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プロローグ

プロローグ


 ――深夜、餌に釣られてのこのことやって来たその女は、酷く落ち着かない様子だった。

 闇に光る目。

 じっと息を潜めたまま、獲物の姿を慎重に捕捉する。

 ひたり、ひたり……。

 足音を殺して背後から近づき、女が気配で振り返ったその瞬間、隠し持っていた包丁の刃先をその端整な相貌へと容赦なく突き立てた。飛び散る鮮血は予め羽織っておいたレインコートで防がれる。絶叫する女の顔を、何度も何度も切り刻み、術式を完了した。

 この女の色香に惑わされ、すべてを失った男の復讐が、いま終わったのだ。

 感慨に浸っている時間はない。これから己が人生を賭した対決に臨むのだ。

 持参していた鋸を使って四肢を切断し、死体をぎこぎこと解体する。

〝完全犯罪〟

 脳裏を掠めるその輝かしい響きに、思わず歪んだ笑みがこぼれおちた。――


              ***


 朝、テラスで囀る小鳥の歌声と、リビングから緩やかに聞えて来るクラッシク音楽によって栗原(くりはら)優菜(ゆうな)は目を覚ました。ベッドから起き上がると寝癖だらけの頭を掻き、そして欠伸を一つふらついた足取りでリビングに向かう。

 扉を開くと、爽やかな朝の情景が目の前いっぱいに広がった。

 ステレオスピーカーから流れ出す今朝の一曲は、弦楽五重奏5番ホ長調・第三楽章『メヌエット』。上機嫌な鼻歌とともに、美しいブロンドの髪が弾むように揺れていた。

「おはよう、ユウちゃん」

 朝食の用意をしながら、白鳥(しらとり)愛美(まなみ)が笑顔を湛える。

「今日もお外はとっても好いお天気よ」

「あぁ、そう……」

 潔癖が身の上の愛美は朝から見事に後光が差していた。やっぱり貴族は違うなー、などとよく分からない感想を胸に、優菜は寝惚けた目をして癖のついた髪の毛を撫で付ける。

「起き抜けにハーブティーはいかが?」

「ぅん……」

 ポットから沸騰したお湯が、七宝細工鮮やかなマイセンのティーカップへと注がれる。ふわりと湯気が立ち、上質なハーブの芳香が鼻腔をくすぐった。

「うぅ~ん、気持ちのいい朝ねー」

「まだ眠いよ……」

「フフ、今日はなんだか良い事がありそう」

「そうかぁ?」

 二人は光が差すようなガラス製のテーブルに着いて、ゆったりと、閑雅なひとときを過ごす。


 ――優菜と愛美、二人の出会いは高校時代にまで遡る。

 当時、一匹狼を気取った非行少女であった優菜は、ある日の盛り場でゴロツキに絡まれている愛美と遭遇、成り行きで彼女を助けることになった。

 偏差値30の商業高校に通っていた優菜と、由緒正しきお嬢様学校に通っていた愛美。

 水商売の母子家庭で半ば放任的に育った優菜に対し、愛美は資産家の一人娘としてぬくぬく温室で育てられた。

 優菜は男狂いの母親を嫌い、家に帰らず盛り場を彷徨う毎日。

 愛美は教育のために厳しく行動を制限された家庭環境に鬱屈を感じ、たびたび家を飛び出しては優菜と行動を共にしていた。

 天と地のように性格的にも境遇的にも正反対の二人は、こうして奇妙な友情で結ばれ、数年後、ここ新宿にある代々木二丁目スカイビルのペントハウスを借りきり、『YOU&I探偵社』を開業するのだった。――


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