を張り、大空中戦が行われている碧空を容赦なく貫いていく。被弾した何機かの飛行機が火を噴き、摩天楼へとまっ逆さまに墜落していった。


中国軍機の追撃を逃れたOV-10とSu-25がビルの間をすり抜け、中国軍の歩兵部隊に向けて進入を開始する。




人民連邦軍の操縦士である幽新が搭乗するKF-16の近くでも味方が放ったZSU-23の二十三ミリ砲弾が炸裂し、微少な破片が機体に命中した。


「おい味方だ!!撃つな!!」


通信障害が発生しているために幽新の声も届かない。HUDの緑線も少し脈を打つように乱れている。仕方なくアフターバーナーを三秒間だけ点火し、高速でそこから退避した。


幽新は正面でホバリングを行っていたZ-8輸送ヘリを捉え、そのアロワナのように肥大な胴体を二十ミリバルカンで撃ち抜いた。


二十発程の二十ミリ砲弾を全身に受けたZ-8は、たちまち狂ったように煙を吐いて落下していく。回転しているZ-8は衣岩湖から中島に上陸した05式自走迫撃砲の一両に激突し、再び05式を湖面に叩き落として爆発した。


敵地上部隊も反撃せんと機銃を撃ち上げてくる。近接信菅がない銃弾による弾幕に包み込まれ、 幾つかの弾が幽新のKF-16をかする。咄嗟に機体を上に向け、弾雨から逃れるため急上昇した。バックミラーを確認すると、必死に追従してくるMiG-21の姿が見えた。


「おお・・・ここまでついてくるとはな。どれだけ心細いんだよ」


高度が上昇し、当然幽新は雄大な巻雲を背景に繰り広げられている大空中戦の中に飛び込む。


上空は相変わらずの修羅場だ。中国軍のJ-11がSu-24を追い回し、たちまちSu-24が撃墜される。すると人民連邦軍のF-15Kが放ったサイドワインダーがJ-11の機首に命中し、J-11の美しい首を無慈悲に切断した。


「うおおお!!!」


撃墜されて炎を吐きだした首なしのJ-11が幽新のKF-16に向かって落下してきたが、辛うじて幽新はJ-11をかわした。


だが、破片がいくつかキャノピーに命中する。そして、赤い粘膜の様なものがキャノピーに付着した。


「・・・何だこれ」


しばらくその正体が分からなかったが、数秒の間思考を巡らすと正体が判明した。

その赤い粘膜状の物は人間の腸であったのだ。先程のJ-11の操縦士のものだろう。


操縦かんを左、下の順に倒して左旋回すると、直ぐに腸は吹き飛んでいった。後方のMiG-21がミサイルを発射し、ミサイルはJ-8の側で爆発したが、撃墜には至らなかった。


大空中戦は未だに留まることを知らず、焔が春川市の空をおおいつくしている。


幽新のKF-16が中国軍のJ-31にロックオンされ、警報が機内になり響く。再び低空に向かって機首を向けると、ロックオンは解除された。どうやら逃げる敵は深追いしないようだ。


前方の幅の広い通りでは中国軍の装甲車部隊が進撃を続けており、それに対して人民連邦軍の地上部隊も必死に抵抗を行っていた。


ハンヴィーに積載された人民連邦のM20無反動砲が放たれ、中国軍の92式装甲車が撃破される。すぐさま95式自走対空機関砲がハンヴィーに向けて二十五ミリ機関砲を放ち、人民連邦兵ごとハンヴィーを粉砕した。


そして95式自走対空機関砲が鉄塔から放たれたRPG-7の直撃を受けて炎を噴き上げると、中国軍のWZ-9戦闘ヘリがRPG-7の発射地点に機関砲を掃射し、鉄塔は呆気なく崩落した。


人民連邦兵たちが小銃を撃ちながら建物の影に隠れていくが、建物の影に96式戦車が榴弾を撃ち込むと、歩兵達の破片が飛び散った。そしてそこから人民連邦のK2戦車が現れて90-II式戦車の一両を撃破するが、呆気なく96式に撃破される。


車両部隊が通りを蹂躙するなか、中国兵達が建物に飛び込んでいく。そして中の人民連邦兵を手当たり次第に射殺した。中国兵が血塗れとなって倒れた死体の顎を蹴ると、隠れていた人民連邦兵が上下二連のショットガンを至近から中国兵達に発砲し、幾人かの兵士が体を引き裂かれる。人民連邦兵が次弾を装填する前に他の中国兵達が95式小銃を乱射し、人民連邦兵の体がめちゃくちゃになるまで発砲した。


薬きょうが音を立てて床に散らばり、95式小銃のワンマガジンを撃ちきった兵士が味方の死体から予備の弾倉を抜き取って95式小銃に装填する。そして短く合掌し、彼らは建物の二階にかけあがっていく。


そしてすぐさま二階にいた人民連邦軍部隊と銃撃戦にもつれこんだ。六人ほどの人民連邦兵はAK-47やM16A2を撃ち込んで二人の中国兵を射殺したが、投げ込まれた破片手榴弾を見てすぐさま床に伏せる。


室内で手榴弾が炸裂しただけあって鼓膜を裂くような爆発音が響きわたり、五人の人民連邦兵が鮮血を纏った肉片となって吹き飛んだ。


煙が晴れると、一人残った人民連邦兵が数秒前まで味方だった肉片を手に取って驚いた表情を浮かべていた。中国兵に気づいてM16A2に手を伸ばすが、中国兵にM16を蹴り飛ばされてしまった。


