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裏切の美徳

2色目        『裏切りの美徳 10』




意識が戻ったのは重機に頭を叩きつけられて20回目のこと。


額は切れて流れた血が瞳の中を真っ赤にして見えにくい。


しかしこのまま叩かれていては脳みそが「こんにちは」って出てきそうだから


21回目の打撃を両手で重機を押さえて阻止、怯んだ所を狙って頭部を渾身の力で


後方へ動かし逆頭突き。


「がはっ!」


手応えがあった。


口元に命中した頭突きにより髪の毛を掴んでいた手が離れなんとか私は再び自由を


得る。


だけどさすがに何度も地面や壁に叩きつけられたせいで骨と皮しかない私の身体は


もうボロボロ。


正直、もう負けてもいいかも・・・。


いや、だってこの勝負に負けようが勝とうが私と奉ちゃんはもう・・・


「うがあああああああああああああああああああ!!!」


叫びと共に振り下ろされる鉄パイプ。


あー・・・こりゃ頭が真ん中でぱっくり開いちゃうよ。勘弁してよ・・・。


「あっ!あっ!あっ!あっ!」


倒れても攻撃は止まることを知らない。


頭、腹、背中、胸、足、腕当たるところに全てを鉄パイプで殴る奉ちゃん。


もう限界ギリギリなんですが。


「・・・ねぇ・・・ねぇ・・・もうやめようよ」


じゃあ止めてくれよ。


「玄ちゃん、もうすぐ死ぬよ。だからさ、もう楽になろうよ」


どの口がそんなこと言ってんだ。アホか


「何で話そうとしないの?やっぱり私は二人の友達じゃないの?やっぱり私だけ


仲間外れなの?元から私のことなんか数に入れて無かったの?ねぇねえねぇねえ


ねぇ・・・教えてよ・・・死ぬ前に教えてよ。


それとも死ぬまで私には教えたくないの?友達じゃないから?


そうなの?ねぇねえねえねぇ玄ちゃん玄ちゃん玄ちゃん!死にそうな目で


私を見てよ!!教えてよ!!私だけ仲間外れにしないでよ!!


全て話してから死んでよ!!聞いているの?


聞いているの!!!?ねええええええ!!!!!!


答えてよおおおおおおおおおおおお!」


両手でおかっぱ頭を掻き乱しながら吠える奉ちゃん。


相変わらずの情緒不安定っぷりだ。懐かしいな・・・。


「・・・答えないなの・・・?答えないなら・・・また、殴らなきゃね・・・」


落とした鉄パイプを拾い上げ頭上で構える奉ちゃん。的は私の顔。


鼻の骨が折れて歯も全部無くなったブッサイクの私を、雲ちゃんはもう


抱いてくれないかな。


それだけは・・・嫌だな・・・。


大体何で私ここまで秘密を守ろうとしているのだろう。


吐き出してしまえばいいのに、誰にも怒られないのに。



何をここまで頑なになっているの?








