第八節 油断した少年
(12/03/10)誤字・脱字修正
歓声に包まれる町。
大衆に囲まれるカズマ。
そしてそれを、隠れて眺めているトウヤ。
普通ならば何も出来なかった自分に対して憤慨、もしくはカズマに嫉妬するのだろうが、トウヤはそのどちらでも無かった。
「た、助かった~」
心の奥底から安堵し、腰を抜かす。
これでボクの命は何とか繋ぎ止める事が出来ました。
さすがカズマさん、貴方が真のヒーローです!
村長に殺されることが無くなったのだ、トウヤにとってこれ以上の事は無かった。
ふぅ~、と汗を拭ってカズマの元へと向かうトウヤ。
しかし大衆に囲まれているこの状況では、カズマに近づく事も出来ず。
どうしようか、とトウヤは辺りを見回す。
すると、噴水の方に集まっている自衛団の人たちが、トウヤの目に入った。
噴水から引き上げられた悪役面Aは、どうやら生きている様子。
あれほどの爆音が鳴り響いていたのに、よく首の骨が折れなかったものだ、とトウヤは感心した。
いやそれよりも。
「飛ぶんですなぁ」
デコピンで、人が。
ぶん殴って人が飛んだ時も驚きましたが、さらに驚いた現象。
どれだけ力があればあんなことが出来るんですかね。
実行した本人を、遠目で見つめるトウヤ。
その実行した本人ことカズマはというと、人質にされた女性に感謝され、ついでに周りからも賞賛の雨嵐を受けて目を白黒させていた。
どうやら本人にとって、これは予想外の反応だった模様。
しばらくの間、そんなカズマの様子を伺っていたトウヤは、しかし何か大切なことを忘れてやしないかと一考。
そして、
「そうだ、時間です!」
時間を計るために使用していた懐中時計にトウヤは目をやった。
すでに召喚から五分が経過していた。
前回召喚した際は、少なくとも数分でカズマさんは消えてしまっていたはず。
よく今まで大丈夫だったものです。
しかし、このいつ戻ってもおかしくない状況は大変よろしくないのでは。
事態の深刻さを段々と理解して、トウヤは焦り始めた。
やばいよやばいよ大変です。
このままじゃ群衆の真っ只中で人が消える、という怪奇現象が起こってしまいます。
……まぁ怪奇現象なんですけど。いえ、そうではなくて! どうしようどうしよう!
頭を抱えてあわてふためき、しかしなんとか知恵を振り絞って思いついた作戦。
それは、
「カズマさん! カズマさん!」
そう言いながら群衆をかき分けてカズマの下に突入するトウヤ。
それに気づいたカズマは、トウヤに振り向いた。
「お、応、ちょうどいい所に来た。こいつらをどうにか……」
「さすがカズマさん! 悪人から女性を助けだし、あっという間に事態を解決に導くだなんて。
さすがは正義の味方! やりますね」
「は? お前何言って……」
いいから黙って話を合わせる! 時間がないんですよ!
そう、目でカズマにトウヤは合図した。
「でももう行かなければ! 約束の時間に間に合いませんよ!」
「は? 約束? 何の約束が……」
「さっ、行きましょうカズマさん。途中までお送りします」
「お、おい」
「それでは皆さん。申し訳ありませんが、カズマさんはこれから大事な用事がありますので、これにて失礼させていただきます。
お礼の方は、ボクの方からしておきますのでお気になさらず」
そう言って群衆を掻き分け、カズマを引っ張って行くトウヤ。
カズマが行くのを惜しむ声もあるが、カズマの予定を妨げるのは悪人を倒してくれた人に対して失礼、と考えるのが普通であり、なんとかその場を逃れることに成功。
カズマを引っ張り路地裏に行く。懐中時計を見ると九分をすでに経過済み。
「おい。俺は約束なんてねぇぞ?」
「アホですか! その体が消えるのを、群衆に見せる気ですか!」
「あ、そういうことか」
「今理解しないでくださいよ、全く」
再びトウヤは懐中時計を見る。
十分まで、四秒、三、二、一。
「零」
そう言った瞬間、カズマの体が発光し、そして消えた。
「……なるほど、十分ですか」
そのまま消失時間の測定開始するトウヤ。
だが、今回はなんとなくその時間は推測できた。
「おそらく、十分でしょうね」
前の時も、だいたい召喚時間と同じぐらいだったために得られた考察。
しかし、
「ふぅ~。何とかなりましたね」
とにもかくにもこれで一安心、とトウヤは安堵の溜め息をはいた、が。
「ねぇ」
「ホアチャァ!」
突然肩を叩かれ奇声を上げるトウヤ。
だ、だ、だ、誰ですか。ボクごときに何か御用でしょうか!?
