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中露戦争  作者: 集束サイダー
極東の等活
29/55

屠り去れこの虐殺鬼

2015年 9月16日 AM11:56 ロシア モスクワ 第三百六十八小学校



空には暗雲が掛かり、バケツの水を引っくり返したような雨がネズミ色のアスファルトを叩きつけている。そんなモスクワにある第三百六十八小学校の中では、無邪気な小学生たちが楽しげに休み時間を過ごしていた。


廊下では男の子達がおいかけっこをしている。すると先生の怒鳴り声が聞こえ、子供たちは「逃げろー」と口々に叫びながら教室に駆け込んでいく。



そして休み時間の終了を告げるチャイムがなると、児童たちは吸い込まれる水のように教室へと戻っていった。



授業中の廊下は誰もおらず、先生の声が時々教室から聞こえてくる。そんな中、三人の調理師が給食ワゴンが調理室からエレベーターで送られてくるのを待っていた。


これから調理師たちはクラスの一つ一つに給食ワゴンを運ばなければならない。そうこうしていると、エレベーターの扉がゆっくりと開く。


だが、エレベーターの中に給食ワゴンは入っておらず、代わりに黒い戦闘服を着用した三人の男が中から飛び出してきた。


男たちは巨大なサプレッサーのついたマイクロ・ウージーサブマシンガンを構えると、調理師達に対して引き金を引き、彼らは心臓を撃ち抜かれてのけぞった。


エプロンを血まみれにして倒れている調理師を尻目に彼らは走り出す。ブーツには厚い布を巻き付けてあるので、足音で察知されることはまずない。


見回りの為に廊下を歩いていた男性教師に九ミリパラベラムを四発叩き込み、トイレから出てきた男の子の頭を同じくサプレッサーの付いたP220自動拳銃で撃ち抜くと、彼らは職員室の扉の前に張り付いた。


「いいか、うるさい悲鳴を上げられては厄介だ。女から優先してぶっ殺せ。いいな」

「了解だ」


リーダー格の男が中国語でそう言うと、彼らは職員室の扉をゆっくりと開けて職員室になだれ込み、マイクロウージーを凪ぎ払うように乱射した。


ソファーをドラムステイックで連打するような音が響き、嵐のような銃弾が職員室の至るところで炸裂して教師たちが次々と血を噴きながら倒れていった。


職員室が硝煙とよどんだ血生臭い空気に覆われたのを確認すると、男たちは隣接している校長室に侵入する。


『なっ、何だ君達は!?』


男たちはバラクラバとゴーグルに包まれた顔色を微塵も変えないまま、後ろに下がりながら怯えた顔で驚く禿げ頭の校長に対してウージーを叩き込む。


心臓周辺に十発程の九ミリパラベラムを受けた校長は、机に縺れた足を引っかけ転倒し、そのまま動かなくなった。


「よし・・・次は教室だ」


そして彼らは廊下を走りながらM26手榴弾を取り出してピンを抜いた。レバーは手でがっちりと握っているので爆発することはない。


スライド式のドアを開け、中に手榴弾を幾つか投げ込む。子供達の驚く声が聞こえてくるドアを閉めて爆発を待たぬまま、別の教室にも同じく手榴弾を投げ入れ、そのまま彼らは階段をかけ降りていった。


瞬間、手榴弾が炸裂して大きな爆発音が響き、子供たちが飛散した破片と爆風に体を残酷に引き裂かれ、教室の窓ガラスが粉々に砕け散った。


教室の窓を叩き割ってそのまま豪雨がアスファルトを叩きつけている外に転がり出た彼らは直ぐに立ち上がり、一人が背負っていたRPG-22を構える。


そして、彼は校舎に向けてRPG-22を発射し、そのまま仲間がいる所へと疾駆した。


飛翔したRPG-22の弾頭は破片で目標を殺傷するのではなく、目標を爆発の圧力で押し潰すサーモバリック弾頭という特殊弾頭であり、炸薬となる液体燃料が充填されている。


