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中露戦争  作者: 集束サイダー
泥沼戦線
23/55

元山夜戦

人民連邦 元山市 AM1:14


夜も深くなった元山市では、未だに中国軍とロシア軍、さらにこの両者を押しとどめようとする人民連邦軍との激しい戦闘が行われている。


夜だと言うのに海では空母が忙しく艦載機を離発着させ、空では大量の航空機やヘリが飛び交い、陸では歩兵や戦車が進撃と撤退を何度も繰り返している状況だ。


そんな元山市の一角では、人民連邦軍所属の得閑名率いる歩兵小隊(だが熾烈な攻撃で数を極端に減らされてしまった)が作戦行動をとっていた。


彼らは同じ人民連邦軍の防御陣地へと向かっている。中国軍とロシア軍の挟撃によって人民連邦軍の部隊は完全に散り散りになってしまっているのだ。


閑名たちは粗末な一階建ての建物の中に侵入し、中に敵が居ないか確認する。どうやらこの建物に敵は居ないようだ。


外に出た閑名は近距離で轟いた銃声に反応してK3を構える。閑名達を狙っている訳ではなさそうだ。七メートル向こうに閑名たちとは違う色合いの迷彩を着た兵士たちが暗闇に煌めく無数の発砲炎に向けてブルハップ式のライフルを撃ち込んでいる。


「奴等中国軍ですよ」

「間違いないな。あれは95式小銃だろう・・・うおっ!!」

「あぶねえっ!!」


部下の一人が閑名に小声で話しかけていると、閑名達の周りに数十発の五.五四ミリ弾が着弾する。無論向こうからも弾が飛来してくるので、閑名たちもただ立ってはいられない。中国兵の一人が顎に弾を受けてのけぞり、固い土にヘルメットを打ち付けて絶命した。


「気付かれないように奴等の横にまわるぞ。奴等を始末する」


閑名たちは一列横隊に並んでいる中国兵の横につき、銃を構えた。中国兵の一人が89式ロケットランチャーを持って物陰に隠れ、発射の隙を伺おうとする。ふと、その中国兵が閑名たちに気づき、叫び声を上げた。


すかさず閑名たちはK3やK2を中国兵に向けて乱射し、多数の穴を穿たれた中国兵たちは全身から血を流して次々と地面に倒れこんだ。


それに呼応するように向こう側の射撃も止まる。だが、警戒はしているだろう。なにしろ三つ巴の戦争だ。「敵の敵は味方」という戦闘概念は通用しない。


正体不明の相手に対して閑名たちも銃を構える。足音がすることから、相手はこちらに近づいているようだ。もしかしたらロシア軍かもしれないし、友軍であるかもしれない。閑名は相手の正体を確認するために照明手榴弾のピンを外し、レバーと共に目の前の地面へと放り投げた。


照明手榴弾のまばゆい光が暗闇をかきけし、光に照らされて相手の詳細な情報が一瞬で分かるようになった。


明らかに閑名たちの小銃とは違う形のAKアサルトライフルを持ち、市街地迷彩の戦闘服の上にGrad-2アサルトベストを装備し、6B7防弾ヘルメットを着用している。誰の目にも彼らがロシア兵であることは一目瞭然であった。


「やはりロシアだ、撃て!!」

『くそっ!!朝鮮軍か!?』

『ああ畜生畜生畜生っ!!!』

『うわああああっ!!!!!』


ロシア兵たちは混乱して銃を発砲するが、紙一重の差で閑名たちのほうが速く引き金を引いていた。

K3機関銃の銃身から猛々しく五.五六ミリ×四五NATO弾が撃ちだされ、ホログラフイックサイトとフォアグリップがレイルを介して据え付けられている最新鋭のAK-12アサルトライフルを持って先頭で指揮を執っていたロシア兵の体を残酷にぶち抜き、ものの一瞬で彼を「生きている物」というカテゴリーから蹴り落とした。


「あっ!!ジャムりやがった!!」


K2ライフルを撃っていた部下の一人が突如発生した給弾不良(ジャム)に毒付く。ありとあらゆる要素が完璧な人間がいないように、やはりどんな銃であっても給弾不良を起こしてしまうものなのだ。