声のした方にトウヤは振り返る。
するとそこには、訝しげな表情をしたレイラと、トウヤの奇声に苦笑いを浮かべたレイナの姿が。
「なんて声出してんのよアンタ」
「あ、いや、いきなり声を掛けられたもので、つい吃驚」
「何よそれ」
呆れるレイラ。
「それよりも、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか、レイナ?」
「あの、さっきトウヤが連れていった人なんだけど……」
「そうよ、さっきの人! アンタ正直に答えなさい!」
「えっと。彼が何か?」
カズマさんがどうかしましたか?
もしかして、余計なことして怒りましたか?
それとも……、はっ! まさか見られた!?
カズマ消失を見られたと思い、トウヤは心臓の鼓動が早まった。
どうしましょう、なんて説明すれば。
『ゼノさんにもらった腕輪と実で出した人物ですよ、てへっ。』とでも言えばいいんですか?
いけません、末期症状です。
まぁ出すのを見せれば信じるでしょうけど、ゼノさんとの約束もあります。
それに、何故黙っていたかという話になるはず。
それは不味い、不味過ぎます。
すでにレイラには、全てを話した事になっています。
それなのに、嘘をついたと分かったら、何と言われるか、いやどんな拷問に晒されるか。
ああ、どうするどうすればどうするときーーーーーー!
「えっとですね、カズマさんはですね」
「やっぱりね」
「へ? やっぱり?」
突然、理解したかのような言葉を口にしたレイラに、トウヤは驚きつつも疑問符を頭に浮かべた。
「あの人がカズマさんだったのね! アンタを助けた」
「……ああ! そ、そうですよ! さっきの人が山賊に襲われていた所を助けてくれた、カズマさんでして」
「ふ~ん。それにしては仲良かったわね。確か助けて、すぐ消えたんじゃなかったの?」
「ギクッ!」
鋭いツッコミを入れてくるレイラに、焦るトウヤ。
「あ、え~と、あのですね」
しばし思案した結果、トウヤはこう言った。
「先ほどお二人が悪党面さんと戦っていた時に、偶然建物裏で会いまして」
ああ無理な言い訳、と心で思うものの嘘話を続けるトウヤ。
「その時に『どうか助けてください』と懇願し、まぁ結果ああなった訳で。そこまで親しいわけでは。ただの正義の味方と弱者代表といった関係です、はい」
「えっ!? アンタが助けを求めたってこと?」
何故か、トウヤの行動に対し、驚きを露にする失礼なレイラ。
レイナも思いは同じようであった。
「それは、まぁ。レイナが危なかったですし」
レイナに傷が付いたらボクは死にます。一種の呪いから逃れるために、ね。
「ト、トウヤが私の為に!?」
「アンタがレイナの為に!?」
二人して信じられない目でトウヤを見た。
ム、何やら大変な誤解をしているご様子。レイナの為ではなくボクの為です。
二人の間違いを正そうと、トウヤは再度口を開こうとした。
しかし、
「アンタ、見直したわ!」
「ゴホッ!」
レイラに思いっきり背中を叩かれ、トウヤは息が出来なくなった。
そしてそのまま、呼吸困難に陥って自身の意見を口に出来ない間に。
「ありがとうトウヤ。私の為に」
「うんうん! アンタを村から出して良かったわ。すっごく成長したわね! まだまだだけど」
「い、いえ。ゴホッ! そうでは、ゴホッ!」
「あ、あのトウヤ。何かお礼をしないといけないね!」
「そうね。というか何か料理でも奢るわ! 今日は記念すべき日ね!」
たかだか助けを呼んだだけで、この騒ぎ。
ボクはどんだけ自分絶対主義の他人放任主義何ですか!
