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中露戦争  作者: 集束サイダー
極東の等活
31/55

天使も悪魔も三途の川に

アルファの活躍により七名に数を減らした中国人テロリスト達が逃げ込んだ雑木林では、なり響く銃声が木々に反響し、さながら戦場に身を投じているような状況と化している。


既にテロリスト達は三人に数を減らしており、残ったテロリスト達は背水の陣で必死に抵抗していた。


草むらで血塗れになり死んでいるテロリストの側で叫びながらAKS-74Uを乱射していたテロリストが茂みに潜んでいたアルファ隊員にMP-443を三発撃ち込まれて倒れる。


『ガース2へ。五十九地点で銃を発砲しているテロリストを射撃してくれ』

『ガース2了解。射撃準備』


そして達磨のような機体に重機関銃を装備したKa-27が雑木林の上空に舞い上がり、テロリストがRPDをアルファ隊員に向けて乱射している地点に重機関銃を叩き込み、黒ずくめのテロリストは粉々に砕け散った。


『こちらガース2、一名射殺。あと一名はどこだ?姿が見えない』


テロリストが血と肉片となり、澱んだ臭いを撒き散らし始めると、あれだけなり響いていた銃声が蛇口を捻るようになりやんだ。


残りのテロリストは一人。だが、いくら捜索してもそのテロリストの所在がわからない。


「残り一人が見当たらんな・・・」

「ん?・・・あっ!!おい、これを見ろ!!」


アルファの隊員が地面を指差して叫ぶ。地面には、黒い野戦服とマガジンポーチに木製フォアグリップが特徴であるルーマニア製のAKMが投げ棄てられていた。


「逃げられたか・・・指揮官へ、残存する最後のテロリストが装備を遺棄。逃走した模様」

『こちらでも確認。KGBの連中が派遣されたという話らしいが・・・今、我々は作戦を終了するようにという命令を受けた。指揮官より全チームへ。作戦終了。御苦労だった』








(奴等は俺を直ぐに殺しにかかってくる。早めにこの国から脱出して祖国へ戻らなければ・・・)


中国共産党の命令でモスクワ市内でテロ事件を起こした集団のリーダーである会報(字:申常)は、あの雑木林から逃げ延び、目立たぬように暗い路地裏を歩いていた。


既に日は落ち、店や住居の灯りがモスクワの夜景を構成している。会報は金髪の鬘とカラーコンタクトを着用し、ロシア人になりすましていた。恐らく彼を詮索しなければ誰の目にも彼がロシア人に見えるだろう。


彼らが行ったテロの目的に戦略的な意味は無く、彼らはロシア市民を虐殺するためだけにテロを起こしていた。中国共産党上層部はロシアの士気を削ぐためにこのテロを立案したのだろうが、そのような行為はむしろ相手を奮い立たせてしまうのは目に見えていた筈だった。いや、共産党上層部はそのようなことも頭に入っていなかったのだろう。


会報はそのようなことを思いながら路地裏から抜け、とある酒場へと入り込んだ。


「いらっしゃい」


中では銅のような色の灯りが灯され、落ち着いた気分でウォッカを堪能できそうな雰囲気となっており、カウンター越しに髭の生えた中年のマスターが会報にはにかんだ顔を向けている。


だが、会報以外に客はおらず、マスターだけがグラスを丁寧に拭き続けていた。


「コスケンコルヴァを一つ」

「渋いね」


マスターがボトルを持ち、独特な色のコスケンコルヴァをグラスに注いだ。


コスケンコルヴァを半分程飲み、旨いが偏った味に釣り合いを持たせようとつまみとしてビールを頼もうとした瞬間、マスターが懐中電灯の様なものを会報に向けているのが目に入った。


「!!」


すぐさま内ポケットからFNブローニング・ハイパワー自動拳銃を取り出そうとして手を突っ込むと、懐中電灯からプラスチックを打ち付けるような音が響き、同時に眉間に激しい衝撃が走った。