『この野郎、死んじまえよ!!』

「ちくしょう、動け!!この糞ライフルが!!うご・・・ぐあああっ」


そんな彼に対して微笑みを浮かべたロシア兵がAK-74を撃ち込み、彼を穴だらけにして殺害する。するとそのロシア兵も閑名にK3を撃たれて勢いよくのけぞって倒れた。


閑名はK3を腰だめで撃ち続けていたのだが、突然K3から物凄い音がして銃身が異常な方向に曲がった。


しかしあまりにも出し抜けに発生したので閑名は引き金を引く指を止めることができずに銃身の曲がったK3をさらに発砲してしまう。


ただでさえ曲がって塞き止められた銃身に機関銃弾が殺到し、ナイフを折ったような音がしてK3の銃身が根本から折れて宙を舞った。

そもそもK3機関銃の材質が悪くて銃身の寿命が極端に短かったのが原因だ。自衛隊の64式小銃は五十年以上使い続けられているが、その肉厚な銃身は未だに寿命の尽きと言うものを知らない。


「あああくそっ!!」


閑名はそう毒付いてただの鉄の塊とかしたK3を地面に投げ捨て、ホルスターからベレッタM84拳銃を取り出す。


そしてベレッタをAK-74を構えていたロシア兵に向けて引き金を引こうとした瞬間にロシア兵が頭部に複数の銃弾を受け、彼は血塗れの顔を両手で押さえながら地面に倒れこんだ。


「奴らの全滅を確認!!」

「やりましたね!!」

「っ、たっ、隊長!!あれを見てください!!」


沸き立つ閑名に対して部下が驚きの表情を浮かべて叫び、北の方角に位置する山の中腹を指差す。

そこでは、中国軍の03式三百ミリ十二連装ロケット発射機が数両、元山市に向けて三百ミリロケット弾を発射していた。


「ま・・・MLRS(マールス)・・・こっちに・・・」

「に、逃げろ逃げろ逃げろ!!!!」


まだ光をばらまいている照明手榴弾を物影に投げ込み、閑名たちはロケット弾から逃げるためにすかさず走り出す。中国軍の03式ロケット車両は早急にロシア軍のSu-32が投下した大型爆弾を喰らって消しとんだが、まだ発射されたロケット弾は元山市に向かって飛翔している。


そしてロケット弾たちは元山市の至るところに着弾し、黒い爆発煙を上方に吹き上げながら炸裂して地上にいた人間や車両を爆砕する。


「うわああああああああ!!」


一心不乱に逃げ待とう閑名たちがさっきまで居た通りにもロケット弾の一発が着弾して大爆発を起こし、ロシア軍の砲撃で横転した人民連邦軍のKN-01に搭載されていたSS-N-2が誘爆。


「すげえ!!なんてこった!!!」


物凄い爆発と共に噴き上がった二十メートルほどの火柱が夜空を明るく照らし、閑名たちが通り抜けた建物が容易に粉砕された。


メインウェポンを失った閑名はロシア兵が所持していたAK-12を拾い上げ、ロシア兵の死体からマガジンポーチも奪いとる。AK-12には赤い光点が投影されたホログラフィックサイトとフォアグリップが装備されていた。銃に取り付けるオプションパーツは銃本体の値段より高いこともあり、それほどでなくとも尋常ではない価格の物が大半を占めている。予算不足でそのような物を買えない閑名たちにとってオプションパーツは雲の上の存在ともいえた。


「お、俺も変えようかな」

「まあ部隊に戻ったときは全員ぶっ壊れたっていえばいいですし」


閑名の部下たちも先程のジャムを思いだし、閑名に触発されたようにAKを拾いはじめて入れ替わるようにK2を地面に置いた。


すると突然左翼から火を噴いた中国軍のY-20輸送機が上空を通りすぎたと思うと、夜空に大量の白い落下傘が開いた。


「まずい!!空挺部隊だ!!」

「隊長!!東方からロシアの戦車が!!」

「何・・・っ!!眩しいっ・・・!!!」


閑名たちの上空から中国軍最強とうたわれる空挺部隊、第15空挺軍が電撃降下し、それと同時にロシア軍のT-80U高速戦車が大型のライトを点灯させながら木製の柵を突き破って現れる。空挺部隊と戦車の同時侵攻に戦慄し、数秒ほど思考が停止していた閑名は信じられない光景を目の前に見せ付けられてあっと目を見開いた。


突如T-80Uの上面装甲にRPG-7の成形炸薬弾が突き刺さり、T-80Uは車内から紅蓮の炎を天へと噴き上げて爆発した。本能的に閑名たちは発射地点へと視線を動かす。すると、落下傘をつけて降下しながら空挺部隊用に二分割できるように改造されたRPG-7DをT-80Uに向けて構えている空挺兵が目に入った。