彼はすぐさま中国兵に拳銃で頭を撃ち抜かれた。血がこんこんと染み出して床を赤く染める。人民連邦兵達の死体が散乱する建物をあとにしようと歩を進めた中国兵の一人がふと、巨大な爆音に気づいた。


『なんだ、爆撃機か!?』


中国兵が窓から首をつきだして上を見渡す。すると、人民連邦のH-6爆撃機が炎の尾を曳きながら中国軍の車列に向けて爆撃進入に入った。


『まずいぞ!!大型だ!!こっちに向かって来やがる!!』

『体を支えて伏せろ!!』


中国兵達はいきなりの爆撃機襲来に戸惑いながらも隊長のいち早い指示で彼らは防護体制に入ることが出来た。


H-6が爆弾倉を開放し、灰色に塗装された爆弾をにわか雨のようにばらまく。中国軍の対空機関砲がH-6に携帯ミサイルを命中させるが、既にH-6が覆い被さるように爆弾を投下していた。


音を立てながら落下する爆弾に中国兵達は戦慄を覚えるが、ここまで爆風は及ばないだろう、このまま生き残っていつか孫たちに武勇伝を聞かせてやるんだ、と自分自身に言い聞かせていた。


だが、現実は無慈悲であった。爆弾は次々と通りを食い荒らしていくように炸裂し、四十両はいる中国軍の車列や人民連邦の機関銃陣地など敵味方問わずに通りにある全てのものを吹き飛ばしていく。伏せていた中国兵達も爆弾の衝撃波からは逃れられず、爆風の中に消えていった。





幽新が搭乗するKF-16のコクピット越しに明滅する爆発の閃光が見える。片翼から炎を吐き、対空ミサイルの直撃を受けたH-6爆撃機はようやく肩の荷を降ろし、力尽きたかのように急激に機首を下げ、そのまま通りの突き当たりにあるスーパーマーケットに墜落した。


幽新は炎と共に立ち上るキノコ雲を見て戦慄を感じたが、直ぐ様なり響いたミサイルアラートが彼を空戦に引き戻す。


J-10が発射したR-73が幽新のKF-16に迫り、KF-16の胴体を食い荒らさんと肉追してきたが、フレアを撒きながら退避行動をとるとR-73はあさっての方向を向いて爆発した。その間に幽新は前方のJ-7にサイドワインダーを発射し見事撃墜した。


ふと気がつくと後ろのMiG-21が忽然と姿を消していた。いつの間にか冥土に呼ばれたのだろうか。無線が聞こえない為にそういった状況もよく把握できない。


速度五百ノットで右旋回し、春川市周辺の山々の上空を飛行することにした。中国軍機に撃墜されて多数の残骸を伴ったSu-11が落下し、木々を吹き飛ばしながら山肌に墜落した。Su-11を撃墜したJ-10が機銃を撃ちながら幽新に追いすがる。


旋回を繰り返して引きはなそうとするが、増槽を搭載しているために機体が重く振りきれない。機銃の弾が機体に幾つか命中し、増槽の航空燃料に引火して炎を上げた。


いきなり増槽が炎を吐いたので驚愕したが、すぐさま投棄し、難を逃れた。だがJ-10が機銃を乱射しながら迫り、幽新のKF-16がどんどんと穴だらけになっていく。弾が命中してキャノピーが砕け散ると、幽新はここで死を覚悟した。


刹那、J-10がR-27ミサイルを喰らって爆散し、姿を消していたMiG-21が横から現れた。幽新の心が希望と感動と感謝に満ち満ちた。幽新と行動を共にしていたあのMiG-21が窮地に陥った幽新を救ってくれたのだ。


「ああ・・・すまない・・・ありがとう」


MiG-21の操縦士が親指を立てている。不覚にも幽新の眼から涙が込み上げてきた。なんといって返せばいいか一瞬戸惑った。だが、直ぐに理解し幽新も親指を立て返して微笑んだ。


「・・・あっ!?」


突如MiG-21が弾雨に包まれて火を吹いたかと思うと、幽新の胸に大穴が空いた。驚いた幽新の目の前には漆黒に染め上げられたJ-31が正面から幽新に機関砲を乱射していたのだ。


幽新は本能のままにJ-31のコクピットに向けてバルカンを発射ボタンを押し込んだ。KF-16から物凄い量の弾が撃ち出され、J-31のキャノピーを粉砕した。だが、J-31も負けじと機関砲を放つ。


同時に幽新の頭が破裂し、脳髄が飛び散った。双方の距離は一気にちぢまる。J-31が回避行動を取り、幽新との空中接触を避けようとしたが、未来位置を遮るように突っ込んできた幽新のKF-16を避け切れずに衝突した。




幽新のKF-16の主翼がJ-31の機首を抉り取り、たまらず操縦士が足も曲げないまま緊急脱出を行い、両足を焼かれた操縦士が空に身を投げ出した。衝突したKF-16とJ-31は幾千もの破片を伴ってお互いにもつれ合いながら焔を吐き出して落下しだす。


幽新もコクピットから投げ出され、朦朧とする意識の中、鮮血を撒き散らしながら自分の胴体が宙を舞うのを見た。そして、緊急脱出した中国軍の操縦士と幽新は空中で衝突した。中国軍の操縦士のヘルメットには大きな穴があいている。先ほどの機関砲の直撃で彼は既に絶命していたのだろう。操縦士のパラシュートは開かず、大量の鮮血や肉片が空中を紅く彩る。


その情景はまさに「狂気」であった。幽新の最後に見た光景は、狂気そのものだ。


幽新と中国軍の操縦士は春川市に向けて真っ逆さまに落下していき、やがて見えなくなっていった。





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