表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 10―2』



嘘ついてごめん。でも、君だって本当は気が付いているんだろ?



「ちゅー・・・」


嫁さんのピンク色をした柔らかい唇に挟まれたストローの間を流れていく


赤い汁。


血液じゃないよ?これは・・・ブラッドオレンジジュースとか言う物らしく


嫁さんの大好物で、いつも通販で取り寄せている物だそうな。


人肉しか食べない嫁さんだけど飲み物に関しては正常なので何でも飲めるが


特にこのブラッドオレンジとかいう物が好きらしい。


嫁さんには悪いけど俺は正直これがそんなに美味しそうなものとは思えない。


グレープフルーツでもそうだけど透明なら透明のままの実だけでいいのに、


何で実を赤くしている奴が出てきているのか。パックのカットフルーツの中に


透明ではなくて赤ばっかり入っているのか、納得できない。


しかし嫁さんを本当に嫁として迎え入れたらこんな物体でも毎日飲まなきゃ


いけないんだから、今のうちに練習しておかないとな・・・。


「嫁さん?」


「ん?」


「俺にも一口頂戴」


出来る限りの範囲で作った俺的かわいい笑顔を嫁さんに向けてみるが、


反応が薄い。


いや、これ完全に白けているよ。


「・・・ダメ」


「NOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


そんな状況でも懲りずにオーバーリアクションを取って見る。


・・・あぁ、そっぽ向いているんですけど。


「・・・すいません。なんか今日の俺、いろいろおかしいね」


心がボロボロになってきたのでもう変なリアクションをするのは止めよう。


気持ちを落ち着かせて・・・大きく深呼吸―・・・



「で、雲ちゃんは誰を裏切ったの?」



「ごほほっ!!」


深呼吸に失敗して咽る。そんな俺の姿を嫁さんは相変わらず興味無さそうに


見つめていた。






あの日から1週間。


嫁さんの命に別状は無く、体内に侵入したナイフも無事除去された。


翌日嫁さんは「もう大丈夫」と言い出して退院しようとしたので俺が必死に


嫁さんに考え直すよう説得していた最中、その日退院したばかりの君ヶ主家長女の


文ちゃんが嫁さんの病室へ入った瞬間に足を躓き、フライングしてそのまま嫁さんが


寝ているベッドの上へ突撃。


そのまま何事も無かったかのようにベッドに寝ている嫁さんを抱きしめた・・・と、


ここまではいいのだが、文ちゃんは昔から柔道を習っていたため、いつもの癖で


寝ている嫁さんの身体を抱きしめながら無意識のうちに寝技を掛けていたらしく、


嫁さんの細い体を支えている細い骨が数本「ボキッ」と音を立てて折れた。


そのため嫁さんは止む無く長期入院を強いられたのである。



そして更に折った張本人は「私のせいで玄ちゃんがああああああああ!!!」と


泣き叫びながら病室を出て行った際、廊下に落ちていた包帯で足を滑らせて


回転しながら自分で窓枠まで近付き何とか手擦りを掴んで回転を止めたと安堵した瞬間、


廊下を走っていた入院患者(少年)の身体が文ちゃんに激突。


その弾みで窓枠から乗り出して結果3階から落下。


幸い植木の上に落下したため取りあえず死ぬことは無かったが全身打撲したため再び


入院する羽目になった。



そしてそして、もう一つ事件があったのを忘れてはいけない。


それは嫁さんがあの讐居瑠葉と対峙したあの日、その数時間前の学校で起きた暴行事件。


被害者の女子高校生は命は取り留めたが、今もまだ面会謝絶の状態。


噂によれば怪我の酷さよりも精神的に追い詰められているため他人と話せない状態が


続いているとか・・・。まあ看護師さんの噂話を聞いただけだから真意は不明だが、


正直俺にはどうでもいいことで。


そんなことより、もう一人の被害者が俺にとってはよっぽど問題だ。


そう、嫁さんのお姉ちゃんで俺の兄貴の彼女・孟徳さん。


経緯は知らないが兄貴曰く孟さんを介抱しに行った瞬間に顔面をグーで殴られて


「妹の悪口を言っていいのは私だけだ!!!」と叫びながら、腹に数発グーパンチ。


すぐに謝って止血をしようと髪の毛を触ろうとしたら手を叩かれて


「気安く触らないで!」と一喝。


