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中露戦争  作者: 集束サイダー
泥沼戦線
27/55

煉獄連弩

「インデューク1より全機、投下開始!!!!」


Tu-160の機内でオリディアト・ドルキィが叫び、爆弾倉から十発以上の二百五十キロ爆弾が投下される。それに続き、後続の僚機たちも腹から多数の黒い爆弾をばらまき始めた。


インデューク1の投下した爆弾は自由落下し、ミサイルが誘爆して火の海となっている「連弩」の至るところに着弾、残骸となっているDF-5大陸間弾道ミサイルの胴体を粉々に砕く。


そして、二発の巡航ミサイルの直撃を受けたのみであまり被害を受けていないミサイル工場の天涯を爆弾が貫き、精密作業機械がひしめきあうように設置され、生産途中のミサイルたちが並んでいる工場内部を爆風が食い荒らした。


工場から幾人もの作業員や白衣を着た科学者、そして背広をきた重役たちが炎から逃れようと黒煙を吐いて炎上する工場から走りだす。


そんな彼らに降ってきた爆弾が炸裂し、爆風に人体組織を破壊されて彼らは火炎放射器を喰らった蝿のように消しとんだ。


火災の炎に胴体下を紅く照らされ、爆弾を投下し終えたTu-160は上空を通りすぎ、再び左旋回して「連弩」に機首を向ける。


そして、まだ爆弾倉に抱かれているもうひとつの魔弾達を爆弾倉から覗かせながら再び爆撃体制へと移行した。

その爆弾には白燐が充填された幾つもの小弾頭が植物の維菅束のような円を描いて詰め込まれている。


そう、その爆弾とはかつて米軍が日本を焦土にせしめるために用い、さらにはベトナム戦争で北ベトナム軍を焼き払うために使用した凶悪兵器である焼夷弾であった。


彼らのTu-160の爆弾倉には二種類の焼夷弾が搭載されている。一つは金属酸化物とアルミニウムやマグネシウムの粉末を混合して着火すると高温を発して燃焼するという「テルミット反応」を利用した焼夷弾と、大気に触れると酸素と反応して燃焼する白燐を充填した白燐焼夷弾の二種類だ。


どちらもあまりに凶悪であり、残虐性もずば抜けて高いので今日の戦争での使用例はない。だが、ロシア軍はこれを使用しようとしている。これは、忌まわしい核の巣を完全に叩き潰すために彼らが選んだ手段だ。凶悪な兵器を躊躇なく使用するということは、それだけ彼らの恨みが深いと言うことなのだろうか。


「全機、焼夷弾投下開始」


Tu-160の腹から焼夷弾が次々と投下され、それらの焼夷弾は空中で分裂して小弾頭にわかれ、「連弩」の施設とその回りのジャングルに着弾して紅蓮の焔を撒き散らした。



「機長・・・肉が焼ける臭いが・・・」

「・・・・・・・・・きっとアメ公のB-29搭乗員も同じ臭いを嗅いだんだろうな・・・もっとも奴らのは民間人の臭いだが」


副操縦士が飛行手袋を履いた手で口元を精一杯塞ぎつつドルキィに話しかけ、ドルキィは暗い表情でそれに答える。


そして、インデューク隊は再び旋回し、残りの焼夷弾を投下しきるために機首を「連弩」へと向けた。


コクピットの目の前には猛火に包まれた「連弩」が広がり、煙が彼らの飛行している高度まで立ち上っている。ふと、ドルキィは機内の明かりを全て消してみた。


「・・・機長?」


灯りが全て消えると、下に広がっている炎がコクピットに飛び込んでコクピットをオレンジ色に照らし出した。


Tu-160の後部に搭載されている四基のジェットエンジンが奏でている重低音が、まるで轟々と噴き上げる焔のようにコクピットを震わし、副操縦士が脂汗をかきはじめる。


すると、目の前に火線が伸び、火線は生き物のようにうねってTu-160の胴体を突き刺した。


『インデューク2、投下開始!!』

『インデューク3より隊長機へ!!対空機関砲が生きてます!!』


ドルキィが状況を伝えてくる僚機に退避を促した瞬間、95式の二十五ミリ機関砲弾がコクピットの至るところをつき抜け、隣に座っていた副操縦士が身体をぶち抜かれて血しぶきを撒き散らし、コクピットが一気に赤く染まる。


