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中露戦争  作者: 集束サイダー
極東の等活
33/55

鉄鳥達の戦場舞踊会

2015年 9月24日 AM12:21 春川市南方十五キロ



『春川市到達まであと十五キロ。前方に中国軍機を六十機確認している』


人民連邦軍の大編隊後方二百キロを飛行しているE-737が人民連邦軍機達に無線指示を飛ばす。


『爆撃機隊はミサイルを発射後、爆弾の投下コースに入れ』

『フレア、チャフを搭載している機体は搭載していない機体の前方についてやれ』


そうすると元韓国軍の新しい機体達が次々と古い機体の前に付く。だがそれを行ったのはほんの一部で、ほとんどの新しい機体は命令を無視していた。


幽新もその一人だ。かつての北朝鮮軍がソウルを襲ったという出来事は核爆発によって忘れ去られたが、元韓国軍の人間たちは未だにその恨みを忘れていない。


『おい前方の米帝モドキ!命令が聞けねえのかてめえは・・・!』


そういう無線が聞こえ、バックミラーを見ると、後ろのMiG-21のパイロットが幽新に中指を立てているのが目に入った。途端に幽新の頭に憤りがつのる。


「クソボケが・・・誰がてめえのようなアカの廃棄物見てえなクズの世話してやるかよ」

『てめえ、後ろに注意しとけ・・・』

『おいお前ら!!味方同士で争うな!!我々の敵は中国だ!!いいな!!』


ガンを飛ばしあう不良の舌戦のような無線通信を聞きかねたKF-16の操縦士が二人を一喝する。側ではH-6爆撃機か地対地ミサイルを春川市の中国軍に向けて発射していた。


『くそっ!!中国軍機のミサイル発射を確認!!数は百以上だ!!全機散開!!』

「何い・・・!!」


レーダーに目を落とすと白蟻の大群のような無数の小さい光点達が着々と幽新達の方に向かってきている事が分かる。レーダーの首振り角度が前方六十度に限定するよう調整すると、より鮮明に光点が浮かびあがった。その中の一発が幽新に向かって飛来しているのが目に入った。途端に嫌な音のミサイルアラートが機内に響きわたる。


『グァンズン1より2、ミサイルアラート!!』

「くそっ!!おい後ろのミグ!!ミサイル来てるぞ!!」

『避けてくれよ!!頼むぜ』

「あー!?」


そう毒付きながらもすぐさまフットバーを右に蹴りこみ、ミサイルと自機の未来位置の中心角(自機)が三十度辺りの鋭角になるよう機体を調整する。


だんだんとミサイルが接近してくる。そしてミサイルが幽新の前方六百メートルにまで接近すると、思いきり右に操縦かんを引いた。


「うおおおおっ!!」


耐Gスーツを着用しているのでGは少し和らぐが、肺が押し潰されて苦しい。だが、ミサイルに喰われぬが為に幽新は操縦かんを一杯に引き倒した。


『うわわっ!』


そして直ぐに全力で左旋回を行い、追いすがるミサイルを辛うじてかわした。MiG-21のすぐ横をR-77ミサイルが通りすぎ、操縦士が軽い悲鳴をあげる。


「横に機首を向けたらミサイルの方もびっくりして追従できないからな。こんな時からフレアやチャフを使ってられるか」

『・・・お前、なかなかやりやがるな』


息づかいと共に誉め言葉が聞こえてくる。幽新も長距離走の後のように息を荒げていたが、無線を介してMiG-21に伝わらぬよう息を押し殺していた。重いヘルメットを被った頭を支える首を動かして周囲を見渡すと、三十機程の味方機が黒煙を吐いて墜落していくのが見えた。どうやらH-6爆撃機の一機もミサイルにやられたようで、紅蓮の炎を纏った巨体をゆっくりと下降させていった。


反撃を行うために兵装切り替えスイッチを押し、AIM-9サイドワインダー短距離ミサイルの発射体制に入る。そして中国軍のJ-8戦闘機にカーソルを合わせ、火器管制レーダーを敵機に照射する。


