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中露戦争  作者: 集束サイダー
泥沼戦線
14/55

人民連邦

 かなり投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。新たな短編と

8月28日 朝鮮半島 江原地区 春川市


春川市のスタジアムには、歴史的な瞬間を一目見ようと多くの人間が集まり、その数は二十万人を下らずにスタジアムの外にまで人が押し寄せている。


理由はただひとつ。国というカテゴリーから外れたこの朝鮮半島を統一する新国家を建設するという重大発表があったためだ。


周りには軍の車両や兵士がひたすら交通規制を行っている。スタジアム内部には、韓国のK1A1やK2戦車が飾りつけられ、中心にある演説台の周りには何十人もの兵士が警備をし、席には高官達が直立不動で立っている。

やはり人はほかの人間と話す習性があるので、無駄話をする見物人の声が辺りを埋め尽くしていた。


ふと、

「人民の皆、静粛に!!」

と言う声が聞こえたかと思うと、ついさっきまでの騒々しさが嘘のように静まりかえった。そして、スタジアムに一両のK2戦車が進入してくる。K2は演説台の裏で一旦停車すると、再び動きだし、他の飾られている戦車の中に加わった。


そして、演説台のエレベーターが上昇し、多数のマイクが置かれた台の目の前に指導者と思われる人物があらわれた。


『さて、諸君。私の事は既にご存じだろうが改めて自己紹介をさせてもらおう。私の名前は安今龍。この半島で皆の上に立たせてもらった者だ。』


『私は中国共産党の卑劣なる攻撃により荒廃を極めたこの国の状況を憂慮し、長らく対立を深めていた北朝鮮と合併し、統一された国家を建設することを強く望んだ。幸い北の同志たちは私の願いを真摯に受け止め、統一を支持してくれた。』


安今龍の言葉に北朝鮮の高官が顔を赤くする。


『そして遂に、遂に我々が望んできた統一された半島が建設される時が来た!!アジアの希望となる国家[人民連邦]の設立を今ここに宣言する!!!!』


安今龍が高らかに新国家の設立を宣言すると、周りの人間たちが一斉に歓声を上げた。上空には、展示飛行であろうF-15Kが八機、スタジアムの上空を飛び抜けていった。


『人民たちよ!!これからの半島は永久に統一され、この人民連邦を止められる国は何処にも居ないだろう!!』


『中国共産党の虫けらどもは我が国は既に消滅したと言う根も葉も無い嘘八百を並べているようだ。だが、我らの統一された革命軍がすぐさま奴等を打ち砕く!』


『今現在も、我が人民連邦軍の勇敢な戦士たちが米帝を駆逐せんと進撃を続けている。』


『まさしく、我らは衆愚(しゅうぐ)の集合体である米帝やロシアのような屑国家や怯懦(きょうだ)な日帝、台湾のような小賢しい小国に正義の鉄槌を降り下ろし、その全てを駆逐することを人民諸君に誓う!!!』


再び群衆が沸き立つ。


『さあ、私を支えてくれると誓う者は私と共に叫ぼう!!』


『人民万歳!!!』

「人民万歳!!!人民万歳!!!人民万歳!!!人民万歳!!!・・・」


二十万もの人間が彼の演説に熱狂し、一斉に万歳を唱える。その観声の大きさは実に四万デシベルにもおよび、春川市のみならず、北朝鮮にも万歳の声が轟いたと言う。



人民連邦領土内 ソウル


ソウル郊外の焼けただれた住宅地の中では、一人の少女が虚ろな目でたたずんでいた。


あのときの爆発から何日も立つが、家族を全て失い、燃え盛る焔に体を舐め回された挙句に瓦礫に左手をもぎ取られた少女は何も考えることができずにただただその場所にいた。


時おり軍隊の車両が焼け跡をすり抜けて通りすぎるが、彼女には気づきもせずに走り抜けていく。


ふと、大遠距離から声が聞こえてくる。


声を聞いた少女は何とか立ち上がり、いまだに埋火が燻っている柱に手をかけて上に上がった。


虚ろな眼差しで東の方角を向く。本当に微かだが・・・声が、歓声が聞こえる。


「・・・・・・声・・・?」


歓声は留まる事を知らず、ますます大きくなる。

「人民・・・万歳?」


少女は呆然とする。後方に位置しているソウル中心部のビルの一つが負荷と損傷による劣化に耐えられずに崩壊していった。


「人民万歳って・・・私達がこんなに苦しんでいるのに万歳って・・・どういうことだろ・・・?」


少女は呟くようにそう言う。十二秒程たったとき、突然少女は思い付いたように微笑み、焼かれて炭化している右目に触れた。炭がゆっくり滞空しながら落ちる。


「・・・あはっ、人民万歳って・・・あははははは・・・ああ可笑しい、万歳って」


少女は力なく笑い始める。もう、この状況が理解できなくなり、笑ってでもいないと意識、いや魂まで持っていかれそうになる。


「あはは・・・あぁ」


そのまま少女は仰向けに埋火の中に倒れこみ、二度と動くことはなかった。



日本 北海道 札幌市 西区 


「いやー、Su-33もなかなか格好いいよな。あのカナードがなんかエロボディに不格好なのがいいしな」

「いや、でもあのゲームでは通常ミサイル一発で墜ちる雑魚だぞ」

「いや、それはそうだけど、1:72スケールでもかなりでかいし」

「きっと擬人化したら・・・」


札幌のとある住宅の一室では、学生くらいの年の人間が二人、ソファーの上で他愛のない話をしていた。一人は上半身裸のニキビ面、一人はメガネをかけ、少し腹が出ている。二人して女の子には全くもてない風貌であった。