そのまま教室を出て行った孟さんの後を追うも「付いて来るな」と後ろ蹴りをされ、


意識を朦朧としている間に孟さんは姿を消していた。


もうダメだと思った兄貴は孟さんを追うことなく授業を真面目に受けて正式な下校時間に


下校していたところ、校門横で蹲っていた孟さんを発見。


声を掛けるとそこに居たのは目から涙をポロポロ流して鼻の頭を真っ赤にしながら


泣きじゃくっていた、今までに見たこのない美しい我が主の御顔に俺はこれまで以上に


我が主を愛し・・・、おっと要らないノロケ話が混入してしまった。


まあつまりまとめると嫁さんのことを悪く言った兄貴を許せなかった孟さんが兄貴を


突き放して学校から飛び出たのはいいが、妹は見当たらないし兄貴との仲が


これで終わりになってしまうんじゃないかという不安が胸の中で渦巻き、


さらに道場へ向かっている最中の脇夏姉妹にタイミング悪く会ってしまい、


何とか普段通りの強気モードを振る舞っていたが、脇夏姉に


「あんた、なんか顔が全然余裕そうじゃないけど。何?まさかあの変態彼氏に


振られたの?!


あはは、ダッセェ!!」と言われ、脆くなっていた孟さんの心は遂に折れた。


頭が冴えず碌に反論も出来ないまま孟さんはそのまま何も言わずに学校へ戻り、


そして校門から先に足を踏み入れることが出来ずに門の横で一人蹲って泣いていた


ところを兄貴が声を掛けてきて、めでたく二人は仲直り。



今日も今日とて二人揃ってお見舞いに来た。暑苦しいこと、この上ない。



「あの、妹君・・・。本当に申し訳ない!!」


土下座する兄貴。孟さんは止めることなく二人のやり取りを見守っている。


「頭を上げて、子考くん」


「・・・妹君・・・」


「もう、どうでもいいからさ」


「あぁ・・・なんて心の広い妹君なんだ・・・」


土下座を止めて床に正座する感動の涙を流す兄貴。


正直弟の俺から見れば気持ち悪いから早く帰ってもらいたいんだが・・・。


「はあ・・・でも残念」


「へ?」


兄貴の表情が固まる。


「あなたが謝らなかったら、お姉ちゃんとの本格的な子作りを始める前に、私、


あなたの大切な部分を喰い千切ってやろうと思っていたのにな。残念っ」


舌を出して可愛いしぐさをする嫁さんの姿が可愛くて今の言葉が耳から


すっぽ抜けそうになったけど、ちょっと今、結構ヤヴァいこと言って


いませんでしたか?


横に立っている孟さんの顔を横目で見た。


眉間に皺を寄せてまるで鬼のような形相をして二人を見守って?いる。


その気迫に圧倒されながら俺は何も言わず、立ったまま


そっと目を閉じた。





という流れで俺は自分の怪我を無視して嫁さんの看病をしている。


傷は・・・まあ愛の力?のお蔭で今は全然痛くないし誰かにまた切り付けられない


限りはもう大丈夫だと思うし、問題は無い。


が、違う問題があった。


それはあの日、俺とあの讐居瑠葉との会話を嫁さんがしっかり最初から最後まで


聞いていたことだ。


「気絶していたんじゃないの?!」


「ううん、誰もしてないよ。私はただ、眠いから、寝ていただけ。


ブラジャー外された時も、あんまり動揺しなかった、ていうか、


いつも雲ちゃんしてくれていることだから。どうでもいいかなって」


「どうでもよくないよ!」


「そう?」


「そうだよ!!あー・・・もう、嫁さんに俺の恥ずかしい決め台詞聞かれちゃった?


雲長、超恥ずかしい!」


「そんなこと言ってたの?」


「・・・」


俺の顔から笑顔が一瞬だけ消えた。一瞬だけ。


「あ、うそうそ。俺、そんなこと何も言ってないからさ」


「だよね」


「・・・」


「それでね雲ちゃん」


そう言って嫁さんは顔色の悪いでパイプ椅子に座っていた俺の顔を覗き込む。


おーい!いきなり起き上がって動いたら寝間着が肌蹴て胸元からブラジャーが


見えちゃってるぞー?


きゃぁー!!


「雲ちゃんは誰から何を奪ったの?」


ぎゃぁー!!


「・・・ん?」


首を傾げる俺。なんて可愛く無い姿。あ、でもこの角度だと胸肉も見える。


「言ってたよ、雲ちゃん」


「んー・・・俺、何か言ったっけ?」


「誰かの物を奪うって気持ちいいだろ?」


微妙に違うけど。


「そう?俺そんなこと言っちゃったの。あらやだ!


