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序章

 赤銅色の鬼の面を付けた大男は、眼下に青玉の如き地球を見下ろせる場所で戦っていた。

 敵は虚 (こじゅう)と呼ばれる三体の竜頭人身の化け物で、全高四メートルを越す巨体は青黒い強固で厚い皮膚に覆われており、身長二メートル前後の巨躯である赤銅の鬼も、この化け物の前では子供のように見える。

「ふん!」

 虚獣の威力はあるが大振りの攻撃を苦もなく交わした赤鬼は、がら空きとなった虚獣の竜頭に右拳を叩き込んだ。拳には赤い炎のようなものをまとっており、それが打撃の威力を飛躍的に上昇させているようで、赤鬼の数倍の体積のある虚獣が吹き飛ぶ。それと入れ替わるように接近した虚獣は、攻撃によって隙の出来た赤鬼の頭部に巨大な腕を振り下ろす。だが、強烈な一撃はさらに強烈な一撃によってはじき返され、仰け反ったところに顎を蹴り上げられた。

三体目の虚獣はその赤鬼の背後に回りこみ、自分たちと比して貧弱な両肩を掴んで、動きを封じることを試みた。このような行動からして、この虚獣には高い知性があるようだが、今回は高度な知恵は野蛮な腕力によって頭ごと粉砕される運命だった。

赤鬼は両腕を左右に勢いよく広げることによって戒めを解くと、サッカーのオーバーヘッドキックの要領で、背後の虚獣の脳天を亀のように体にめり込ませる勢いで蹴り下げた。

それぞれ別々の方向に吹き飛ばされた虚獣たちは、それを期に赤鬼を包囲することにした。戦術としては間違っていなかったが、その作戦が成功する前提条件は、包囲される側が防御心理によって動かなくなることだった。そして、赤鬼には防御心理などと言うものはなかった。あるのは荒々しいほどの闘争本能だけであった。

 赤鬼はとりあえず目の前にいる虚獣に突進した。全身に巫焔(かんなぎのほむら)をまとって。

 目の前に陣取っていた虚獣は大きな両腕を交差させて防御の構えを取る。赤鬼の左右側背にいた虚獣たちは、攻撃のために赤鬼を追った。

 虚獣の防御など無視して突き出された拳は、主の意思に応じるように虚獣の交差された大きな腕を貫き、腹部に突き刺さった。

 腹部に拳を突き刺された虚獣は大きな口を苦しそうにあけてあえぐが、赤鬼の同情を得ることは出来ず、無慈悲な赤鬼は虚獣に突き刺さった拳を頭上に掲げると、背後からせまる二体の虚獣に投げつけた。かなりの速度で追撃していた虚獣は仲間の急速は接近を回避しきれず、無様に衝突した。

「ん……!」

 赤鬼は右手に力をこめた。それに呼応するように拳を包む真焔が密度を増し、量を増大した。

 その巫焔を虚獣たちに向けて投げつける。気炎は三体の虚獣のうち、二体を包み込むと、本物の炎のように、いやそれとも比較にならない圧倒的な熱量と圧力によって標的を一瞬にして灰塵と化させた。

 運よく巻き添えを逃れた虚獣は大きく口を開くと、そこから閃熱波を吐き出した。不吉な濃い赤色をした光と熱の帯が赤鬼に向かって伸びる。しかし、赤鬼には避けようともしなかった。ただ、左の手に巫焔をまとわせると、その左手で無造作に閃熱波をはじき返した。閃熱波は虚空を貫き、星の海に消えていった。

 もう一度、虚獣は口をあけて閃熱の吐息を吐こうとしたが、それよりも早く間合いをつめた赤鬼の巫焔をまとった右拳が口の中に突っ込まれた。それでも虚獣は閃熱を吐き、右腕を吹き飛ばそうとするが、拳から開放された巫焔が虚獣の頭を内部から粉砕した。

「今日はこれで終わりか……」

 周囲を見渡すがそこに自律的に動くものはなく、戦いが始まる前の静寂な空間に戻っていた。

 赤鬼は目の前を漂う首なしの虚獣の遺体を地球めがけて蹴り落とした。あの程度の質量なら大気圏への突入時に摩擦熱によって燃え尽きるはずである。

屍が大気圏に突入したことを確認した赤鬼は、大きくため息をついた。

「今夜も徹夜か……」

飽きにも似た疲労感を漂わせながら、今度は自ら地球に降下を始めた。こちらは大気圏で燃え尽きぬように全身を巫焔で包んだ。

この夜、夜空を天体望遠鏡で覗いている人がいれば、その人は小さな二つの流星を見ることが出来ただろう。燃え尽きる流星と、燃え尽きずに地上まで落ちる流星を。


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