裏切の美徳
2色目 『裏切りの美徳 3』
愛しすぎるのってよくないよね。だからさ、勘違いしちゃいけない。
愛する君の好きな人を殺しても、君はその人からの愛を貰うことは出来ないよ。
この町は人間にとってはとてつもなく不条理な町だ。
俺の親の様に自殺か他殺か分からない遺体がでたとしても、誰も何も調べない。
ただ「死んだ」という結果が残された俺たち兄弟に差し出されただけ。
それでおしまい。
路上で遺体が何体も倒れていたとしても、みんなそれに何の感情も抱かずに横を
平然と歩く。
それでもいい加減邪魔だな、と思われたら業者に頼んで回収されていき
そのまま消去される。
『まるでデーターのようだ』とか思った時もあったが、これがこの町の日常風景
なのだから結局みんな、何の疑問も抱かずに生きていく。
正しいか正しくないかなんて、そんなのどうでもいいんだ。
この町の女性はみな生まれた時から護身術や武術を教え込まれている。
なんせここまで治安が悪いのに平然を装う町だ。女性特有の事件に対する被害率も
相当な数があり、それでも誰も助けようともせず事件を放置しているのだから
年々被害者は増え町から女性は姿を消していく。
もちろん、それが町を出たのか故意に消されたのかは誰も知らないところだが・・・。
そんな女性たちの駆け込み寺的なものがうちの高校には1~3年生、全ての学年に
存在する。
まあ言うまでも無く、それの総指揮者が君ヶ主3姉妹だ。
「あ、うんこ!」
屋上に来て掛けられた第一声がうんことか・・・。
「誰がうんこだ、この小便女!!」
下品な言葉には下品な言葉でお返しですわよ。
「なにそれー、反撃のつもり?マジで意味わかんねぇ」
「最初に仕掛けたのはお前だろうが!!!」
「は?うんこ呼ばわれされて怒ってんの?だって弟塚の名前ってさー雲長でしょ。
だから、雲長→うんちょう→うんちよう→うんち→ウンコ!」
「お前の方が意味わかんねえよ」
人のことをうんこうんこ言ってくるこのくせっ毛短髪女の名は
『典型的な末っ子』翼徳。
こんな奴なのに俺の嫁さんはこいつのことをメチャクチャ気に入っていて
『人類が滅亡する寸前に最後の晩餐として翼徳のお肉を食べたい』とまで
言わせるほど。
なので毎日罵り合っている訳だが、決して仲は良くない。本当に。
「何か御用?」
声を掛けてきたのは前後両方の黒い髪の毛が尻の長さまで伸びている
『完璧女』・子龍。
こいつの表情は前髪のせいで全く見ることが出来ないが声色からして
気が立ってそうだった。
「悪いな・・・。俺と嫁さん、これから授業をサボるんで。
君たちとはここでお別れ」
「成程。完璧な私が導いた完璧な答えとして、あなたと玄殿はこれから
商店街の狭間にあるラブホゾーンへ向かう気ね」
「ノーコメントで」
ドンピシャなお答え、どうもありがとう。
「・・・あ・・・あなた・・・玄徳になんかするんでしょう・・・!!」
ガタガタと震えながらこちらを睨み付ける金髪縦巻きロールの包帯女
『極度の被害妄想者』孟起。
「まさか。俺は嫁さんを愛しているんだぜ?
そんなことするわけないだろ。な?」
何となく誰かに同意をしてもらいたくて孟起の隣にいる『殺し損ねる女』文長と
『流浪の勇者』漢升に声を掛けたが、二人はあやとりの真っ最中で話など最初から
聞いていないようだ。なんともはや・・・
「じゃあ今日はしないの?」
彼女が声を出した瞬間、あやとりをしていた二人は手を止め震えていた人は
震えを止めて、全員が姿勢を正す。
ただ一人、俺だけは姿勢を正すことも無いまま声を発した主の元へ近づいていく。
「嫁さんはどうしたいの?」
「私はしたい」
「じゃあ、そうしよう」
「うん」
頷き、嫁さんが立ち上がると銀髪のハーフツインが可愛く揺れた。
今日も可愛い俺の嫁さん。手を差し伸べると美しいエメラルドグリーンの爪がそっと
俺の手の平に触れたから、俺はその手が離れないよう力強く嫁さんの手を握る。
「じゃあみんな、今日はここで解散」
嫁さんの指示に全員無言で頷く。
さっきまであんだけ馬鹿なことを言っていた翼徳も今だけは真剣な表情を浮かべて
頷いている。
そんな若干重苦しくなった空気に耐え切れず、
俺は嫁さんを連れて学校を途中で抜け出した。
今日も嫁さんとラブラブしちゃうぜ?