そんなサーモバリック弾頭は校舎の二階と三階の間の壁に命中し、その瞬間に液体燃料が急速に気化して核とみまごう程のとてつもない爆発を引き起こした。


「成功、成功したぞ!」

「速くしろ!マンホールに飛び込め!!」


マンホールを開けている仲間が促す中、彼らは次々とマンホールに飛び込み、暗闇に包まれた下水道に転がりこむ。


そして仲間がマンホールを閉め、重厚な音が響いたが、その音は豪雨にかきけされた。









「酷いな・・・悪魔の所業だ」

「チェチェンの奴等もここまではしませんよ」


モスクワのある警察署の刑事であるチョドリア・ノンモクと警察官達が唖然とした表情で目の前にある惨状を眺めている。


三百六十八小学校の前の道路には、爆発音を聞いた市民からの通報を受けて駆けつけた警察が更に増援と救急車を呼びつけたために尋常ではない数の車両が集結していた。


校舎の一部はサーモバリック弾頭の直撃で抉られ、衝撃で窓ガラスという窓ガラスは粉々に砕けていた。校門の前や内側にまでパトカーや救急車が殺到し、ヘッドライトを付けたヘルメットとマスクを装備し、担架を持った救急隊員たちが次々と救急車から飛び出してくる。


アスファルトの上には死体やガラス片が散乱し、救助隊員たちがぐちゃぐちゃになって焦げ付いた死体を担架に乗せ始める。




「おい!!死人は後回しだ!!こっちに来て生存者を運べ!!」


年配の救急隊員が若い救急隊員に怒鳴り付ける。すると、救急隊員たちはそそくさと校舎に入っていった。


「うわああああん!!!」

「痛いよ!!痛いよおおおお!!!」

「畜生畜生畜生畜生畜生!!!!!ふざけやがって!!」


校舎の中は死体や負傷者で埋め尽くされ、教室という教室はガラス片が散乱し、子供たちが痛みや恐怖に耐えきれず泣き叫び、女性の教師はその状況を目の当たりにして嗚咽を漏らし、男性教師はひたすらにスラングを叫び続けていた。


ふと、そこに救急隊員の一団が現れる。すると、教師たちが次々と子供達を抱えながら歩きよってきた。


「この子たちでも助けてやってください!!お願いします!!」

「我々教師は後回し・・・いや、子供達を運んで頂けたらそれで大丈夫です・・・」

「何を言ってるんですか!!怪我人は皆平等ですよ!!」


そして救急隊員たちが負傷者を次々担架に乗せていくなか、チョドリア達はワゴンエレベーターの前で血を流して倒れている調理師たちの双眸をそっと閉じてやり、救急隊員達が立ち入っていない職員室へと立ち入ってみた。


「ううっ!!!」

「っ・・・酷いな・・・」


チョドリア達が職員室に入った途端、血と硝煙の臭いが彼らの鼻をつんざいた。


新人警官が泣きそうな目をしながら肺の空気を限界まで吐きだして袖で鼻を覆った。

職員室の至るところに電話機やコピー紙が散乱し、血塗れの教師たちが倒れており、職員室の窓ガラスは至るところに着弾した銃弾に食い荒らされていた。


鑑識達がカメラで職員室の死体を次々と撮影し、鑑識の一人が弾痕にピンセットを突っ込み、ひしゃげた銃弾を取り出す。


「九ミリパラべラムですね。カードリッジの量からして彼らは複数の人間にサブマシンガンで集中砲火を浴びせられたと思われます」

「なるほど・・・」


チョドリアはそういい、隣接している校長室へと入ってみる。そこでも、身震いするような光景が広がっていた。


「一体犯人はこの学校にどんな恨みがあったのだろうか・・・」


三百六十八小学校の校長が十発程の九ミリパラべラムを受けて胴体から幾つかの内臓を露出させながら血の海の中に倒れ伏していた。壁にまで血が飛び散り、さながらスプラッタのような形相と化している。