「くそっ!!被弾した!!」

『インデューク4より1、貴機の損害状況は!?』

「こちらインデューク1!!当機は敵の対空攻撃によりエンジンを損傷、帰還は困難!!よって緊急脱出する!!インデューク2、3、4は速やかにベトナム国境に帰還しろ!!」


ドルキィは僚機にそう告げる。すると、ついにコクピットからも出火し、次々と計器が破裂し始めた。


『インデューク2了解!!・・・インデューク1へ、どうか生きていてください・・・』


火のついた無線機からそのような声が聞こえたのを尻目にドルキィは火がついている落下傘を掴み、手で火を揉み消して落下傘のベルトを体に付けてTu-160の機首のドアから頭を下にして一気に飛び降りた。




2015年 9月9日 AM6:48 ロシア ウラジオストク港



朝日が層雲に覆い隠され、曙の陽光が僅かに雲からはみ出ている。


ロシア極東艦隊の本拠地であるウラジオストク港では、中国軍の大規模ミサイル基地「連弩」から発射された十八発のDF-21C弾道ミサイルが至るところで着弾し、湾岸施設や艦船から黒煙が立ち上っていた。


艦船たちはひたすらに逃げまとったのか、湾港の至るところで錨を揚げたまま停船している。

その中でも、特に異常な状態で着底している二隻の艦があった。


「全く・・・何したらこんなことになるんだ?」

「フリゲートの方は直せそうだが『ヴァリヤーグ』の方は無理そうだろうな・・・」

「もし俺ら三人でヴァリヤーグを直せたら一生手当てが貰えそうだな」


ウラジオストクの湾港内側では、スラヴァ級ミサイル巡洋艦『ヴァリヤーグ』が艦尾から黒煙を吐きながら着底し、その上にグリヴァク級ミサイルフリゲート艦が乗り上げていた。




タグボートの乗員たちが手すりに掴まりながら目の前の情景を眺めている。


DF-21がウラジオストクに落下するとき、十八発のうちの六発は「オースィニー・ルナー」が空中で撃墜したが、残りの十二発は無抵抗のウラシオストクに次々と着弾し、湾港設備の幾つかを破壊した。


「ヴァリヤーグ」もその一つだ。「ヴァリヤーグ」は退避中にDF-21を艦尾に喰らい、大破着底。そして、その「ヴァリヤーグ」の後部にグリヴァク級が橇のように乗り上げ、艦底を擦ったのみの損害で済んだが、スクリューを破壊されて航行不可となっている。


その他の損害は原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ラーザリェフ」が破片を受けて休憩室と居住区に大穴を穿たれ、ミサイル巡洋艦「グローム」が倒壊したクレーンに数枚のアクリルガラスとフェイズド・アレイ・レーダーの一つをやられ、グリヴァク級の一隻がDF-21Cの直撃を受けて艦体を真っ二つに切断されて沈没し、そして八隻のタグボートが使い物にならなくなったというものだ。現時点では極東艦隊の大規模な作戦行動は不可能となっている。





同時刻 中国雲南省 ミサイル基地「連弩」



まだ夜はあけていないが、僅かに陽光が空を黒に近い青色に染め、冬や春の星座が空を彩っていた。


一面に広がるジャングルの中ではロシア軍の空爆でミサイル基地「連弩」が壊滅し、火はほとんど鎮火されたものの未だに黒煙を吐きだしていた。


焼け野原と化した「連弩」では、副指揮官の孫鈍白が数名の部下と共に焦げ付いた瓦礫を掻き分けてさ迷い歩いていた。


あちこちから黒煙が上がり、まだ消えていない炎が猛々と燃え上がっている。焼きつくされて炭化したトラックや焼死体が辺り一面に転がり、とてつもない腐敗臭が「連弩」中に充満していた。


「くそっ・・・」


切断された左腕が痛む。包帯を巻いてはいるが、血が滲み出てくる。右手には数時間前から95式小銃が握りしめられている。制服を煤と焦げで黒く染め、乞食のように歩く鈍白一行は、ふと五百メートル先に巨大な尾翼を見た。