会報は体をうまく制御出来ずに椅子ごと床に倒れてしまった。頭の感覚が消えていき、思考能力が完全に無くなる。そして、手先や足先が痙攣を始め、全身にも痙攣の波紋が広がっていく。


強力な神経毒を充填した針を眉間に打ち込まれて瀕死の状態となっている会報をマスターが軽々と持ち上げてゴミ袋に叩き込んで口を締め、あらかじめ待機していた軽トラックの荷台にゴミ袋を置いた。


「よし。こいつで最後だ。やってくれ」

「ああ。『悪魔の火葬場』に招待するか」


マスターの格好をしたKGB所属の男が同僚にそういって軽トラックの屋根を軽く叩き、軽トラックは排気煙を吐きだしながらゴミ焼却炉へと走り出していった。


そしてゴミ袋に入れられたままの会報はモスクワ郊外に位置する巨大なゴミ処理工場の焼却炉に叩き込まれ、地獄の業火のような高熱を浴びせられた会報の身体は炭も残らなかった。






こうしてテロリスト達は一人残らず排除され、八百八十二人もの死者に千五百九十八人の負傷者を出した世界最悪レベルのテロ事件は幕を閉じた。


だが。災厄は終焉を迎えた訳ではなかった。なんと、モスクワのドヴォジェドヴォ国際空港界隈の道端に転がっていたシェパードとハスキーのミックス犬からエボラウイルスが検出されたのだ。


他にも二十匹余りの野良犬の死骸からもエボラウイルスが検出され、その野良犬達も同じくミックス犬であり、同じように血塗れで転がっていたらしい。


その野良犬たちに噛みつかれ、エボラ出血熱の症状を発して病院に担ぎ込まれた人間の数は六十五人。その六十五人全員が隔離病棟に緊急搬送された。


モスクワでの混乱を防ぐ為にロシア政府は情報を統制、マスコミは完全に遮断し、患者の家族から救急隊員に至るまで口封じを約束させた。


調査によると、野良犬は狂犬病も発症しており、狂犬状態で人々に噛みついて回っていたと言う。その証拠に、警察に「犬が暴れている」という旨の通報が何十件もされていた。





だが、後に遺族に取材を行ったところ彼らは患者の容態などの情報すら提供してもらえず、墓の位置すらも教えてもらえなかったと言う。










2015年 9月24日 AM11:49 人民連邦首都 春川市 総司令部



「閣下。我々は完全に包囲されています。春川市周辺に中国軍の機甲軍団が展開中」

「ああ・・・ここからも見える」


人民連邦の首都である春川市に位置する総司令部の一室では、人民連邦のリーダーである安今龍が入室してきた部下に応対していた。


「・・・見たところ奴らは包囲しているだけだな」

「ええ。攻撃を仕掛けてくる気配もありません」

「奴らと我々の戦力はどれくらいだ?」

「はい。奴らの戦力は歩兵約二個師団に戦車五百両、その他車両が千両、少なくとも四百機以上の航空機、ヘリがいると推測されています」

「さすが中国軍・・・大戦力だな」

「対する我が軍は歩兵一個旅団に戦車百十八両、装甲車と兵員輸送車合わせて四百二十両、野砲、対戦車砲合わせて二百門にMLRSが十一基、対空ミサイルシステム六十二基、対空機関砲が九十八基、さらに高速道路を改造した航空基地にいる航空機、ヘリ合わせて二百機・・・です」

「わかった。ありがとう・・・」


暗い顔つきで安今龍が言い、彼は煙草を吹かしはじめる。


「民間人は避難したか?」

「はい。大方避難は完了しました」

「問題は奴等が『いつくるか』だな。今かもしれないし数年後かもしれない。念を押しておくべきだ」

「脱出用のステルス・ヘリも準備しておりますが・・・」


挿絵(By みてみん)


