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裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 10―終』



家の中へ戻ろうとした俺の目の前に現れたのは全身ずぶ濡れの男女。


傍らには今日嫁さんを助けに行った際に使い、放置したまま取りに行くのを


忘れていた俺の自転車。


実は無断で拝借していたが、色々あってもう使わなくなったからお詫びを込めて


俺の家にわざわざ持ってきてくれたそうな。


・・・で、まあその色々っていうのが具体的に聞きたいんだけど目の前に立つ


男女があまりにも異色コンビ過ぎて俺は呆気にとられて喋ることが出来ずにいた。


すると突然爽やかな声で話しかけられる。


「今までごめん」


「えっ?」


「明日からはもうやめるから。ストーカー行為」


「左様・・・ですか」


何?何なの?


「うん。今までありがとう、弟塚君」


「あぁ・・・どうも」


「じゃ」


「さようなら。玄徳によろしくね」


「あ、はい・・・」


呆気にとられている俺を完全に放置して星空の下、仲良く腕を組んで帰っていく


纏伊 文遠と讐居瑠葉 奉先。


そのまま闇夜の中へ消えて行った二人がその後どこへ行ったのかは・・・


まあ、俺にはどうでもいいことなんで、一切知らない。











俺はちょっとした力を持っている。


予知夢のような力で、でも起きている時にしか発動しない。


俺の予知は突然頭に単語が閃くのだ。


例えば『雲長』『幽霊』『トランプ』と出たとき、雲長の後を付いていくと


そこにはあの幽霊のような女(雲長の彼女らしいが・・・)が待ち合わせしていて、


真後ろに俺がいるのも気付かずに二人は仲良くラブホテルへ。ホテルの名前は


『ろっかくハート』


・・・とまあこんな感じの予知が俺には出来るんだ。


自慢できるものではないけれど。



そんな俺に緊急事態発生。


病院で何故かシメられて関節が痛い俺の頭に突如閃いた単語は『川』『雲長』『恋』


・・・『雲長』『恋』・・・来たか・・・!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


俺は走った。


この町に流れる唯一の川へ、関節の痛みなど無視して鼻水と涎を垂らしながら走り、


走り、走りついたら一台の自転車が見えた。


その右側、茂みを越えた川沿いに見える人影が一つ!!あれはまさしく


(暗くてはっきりは見えないけれど、きっと)雲長!!


いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


おおおおい!


「雲長ぉぉぉぉぉぉ―!!!おーーーーーい!!おーーーーーーい!!」


右手を大きく振りながら名前を叫ぶと、やっと俺の存在に気付いた雲長。


しかし何を思ったのか突然川の中へ早足で入っていくではないか。


馬鹿野郎!!着衣水泳は服が水を吸って危ないだろうがあああ!!!


俺は茂みの中を全速力で駆け抜けて雲長が入っていった川の中へ飛び込んだ。


入ってすぐにズボンが水分を吸収して足が重くなる。


だが雲長はさらに川の奥へ行こうとする。ここで俺が止めなきゃこのままじゃ


雲長の命が危ない。我武者羅に川の中でもがきながら雲長の方へ手を伸ばす。


そして随分と細い腕をがっちり掴んで叫んだ。


「雲長!!行くなぁ!!」


自分の方へ雲長の身体を引き寄せ、そして目を瞑りながらぎゅっと抱きしめる。


「馬鹿野郎・・・この恥ずかしがり屋さんめっ!」


抱きしめた雲長の身体は冷えていて、小刻みに震えていた。


ゆっくりと目を開けながら髪を優しく撫でてあげれば、長い髪の毛も


ずぶ濡れになっていて・・・。


・・・?


「―・・・えっ?」


何か違和感を覚えた俺は改めて自分が抱きしめている人物を確認する。


俺の腕の中、そこにいるのはおかっぱ頭の女子がいた。


セーラー服を身に纏い、目を白黒させながら俺の方を見ている、おかっぱ頭の女子。


「・・・え?え?え?・・・」


「・・・警察じゃ・・・ないの?」


「・・・いや、違いますけど・・・。あれ・・・?あれあれあれ?????」


あれ?俺頑張ってキャラまで変えて頑張って川の中へはいったのはいいけれど、


あらもしかしてこれは・・・勘違いって奴でしゅか・・・?


・・・。



・・・ぇ・・・。


「すっ・・・すいません!!人違いでしたぁぁ!!」


「え?あの・・・え?」


俺はすぐに手を離して何度も頭を下げた。恥ずかしい・・・恥ずかしいよぉ!!


人生でここまで恥ずかしい思いをしたのは初めてだよぉ!!!


穴があったら入らせてよぉぉ!!!