……間違ってませんが。
その後、あれよあれよという間に誤解は進んでしまい、トウヤは釈明の機会を完全に逃してしまったのであった。
ちなみに、予想通りカズマは十分後に姿を現した事を、ここに追記しておく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うっぷ! 食べ過ぎました」
「大丈夫トウヤ? ゴメンね調子に乗って。でも私もレイラも嬉しくて」
「え、いや。アハハハハ」
誤解も解けず、しかも騙す形になってしまったため、好意を素直に受け入れることも出来ず。
トウヤは乾いた笑いをあげることしか出来なかった。
「それよりもすっかり遅くなってしまいました」
すでに空は茜色。
本当ならば、夕方になる前に帰る予定だったのだが。
「うん。そうだね。でもそれ程嬉しかったんだよ?」
「……いえ、もうそれはいいです」
良心が! ボクのなけなしの良心が!
「本当に自分の事以外に、全くと言っていいほど関心を持たなかったトウヤが、こんなに立派になって」
「……褒めてるんですか? それとも貶しているんですか?」
余りの低評価に、トウヤは落ち込んだ。
「……本当にありがとう。トウヤ」
「……いいえ、どういたしまして」
ああもうどうしたらいいんですか!
真実は自身の為であったので、トウヤは素直にお礼を受け入れられなかった。
「それよりもさっさと帰りましょ。遅くなったら村長に怒られます!」
「うん。それもそうだね」
これ以上、今の話しをしているとなけなしの良心がさらに痛むので、トウヤは何とか話を逸らした。
その後、しばし無言で歩く二人。
ああどうしましょ。いまさら自分の為でしたと言ってみなさい。
どれだけレイナが悲しむか。そしてどれほどレイラに地獄を見せられるか。
……このまま黙っておいた方がいいんでしょうかね? でもなぁ……。
今後の方針を唸りながら考えていると、レイナが突然トウヤの肩を掴んで止めた。
「ち、違いますよ! ボクは助けるつもりだったのは確かです。しかしですね?」
心を覗かれたかと勘違いし、トウヤは焦りながら言い訳を始めた。
そんなトウヤに対し、レイナは真剣な顔をして言った。
「トウヤ、静かにして。誰かがこっちを見てる」
「へっ?」
トウヤは辺りを見回した。しかし誰もいないし、人の気配を感じない。
「……マジで誰かいるぞ」
カズマも真剣な表情でそう告げた。
「……一体どこのどなたが」
ビビリながら、トウヤはレイナとカズマに尋ねる。
その直後、茂みの中から何かが飛び出してきた。しかも沢山。
「ヒィ!?」
突然の事に、トウヤは怯えて動けなくなる。
そんなトウヤの背後から、一つの影が現れ、トウヤを地面に押し倒し、口を塞ぐ。
「ガハッ!?」
「トウヤ!?」
「クソガキ!?」
レイナの悲鳴と、カズマの驚きの声が、トウヤの耳に入る。
その声に反応して拘束から逃げようとするも。
「動くな。殺すぞ」
上から発せられた言葉により、恐怖で動けなくなるトウヤ。
そんなトウヤをよそに、飛び出した影の一つがレイナに言った。
「お前ら、レイラの知り合いだな?」
「!? それが何!?」
レイラという名が出て、レイナは一瞬動揺するも、すぐさま気を取り直して突然現れた不審者にそう告げる。
「あいつと自衛団には何度も世話になっててな」
「……貴方たち山賊ね?」
「ふぁっ!?(なっ!?)」
トウヤは愕然とした。
また山賊!?
