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中露戦争  作者: 集束サイダー
国境
12/55

ディザスター

中国 黒竜江省 黒河市


ふと、蒸し暑い地下室の中でセルゲイ・ニンバスは目を覚ました。息が苦しい。空気がほとんどないのだ。


辺りを見回すと、さっきまで談笑していた分隊メンバーや車両の乗員がうなだれ、全身から汗を流していた。セルゲイのように気絶している者もいる。


なんとか起き上がり、少女の元にいく。少女は核爆発の時にも辛うじて意識を保っていたようだ。


「なにお前女の子が我慢してるとこでのびてんだよ」


ベロフがうつ伏せで気絶していたので、人の事は言えないセルゲイがすっかりぬるくなった自販機の缶コーヒーをベロフの脇腹に投げつけた。


コーヒーはベロフの骨盤に命中し、ベロフが跳ね起きてしきりに辺りをみまわす。


「この娘はちゃんと起きてんのになにお前寝てんのよ」

「うるせえよ・・・いや、なんかこう爆風が来たときにな、クソ眠くなってもう・・・だるくて体が言うこと聞かなかったんだよ・・・」

セルゲイが笑いながらベロフに言い、それに対してだるそうに答えた。


「くそっ、時計がイカれてる。見えねえ。」

「俺のもだ。おかしいな・・・」

「お前らのはデジタルだからだろ。俺のはアナログだから分かる。現在11時2分だ。」

「じゃあ何で俺らのは消えるんすか?」

分隊メンバーが問うと、オサー分隊長は少し考え込んでから言った。


「ほら、電磁パルスだ。EMPって奴だよ。核爆発の時に発生して、ケーブルからパルスが侵入して精密機器をショートさせ、機器は全てイカれてしまう。多分それだろう。」

「・・・なるほど・・・よくわかりました。」

「あ、それと今外に出るなよ?空気がなくなってるからな。もうそろそろなくなった空気の埋め合わせをするために周辺空気が流れ込んでくる。出るのはそのあとだ。暑いのは我慢しろ。」


オサーが言うと、彼は再び壁によしかかった。

セルゲイはぬるくなったコーラを飲む。隣ではベロフがサイダーを飲み、少女がコーヒーを飲んでいる。どうやら少女にコーヒーをあげたようだ。


横ではT-90の操縦手が射手の顔面に二本のサイダーを垂れ流していた。

「あぐっ、こ、このやろっ・・・」

「スティーブ・オースチンみてぇだな」

「く・・・っそ!!マーク・ヘンリーに犯されちまえこのクズめ!!」

「お前あんまり官能的なこと言うなよ」


そんな戦車搭乗員のバカな会話を聞いた車長が、

「ああ・・・自衛隊はどれだけ律儀な奴が多いんだろうか・・・」

と汗だくで呟いていた。


「おい!そろそろ出てもいい頃合いだ。ベロフ、ドアを開けろ!!」

オサーが時計を見て言うと、ベロフが階段を上がっていってドアの前に立ち、ノブに手をかけて一気に引いた。


だが、ドアが歪んでいるようで一向に開く気配はない。セルゲイがOSV-96で蝶番と鍵を撃って破壊し、ベロフがドアを蹴っても開かない。


そこでセルゲイとベロフは同時にドアにタックルをしてみた。ドアはまた歪み、もう少しで開きそうだ。そしてセルゲイが左足を軸にした回し蹴りをドアにぶちこむが、ドアは倒れなかった。