『だって誰かを裏切るって、とても美しいでしょ?』



「・・・」



『君ヶ主さんは分からないの?裏切るという行為の美しさと楽しさが』



「・・・」



『あなたにも謝らないとね。ごめんね、君ヶ主さん。将来きっとあの子は


貴方のところへ復讐しに行くから・・・あなた殺されてしまうかも』



「・・・」






『そうよ、私は・・・』






「・・・外道・・・」




過去の記憶が山場に向かって走り出したころ、それを阻止するかのように


鉄パイプが振り降ろされた。






「二人で町を出て行って欲しいの」


そう言って切符二人分をその子に手渡す。


「どういうことか、説明してくれないの?」


「・・・詳しくは言えないの・・・。でも、あなたたちを利用しようとしている


人がいるの。だから少しの間だけでいいからこの町から離れて。


その間の資金とかはこっちで用意するから」


「少しの間だけ逃げればいいのね?」


「・・・うん」


「そう・・・」


彼女はそう言って大きく頷いた。


「分かった。じゃあ早速そうするよ」


「っ・・・あ、ありがとう・・・!!!」


これで二人を助けられる。よかった・・・、私は友達を失わずに済んだのだ。







翌日




「・・・へ?」


学校へ行くと二人は普通に学校へ来ていた。


昨日と同じように、まるで私との会話など全く聞いていなかったような素振りで、


同じクラスの子たちと来週遊ぶ約束をしている彼女。もう一人の彼女は静かに


空を眺めている。


「・・・」


私はもう一度彼女を呼び出した。


「どういうこと?」


「何が」


「私・・・昨日言ったじゃない!この町から・・・」


「あー・・・なんか言い出しにくくってさ。まだ言ってないの。ごめんね」


「ごめんねって・・・そういうんじゃなくて・・・」


「悪いけど人待たせているから」


彼女はそう言って早足でその場を離れて行く。私の気持ちは全く


通じていないんだ・・・







「なによ、これ」


放課後、昨日彼女に渡した切符を戻された。胸元に投げつけてきたのは


もう一人の子。


「・・・あのね・・・」


「こんなことして・・・。私達が嫌いなら嫌いだって言えばいいじゃん!!


何なの?遠まわしに嫌がらせするの止めてくれないかな」


「・・・」


もう何を言ってもダメだと悟った私は彼女からの暴言に一切の反論もせず、ただ


聞くことだけに徹した。







「玄ちゃん?どうしたんだよ」


帰り道、弟塚の雲長くんが声を掛けてきてくれた。


すごくうれしかった・・・。


「・・・何でもないんだ。ちょっと友達とうまくいかなくてさ」


「何かあったら俺に言ってくれよな。出来ることならするからさ」


「ありがとう。雲長くん」


私が微笑むと、彼も微笑んでくれて。とてもうれしくて、気が付けば涙が頬を


伝っていた。










翌日


やはり彼女たちは居る。


帰り道、今日は雲長くんに会えなかった・・・。少し寂しい。


「ただいま」


玄関には文ちゃんの靴しかなかった。


お姉ちゃんがいつも履いている赤いブーツが見当たらなくて、少しだけ嫌な


予感がする。リビングへ行くと文ちゃんがいた。


「・・・ただいま」


私が声を掛けると文ちゃんはこちらへ駆け寄り、そして強く私を抱きしてくる。


「玄ちゃんお帰り・・・。何もなかった?誰かが後を追ってきたとか無い?」


「え・・・、何・・・。何かあったの・・・?」


「・・・弟塚さんちの雲くんが今日学校へ行く途中で誰かに襲われたらしくって。


今、公さんと子考くんが病院に行ってて孟ちゃんも子考くんの付き添いで


病院へ・・・」


「・・・」


その日、私は一睡も出来なかった。








次の日の朝



朝一番に雲長くんのところへ行くと、雲長くんは元気そうな笑顔を私に


見せてくれたけれど、身体に巻かれた包帯が目に入るたびに胸が痛む。


「・・・ごめんなさい」


「何で玄ちゃんが謝るんだよ。頭を上げてよ」


「・・・ごめんなさい・・・」


「玄ちゃん、俺本当に大丈夫だからさ。・・・ははは、いやー参った参った。


朝学校へ向かって歩いていたら、いきなり知らない女に襲われてさ、


びっくりだよー。


なんか俺を殴りながら奇声上げてさ、あれは・・・


ちょっと心がヤバイ人なんだろうね。


偶然たまたま俺のクラスの奴が近くにいたみたいでわざわざ救急車で俺を病院まで


運んできてくれたから命はとられずに済んだけど、まだ犯人は逃走中だし。


この町は誰かが襲われても誰も助けちゃくれない。だから玄ちゃんも登下校の時は


一人で歩かずに誰か友達と一緒にかえるんだよ。


って・・・玄ちゃんは3姉妹揃っては強いから大丈夫かな?あはははは」


「・・・」


折角雲長くんが明るく振る舞ってくれているのに、私の顔は曇ったままだ。


「・・・ごめんなさい・・・」


「・・・あ・・・あぁ・・・まぁ、女が玄ちゃんの通ってる中学校の制服を


着ていたからって、だからってなんで玄ちゃんが俺に謝る訳?


