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中露戦争  作者: 集束サイダー
泥沼戦線
22/55

三ツ巴の朝鮮半島

2015年 9月7日 PM18:32 人民連邦 元山市東方五十キロ


人民連邦の北半分側に位置する港町である元山市の五十キロ沖では、ロシア海軍の最新鋭空母「ノボシビルスク」に「アドミラル・クズネツォフ」やフランス軍から輸入したミストラル級揚陸艦「ヤクーツク」が次々と艦載機を発艦させている。


太陽が西の空に姿を隠す刻となり、大気による屈折で赤色に染められた太陽が幻想的な光を辺りに撒き散らしている。


こないだの人民連邦設立と同時に邪魔立てするなと言わんばかりに中国とロシアが人民連邦に宣戦布告し、両国が人民連邦を挟み込むように上陸作戦を開始したのだ。


既に中国軍は人民連邦北部の五分の四にまで進撃している。だが、人民連邦軍の頑強な抵抗によって互いに衝突し、北部の至るところで激しい戦闘が行われている。


そんな人民連邦の沖合いに浮かぶ「ノボシビルスク」艦上には、鶴のような美しいボディを持つSu-27の艦上戦闘機版であるSu-33やその攻撃機版のSu-32が甲板を埋め尽くすように乗せられ、乗員や艦載機の搭乗員が右往左往していた。


『シビアーナ1、2、3、4が発艦する。デフレクター上げろ!!』

『デフレクター準備完了!!』

『シビアーナ1、2、直ちに最大出力で発艦開始!!』


Su-33が二機、エンジンから紫色の炎を吐きながらスキージャンプ甲板を乗り上げて空中へ踊り出ていった。


『続けてシビアーナ3、4も発艦せよ』


そしてもう二機のSu-33が空へ飛び上がり、甲板作業員たちが次の機体を誘導し始めた。


そのすぐ横にはキーロフ級ミサイル巡洋艦「アドミラル・ラーザリェフ」が「ノボシビルスク」にまるで老いた母親と買い物にいく娘のようにぴったりと付き添っている。


そんな「アドミラル・ラーザリェフ」艦内のCICに立つ艦長のマルクス・ギリバエフは、ひたすらにレーダー画面を見続けていた。


ふと、レーダーに敵機が映る。人民連邦側から飛来してくるようだ。距離は約百二十キロで機数は四機。肉眼で確認できないので中国軍か人民連邦軍かはわからない。


「レーダーに敵性航空機四機確認!!内二機は大型機です!!」

「キンジャール用意!!射程に入ったらすぐに発射しろ!!」

「前方の大型機から飛翔体が八発発射されました!!対艦ミサイルである可能性大!!」

「あっ!!後方の小型機からミサイル発射・・・前方の大型機に命中したようです!!」

「何!?まさか後方の小型機は友軍機だろうか・・・?」

「レーダーから大型機が消滅!!撃墜したと思われます!!」

「『ウリヤノフスク』『アドミラル・クズネツォフ』共に小型機と通信不可、とのことです」

「『オースィニー・ルナー』より八発のS-300Fが発射されたのを確認しました!」


前方を航行している「オースィニー・ルナー」のVLSから八発のS-300F艦隊防空用対空ミサイルが撃ち出され、白煙を吐き出し続けるミサイルは向きを九十度変更し、前方へと飛翔していった。