「何格好つけてんのよ」

「激しくうるせえ」

ベロフがにやけながらセルゲイに言い、AK-101の銃床でドアを思いきり横打ちすると、ドアは音を立てて外れた。


瞬間、熱風が彼らに吹き付けられ、熱風に流されたドアがセルゲイに激突してそのまま彼にドアがおおいかぶさる。

ベロフは階段を転げ落ち、ケプラーヘルメットを階段の角に打ち付け、少女の股の辺りに顔を埋める形になった。三点スリングで繋がれたAK-101が音をたてて床に落ちる。


少女は顔を激しく赤らめ、ベロフのヘルメットを掴んでベロフを突き放そうとするが、ベロフは鼻息を荒くしてますます股間部分に密着する。


「お前な・・・上では核爆発起こってんだよ。いい加減にしろ」

汗だくのオサー分隊長がそういってベロフの股間を蹴りあげた。


そんな彼らを尻目にセルゲイ達が外に出る。外は、筆舌には尽くしがたい悲惨な状況と化していた。

辺りには焼けた建物や車が散乱し、便衣の死体は炭と化して悪臭を放ち、空は得体の知れない色に染まり、火山灰のような物が降り、黒河市内は地獄へと変貌していた。


「・・・息苦しいな・・・」

「そりゃそうだろう。核だから・・・」

「ああっ!俺達の137号がっ・・・」

ツングースカの乗員が叫ぶ。彼の視線の先には半壊したツングースカが鎮座していた。

「すまない・・・137・・・」

「ごめんよ、置いてきぼりにして・・・」

ツングースカの乗員たちが口々にそういう。ツングースカの機関砲はうなだれるように下を向き、車体も焼け焦げていた。


「分隊長さん、ちょっとこいつに別れを告げたいんだ。ちょっと時間をくれないか・・・?」

ツングースカの乗員がオサー分隊長に頼み込んだ。


「ああ、構わん・・・」

オサーはそう答え、ツングースカから離れたところで破壊されていた中国車の残骸にへたりこむ。他の分隊メンバーや戦車の乗員もオサーの周りに座り込んだ。


「いいか、服は・・・脱ぐなよ。服を着ていた方が発汗量が少なくなるからな。このさい水分は大切にしろ・・・」

「了解です・・・息が苦しい・・・」

「はあ、はあ、はあ・・・くそっ、嫌な空の色だ・・・」

「さらに体がだるくなってきたな・・・」


皆がそんなことを言っていると、ツングースカから乗員が出てくる。そして、四人がツングースカの上に立って最後の別れを告げようとした瞬間、ツングースカの対空ミサイルが爆発し、たちまち弾薬に引火してツングースカが激しい爆発を起こし、四人の乗員が一瞬で消し飛んだ。


「な・・・・・・?」

ベロフが変な声を漏らす。全員が驚愕し、その場に佇んでいた。


「・・・・・・ツングースカがあいつらを道連れにした・・・?」



黒河市 上空一万二千フィート


DF-21によって焼かれた街の上空では、まるでアメリカのC-5を彷彿とさせる巨大な航空機が飛行していた。


だが、その航空機は中国のY-20型輸送機に25mm機関砲や40mm速射砲、120mm迫撃砲を搭載した、「轟撃20型」地上砲撃機だった。


この機体はアメリカのAC-130のような「ガンシップ」であり、武装もそれに準じている。ただAC-130より一回り大きいので弾薬をより大量に積載可能だ。


なお、この機体はEMP、放射線防護されている。


『こちらは射撃指揮官だ。火器管制オールグリーン』

『機長了解。射撃を許可する』

『了解。各個射撃を開始せよ』


火器管制官の言葉で、それぞれの火器担当員が端末を操作し、砲身を目標に指向する。


もちろん目標とはロシア軍のことだ。この機体はDF-21が飛来することを悟って地下に避難したロシア軍部隊を掃討するために出動し、彼らの予想どおりロシア軍部隊は残存していた。

今、轟撃20の真価が発揮される時が来たのだ。


乗員たちは端末に映る赤い四角に囲まれたT-80U戦車と兵士に対して発射ボタンを押す。

轟撃20の胴体左の二つの砲から爆炎が噴きあがり、40mm砲弾と25mm砲弾が立て続けに撃ち出され、T-80Uが40mm砲弾に上面装甲を貫かれ爆発し、歩兵が血しぶきを撒き散らして吹っ飛び、25mm機関砲弾が無傷の歩兵を撃ち砕いた。


『目標を撃破』

『次は撃たせてくれよ』

120mm担当の乗員が言う。再び砲はロシア軍部隊へと向き、死の魔弾をロシア軍に浴びせかける。


『120を発射する。俺の七星宝刀を喰らいやがれ!』

彼がそう言うと、ロシア兵が集結している半壊したラブホテルに照準を合わせ、ボタンを押し込む。

120mm迫撃砲が轟撃20から発射され、これまでとは比較にならない爆風が左下にほどばしる。



ラブホテルの屋上に大穴が空いて内部で榴弾が爆轟し、衝撃波が外壁を粉々に砕いた。


『ざまあみやがれ!爆ぜろ!爆ぜろ!!』

『なんだこいつ』

倒壊していくラブホテルをモニターで見つつ、120mm発射要員が狂喜し、隣の40mm発射要員が若干引きつつ言う。


AC-130なら105mm砲の反動が大きすぎるがため105mmを撃つときは他の砲は発射を停止しなければならない程だったが、轟撃20型は重量があるのであまり反動はない。