この前会ったばかりなのにまた!?
どんだけボクは運が悪いんですか!
「レイラと、それから自衛団に伝えろ。こいつの命が欲しけりゃ、俺たちから手を引けってな」
「な!?」
「ふぇっ?(へ?)」
驚愕するレイナと、訳の分からないトウヤ。
こいつ? どいつ? 何を言ってるんですかこの山賊は。
まるでボクの命が欲しければ、と言っているような……。
……待て待て待って、ちょっと待って。
この前も山賊に命を奪われかけて、今度も命を奪われかける。
……なんで?
「ふぉふふぁふぉんはへふんははふいんへふは!(ボクはどんだけ運が悪いんですか!)」
余りの天文学的引きの悪さに、トウヤは憤慨した。
「いいか、必ず伝えろよ。いくぞお前ら」
そう言って山賊たちは再び茂みの中へと消えていった。トウヤを連れて。
「トウヤ!」
トウヤの耳に、遠くからレイナの叫び声が聞こえた。
その声には、悲鳴の色も混じっていた。
「くそっ! クソガキを離せ、卑怯もん!」
カズマが山賊に怒鳴りつけるも、聞こえるはずがなく。
トウヤはどんどんレイナから離されて、森の中へと入っていった。
「ふぁふへへへいは!(助けてレイナ!)」
トウヤがレイナに助けを求める。
しかし。
「少し黙ってな」
そう言われ、後頭部に一撃を貰う事になるトウヤ。
その衝撃で意識が薄れゆく中、トウヤは思った。
…… 何でボクがお姫様役?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アイタ!?」
突然自身の体を襲った痛みで、トウヤは目を覚ました。
「いっつ~! 一体何事ですか!?」
痛む体で起き上がりながら辺りを見回す。
すると後ろから何かが閉まる音が。
「ん……? なっ!?」
後ろを振り返ったトウヤは、絶句した。
目の前には鉄格子。
その奥には、いかにも悪そうな顔をした男が、ニヤついてこちらを見ていたのだ。
「さ、山賊、さん」
「運が悪かったな坊主。山賊に狙われるなんてそうあることじゃねぇのによ」
御免なさい二度目です、と軽口も叩けない程トウヤは恐怖した。
「こ、ここから出してください」
震えた声でそう山賊にトウヤはお願いした。
しかし、当然のごとく。
「それは駄目だ。まぁ自衛団の出方に願うんだな。そうすりゃここから出られるぜ?」
そう言って山賊は牢屋から離れていった。
「ううう、何でこんなことに……」
再び山賊に狙われて、さらに捕まって牢屋に閉じ込められる。
あまりの自身の運のなさと、山賊への恐怖から屈みこんで頭を抱えるトウヤ。
「くそっ! あの野郎共卑怯な事しやがって!」
カズマが山賊に悪態を付く。
「お前も何黙って攫われってんだ! 少しは抵抗しろよ!」
「しましたよ! その結果がこれなんです!」
「ちっ、この軟弱野郎。だから弱い奴は嫌いなんだ」
「無茶言わないでください! どうしようもなかったんです! 弱いのもしょうがないでしょ!」
トウヤは涙を浮かべてカズマに叫ぶ。
「ピーピー泣くな鬱陶しい。この泣き虫野郎!」
「泣いて何が悪いんですか! 怖いんだからしょうがないでしょ! 殺されるかもしれないのに!」
「俺がいるだろ! 俺を召喚しろよ、そんで奴らをブッ潰す!」
「やりません! どれだけ人数がいるかもわからないのに、そんな事出来ますか!」
カズマの余りの無計画ぶりに、トウヤは怒りを露にした。
「何人いようが全部ブッ潰す!」
「だから無理ですってば!」
「無理じゃねぇ!」
「無理! 召喚時間は10分なんですよ! もし時間内に全員倒せなかったどうなりますか!」
「どうなるってんだよ!」
「ボクは殺されます! 絶対確実に!」