「に、逃げるぞ!!!」

「えっ・・・逃げるのですか!?」

「いいから速く逃げるぞ!!ついてこい!!」


閑名の頭の中は「逃走しなければ命が危ない」という本能に支配されていた。そもそもが異常過ぎる。あの中国兵はただでさえ揺れる落下傘にぶら下がりながら後方噴射が大きく弾道が風任せになってしまうRPG-7を空中から発射して戦車に命中させたのだ。まず一般の兵士に出来ることではない。もはや神業ともいえる技量だった。


閑名たちはすかさず走り出す。そんな閑名たちの背中に向けて空挺隊員が95式小銃を射撃し、閑名の部下が後頭部を五.七ミリ弾に貫かれて崩れ落ちる。


急いで隣の建物に侵入し、椅子と机があるだけの殺風景なリビングをアサルトブーツのままで駆け抜けて窓ガラスを体当たりで突き破った。


ガラスの雨をつき抜け、恐らく誰も入居していないと思われるアパート群が林立している路上に出て二メートル程下に溜池がある通路の縁を走る。すると、閑名の進路を塞ぐように空挺隊員が95式小銃を乱射しながら舞い降り、彼らと連動するように中国軍の96式戦車も主砲をアパートの機関銃陣地に向けて放ちながら現れた。


「戦車だっ!!!」


空中で人民連邦軍の兵士を射殺し、着地後に落下傘の紐を外そうとした中国兵をAK-12で射殺した閑名は叫ぶ。ふと、スティンガーを構えている部下が目に入った。


「仲輩、敵のヘリがいたか!?」

「十二時方向にいます!!機種不明!!」

「よし!!発見次第発射しろ!!」


閑名はそういって近寄ってくる歩兵にAK-12を撃ち始める。96式戦車がアパートの三階に榴弾を撃ち込み、アパートの上面を爆散させた。


破片を体に受けて体を縮こまらせている閑名たちの正面から一発の対戦車ミサイルが飛来し、後ろにいた中国軍の96式戦車が上面装甲を削りとられて爆発した。そして、ロシア軍のMi-24戦闘ヘリコプターが現れ、人民連邦軍が潜んでいるアパートにロケット弾を発射する。


こっぱみじんに砕け散るアパートを尻目にMi-24が中国軍の部隊に三十ミリ機関砲を撃ち始めた。すると突然、横から伸びた火線がMi-24をなめ回し、Mi-24は火を噴き始め、その巨大な機体を地面へと落としはじめていった。


驚く閑名たちの横を猛烈な勢いで通り抜けたのは、中国軍の地上攻撃機であるJH-7「フライングレオパルド」だった。JH-7は左旋回し、再び閑名たちのいる通りに機首を向けた。それに対して仲輩が脅威を排除せんとJH-7にスティンガーを向ける。


「JH-7をロックオンしました!!撃ちます!!」


仲輩が肩に担いだスティンガーをJH-7に向けて発射し、燃料に点火して一気に飛び上がったスティンガーはJH-7の左空気取り入れ口付近に命中し、JH-7が黒煙を吐いた。ほぼ同時にMi-24も側の溜池に墜落する。


「やったぞ!!」

「中国軍め、思い知ったか!!」


喜びに沸く閑名たちに向けて後続のMi-24が機首に据え付けられた三十ミリ連装機関砲とスタブウィングに吊下されたロケット弾を路上をなぎ払うようにして発射。



「撃ってきたぞ!!逃げ・・・・・・!!!」


閑名の声を遮るように無誘導ロケット弾が路上で爆発音を響かせ、アスファルトが砕かれて舞い上がる。気付くと、閑名たちはガードレールを乗り越えて溜池に向かって落下していた。閑名たちを攻撃したMi-24がどこからか放たれたHQ-7地対空ミサイルを喰らって爆散する。

濁っているために底が見えない水面に叩き付けられ、閑名の意識は瞬時に飛んでしまった。






ふと、閑名は目覚める。ゴーグルに水草が付着していて辺りが見えないが、体が水に浸かっていることは確かだろう。


ゆっくりと起き上がり、刮目(かつもく)して辺りを見回そうとすると、銃口が目と鼻の先にある。先程撃墜したJH-7の搭乗員らしき男が閑名が使っていたAK-12を閑名に向けて構えていたのだった。

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