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中露戦争  作者: 集束サイダー
国境
10/55

東南の風

「私はバターン半島事件の罪で殺される。私が知りたいのは広島や長崎の数万もの無辜の市民の死は一体だれの責任なのかということだ。それはマッカーサーなのか、トルーマンなのか」 大日本帝国陸軍中将 本間 雅晴

同時刻・・・ 中国 雲南省の極秘ミサイル基地


雲南省の山奥に位置する人民解放軍のミサイル基地では、素人が見たら宇宙ロケット発射場かとみまごうような光景が広がっていた。


そんな基地の中心で一際目立つミサイルがあり、そのミサイルは巨大な発射機に据え付けられ、その周りで作業員がいったり来たりを繰り返している。


そのミサイルの名前は、DF-5(東風5型)という。中国軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、射程距離は一万五千キロで、アメリカ本土を完全射程内に収めている。


そんなDF-5の側には、ジャッキを挟んで発射準備を整えたDF-21(東風21型)中距離弾道ミサイルの発射車両がニ両、発射の時を待っていた。


そう、彼らは一時間前に周銀平国家主席から伝達された命令に従い、核攻撃を行う準備をしていたのだった。目標はロシアの首都モスクワと、自国領であるが、現在はロシア軍に制圧されている黒河市だった。


基地の発射管制室の中では、高官が発射ボタンの前に立ち、作業員が端末を操作していた。


「東風5号、油圧電圧共に正常、現在異常はありません。」

「座標入力、軌道指定完了。」

「自転、気圧の風による軌道のずれを修正。」


今回発射するDF-5大陸間弾道ミサイルは、ロフテッド軌道に設定された。ロフテッド軌道とは、比較的高高度を飛翔することで終末速度を高め、迎撃を困難にする方式の軌道だ。欠点は射程が短くなる事だが、目標が北西なので、地球の自転を利用して克服可能だ。まさしく自転を利用した省エネ、マニュアル車でいう惰性走行、探査機でいえばスイングバイという感じである。


ただ、DF-5は単弾頭なので、単一目標しか攻撃できない。


DF-21は、比較的低い高度を取り、迎撃されやすいが射程が長くなるミニマムエナジー軌道に設定された。


「発射コードを入力しろ」


指揮官らしき男が言うと、オペレーターの一人が発射コードを入力し始めた。

DF-5第二十八号の発射コードである『001001101』という単調な数列を入力し、確認のため再入力する。


「入力完了しました!」


「・・・わかりました。では。・・・おお、了解だ。たった今、中南海から発射の許可が出た。発射準備は完了したか?」


「ええ」


「よし、まずは東風21を発射させろ。」

指揮官がそういうと、部下が部隊にその旨を伝達し、社会主義国家を代表するアルコール飲料である蒸留酒、ウォッカが弾頭に描かれたDF-21が立て続けに二発発射され、煙をはきだしながら蒼天の彼方に飛翔していった。


「東風21、発射完了しました!!」


「了解。次は東風5だ!」

彼はそういって側近が持っていたカバンの鍵を開け、中から発射キーを二つ取り出す。


そして側近にひとつ鍵を渡し、鍵穴に差し込み、二人で同時に左に回したあと右に回し、一旦戻してまた右に回した。


すると、蓋が開き、また鍵穴が現れる。指揮官はズボンの中に手を突っ込み、もうひとつ鍵を取り出す。パンツの中に入れといた方が盗難の可能性も無くてほぼ安心なのだ。まるで小学生のような発想だが極めて現実的と言える。


側近はそんな指揮官を見て顔を赤らめつつ懐から鍵を出す。

そしてまた同じ手順で鍵を開けると、また蓋が開き、紅に染まった発射ボタンが彼らの前に姿を現わした。


そしてさらに部下がコードを入力、ボタンのロックか外れ、弾道ミサイルがオンラインになる。


「目標は、モスクワ・・・北西の方角か。ふむ、後漢末期、いや三国史の赤壁の戦いにて蜀と呉の連合軍が曹操の百万人の大船団に火を放ち、曹軍を僅か三十騎足らずまで追い込んだ要因になった『東南の風』に似ているな・・・最も俺は北京生まれだが」