「わかんねぇだろそんな事! 大丈夫かもしんねぇだろ!」
「確かに大丈夫かもしれません!」
「じゃあ……」
「でも大丈夫じゃないかもしれないでしょ! そんな不確かな事が出来ますか!」
「こんの腰抜け! それでも男か!」
「またそれですか!」
カズマの男理論にトウヤは呆れた。
「男でも弱い奴は弱いんです! ついでに脆弱で虚弱で根性なしで意気地なしなんです!」
「威張って言うな!」
「文句言うな!」
二人は激しく睨み合い、さらに口喧嘩を続けようとしたその時。
「喧しい! 静かに出来んのか、この山猿共!」
「ヒィ!?」
突如隣の部屋から叫ばれた声に、腰を抜かすトウヤ。
「寝ている時に騒ぐとは何事! お主らには常識というものがないのか!」
山賊に常識を解くお隣さん。
「……ん? お隣さんて事は、ボクと同じように捕まってるってことですかね?」
「……かもな」
そう小声で話し合う二人。
「……カズマさん。見てきてくださいますか、お隣」
「……まぁいいだろう」
カズマは壁を通り抜けて、お隣に向かう。
そしてすぐさま戻ってきた。
「……どんな方でしたか?」
「ジジイだった。何かスゲェ偉そうな髭生やしてる」
「ジジイ? 偉そうな髭?」
ごく最近、トウヤは似たような人物を見かけた気がした。
「もしかしてゼノさん?」
「誰だ、ゼノって?」
カズマが首を傾げた。
「……ちょっと聞いてみましょう」
トウヤは壁に近づいて、向こう側に話しかける。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
「何じゃ!? 今、寝取るんじゃ、話しかけるな!」
「あの! あなたはもしかしてゼノさんでは!?」
「ムッ!? それがどうした!」
「やっぱりゼノさんだ!」
トウヤは少し元気になった気がした。
「あのボクです。トウヤです」
「……トウヤ?」
「はい」
しばし沈黙が流れる。
「……ん? おお、トウヤ。トウヤかお主!」
「はい、覚えて頂けてましたか!」
「うむ。息災で何より。……というか何故ここに?」
「山賊に捕まったんです」
「何じゃと!?」
向こう側で、ゼノが壁にへばりつく音が聞こえた。
「何故じゃ!? お主も捕まってしまったのか!?」
「あ、いやあの時は捕まらなかったんですけど、別件で」
「何と運の無い」
「……言わないでください」
トウヤの目から、自然と涙が溢れ出た。
「う~む。いやしかし、これは逆に好都合か?」
「捕まって何が好都合ですか!」
そんなわけあるか!
「トウヤ。お主の捕まった件、助けが来る可能性は?」
突然の発言に困惑するトウヤ。
「え? 何故そんな事を?」
「いいから答えぃ」
「えっと……」
……おそらくレイラとレイナが助けに来てくれるはず。
「はい。おそらく来るかと」
「おお! そうかそうか」
喜びの声をあげるゼノ。
「それが何か……」
「トウヤよ、頼みがある!」
「また!?」
もう勘弁してください、と言った感じのトウヤ。
「すまぬ。しかしワシはそろそろこの場から連れて行かれるであろう。
そうなる前にワシの発明品をどうにかしてあの山賊共意外に託したかった所。
助けのくるお主になら、託すことが出来る」
「あの、しかし助けが来ない可能性も!」
もうこれ以上、トウヤは変な物を押し付けられたくなかった。
「いや来る! ワシはそう信じとる!」
「何故そんな事が言えるんですか!」
「感じゃ!」
ゼノの言い分に対し、トウヤは唖然とした。
「お前もこれぐらい、能天気になれればいいのにな」
隣でカズマが、ゼノに対して酷い評価をする。
ボクにこれになれと!?