機体が大型なので、二万発の25mm機関砲弾と七百発の40mm砲弾、百発の120mm砲弾を積載できる。そのせいで轟撃20はY-20より横に太い。


また25mm機関砲が発射され、変電所が爆発し、モニターに閃光が走る。


『うおお!!すげえ!!』

モニターがしばらく焼き付いていたが、射撃要員たちはなりふり構わず成金のように砲弾を撃ちつづけていた。



その頃地上では、オサー率いる第二分隊とT-90の乗員がガンシップの襲来に戦慄していた。


ガンシップから多数の火線が伸び、地上の建物や友軍車両が次々と破壊されていく。

「くそっ!!中国のガンシップがいやがる!!」

「早く逃げないと死んじまうっ!!」

「分隊長!!どうしたんですか!!」


セルゲイが大声で問う。


「うおお・・・はっ、離れられない・・・背中が張り付いて離れられない!!」

「何ですって!!?」

オサーがへたりこんだ車の残骸は非常に高温であり、オサーの背中が残骸に張り付いてしまっていたのだ。

オサーは必死で立ち上がろうとするが、一向に離れる気配はない。


「ああっ、お前ら何をっ・・・うあああああああ!!!」

分隊の各員がオサーの腕を掴み、一気に引っ張ると、オサーが悲鳴をあげて前につんのめり、炭化した便衣兵の亡骸に顔から突っ込んだ。

残骸にオサーのピンク色の肉が張り付き、オサーの背中は紅に染まり、脊髄が露出し、鮮血を背中から流してオサーは悶絶していた。


「ああああああ!!!くそっ!くそおっ!!余計なことすんなぁっ!!!」

「も、申し訳ありません!!!!」


分隊メンバーがオサー分隊長に謝罪するが、オサーは突然Cz75を取り出すと、炭まみれの顔で

「もう・・こんな姿になってまで生きたくないな・・・分隊各員聞け。これからセルゲイが分隊長だ・・・全権を委任する。俺のわがままだ。聞いてやってくれよ・・・」


オサー分隊長はそういい、Cz75を自分の頭に向けたかと思うと、彼は引き金を引いた。


「隊長!?」


不自然なほどに乾いた銃声がなり、脳髄が飛散し、オサーはがくりとうなだれて、二度と動くことはなかった。


「ああ、くそ・・・隊長・・・隊長・・・」

全員が悲しみに暮れる間もなく、ガンシップの発射した40mm砲弾が付近の料理店に命中し、彼らの自己防衛本能を呼び覚ました。


料理店が崩壊し、第四分隊の兵士がいぶり出され、25mmの攻撃を受け吹っ飛ぶ。

「くそっ!戦車だ!!無駄だろうが戦車の方に向かうぞ!!」


セルゲイがT-90を指差して指示する。戦車搭乗員や分隊メンバーが陸上選手のようにT-90目指して走っていく。セルゲイも少女を担いでそれを追いかける。


途中25mm機関砲が雨のように降り注ぎ、戦車の射手が吹き飛び、分隊の一人が肉片と化す。


どうにか皆戦車に取りついたようで、キューボラに入っていく。ベロフが手を伸ばしてくれている。その手を取り、セルゲイも少女と戦車に登ろうとした瞬間、40mm砲弾がT-90に命中、信管が作動して爆発した。


ベロフが驚いた表情で胴体を切断されて宙を舞い、セルゲイと少女も吹き飛ばされてヒビの入ったアスファルトに叩きつけられて、セルゲイの意識は途切れた。


しばらくすると目が覚め、もう感覚がない手を伸ばして腹をまさぐると吐き気がこみあげてきた。内蔵が露出し、左腕が取れているようだ。


辺りを見回すと少女が足を切断されて倒れていた。セルゲイは少女に這いより、少女と向き合った。

少女はセルゲイの飛び出た内臓を見て驚いていたので、セルゲイは少女にほほ笑む。右手の手袋を口で外し、痣だらけの手で少女の頬に触れた。


セルゲイの頭や口から流れた血が少女の顔に垂れるが、少女は気にせず笑顔を浮かべる。少女がロシア語で

「大好き」

と言った。セルゲイも顔を赤らめつつ

「ああ・・・俺も大好きだ・・・愛してる」

と言い、二人の顔は近づいていく。


そしてセルゲイが

「今回の戦争が終わったら・・・もっと昵懇に・・・いや、結婚してくれないか?」

と言う。


少女はそこまでのロシア語はわからなかったが、セルゲイの顔を見ながらほほえんだ。

セルゲイが幸せそうな顔をし、少女の唇に自らの唇を合わせようとした瞬間、二人に40mm砲弾が命中、炸裂し、彼らは爆発の閃光に包まれた。



『よーし。目標を完全撃破した。』

モニターを見ながら射撃要員が言う。

『いいよなあ40mmって。弾薬多いし大火力だし速射できるし。今度転換しようかな』

そんなことを120mm担当要員が言う。

『ならば俺を倒してからなるんだな』

『ははは・・・そうだな』

そういって彼らはコーヒーを一口飲み、また射撃を開始した。


轟撃20は、焦土と化した黒河市上空を悠々と飛び回り、弾尽きるまで射撃を続けていたという・・・

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