何十回と頭を下げ続けていると突然おかっぱ女子が叫んだ。


「あのっ!!」


「へいっ!!」


頭を下げるのを止めて、ゆっくりと顔を上げるとおかっぱ女子と目があった。


改めて見るおかっぱ女子の顔は結構かわいくて・・・実は、好みのタイプだった。


(あ、もちろん男では雲長が好みなんですけど)


「あ・・・あの・・・あの・・・」


おかっぱ女子は何か言いたそうな顔をしながら、しかし言葉が思いつかないのか


両手を水面に何度も叩きつけて一人であたふたし始める。


そんなおかっぱ女子の姿にこの時だけは雲長を忘れて、じっくりうっとりと


おかっぱ女子を見とれてしまった浮気者の俺。許せ、雲長。


「あの・・・あのね・・・」


「うん・・・」


なんかいきなりフレンドリーに話しかけられているようで、


女子と話す機会が少ない俺は恥ずかしくて少し身体をモジモジさせながら、


おかっぱ女子の言葉を親身に聞く。


「よかったら・・・」


「うん・・・」


「わ・・・わ・・・私を・・・」


「・・・うん」


「拾って!!!」


「うっ・・・、はあぁ??!」


拾う?拾うってアンタそれはつまりどういう意味なの?!


スケベ心丸出しに考えちゃうよ!!俺、男の子だから。


「私・・・私もう・・・お金1円も無くなって・・・友達も居なくなって・・・ご飯も


食べられなくて・・・だから・・・だから・・・私・・・うっ・・・うぅぅぅっ・・・」


目の前にいるおかっぱ女子は顔を真っ赤にさせながら一方的に話だし、


そして疲れていたのか大声で泣き出した。


「うわああああっっ・・・うっ・・・うっ・・・うわぁああああっっ・・・


うわあぁぁぁっっ・・・!!!」


泣きじゃくるおかっぱ女子。



こんな時、俺は男としてどうするべきなのか。




男に初めての操を捧げ、


親友でも無い男に一方的にストーカー行為をしていたこの俺が、


この目の前にいるおかっぱ女子に何をしてあげればいいのか・・・。


しなければいけないのか・・・。




それは・・・。






「・・・泣かないで・・・」


悩んでも答えが出なかったのでとりあえず俺はおかっぱ女子を再度抱きしめてみた。


優しく抱きしめると、おかっぱ女子は最初こそ動揺をしていたが次第に


心を開いてくれたのか俺の胸に顔を埋めながら大声で泣き続ける。


そんな彼女が溺れないように力強く抱きしめながら何となく見上げれば、


そこにはいつも出ている星空が広がっていて、今日は少しだけいつもより


綺麗に感じられた。











庭にある倉庫の中で俺は亡き父親のことを思い出していた。


『親父は玄ちゃんのこと好きなの?』


俺の質問に親父は頷く。


『それは生徒としてだよね』


その質問に親父は首を横に振る。


『じゃあ、玄ちゃんのこと愛しているの?』


おませな質問に親父は先程より大きく頷いた。


「あぁ、愛しているよ」


『へぇ・・・』


質問の終了と同時に俺は親父に向かって台所から持ってきた包丁を突き出す。


だが次の瞬間、突然目の前から親父の姿が消え、そして俺の手の中にあった包丁も


姿を消していた。


『あれ?』


「なにをしているんだい?雲長」


『だって包丁が?え?だって俺今・・・』


「そんなもの雲長は最初から持っていなかったよ?」


優しい声色でそう言って、俺の頭を撫でる笑顔の親父。


俺はただ茫然と立ち尽くし、そして悟った。


きっと俺は一生この人には勝つことが出来ないんだと。


それでも俺は諦めたくなかった。玄ちゃんを、俺の初恋の人を必ず俺の恋人に


してみせる。


だから玄ちゃんと両想いの親父をいつかこの手で倒すんだ!




そう誓った次の日、親父はお袋と一緒に死んでいた。



とてもあっけなく。






「・・・はぁ・・・」


溜め息をつきながら倉庫を閉める。


借りた拳銃を返すために今日2回目の倉庫御開帳だが、やはり気が重い。


「親父・・・」


嫁さんの初恋の相手であり、俺の永遠の恋敵である親父。


そんな親父から嫁さんを奪うために刺し殺そうとしたことを、俺は未だに嫁さんには


言ってないし一生言えないと思う。


まあ言っても嫁さんはそこまで動揺しないと思うし、言ってもいいのかもしれないが・・・


それでも俺はこのことだけは親父と俺だけの秘密として墓まで持っていこうと


決めている。


理由は・・・男のプライドが許せない・・・?


いや、これは俺と親父二人だけの出来事で秘密だから。


だから例え玄ちゃんとの約束を裏切る形となったとしても、


これだけは言えないし言わない。


ずっと、親父とお袋が死んだ日から決めていることだ。



だから悪いな、親父。


勝負に勝てなくても、玄ちゃんはもう完全に俺の嫁さんなので。


どうか安らかに眠ってくれ。


扉に向かって合掌。


「・・・よし・・・」



さてさてこれからどうするか。


もう少し入院をすべきか、いやまず嫁さんの着替えの用意とか・・・考え事をしながら


玄関へ向かって歩いていく。その時の俺は知らなかった。



まさか玄関先で未知との遭遇をしようとは・・・!!!














                 三色パン 2色目『裏切りの美徳』 完











次回 三色パン3色目『3匹の鬼』



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