よろよろと残骸に近寄ってみると、地面に突き刺さるように墜落したその残骸は数時間前に「連弩」を爆撃したロシアのTu-160爆撃機であった。


多数の穴が穿たれていて、対空機関砲で撃墜されたことを如実に表していた。四基あるエンジンはひしゃげた上に焼け焦げていて、回収したとしても調査は不可能だろう。


「あんな状況でロシアの爆撃機を撃墜するとは・・・対空部隊の鑑ですね」

「ああ・・・本当に凄いな・・・」

「畜生!!ロシアめ・・・!!絶対ぶち殺してやる!!!」

「こいつは俺の親友を目の前で焼き殺しやがったんだ!!」

「報いを受けろ!!畜生!!」


部下たちも怒りを露にし、Tu-160の残骸を蹴り始めたり、落ちていた鉄パイプで叩き潰し始める。中には、涙を流す者も出始めた。


そんな中、鈍白はパラシュートを付けて木に引っ掛かっている一人のロシア人パイロットを見つけた。


「おい!!あそこにロシア野郎がいるぞ!!!」

「えっ!!?」

「本当だ!!畜生!!」


部下たちも気付いて彼の方に走り出す。ロシア人パイロットは気を失っているというより熟睡しているようで、若干にやけながら木に引っ掛かっていた。


「ふざけやがって」


鈍白はロシア人パイロットに腹を立てた。我々を、我々の仲間を残酷に焼き殺したというのに無意識にとはいえこのような態度をとるというのはどうも許しがたい。死に値する報いを受けてもらわねば腹の虫が収まらない。


「そいつを木から引きずり降ろせ。そしてそこに寝かせろ」

「了解です!!」


鈍白が部下にそう命令すると、二人の兵士が小銃片手にパイロットの落下傘の帯を銃剣で断ち切り、声を上げて飛び起きたパイロットの両膝を拳銃で撃ち抜いた。


そして部下がパイロットの足を払って地面に叩きつける。そして悶えるパイロットの顔を持ち上げ、鈍白は邪悪な笑みを浮かべた。


「さて・・・どうしてやるか・・・・・・」


パイロットの目から希望の光が消えた。








2015年 9月10日 AM12:31 ロシア モスクワ クレムリン大宮殿 大統領官邸


「大統領、失礼致します」

「何だ」


ロシアのラスプーチン大統領の執務室に封筒を持った二人の補佐官が入室してくると、大統領であるラスプーチンは予算の書類にサインしている手を置いて補佐官の方を見た。


「大統領。『臨照の彗星作戦』は無事成功し、中国のミサイル攻撃力に大きな風穴を空けることができました」

「おお、そうか。参加した部隊はよくやってくれたな」


ラスプーチンは少し微笑んで功績を称えた。だが、二人の補佐官はなにやら浮かない表情を浮かべている。


「ええ。ですが、作戦遂行中にTu-95とTu-160が一機ずつ撃墜され、さらに・・・爆撃寸前の中国のミサイル基地から発射された十八発のミサイルの内十二発がウラジオストク港に着弾し、『ヴァリヤーグ』が大破着底、『アドミラル・ラーザリェフ』と『グローム』が小破、フリゲート一隻とその他八隻が沈没し、実質的に大規模な作戦行動が不可能となってしまいました」「そうか・・・・・・」


ラスプーチンの顔も掌をかえすように暗い表情へと変わる。そして、追い討ちを掛けるように補佐官が大きな封筒を差し出した。


「大統領。これを。爆弾処理班が検査済です」

「身元不明の中国国籍の人物から大統領宛に・・・ですね・・・」

「そ、それと・・・嫌がらせでしょうか、開けたときに三匹のムカデが飛び出してきました。その他の異常はありません」


ラスプーチンは封筒を確かめてみる。何回も念入りに検査されたようで、封は両側にきられている。中には一枚のコピー紙が入っていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


コピー紙には二枚の写真が印刷されていて、さらにキリル文字がペンで書かれていた。ラスプーチンはコピー紙を取り出して写真を見る。


ラスプーチンは顔をしかめ、同時に怒り狂った表情になった。


二枚の写真の内一枚はロシア人のパイロットが鉄の棒に左手と胴体を拘束され、さらに右腕を切断されて両目を抉られ、腸を引きずり出されている写真であった。さらに二枚目には切断した腕を銃剣で削ぎ、肉を串に刺して焼いている写真であった。さらに、片言のようなロシア語で「こいつは死んだ。ざまあみろラスプーチン」と書かれていた。




「大統領・・・・・・」

「くそ・・・中国め・・・・・・この写真を今日の夕刊のトップに掲載するよう伝えろ」

「りょ、了解です」

「中国への怒りの感情を市民に持たせるんだ・・・中国は悪の枢軸だとな」






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