「グァンズン2、発射!!発射!!」


翼下に吊下されたAIM-9ミサイルを放ち、ミサイルは敵機へと一直線に向かっていく。


そして光点にミサイルが近づいていき、光点とミサイルが接触した。


ミサイルの反応が消えたことから、命中したか近接爆発を起こしたのだろう。いや、フレアやチャフに惑わされ自爆した可能性もある。そういう状況を肉眼で確認出来ないのも歯痒い物だ。


だが撃墜確認などやる暇はない。直ぐ様ミサイルが飛来し、前方のFA-50が両翼を叩き折られて搭載していたMk.82爆弾とマーベリック対地ミサイルが誘爆し激しい爆発を起こした。


因みに、幽新のKF-16には六発のAIM-9短距離ミサイルとM61バルカンに二つの増槽が装備されている。臨時滑走路は百五十機超の航空機が次々と離陸していったためにガタガタになっており使用不可能だ。仮に戻っても補給を受けられる保障はない。真っ先に中国軍の砲撃を受ける可能性もあるだろう。燃料が切れたら不時着するか自爆するしかない。よって増槽は捨てられない。まさに幽新たちは「背水の陣」なのだ。


大量の中国軍機が次々と現れ、次々とミサイルを発射していく。人民連邦軍の機体はミサイルから逃れんとフレアを放出し、オレンジ色のフレアが空を彩った。


後ろのMiG-21からR-24ミサイルが飛んだかと思うと、中国軍のJ-7戦闘機があっという間に炎に包まれた。


『やったぜ!』

「北野郎、なかなかやるな」


幽新のKF-16のHUDには相対する多数の敵機と幽新達を覆うように飛行する味方機達が映っている。もうそろそろ中国軍機と接触するだろう。


『・・・お前、何機墜としたんだよ?』


そばで爆発したSu-7の爆炎に機体を照らされているMiG-21の操縦士が幽新に撃墜数を問う。


「HCG92の銀河の数と同じくらいだな。すなわち五機!」


ミサイル発射ボタンを押して二発目のAIM-9を発射した幽新が要らぬ知識を混ぜて答える。


『回りくどい奴め・・・』

「今ので六機だ!お前は?」


AIM-9を喰らってきりもみを始めたJ-11を見て幽新が問い返す。直後、ミサイルアラートがコクピットになり響き、二発のミサイルが幽新達に向けて飛来してきた。


直ぐさま下降しながら機体に装備されたフレアを幾つか放出し、ミサイルを惑わそうとする。


そして二発のミサイルは蛇の様にうねったあとに自爆し、熱された破片と爆炎を撒き散らした。


「うおおっ!」

『ミサイルの破片が飛び込んだぜ!!』


KF-16と後ろのMiG-21に幾つかのミサイルの破片が命中し、MiG-21の胴体に(ほくろ)のような穴が空き、KF-16のコクピット後部から二ミリ程の破片が飛び出して幽新の左上腕三頭筋を耐Gスーツごと貫通した。


唐突に腕の痛みを覚え、破れた耐Gスーツごと左腕を押さえ込む。だが右手がないと操縦かんを握れないために直ぐ離した。


百五十機以上の中国軍機の大群と先頭の味方部隊が近距離の空戦を開始したらしく、戦闘機達がお互いにくるくると旋回し合っていた。


気がつくと目の前にいたはずのKF-16を見失っていた。撃墜されたのを見た覚えはない。幽新は無線のボタンを押した。


「こちらグァンズン2、1を見失った。1、応答願います」

『・・・避!!回避!!・・・』

『ものすごい敵・・・空が狭・・・・・・』

『味方撃ちを・・・なよ・・・れちまうぞ』

『くそっ・・・れた!!脱出す・・・出する!!』

『畜・・・誰か・・・誰か後ろのスホ・・・してくれ!!』

『敵の・・・撃機を優先・・・とせ』


無線機からは中国軍、人民連邦軍双方の様々な無線が入り込んできた。無線にノイズが走っている上に混線状態となっている。さっきならまともに聞こえていた筈だ。何かがおかしくなっている。いつもは懐中時計の歯車の様に正確なコンパスもくるくるとあらぬ方向を向いて回転している。