指揮官はそういい、息を吸い込んで、息を吐きながら発射ボタンを押した・・・







同時刻 中国 黒河市 


セルゲイはベロフと合流し、T-90の側に着くと、オサー分隊長が分隊メンバーを集め、説明を始めた。


「ついさっき入った情報だ。我が軍の偵察衛星が中国国内から飛翔体が発射されたのを捉えた。飛翔体は核弾道ミサイルと判明、既に着弾予想地点も判明している・・・着弾地点は・・・黒河市・・・つっ、つまりここだ。」

オサー分隊長が恐ろしい事を口にする。分隊長の声も震えていた。


「なんだって!?弾道ミサイル!?」

「じょ、冗談ですよね・・・?隊長?」

「ミサイル!?そんな!俺らどうすれば!!」

「隊長!!俺たち死ぬんですか!?」


分隊のメンバーがそんなことを口々に言う。いきなり核攻撃を受けるなどと言われたらそうなるのもうなずける。


「黙れっ!司令部からは既に『すみやかに退避、或いは現状維持すべし』との命令が来ている。いいから俺に従え、ばか。」


上空ではSu-25、Su-27やMi-28などの航空機がこの空域から退避せんと腹に響く振動を地上に振り撒きつつ飛び抜けていった。地上には核が落ちるとは毛ほども考えない便衣兵が拳銃をひたすら撃ち続けていた。


「地下だ!!建物の地下に入るぞ!!」

「地下・・・ですか!?」

「そうだ。ヒロシマやナガサキではたまたま地下にいた人間が助かった例がいくつもある。だがタッパの高い建物は駄目だ。崩れると出られないからな。」

「着弾までの時間は何分ですか?」

セルゲイが聞く。

「五分だ!!」

オサーが叫ぶ。すると、

「おい!俺らも連れてってくれないか?」

と、ケダール・サブマシンガンを持ったT-90とツングースカの乗員達が第二分隊に声をかけてきた。

「ああ、ついてこい!!」

そうオサーが言うと、ベロフが

「もしかしたら放射線とかの影響もあるかもしれないから一応食料とかも持っていった方がいいのでは!?」

と進言、オサーはそれを了承した。


「隊長、あそこの家にしましょう!!」

セルゲイがそういい一軒家を指差す。その一軒家は先程セルゲイがいたところだった。

「よし!バディ同士で手分けして何でもいい!水や食料を探せ!!速くしろ!!」


オサーはそういい、一軒家に入って地下室の場所を探しはじめた。すると、いままで沈黙していた便衣が一斉に攻撃を開始し、深閑としていた市街が銃声に埋め尽くされる。

セルゲイ達の前を走っていた分隊のメンバーがシェフの格好をした男に至近からMAK-90を撃ち込まれ、血を吐き倒れた。


彼のバディがすぐさまシェフ風の男を銃床で殴り、眉間を陥没させて即死させ、彼の後ろから鎌を降りかざしてきた女をベロフが撃ち殺し、さらにチャイナトカレフをセルゲイにむかって発砲した男を、胸に衝撃を感じつつセルゲイがOSV-96で肉塊に変える。


ツングースカの乗員が再び残存したツングースカに乗り込み、機関砲で便衣が多くいるアパートを掃射。建物の外壁や窓が激しく破壊され、老若男女の便衣が肉片となって消し飛ぶ。


そしてさらに対空ミサイルを機関銃にとりついた一家に発射。ロックオンしていないのでホーミングはしないが、ホーミングしないでもロケット弾になる。対空ミサイルは機関銃陣地の真ん中で爆轟し、一家の手足が降りかかる。


セルゲイとベロフは、自動販売機を見つけると、側で風に吹かれていたポリエチレン袋を拾い、自動販売機の鍵をOSV-96で撃って破壊し、中から飲み物をかきだし、三人で缶ジュースやコーヒーを適当にポリ袋に叩き込み、肘にポリ袋を引っ掻けて走る。途中小学生くらいの幼女を盾にした男が目の前に現れるが、ベロフと分隊のメンバーが幼女ごと撃ち殺した。


一軒家に着くと、オサー分隊長が地下室の扉を開けていて、外を見ると、ほかのメンバーも便衣に追われつつ走ってきた。


「着弾まで二分半だ!!」


ベロフや戦車の搭乗員、分隊メンバーが彼等の援護射撃をし、次々と便衣が倒れていく。セルゲイもOSV-96を撃つと、ワイシャツを着てMAK-90を撃っていた中年男の頭が炸裂し、花火のように血が舞った。


