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裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 8』


昔、何かの文献でその事件を読んだとき感じた気持ちと似ている。




そう・・・     『惨たらしい』     ・・・って。






想像以上だった。


さすがの子考もこればっかりは好みの範囲外だったらしく、顔を青くして


口元を押さえている。


「子考、あなたはここにいなさい」


「しかし我が主・・・」


「これは姉妹の問題よ。あなたには関係ないから」



私が微笑むと子考の顔色は少しだけよくなったように見えたので、


こちらはとりあえず一安心。


私は一人教室の中へ入り、わざとらしく音をたてながらドアを閉めた。


教室の中では普段通りに授業が進行されている。


みなノートに黒板の文字を写し教師の言葉を真面目に聞いていた。



なんて末恐ろしいことだろう・・・。


教室の窓際、一番後ろの席を見る。


窓際に付けられた手擦りに両腕を縛られた女が誰から信仰を受けることも無く


力なく俯いていた。


口と頭からは大量の血が流れていて正直生死の判断が難しい所だ。


そしてその女の前に立つうちの愚妹。手には赤く染まった椅子。



はぁ・・・本当に毎日毎日手がかかるんだから!私が毎日どんだけあんたの


食事のためにそこら中の人間をさばいてると思ってんのよ。


魚じゃないのよ?人間なのよ?!


「何しているの、玄徳」


「・・・お姉ちゃんには関係ないことだから」


「コイツの友達みたいな奴が私のところまで助けを求めに来たのよ」


「へー・・・。お姉ちゃんが人のために動くなんて珍しいね」


「馬鹿。私がここに来たのはソイツのためじゃなくて、アンタのため」


「私のため?何それ」


「何それじゃないでしょ・・・。あんた、何があったかは知らないけれど・・・


いくらなんでもそれはやり過ぎでしょ!」


「やり過ぎ?」


妹はいつも通り表情一つ変えないで喋るから正直私一人がムキになっている


みたいで自分の滑稽さが恥ずかしいから、御託はこの辺にしておこう。


「仲間が闇討ちされて苛立つのは結構だけど、その怒りを周囲にぶつけるのは


やめろって言ってるの。しかも相手を拘束して殴り続けるなんて・・・。


殺す気があるなら甚振らずさっさと始末してしまいなさい。


甚振り続けるなんて陰惨な行為、醜いにも程があるわ!!」


そう、これは私たち三姉妹が遠い昔に恩師から教えられたことだ。


両親不在の私たちを助けてくれた恩師の言葉は何にも変えることが出来ない


大切な言葉。


だから妹も少しは反省してくれると信じていたのだけれど・・・。


「・・・醜くて何が悪いの?」


「・・・え・・・?」


いつになく覇気のある声を出す妹の姿に、私は戸惑いを隠せなかった。


「私はいつから綺麗な人間になったの。生まれて此の方、一度たりとも自分が


綺麗な人間だなんて思ったことは無い。


私はいつだって汚い奴だよ?お姉ちゃんの勝手な思考を妹だからって押し付けるのは


おかしいよ」


「玄っ・・・」


「いつだって私のことそんなに干渉なんかしてないのに、何今さら説教してんの?!


馬鹿じゃないの!!」



「玄徳!!!」



初めてだった。


私は生まれて初めて自分の感情を家族の前で露わにして、我武者羅に妹の白い頬を


何度も平手打ちした。妹は黙って叩かれ続ける。


人より白過ぎる頬が私の手で赤く染まっていく姿は・・・姉として


見ていたくなかった。


「このっ・・・!このっ・・・!・・・馬鹿がぁぁっ!!」


それでも手は止まることなく妹を打ち続ける。多分、もう自分ではこの手を


止めることは出来ない。


「馬鹿っ・・・馬鹿・・・ばっ・・・!!!」


私の視界がぼやけてきた頃、私の腕を妹が掴んだ。


両頬は真っ赤に膨れ上がり目を背けたかったが、妹の強い視線がそれを許さない。


「・・・玄・・・徳・・・」


「・・・」


「玄っ・・・」





「・・・ごめんなさい・・・」




儚い目をしてそう呟くと妹は持っていた椅子を私に向かって振りかざした。



守ることは出来た・・・




だけど私はそれが出来なかった・・・。










ドアを開くと彼氏さんが凄い形相で私を睨んでいる。


「・・・何?」


「・・・あなたが・・・あなたが俺の弟の恋人なのかと思うと・・・


反吐が出る・・・!!!」


「・・・」


殴られるかと思ったが男の目に私は入っていないようで、両手で私を押しのけて


教室の中へ走っていく。


「主っ・・・!!我が主!!しっかりしてください!!!」


床に倒れているお姉ちゃんを抱きしめながら必死に叫んでいる。


別にあんな攻撃で死ぬような姉じゃないのに・・・愛しているんだな、


お姉ちゃんのこと。


・・・でもこれでいい。


私はいつだって卑怯で最低な奴なんだから。そういう役回りをするのが私の役目。


なれというのなら民を想う聖人君子にだってなれるし、行く先々で裏切りを


繰り返すだけの自己中野郎にだってなんだってなれるよ?


それで何もかもが上手くいくのなら、私は自分を押し殺して構わない。



だから、ごめんね。




「・・・バイバイ、お姉ちゃん」


別れの言葉を告げて私はドアをゆっくりと閉めた。
















“チャラリ~ン”


『新着メールが1件来ています』


『お久しぶり。もう出てきたたんだね。じゃあ、あの場所で   玄徳』


『待ってたよ玄ちゃん。じゃあ、あの場所で待っているからね。 奉先』


「送信!」






『メールを送信しました』





・・・公台




・・・やっと・・・



やっと仕返しが出来るよ・・・。





楽しみだね。





「君ヶ主 玄徳・・・、早く来てね。私・・・ずっと


待ってたんだから・・・」

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