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裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 10―1・5』



手が震えていた。


何十回と彼女を殴り続けた鉄パイプを握りしめていた私の手。


気持ちは何の高まりも無いのに、それでも手の震えがおさまらない。


怖い?それとも後悔?何も感じないけれど・・・。



「・・・まあ、そういう訳なのよ」


とりあえず倒れる奉ちゃんに話が終わったことを告げるが、全く反応が無い。


やはり意識を飛ばしてしまったのだろう。あれだけ殴ってしまったのだから


仕方ないか。


「・・・はぁ・・・」


しかし思い出したくない思い出を語るのは疲れる。


何故過去の傷を曝け出さなければいけないのか。


大体奉ちゃんがあんな女のことを親友だとか思い込んじゃったのが悪いんだよ。


確かに私は友達かそれ以下の関係だったけど、それでも同じ道場で雲ちゃんたちの


お父さんであり私たち3姉妹の恩師であるあの人が居たところで一緒に修行を


してきた者同士じゃないか。


友達って言わなくっあって、それなりに仲良しさんだと思っていたけど・・・


やっぱり愛情不足だったのかな。家族が居ない奉ちゃんにはやっぱり自分を


誰よりも想って大切にしてくれる親友じゃなきゃダメだったのか・・・


「許さ・・・ない・・・」


「え」


声が聞こえたので我に返ったが、時すでに遅し。


私のお腹に深く刺さったナイフ。


痛みが全身に響き握っていた鉄パイプを地面に落とす。


顔の熱が冷め倒れそうになる身体を踏ん張らせて刺さったナイフを引き抜こうとした


私のお腹(しかも刺さってるところを)目掛けて鉄パイプがフルスイング。


「が!!はぁっっ!!・・・あぁっっ・・・!!」


やってくれた、やってくれたよ奉ちゃん。


出る杭の様に打たれた私に刺さったナイフは柄まで内部に入り込み中の臓物が


傷つけられている可能性大。



「ぐぶぅっっ!!」


なので、口から大量の血液をリバース。


ヤバイよ・・・これはヤバイよぉ・・・。


「はっ・・・はぁっ・・・」


目の前がクラクラしてきたけど頑張って立つ私の姿に奉ちゃんはどんな眼差しを


送っているのかは瞳がぼやけているから分からないけど、多分


凄く楽しそうなんだろうな・・・。


あー・・・もうダメ。倒れよう。







・・・玄徳が倒れた。顔色も悪いし本当にダメかもしれない。


「・・・ねぇ・・・玄徳・・・」


私はゆっくりと腰を下ろして地面に座り込む。


目の前には口から大量の血を吐き出して微かに胸を上下に動かす旧友の姿。


「・・・」


玄徳が着ているシャツを強引に左右へ広げれば膨よかな胸が顔を出した。


ブラジャーを上方へ移せば露わになったピンク色の突起物が乳房と共に揺れている。


私がそれに手を伸ばそうとした時に後頭部の方から聞こえた金属音。


無言で振り向けばそこには銃を構える髭面の男。コイツは確か玄徳の夫とか言ってる奴。


「ゆるく無い百合は痛々しいだけだぜ?」


「・・・私、そっちの属性はないから」


格好つけてるつもり?寒々しい奴・・・


「じゃあ嫁さんのブラジャーを元の位置に戻して貰えないか?


そんな寒そうな格好をしていたら嫁さんが風邪を引いちまう」


「残念。折角この子の胸に深い切り傷でも付けてやろうかと思っていたのに」


「女の子の胸を傷つけるなんて最低な行為だぜ?例えアンタが同じ女だとしてもな」


「・・・随分と優しい旦那さんだね」


殺すか・・・。いや、それより


「ねぇ、聞いてくれる?」


「俺は嫁さんをすぐにでも病院へ連れて行きたいんだが?」


「私の大切な親友はショートヘアーが似合う子だったの。


本人もロングは嫌いだって言っていたの、出会った頃は。でもね、それから暫くして


彼女は髪の毛を一切切らなくなった。


だから何となく聞いたの。髪の毛伸ばすの?イメチェンでもするの?


って。『そんな気は無い』『ロングヘアーは面倒くさいから嫌』そう私に言ったのに、


それでも彼女は髪を伸ばし続けた。ある日気が付けば彼女はマニキュアを付け始めて


いたの。


『私、化粧とかオシャレって興味ないんだ』そんな風に言ってた彼女が毎日同じ


エメラルドグリーンのマニキュアを塗り始めた。私は彼女がそういう物に


興味を持ったんだと思って、翌日同じ色のマニキュアを塗って彼女に見せたら


『今すぐ消せ』って怒られてすぐに除光液を塗って消したの。


そしたら『ありがとう』なんて言われて、よく分からないけど褒められたから


とりあえず笑った。


それからも彼女は変わり続けたの。


そして気が付けば彼女の姿は玄徳の丸写しだった。


髪形もハーフツインにして爪の色はエメラルドグリーンに輝き、ただ肌の白さだけは


真似できないからってわざわざ白粉なんか付けちゃって・・・


とても満足そうだったから私は何も言わなかったけど、


やっぱ似合わなかったな。でさ、質問だけど・・・やっぱり彼女は


玄徳が好きだったのかな?」


髭面に聞いてみれば、私のこの8年間の胸の中で渦巻く靄にロンギヌスの槍が


撃ち込まれる。


「好きだろう。好き過ぎんだろう」


「・・・そうなんだ・・・。やっぱ、そうだよね」


「あぁ」


・・・だったら教えてよ・・・


「・・・ねぇ・・・じゃあなんで彼女は私の親友になったの?


私に近付くならそこには玄徳だっていたんだから、玄徳に直接話しかければ


よかったじゃん!


なんで私を介して玄徳と話していたの?どうして・・・」


「そりゃあ」


少し言葉を溜めてから、髭面は言った。ハッキリと




「誰かの物を奪うって、快感だろ?」





・・・。


「私の傍にいた玄徳を私から奪うことが・・・目的だったってこと?」


「ついでにアンタと嫁さんの仲も裂きたくて仕方なかったんじゃねーのかな。


自分カッコいい系を気取っているけど、そいつは結局ただのお子様だ。


他の人間が持っている物をとにかく欲しくてたまらない。でもただ貰うだけじゃ


つまらないし、用が済んだら誰も自分を見てくれなくなるから駄々をこねて


周りの視線を自分に向けさせる。


そしてそんな自分に振り回される大人の姿を見てほくそ笑んでいるような


糞餓鬼野郎だ!」


「・・・」


自信満々にそう言い放つ髭面。どこからその自身が出てくるんだ?


「だからそいつに会ったら言ってみればいい」


「何て?」


「自分と嫁さんの仲は元通りなりました。あなたが何をしようが私たちの友情は


揺らぐことはありません。


なんだか陰でコソコソしているようだけど、それはあなたの独りよがりなのよ?ってな」


髭面は私の身体を押しのけて玄徳のところへ行き、


自分が着ていた上着を露わになった上半身に掛けてあげると、優しく玄徳の身体を


持ち上げた。


「殺さないの?私を」


何のための拳銃よ


「そんな暇無いから」


髭面はそう言って玄徳を抱え込みながら倉庫の外へと走り出していく。


後に続くように私も倉庫から出て行くと、入り口の横に自転車が一台放置されている。


「・・・弟塚・・・雲長・・・」


そういえばそんな名前だったと改めて逮捕される前の記憶を探りながら、


私は公台がいる病院へ向かって歩き出した。

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