「・・・・・・敵ミサイルとS-300の接触を確認。うち六発の迎撃に成功しました!!」

「喜べんな。まだ撃ち漏らした二発のミサイルと国籍不明機が残っている」


ミサイルと不明機は着々と艦隊に近づいてくる。


「ここまで応答が無いのなら不明機は敵も同然だ!『ミサイル及び国籍不明機を如何なる手段を持ってしても撃墜すべし』と全艦に伝達しろ!!」


ふと、通信席の部下がマルクスの方に振り返る。


「地上部隊より火力支援要請!!元山市に位置する人民連邦軍の防御陣地へ火力を投射しろとのことです!!」

「火力支援か?対地兵装は砲のみしかないが・・・まあいい。面舵九十度!!AK-130百三十ミリ砲を用いて本艦のみで火力支援を行う!!」

「了解!目標との距離五十二キロ!本艦の完全射程内です!!」

「友軍機により残りのミサイル二発及び不明機、迎撃完了しました!!」


「アドミラル・ラーザリェフ」が右に回頭し、その巨大な艦体をいっぱいにさらけだした。


そして後部に背負い式で二基備え付けられているAK-130百三十ミリ連装速射砲がモーターを唸らせつつ元山市の方向を向く。


基本的にAK-130の射程は約三十キロなのだが、新たに開発したロケット推進砲弾を用いることで七十キロにも射程を延ばすことが可能になっている。


「艦長、AK-130発射準備完了です!!」

「よし・・・各自、撃ち方始め!!」


マルクスがそう叫ぶと、「アドミラル・ラーザリェフ」の後部から世界最強の艦載砲の名に恥じぬ大きさの爆炎と共に百三十ミリ砲弾が発射され、猛烈な勢いで元山市に吸い込まれていった。




同時刻 人民連邦 元山市街地


「まずいぞ!!ロシアが艦砲を撃ちやがった!!」

「ふっ、伏せろ、降ってくるぞーーー!!」

「ひいぃぃぃ!!!」


ロシア海軍の原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ラーザリェフ」から発射された百三十ミリ砲弾が人民連邦軍の陣地に雨のように降り注ぎ、激しい爆発がありとあらゆるものを爆砕するかのように地面を揺らした。


兵士たちが粘土のように高温で体を鍛造されて異常な形となって吹き飛び、路上に並んでいた人民連邦軍のKN-01地対艦ミサイルが爆風によって破壊され、建物の壁を突き破って横転する。


「畜生、地対艦ミサイルがやられた」

「大丈夫か!?負傷者が居たら声を上げろ!!」


一通りの艦砲射撃が過ぎ去ったあと、瓦礫の中で人民連邦軍所属の歩兵小隊長である得閑名がK3汎用機関銃を構えつつ声を張り上げる。


「隊長!!部隊のうち死亡八名、重傷十一名、軽傷二名です!!」


部下の一人が閑名の問いに答える。彼らは以前韓国軍に配備されていた部隊で、今回は元北朝鮮軍に所属していた地対艦ミサイル部隊の護衛に当たっていたのだ。


「そうか・・・部隊の残りは重傷含めて十九人だな・・・ロシアが艦砲射撃をしてくるとは想定外だった」

「北朝・・・いえ、北側の友軍兵士の生存者は見当たりません。先程の艦砲射撃で全滅したと思われます」


状況報告をする部下が突然空を見上げると、耳をつんざく轟音を轟かせつつ中国軍のJ-8とそれを追いかける二機のSu-33、さらにそのSu-33に迫るJ-11が上空を飛び抜けていった。


「分かった。上を見ても解るようにロシア軍と中国軍が我々の所に進撃しつつある。我々は何としてもここを守らねばならない。分かるな」

「わかりました。ですが、重傷を負った兵士はいかがなさいますか」


スティンガーを背負った部下の一人が閑名に聞くと、閑名は暗い表情になって呟いた。


「残念ながら・・・彼らは出血多量の上に手足が切断された状態だ。今ここで治療出来るわけではない。もし治療出来ても一生不自由な生活を送る羽目になる・・・だから・・・楽にしてやるしかないな」

「楽にしてやるって・・・殺すのですか!?」

「その通りだ」


閑名の言葉を聞き、全員の顔が瞬時に青ざめ、部下たちは本能的に重傷者達が転がっている方向に首を向けた。


すると、そこに広がっていたのは地獄の光景。爆風の強大な力によって手足を引きちぎられた者たちが言葉ではない呻き声を上げながら血塗れで地面に倒れている。


「命令だ。早く楽にしてやれ。お前らが出来ないのなら俺がやる」


閑名はそういってK3を構える。一見冷酷に見えるが、閑名も断腸の思いなのだ。世界のどこに部下を好き好んで殺害する隊長がいるものか。


閑名は両手をもぎ取られて悶絶している味方兵士の頭にK3を向ける。味方兵士がそれに気付き、必死に顔をおおい隠そうとするが両手がちぎれているためそれも出来ない。閑名はそのまま一発発砲し、彼を殺害した。