全然関係ないじゃん!!」


「・・・私は・・・私はきっと・・・関係しているの・・・。


昨日・・・帰り道に雲長くんと話していたから・・・笑っていたから・・・


だから・・・」


根拠は無いし証拠も無い。でも可能性はゼロじゃないから・・・。


だから私は・・・


「玄ちゃんは謝らなくていい」


「・・・」


「原因とか理由とかはどうでもいいよ。あー・・・ほら、それに俺生きているし。


死んでないから、そういう難しい話はもう聞きたくないから」


「・・・雲長・・・くん・・・」


彼の暖かい手が私の頬に触れる。あの人と同じ大きな手だ。




「・・・ねぇ・・・雲長くん・・・」


「何?」


「私、将来雲長くんのお嫁さんになりたいな」


「・・・」


雲長くんの顔が固まる。あぁ・・・やっぱ私はそういう目では


見られてなかったのか・・・。


「・・・え・・・えええええ・・・えええええええ・・・っと・・・。


・・・マジですか?」


「マジって?」


「あ、いや、あの・・・。本気?ってこと」


固まったと思っていた雲長くんの顔がいつのまにか普段通りの顔から更に表情が


溶け出して、なんて言えばいいのか。でも今、凄く真っ赤な顔をしている。


「うん。本当だよ」


「・・・はっ・・・ははははははは・・・はは」


目を泳がせ頭を掻き乱す雲長くん。


「・・・雲長?」


「呼び捨て!!?」


「あ、ごめん」


「いや、いやいやいや。もう、なんていうか・・・なんていうか・・・。


・・・あ・・・有難く・・・じゃなくて、ありがとう。玄ちゃん」


「玄ちゃんじゃないよ」


「え?」


「私は、今からあなたの未来のお嫁さんだから『嫁さん』って呼んで。


私は・・・じゃあ『雲ちゃん』って呼ぶから」


「・・・嫁・・・さん・・・?!」


「うん」


「・・・嫁さん・・・」


「・・・うん・・・」




気が付くと見つめ合っていた私と雲ちゃんは、そのまま身体が赴くままに


二人でベッドへ倒れ込んだ。


熱い抱擁の後、初めてしようとしたキスは私の食欲が強すぎたため彼の舌を


食い千切りそうになってしまい失敗。


だからその先の行為に私たちは足を踏み入れた。


雲ちゃんの身体に負担が掛らない程度に、それでもどこまでもお互いを求め続けて


身体を交じり合わせる。


でもごめんね、雲ちゃん。


私の初恋はきっとあなたのお父さんで・・・


あなたの中にお父さんを重ねているのかもしれない。





そんな私でもいいなら、いつかきっとあなたのお嫁さんにしてくださいね。











「あまり怒ってないのね」



町外れの倉庫。


あの子を呼び出した。


「怒っているよ。だからアンタを呼び出した」


そう言って、次の瞬間には私の拳は彼女に向けて突き出されていた。


彼女は守ることませず、殴られ続けた









「・・・来たね・・・」


次の日。同所


もう一人のあの子、雲ちゃんを襲った張本人と対峙する。


彼女は普段落ち着いているが感情が高ぶると、その心は完全にブレまくり


正気を保てずただ狂うだけの化け物と化す。


化け物というところだけなら私と同じだ。


「げ・・・げぇ・・・玄徳ううううう!!!!!許さない許さない


許さない!!!あああああああああああああああああああああああああああ


あああ!!!!」


襲いかかる猛獣。だから私も容赦などしない。本気で殴り殺そうと思っていた。


「そこまでだ!!」


そこへ見知らぬ数十人の男の声。私達の身体は自然と動きを止める。


讐居瑠葉むくいるは 奉先。動物虐待の容疑で逮捕する!!」


掛け声とともに盾のようなものを持った男たちが彼女の周りを囲みだす。


私もその子も何が起きたのか全く分からなかった。


「玄徳・・・!!!どういうことよおっ!!どうして、どうして私っ・・・」


男たちに囲まれながらこちらに腕を伸ばす私の友達。


「っ・・・奉ちゃん!!」


その手を掴もうと近づこうとする私の身体を一人の男が後ろから羽交い絞めにして


動きを封じる。


「君、危ないから離れて」


「離せ!!離せよおっ!!」