「じゃあ、地球防衛するゲームで同士討ちでもするか」

「すなわち対戦だな」

「よし、じゃあディスクば入れるぞ」

「ん?おいちょっと待て。テレビ見てみろ」


メガネがニキビに言う。

「え?」


彼らの三.五メートル前にあるテレビでは、番組を放映しつつその上部には字幕が写し出されていた。


<ニュース速報>


<朝鮮半島で新国家『人民連邦』設立を宣言>


<ニュース速報 終>


「・・・ええ!?新国家って、まだ朝鮮人が生きてたのか!?」

「そりゃ生きてるだろ。いくらなんでも報道だけで偏見を決めつけんなよ」

「人民連邦だって・・・またまた。どうせすぐ自壊するだろ」


瞬間、テレビの番組が見慣れたニュースキャスターに切り替わる。


『えー、臨時ニュースをお伝えします。先程字幕でもお伝えいたしましたが、午後三時四十分頃に朝鮮半島にて新国家[人民連邦]の設立が宣言されました。繰り返します。朝鮮半島にて新国家[人民連邦]の設立が宣言されました。人民連邦は現在、北朝鮮と韓国を統一した国家であり、アジアに平和をもたらす国家だという声明を発表しております。』


『はい。えー、今入った情報です。先程、中華人民共和国及びロシア連邦政府は、人民連邦に宣戦布告を宣言しました。繰り返します・・・』


「状況が混迷を極めているな」

「確かに。共産帝国とロスケが同時に宣戦布告って、あいつら妙なとこで同調するよな」


彼らは、あくまでものんきにテレビ画面を凝視していた。



アメリカ ホワイトハウス


「大統領!!朝鮮半島で人民連邦なる国家が設立されたとの事です!!」


首席補佐官が大統領執務室に急ぎ足で入室してくる。


「それと、人民連邦の指導者は人望があり、瞬く間に半島を統一したと」


「何!?朝鮮半島は両国とも核攻撃で政府機能が著しく欠損した失敗国家と化している筈だ。どこからそんな指導者が輩出されたのだ?」


笑顔を見せるとハの字のシワが眩しい黒人アメリカ大統領が驚愕しつつ問う。


「それと、人民連邦に対して中国、ロシア両国が宣戦布告を宣言したとのことです」


「うむ・・・ならば人民連邦とやらはすぐさま中国とロシアに押し潰されるだろう。心配いらん」


大統領は余裕の表情に戻る。だが、それに対して首席補佐官が深刻な表情で叫ぶ。


「ですが大統領!釜山にいる我が軍のイージスが三隻、人民連邦軍の地上部隊に占拠されたという情報が入っています!!」


「なんだって!イージスが!?」


「ええ、その通りです!!現在第7艦隊所属のイージス駆逐艦『マスティン』及び『カーチス・ウィルバー』イージス巡洋艦『カウペンス』が人民連邦軍の部隊に完全占拠されているとのことです!」


「うううむ・・・」


「我が軍のSPY-1を含むイージスシステムのような高性能機器を盗もうと中国、ロシアなどが垂涎(すいぜん)しながら我々の隙を探っています。仮に人民連邦が中国或いはロシアに占領されたときにイージスは真っ先に狙われるでしょう。当然中国やロシアはイージスを撃沈したりはしません。イージスを奪取するはずです。さすればイージスシステムは世界にばらまかれ、我々のイージスシステムの戦略的な価値は完全に消滅してしまう恐れがあるのです。」


「ならば、我々の手で破壊するか・・・」


「いえ、いっそのこと奪還してしまうことを推奨します。中露のみならず、イージスシステムかそれと同等の性能のレーダーの導入を切望している国は枚挙にいとまがありません。撃沈してしまうと、着底したイージスを引き上げようとする国が我先にと集結する可能性もあります」


「つまり、イージスの機密を盗まれぬためにそれを奪還すると?」


「その通りてす。そのために特殊部隊があるのです。大統領、特殊部隊によるイージスの奪取を進言します!」


「・・・うむ・・・・・・」


「大統領、ご決断のほどを」


「・・・わかった。日本海に第7艦隊の空母群を派遣しろ。それと、NevySEALsによるイージス奪還作戦を許可する」



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