俺、記憶が飛んでて忘れちゃったよ」


「あ、ボイスレコーダーに録音してあるけど」


「何でそんなものを持ってる!?」


「あのまま、奉ちゃんに殺されても、いいように・・・。せめて外路のことだけは、


他の誰かに、知ってもらいたかったから」


「そんなに強いのかい?あのレ・・・讐居瑠葉さんって」


「うん。奉ちゃん強いよ。凄く」


成程。ただの百合要因だけじゃなったってことだな。


「で、それはいいから。雲ちゃんは誰から何を・・・」


「奪ってないよ」


「?」


「奪ってないよ・・・」


奪い損ねただけ。


「じゃあ、あの会話、どういう意味なの?」


「・・・」


さらに俺の方に顔を近づける嫁さん。耳元から聞こえる嫁さんの息遣い・・・


エロス・・・。


「・・・えーっと・・・そうだなー・・・」


「ん?」


眼球の前には嫁さんの大きな乳房が二つ、こちらを誘っているかのように


揺れている。


その大きな胸に顔を埋めたい気持ちを押さえながら、


俺はこの状況を打破するための言葉を探していた。


「・・・奪ったんじゃなくて・・・」


「なくて?」


「―・・・裏切ったんだ・・・」





君を。


誰よりも大切な君を裏切ったんだ。


何でも話し合うって付き合い始めの頃に約束して、君は君の全てを俺に


曝け出してくれているのに・・・俺は本当のことを君には伝えていない。


「誰を?」


「秘密」


俺は耐え切れず胸の谷間に顔を埋めるとそのまま全体重を胸部にかけて、


ベッドの上に嫁さんを押し倒す。


先程から肌蹴ていた寝間着は更に乱れ、胸元が大きく開いていた。


「・・・看護師さん来るかも・・・」


「大丈夫。来ても気にしないよ」


だってこの町はそういう町だから。だから周囲に気を掛けることなく、


俺は嫁さんの胸元に手を忍ばせて行為に及ぶ。




ま、個室だから問題なし!










で、現在。


飽きることなく俺に誰を裏切ったのか聞いてくる嫁さん。


もういい加減にしないとキレちゃうぞー!とは言えなかったので、


また裏切ってしまう。


「それはね・・・纏伊 文遠のことだよ」


「誰それ」


「俺のストーカーだった奴さ」


「・・・あぁ、子龍がシメた、あれ」


「そうそう、あれあれ」


『あれ』って・・・。凄い言い方だな。


「俺はあいつにずっと『お前に興味が無い』って言ってたんだけど、


実は俺・・・あいつの顔はそこまで嫌いじゃなかったんだよね」

「―・・・は?」


今までに聞いたことが無いドスの利いた声を出す嫁さん。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・。


「でっ・・・でも、結局最後までそれを奴に伝えることは無かったんだな。


だから、俺はあいつの真正面からの気持に嘘をついた=裏切ったってことだ!


あはははは」


「・・・」


「・・・あ・・・あの、本当に・・・俺は嫁さん一筋だから・・・」


だからそんな視線を送るのは止めて!!泣いちゃうよ!!!


「本当?」


「この気持ちは本当だ!!」


いつになく強気に答えてしまった。


嫁さんも見慣れない俺のそんな姿に目を丸くしていたが、すぐに表情を変えて


俺を見つめて・・・そして微笑んだ。


「ごめんね、疑って」


「全然怒ってないし」


「ありがと」


嫁さんの唇が俺に触れる。


このままずっとこうしていたいけど・・・。


そんな俺の気持ちを読んでいたのか嫁さんの唇が離される。



あぁ、もう少しだけ・・・


「舌・・・いいよ」


「・・・」


瞳の中に映る嫁さんの頬は赤く染まっていた。


自分で言いだしておいて恥ずかしくなったのかもしれない。


もー!!嫁さん、かわいいー!!!


「じゃあ・・・失礼して・・・」


「・・・んっ・・・」


再び舞い降りる唇に今度はしっかりと逃さないよう厭らしく吸い付く。


俺の服を握りながら逃げないよう必死にキスを続ける嫁さんが


いつも以上に可愛かったから、その身体をしっかりと両腕で抱きしめながら



俺たちは熱い口付を飽きるまで続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