私が男から離れようと必死にもがく間にも男たちは奉ちゃんを囲い、太い棒で殴り


つけていた。


何故こんなことになっているのだろう。


「なんで・・・なんでええええええええ・・・・!!!」


倉庫内に響く叫び声。


時間が経ち声が消え掛けてきた頃、男たちに引き摺られながら奉ちゃんは警察へ


連行されていく。


私はただ倉庫の中で立ち尽くすことしか出来ずにいた










「あはははは、いやー・・・傑作だわー。こんなに上手くいくなんて・・・。


あははははは!!!」


夕刻、彼女が入院する病院


「・・・やっぱりあんたなの・・・」


問えば、目の前にいる女はベッドに横たわったまま楽しそうに笑いながら頷いた。


「私以外に誰がやるのよ?あんたどこまで頭悪いの」


「・・・あんたは何がしたかったの。こんなことをするためだけに奉ちゃんに


近付いたの?」


「そうよ」


「・・・そうよって・・・」


「だって誰かを裏切るって、とても美しいでしょ?」


「はぁ?」


目の前のこの女は何を言っているのか、私には全く理解が出来ない。


そんな理由で7年間もこの女は私の友達の大切な友達として付き合ってきたの?


「君ヶ主さんは分からないの?裏切るという行為の美しさと楽しさが」


「分かる訳ないでしょ」


「ダメね・・・あなた超ダメ。あーあ・・・私の期待はずれだったのかな、


君ヶ主さんて」


「どういうことよ」


「どうでもいいでしょ。私の勝手な思いとその結末だから、あなたには関係ない」


女は勝手に自己完結して更に話を進める。


「・・・でさ、話を戻すと私は人を裏切ることに一種の快楽と感動を感じているの。


大切なものを奪われた人間がその大切な人のために復讐を果たして、


そして意気揚々と大切な人に事後報告をした時に『実はその裏切りの主犯は私でした』


って笑顔で答えたら、一体相手はどんな反応を返すのか。


私を殺しにかかるのか、関係ない人間を誤って手に掛けてしまったことへの罪悪感に


苛まれるのか、信頼していたものを無くして失意のままに死んでいくのか、


それでも最後まで私が嘘をついているんだと


思い込みながら自殺するのか・・・私はそれを見てみたいの。


だから7年間も土台を作り上げてきたのよ、本当はもう少し熟れてからにしようかと


思っていたんだけど、君ヶ主さんが面白い話を私に持ち掛けてきたからさ。


あぁ、もういいかなーって。このタイミングが一番いいのかもって思って、


それであの子とあなたを裏切ったの」


「・・・」




返す言葉が思いつかない。


同時に私の中に友達への罪悪感がゆっくりと生まれてきた。


私が最初から奉ちゃんに事情を説明していれば、こんなことにはならなかっただろう。


でももし今回この女が裏切らなかったら、奉ちゃんはこれから先もずっと


この女のことを親友だと思って接しながらコイツはいつ奉ちゃんを裏切ってやろうか


模索し続けて・・・それでいつか時が来たら確実に裏切られる。・・・その時と・・・今と


・・・どちらが辛いのだろう。


今ならまだ傷は浅い?いつかもっとコイツのことを信頼している絶頂の時に


裏切られた方がよっぽどキツイだろうし傷は深いハズ・・・。


でも結局、奉ちゃんは傷つけられてしまう。


それを回避することはコイツの本音を聞かない限りは分からないし、


そんな素振り一度もしたことないし。


だから結局は裏切られない限りコイツの本当の素顔は見えなくて・・・


でも奉ちゃんが・・・。


「そうだ」


「っ」


女の声で我に返る。


「あなたにも謝らないとね。ごめんね、君ヶ主さん。将来きっとあの子は貴方のところへ


復讐しに行くから・・・あなた殺されてしまうかも」


「・・・そうね・・・」


きっと殺しに来るだろう。それだけのことをあの子にしてしまったのだから。


「その時、あなたはどうするのかな。本当のことを言うのか、嘘をつき続けるのか」


「・・・」




私は・・・どうするべきなのだろう。



「楽しみだなー。あなたに本当のことを教えられたあの子がどんな反応をするのか。


今から楽しくてワクワクしちゃう」


・・・コイツ・・・!!!