「あの、いやでも……」
「むっ? 誰か近づいてくる!」
「えっ!?」
耳を澄ますも、トウヤにそんな音は聞こえない。
しかし、ゼノの声には真実味があった。
「トウヤよ。助けが来て牢屋から出られたら、ワシのいた牢屋の中を探してくれ。
腰袋が置いてあるはずじゃ。それをお主に預かってほしい」
「え、いや、ちょっ」
「さぁこれ以上話すのは危険じゃ。お主とワシが知り合いだとバレたら不味い!」
あの、と言葉を発しようとした瞬間、扉の開く音がトウヤに聞こえた。
すぐさま黙り込み、部屋の隅で小さくなる。
足音が段々と近づいてきて、牢屋の目の前を三人の男が通った。
一人は山賊の一味らしき人。
しかし、残りの二人は服装から、山賊の一味ではないとトウヤは感じた。
三人が牢屋を通り過ぎる瞬間、最後尾の一人がトウヤの牢屋に目をやった。
のぞき込んできた目を見て、トウヤは悲鳴をあげそうになった。
顔つきから男だと思われる。しかし、トウヤに印象を与えたのは瞳だった。
爬虫類のような縦割れの瞳。そのような瞳を持つ人間を、トウヤは今まで見たことがなかった。
まるで凶悪な、肉食動物に狙われたようなそんな瞳に、トウヤの体は恐怖で震えあがる。
「……そっちは関係ねぇ。こっちの件だ、アンタ等のはこっちだよ」
牢屋を通り過ぎた山賊が、最後尾の男にそう言った。
無言のまま、トウヤを見つめ続ける男。
「こいつは何故こんな所に?」
男は山賊に質問した。
「ああ、ちょっと町の自衛団といざこざがあってな。その人質だ」
また、無言でトウヤを見つめ続ける男。
「それよりこっちだ。そうだろアンタ」
「ええ、ええ。そうです。この老人です」
もう一人の人物が山賊に答える。
その声質から、年老いた男だとトウヤは推測した。
「それじゃ連れてってくれ。それと報酬は」
「ええ、ええ。それならすでに外に置いてありますよ」
「フフフ。あれがありゃ自衛団は全滅だな」
山賊は暗い笑い声をあげてそう言った。
「……出ろ」
今までトウヤを見つめ続けていた男が、ゼノにそう告げた。
それに従うゼノ。
「それでは行きましょうか、ゼノ博士」
「ふん! どこへでも好きに連れていくがいい。しかし後悔するなよ!」
威勢良く吠えるゼノ。
「フフフ、元気の良いご老人だ」
「貴様に言われたくはないわ」
「……行くぞ」
ゼノ達はトウヤの牢屋を通り過ぎていく。
その際、再びあの男がトウヤを見つめた。
そして何かを呟き、そのまま目の前を通り過ぎていく。
「……一体何だったんでしょうか?」
男の行動に疑問符を浮かべるトウヤ。
「おい、あのガキを見張ってろ」
山賊のそんな声も耳に届かず、トウヤは考え込む。
「何だったと思いますか、カズマさん」
「俺が知るか!」
「……ですよね」
そんな風にカズマと小声で話していると。
「何をブツクサ言ってるんだな?」
どうやら見張りの山賊がトウヤを怪訝に思ったようだ。
「い、いえ何でも……」
トウヤは、何でもありませんと言おうとして、出来なかった。
目の前には巨大な男がいた。身長が二メートル程ある大男。
しかし、トウヤが注目したのはそこではなかった。
「あ、あ、あ」
その山賊の顔に、トウヤは絶句した。
まるで、今日町で見た悪役面など、赤子に等しいような、
そんな事を思わせるほど凶悪な顔。
「ヒィェェェェェェェェェェェェェェェ!」
トウヤは恐怖のあまり、悲鳴をあげた。
そして、同時にこう悟った。
喰い殺される、と。