そして閑名は素早く二人目、三人目の兵士を銃殺した。すると、閑名に続くように部下たちもM16やK2アサルトライフルを構え、重傷を負った友軍兵士を撃ち殺し始める。荒野の岩肌の様に乾いた銃声が響き、銃声の数だけ命が消えていく。


そして銃声が止むと、肉の塊と化した死体の山と、その回りに呆然と立ち尽くしている閑名達の姿だけがあった。


「・・・・・・」

「うっ、うおええええっ」


あまりに凄惨な光景と臭いに嘔吐する部下も出始めた。閑名も死体の血生臭い悪臭に耐えかねて口を手で覆っている。


「隊長・・・こんなことをして良かったのですか?」


嘔吐したあとにひきつった顔で口を拭いていた部下の一人が閑名に異議を交えたような質問をする。


「・・・ああ。我々は正しいことをしたんだよ。あのまま奴らをほっといていたら奴らは苦しんで死ぬことになっていたんだ」

「・・・はい」

「さあ、長居は無用だ。俺についてこい。いいな」


閑名はそういってK3を構え、破壊された建物の内部に侵入した。KN-01地対艦ミサイルシステムが骨董品のようなSS-N-2「スティックス」対艦ミサイルを上に乗せたまま建屋内に転がり、衝撃でひびが入っている壁に張り付いて外を見ると、燃え盛るKN-01と味方の死体のみが悲しく散乱している光景が広がる。やはりこれまで憎まれないような接し方をしてきただけあって五人の部下たちは反抗せずに追従してきた。ふと、エンジン音が遠距離から轟く。いや、エンジン音ならそこらじゅうで響いているのだが、そのエンジン音だけは別格だ。明らかにここに向けて近付いてきている。


「ここに留まれ。敵部隊接近。恐らくは兵員を伴ったロシアのBTR-80系の装輪装甲車だろう」

「これを使う必要はありますか?」


部下の一人がM72LAWロケット発射器を構えながら閑名に問う。すると、建物の影から歩兵を伴ったBTR-80が現れた。


「ああ、BTRにぶちこんでやれ」

「了解!!」


それを見た閑名がそう答えると、部下がM72の安全ピンを外して後部のチューブを引き伸ばし、発射準備を完了させる。M72は射手の安全のために十メートル飛翔した後に信管が作動するようになるので、至近距離では使用不可だ。


「いいか、まず炉革がM72でBTRを吹っ飛ばす。そしたら我々が随伴歩兵を排除する。そういう手筈で行うぞ。分かったな」

「了解!!」

「了解です!!」


部下の威勢のいい返事を聞いた閑名は壁から少し顔を出し、BTRの様子を伺う。距離は五十メートル程で、随伴歩兵はまだ閑名達に気付いていない。


BTRはだんだんと近づき、随伴歩兵が死体の山に気づいて驚く。


随伴歩兵たちは恐る恐る死体に近づき、死体達を取り囲んで何かを話している。


「よし今だ。撃て!!」


閑名はそういい、K3を構える。そしてそれと同時に部下が壁からBTRに向けてM72を放ち、ロケット推進で飛翔する六十六ミリ成形炸薬弾はBTRのゴムタイヤをいとも容易く貫き、成形されて指向性を持った爆風をBTRの車体に突き刺した。


「撃て!!」


爆発するBTRと閑名たちに驚いたロシア兵たちに閑名たちの部下が銃弾を浴びせかけ、完全に虚をつかれたロシア兵たちは銃撃を受けて血を噴きながら崩れ落ちる。


ロシア兵たちがなすすべなく血の海に倒れ伏し、閑名たち以外に動くものがなくなるとようやく閑名たちの銃撃も止まった。


「やったぞ!!」


そういった閑名はK3をゆっくりと降ろし、空を見上げた。夜のとばりが降りた空には、人民連邦の機体は無く、中国軍とロシア軍の航空機のみが上空を飛行している。


「・・・元山市、ここを守らなくては・・・」


彼はそう呟くと、元山市を守るため、部下を引き連れて次の戦場へと再び走り出していった。




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