「―・・・何か言いたそうな顔だね」




「・・・えぇ・・・今とても胸糞悪いわ」



「あははっ・・・そうだね・・・。うん、そうだよ」


私の顔を見ると口を三日月にして外路そとみち 公台は言った。


「そうよ、私は・・・外道。どこまでも他人を陥れそれに喜びを感じる腐った人間・・・。


あはははは・・・外道・・・いいね、とっても私に似合っている。あ、気付いた?


私の外路って苗字の「みち」の字を変えると『外道』になるんだよ。


やっだー!私生まれついての外道だったんだねー。あはははは、凄い凄―い」


外路はその後もずっと一人で喋り続けていたが、


私は全く聞く気は無かったので話の途中で病室を出て行く。


廊下にまで響く外路の笑い声がとても不気味で・・・怖かった。








それからだろうか。


私は実験的に何度か人を裏切ることをし続けてみた。


犬をボールで遊び倒して警察に事情聴取された時に


「それは私ではなくて仲間の翼徳がしました」と


嘘をついて翼徳を書類送検にしたり、最近では雲ちゃんを盾にして軽傷



(本人的には重症だったぽいけど)を負わせたりして、裏切り続けてみたけど、


結局外路の気持は1ミリたりとも理解できなかった。


やっぱアイツのことを理解はできないし、私まで巻き込んできたことを許すことは


出来ない。


だから秘密にするのはもうやめよう・・・。


この子だけずっと蚊帳の外に居させるわけにはいけないんだ。


奉ちゃんも上がらなければいけない、


この土俵に。








「っ・・・!!!」


顔面ギリギリのところで止められた鉄パイプ。


奉ちゃんは口を開けて驚いていた。・・・馬鹿め、私がもう動けないと思っていたのか?


まあ・・・でも正直、もう動くのきついから・・・だからさっさとい終わらせてあげるよ。


奉ちゃん


「・・・教えてあげる・・・」


「・・・ぜ・・・全部・・・?」


「えぇ・・・。全部・・・どうしてこうなったのか・・・


私がずっとあなたに言わなかった秘密を・・・あいつがあなたにまだ言っていない本当の


ことを・・・あなたに教えてあげる・・・からさ・・・」


だから、やっぱり。


「仲間と夫の仇は取らせてもらうよ」


「?」


アホ面している奉ちゃんの股間を思い切り蹴り上げる。


「きいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!」


例え一物が無くても女だって股間を蹴られるのは痛い。かなりの激痛だ。


鉄パイプを手から離して内股になり指で両足を押さえながら涙目になり小刻みに


震える奉ちゃん。


甘すぎる。


「ひぎっ?!」


落ちた鉄パイプを拾い上げて片足に殴打すれば邪魔な身体が目の前から消去された。


重い体を起こしてゆっくりと立ち上がり今度は私が奉ちゃんを見下ろす。


目から涙を流しながらガクガクと震える臆病者に向けて鉄パイプを構える。


「あぁっ・・・うあああっ・・・ううううう・・・玄・・・徳・・・?」


「・・・しっかり聞いていてね。殴りながらだから鼓膜が破れないように


気を付けてね?」


優しい声で諭してあげれば、彼女は微笑んだ。


「・・・あ・・・うぁっ・・・は・・・はは・・・ははははは・・・はははは」




引き攣った声で笑う奉ちゃん。だから私も声を出して笑ってあげる。




「あはははは、あはははは」




「はははははは・・・・はぁ・・・はぁ・・・は・・・あっ・・・」




足元に流れる液体の臭いが鼻を突く。酸っぱい匂い。


嫌だな、靴がよごれちゃったよ・・・。


最悪。



あぁ、もういいや。




「じゃあ、奉ちゃん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・玄・・・と・・・く」


「・・・」



もはや目の前の友達のことなどどうでもよくなったので、




私は迷うことなく鉄パイプを振り降ろしてやった。

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