するとツングースカが横から現れ、便衣を轢殺しつつ強力な機関砲で射撃し、彼らを粉々にしていく。


ふと、セルゲイはあの少女の事を思いだし、二階へと上がっていくと、廊下では便衣とおぼしき中年の男が二人、足や腹から血を流して倒れていた。


「おい!セルゲイ!!どこいくんだ・・・!!」

親についていく子供のようにベロフがくっついてきたが、二階の惨状を見たとたん激しく嘔吐した。セルゲイは走って少女の元に駆け寄る。相変わらずベッドに横たわっていた少女はセルゲイの姿を見ると、希望の光が差したように笑顔になった。


少女はキリューベのCz75を手に持っていた。セルゲイは中国語は皆無といっていいほど喋れないので、何があったのかジェスチャーで聞いてみることにした。


セルゲイは死体を指差し、少女が持っているCz75を指差す。「あいつらを撃ったのか?」という旨を少女に手の動きで精一杯伝えようとした。


どうやら分かったのか少女は頷き、死体を指差してから自分の下腹部を指差した。どうやら暴行されかけたから撃ったようだ。

『なるほど、確かに出てるとこはちゃんと出てる。やられそうになるのもわかるな、こりゃ。』とセルゲイは笑みを浮かべつつ思った。


すると、ベロフが

「おーい?核が爆発するまであと一分半だぞー!?何やってんだよ!!」

とセルゲイに急かすように言った。


セルゲイははっとして少女をお姫様抱っこし、階段を降りるため廊下にでると、先頭のベロフが中年女の死体にに足を引っかけ転倒した。


少女がまた笑い、それに続いてセルゲイも笑った。

素早く起き上がり、階段をかけおりるベロフが

「んだよカップルぶりやがってこの変態野郎!お前絶対クリスマスの日に殺害してや「おい!お前らどこいってた!あと十秒で扉閉めんぞ!!」す、すんません!!」


オサーがベロフの言葉を遮りつつセルゲイ達に怒鳴る。


セルゲイは少女をお姫様だっこしながら地下室に入ると、地下室のなかでは分隊メンバー三人、戦車とツングースカの乗員七人が座っていた。



弾着まで一分。DF-21は熱圏に入り、慣性降下で加速、ミニマムエナジー軌道ではあるが落下速度マッハ六の極超音速で目標に迫る。



彼らはセルゲイと少女を見ると、二秒程沈黙してから咳を切るように騒ぎ出した。

「どうしたセルゲイ、恋仲か!?」

「マジかよ!!俺なんかまだ童貞だぜ!?・・・しまった!ばれたか・・・」


彼らはもうただでは帰れないことを悟っているのか、完全に開きなおって小学校低学年のようなバカな会話を始めており、とても核の爆発範囲から逃げられない究極の状況に置かれた人間の姿ではなかった。


「セルゲイ、そのマブイのは知り合いか?」

分隊の一人が聞いてくると、セルゲイは

「ああ、戦場の知り合いだ。」

と答えた。

「ヒュー!で、結婚すんのか?結婚式には出てやるぜ?」

「しねーよバカ」

という会話をしながら少女を床に座らせると、少女の髪に脳髄がついていたので取ってやり、指で弾いた。


弾かれた脳髄は放物線を描いて飛び、腕を組んで壁にもたれて立っていたオサー分隊長の頬に命中、分隊長はビクッと震え、脳髄を急いで払い落とす。


セルゲイと彼はオサーの仕草に激しく吹き出し、ベロフと少女もつられて笑い出す。オサーは笑みを浮かべた。


「諸君。着弾予想時間まてあと二十八秒だ。楽しく騒ぐのもいいが、そろそろ身の準備をしろよ。こんな状況で赤ん坊みてえに騒げるなんてお前らくらいだ」


オサーが言うと、皆が話しをやめ、室内が沈黙に包まれる。


「いいか、こういうときは床に伏せて顔を上腕で覆いかくせ。爆発の時にX線で自分の骨が透けて見えるだろう。自分の骨の太さでもながめるんだな」


隊長の言葉を聞き改めて緊張したセルゲイは、突然に強い光を感じた。

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