『おい南側野郎・・・線が・・・くなってい・・・』


後方のMiG-21との通信すら困難な始末だ。AWACSからの無線に至っては、もうノイズしか聞こえない状況となっている。


「おい後ろのミグ!!聞こえるか!!無線にノイズが走っている。何かが起きているようだな」

『とっととお掃除を・・・せて・・・続の轟撃20をお迎・・・るぞ』

『・・・えた・・・発射!!』

『雷虎4より1・・・応答願・・・畜生、無線が・・・・・・』


相も変わらず聞こえてくる混線無線に頭を抱えていると、突然何機かの味方機が爆発し、同時に黒い戦闘機達が後ろから飛び抜けていった。



「なんだ!?」


四機の黒い戦闘機が幾つかの人民連邦機を撃墜しながら編隊を串刺しにするように突っ切り、大空中戦の中へと吸い込まれていく。


黒い戦闘機達の内一機は中国軍の大型ステルス戦闘機であるJ-20であり、残り三機はF-35をモデルにしたJ-31ステルス戦闘機であった。


タバコ戦闘機ともあだ名されるJ-31は後部から煙を吐いている。エンジン回りは未だに改善されていないようだ。


幽新はステルス機から逃げるように下降し、中国軍が殺到し煙をあげている春川市の摩天楼スレスレを飛行することにした。










春川市 人民連邦軍総司令部


「上空で大規模な空戦が発生しています」

「中国の戦車部隊に防衛ラインが突破されました。市街戦が現在発生しています。彼我の戦力差は圧倒的です・・・」

「大兵に戦術無し・・・か」

「我が軍の攻撃機が敵戦車部隊に攻撃を行っている模様です」


春川市周辺の地下三十メートルに位置する人民連邦軍の総司令部では、サブマシンガンと防弾ベストを装備した安今龍が部下たちと共に指揮を取っていた。


敵の侵入に備えて部下達もショットガンや拳銃で武装しており、空気は既に緊張が飽和しているような状況と化している。


「お、おい・・・これは・・・無線が聞こえない」

「か、閣下!!大変な事態が発生しました!!」


ひきつった部下達の一人が叫びながら安今龍に振り返る。安は直ぐに部下の元に歩を進めた。


「二分前に大規模な太陽磁気嵐が発生、現在通信障害が発生しています・・・」

「何だと!?数値を教えてくれ!!」


部下が脂汗を垂らし始める。安今龍にも部下が焦る理由が分かっていた。


「は、はい。二十三時間前に発生したXクラス二十三.二の超大規模(メガ)フレアの影響で強力な磁気嵐が発生、十二時三十分現在で南北磁場Bzはマイナス約十七.四、Dst指数はマイナス六百八十七を記録しており、現在主相状態となっております・・・」

「・・・・・・・・・」


騒然としていた司令室内がまるで鬼に自宅の玄関の戸を叩かれたかのように静まりかえる。


「・・・十七.四だと・・・フレアの数値も南側磁場数値もDst指数も気違い沙汰のレベルじゃないか・・・」

「無線が聞こえないとすると・・・戦闘続行すら不可能に近いかもしれませんね・・・」

「さて、どうするか・・・」


太陽フレアとは太陽表面で発生する巨大な爆発の事だ。フレアに伴って放出されたX線や太陽風と呼ばれる強力なプラズマ風が地球の磁気圏を乱してしまうことがある。その影響で通信障害が発生したり、人工衛星の故障、最悪の場合は地上の電子機器の回路に誘導電流を発生させて機器を破壊してしまう可能性すらもあるのだ。


今回は特に事態が深刻だ。よりによって戦闘中に地磁気撹乱が発生してしまったのだ。GPSはまず使用不可だろう。世界的な鳩レースであるバルセロナ・レースの最中に地磁気嵐が発生したときも強力な磁気嵐で鳩の体内コンパスが狂い、僅かな数の鳩しか帰ってこれなかったという。



自然現象による無線封鎖下に置かれてしまった司令室内には、改めて緊迫しきった空気が立ち込めていた。






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