「そう言えば、他の二つの小学校も同様の手段で襲撃されたそうです・・・」

「何だと・・・組織的な犯行・・・いや、これはテロだ!!そうだろう!?誰が見てもテロリストの仕業だ!!」

「ええ、間違いありませんね」


チョドリアはそういう結論を出した。確かに、この惨状を見てみれば組織的なテロだと誰でもわかるだろう。


チョドリアは校長室を後にし、負傷者達がうごめいている教室へと歩を進めた。


「すみません。犯人の容姿などはお見かけしませんでしたか?」


腕を血塗れにして壁によしかかっている男性教師に犯人の詳細を問う。すると、教師は顔をしかめた。


「・・・あの時突然ドアが開いて、黒ずくめの腕が中に手榴弾を何個か投げ込んで来たんですよ・・・・・・そして爆発してこうなったわけです・・・」

「なるほど・・・犯人はどのような装備をつけていましたか?」

「んなもの知るはずないですよ!!俺はただ授業をしていただけだ!!誰かに殺される筋合いなんて無いんです!!」


男性教師の目が血走り始めた。それを見たチョドリアは「ご協力ありがとうございます」と答え、学校の玄関から外に出た。


「ホシの目撃情報ありました!!」


警察官の一人がチョドリアに言う。


「なんだって!?どこでだ!!」

「犬の散歩で通りかかった女性が中国語らしき言葉を話しながらマンホールに逃げ込む黒ずくめの男達を見かけたとのことです」

「そうか・・・どこのマンホールだ?」

「ここです」


警察官が校舎の端にあるマンホールを指差す。


そのマンホールは、何回か開け閉めされた跡があり、ふちに溜まっていた土がなくなっていた。


チョドリアは豪雨の中、マンホールを少し開けた。中は真っ暗で何も見えず、下水道のきつい臭いが漂ってきたので直ぐにマンホールを閉じた。


「警察庁に連絡してくれ!!テロリストが下水道にいるとな!!」

「了解!!!」







事件発生から三時間後、警察庁から派遣されてきた捜索隊が編成され、テロリスト達が入っていったマンホールへと進入することとなった。


「こちら捜索部隊。これより進入します」


リーダーが無線機にそういい、マンホールの蓋をゆっくりと開ける。そして、ヘッドライトを点け、次々と梯子を降りていった。


「いいか、四人一組でお互いをバックアップしろ。このまま五十メートル直進」


十二名で編成された捜索隊は、防弾ベストとヘルメットを着用し、拳銃を装備している。もし彼らがテロリストを制圧出来なかった場合は、切り札としてロシア連邦保安局対テロ特殊部隊「アルファ」が出動する予定だ。


「いいか、テロは三件ともこの界隈で発生している。テロリストがここを根拠地としている可能性は極めて高い。用心しろ」


薄暗く、下には汚い水が流れている。その水の中に足を入れ、テロリストを求めて拳銃を構えて歩いていると、突然閃光が煌めき、捜索部隊のリーダーと三人の部下が頭を撃ち抜かれて倒れた。


「リーダーがやられた!!!」

「撃て撃て!!奥に逃げていくぞ!!」


黒ずくめのテロリスト達は、マイクロウージーを捜索部隊に乱射し、瞬時にリーダーを含む四人を殺害した。


リーダーと仲間を四人失った捜索部隊は、慌てながらも拳銃で応射し、テロリストを牽制する。


テロリスト達は背中を見せて逃走し、捜索部隊に拳銃を無駄撃ちさせる。そして、捜索部隊の大半の拳銃の弾が切れると、テロリスト達は一斉にウージーを射撃。嵐のように発射された九ミリパラベラム弾は正確に彼らの体を撃ち抜き、彼らは次々と汚水に倒れていった。



そして、拳銃しか持っていない捜索部隊を容易く蜂の巣にして壊滅させたテロリスト達は、ウージーを持ったまま他の仲間がいる場所へと走っていった。






「ターゲットが二十八地点に移動した。残り十二人のテロリストと合流する模様」

「了解。チーム1、2は所定の位置につけ」


捜索部隊の全滅を受け、ついにアルファ部隊の出動が決定された。十六人のアルファ隊員が、テロリストを掃討するために矛をとる。





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