辛口甘口
これは甘口か?
一口食べて首かしげ、おっと辛い
これが母の作ったカレーの味
「ないものはないのよ、諦めなさい
あなたが無理したら周りの迷惑になるでしょ」
やさしくさらりとけろりとぐさりと言う
母のカレーバージョン
やさしくされたい嫌われたくない
私はがんばっているつもり
自分に辛くしているつもりな
私のカレーバージョン
伴侶に「給食カレー」と命名された
カレーを作る母のそばに
長年立っていたとうのに
手伝い教わり、使うカレールーも
違いはないのに
これも個性だとあきらめた
母が他界したその日
台所にあった母の作った最後のカレー
やさしくさらりとけろりとぐさり、は
しっかり生きて私の中に溶けていった
いつもの材料と手順でカレーを作る
「あれ、今日のカレーは辛いね」
「あら、そう?」
母の笑みがふっと過って消えた