「いい。必要ない。そもそもステルス・ヘリといってもリンクスの機体表面を角張るように荒削りしただけだろう?ステルス性なんて望むべくもない。それよりも、だ。部下を見捨てて自分だけ逃げるなど男のやることではない。指揮官なら指揮官らしく部下とともに奮闘するものだろう」

「は、はい・・・」


安今龍は立ち上がり、金庫の鍵を開けて中から防弾ベストとMP5サブマシンガンを取り出した。


「か、閣下・・・?」

「私も共に戦う。私も陸軍に所属していたんだ。中国共産党の愚将とは訳が違うことを奴等に思い知らせてやる」













同時刻 北極海




『こちら「ドミトリー・ドンスコイ」。ミサイル発射三十秒前』


氷原が地平線の彼方まで広がっている北極海の凍空では、コンテナをつり下げた二機のMi-26大型輸送ヘリコプターが巨大なローターを振り回しながらホバリングを行っていた。


そして、厚い氷の下では世界最大級の大きさを誇るタイフーン級戦略ミサイル潜水艦「ドミトリー・ドンスコイ」が息を潜めている。全長百七十五メートル、全幅二十三メートル、水中排水量四万八千トンと大きさでは海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦、排水量ではアメリカ軍の「アメリカ」級強襲揚陸艦に匹敵する大きさの「(アクーラ)」と呼ぶには過大すぎる艦体ですら、北極の群青色の海水に容易く溶けこんでいた。


「ドミトリー・ドンスコイ」の任務は人民連邦の首都である春川市周辺に展開している中国軍の大部隊を通常弾頭のR-39弾道ミサイルで掃討するというものだ。


都市機能に損害を出さないように春川市への攻撃は行わない。多数の民間人がいる都市への弾道ミサイル攻撃任務を帯びていた「ペンザ」に比べたら「ドミトリー・ドンスコイ」の任務はどれほど楽な任務だろうか。


『ミサイルコース、燃料異常無し、全VLS解放確認。発射まで十秒』

「上空のヘリは座標四-八-六-三の周辺より退避せよ」


「ドミトリー・ドンスコイ」のVLSが開き、艦内を緊張が駆け回る。


『九、八、七、六、五、点火、三、二、一、発射!!発射!!』


そして厚い氷を突き破ってモアイ像のような大きさのR-39弾道ミサイルが飛び上がり、もうもうと煙を吐きだしながら大空に舞い上がっていった。


『一弾、二弾目発射確認!!』

『おお、凄いな・・・』


猛然と発射されていくミサイルを見てMi-26の搭乗員が感嘆の声を漏らす。側では写真を撮っている者もいた。


『八弾目、九弾目、十弾目、十一弾目・・・・・・』


巨大な氷塊が木の葉のように舞い、氷原へと一直線に落下していく。


『・・・十九弾目、二十弾目!!全ミサイル発射完了確認しました!!』

『ようし!!やったぞ!!』


全二十発のR-39が発射され終わると、「ドミトリー・ドンスコイ」の艦内に発射成功を祝福する歓喜の声が広がった。


『やったな、「ドンスコイ」の奴等・・・』

『よし。俺達は俺達の仕事に取り掛かるぞ』


Mi-26がコンテナを吊下しながらR-39が開けた穴の上空二十メートル地点という低空でホバリングをし始めた。


コンテナの中には、エボラ出血熱の犠牲になった六十五人の棺が納められている。この事は遺族に知らされていない。せめてもの供養として、ラスプーチンが直にしたためたメッセージと花束が棺に同封されていた。


『氷原の元で安らかに眠ってくれ・・・アーイズビルグ1、投下』

『あなた方の魂が天国に召されるよう願っています・・・アーイズビルグ2、投下』


Mi-26から切り離されたコンテナはR-39が開けた穴に吸い込まれ、巨大な白い水柱が上がった。


そして水柱が薄れていくとコンテナが水面に浮かび、しばらくの間浮いていたあと、この世の未練を断ち切るかのように群青の海水に抱かれていった。







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