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緑と十の育成法   作者: 小市民
第一章 召喚
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第四節 村はずれの少年

(12/03/10) 誤字・脱字修正

 トウヤが住んでいる小屋は、村はずれに存在している。

 別に『人間嫌いである』とか『孤独が好き』とか。

 そういう理由で村はずれに住んでいるわけではない。


 ただ単に、昔からその小屋に住んでいた。

 だからこれからも、そこに住んでいく。

 ただそれだけである。


 トウヤに両親はいない。

 トウヤが物心着く前に、二人ともこの世を去っていた。

 ゆえにトウヤは、村はずれの家で祖母、アリナと二人きりで生活していた。


 その祖母も四年前に他界し、現在トウヤは天涯孤独の身。

 しかし別に寂しいとか、悲しいとか。そんな感情はもうトウヤには無かった。

 確かに祖母が死んだとき、一週間泣き続けたのは事実。


 しかし、一人っきりになったわけではなかった。

 一人では大変だろう、と優しく助けてくれる村の人たち。

 何かと世話を焼いてくれる、幼馴染のレイナとレイラ。


 そして、祖母亡き後にトウヤの後継人となってくれた村長。

 普段はおちゃらけて、ほとんど信頼できようもない御人ではあるが、

 本当の肉親のように自分を育ててくれた村長に、トウヤはほんの少し感謝はしていた。


 ……確かに感謝はしているのだが、今回の件に関してはトウヤは怒らざるを得ないわけで。


「なんて危険な事をさせてくれやがるんですか、このクソ村長!」


「やかましい! 悪かったと言うとるだろうが! このボケ小僧!」


「もう少しで死ぬとこだったんですよ! ホントにもう少しって所で!」


「だからすまんと言うとるだろう! 何度言わす気じゃ!」


「死ぬまで謝ってください!」


「出来るか!」


 村を出てから何が起こったのかを、トウヤは一部事実を捻じ曲げながらも報告した。

 特に『村長が悪い』ということを前面に押し出して、である。

しかしそれでも全く反省の色を見せない村長に対し、憤りを感じたトウヤが村長に掴み掛かって今に至る、と。


 ちなみに、事実を捻じ曲げた一部とは、『実』や『腕輪』、そして『カズマ』の事についてである。

 ゼノとの約束もあるため、その部分については話しを伏せ、山賊たちからはギリギリの所で何とか逃げ延びてきた、という話にしたのである。


「なぜ村長になれたんですか!」


「何じゃ! ワシが村長に相応しくないとでもいうのか!」


「よく分かってるじゃないですか!」


「何ぃ!」


「何ですか!」


 睨み合う二人。一触即発の空気が漂う。


「あの、ゼノさんは大丈夫なんでしょうか」


 そんな二人を見るに見かねてレイナが話題を逸らす。


「大丈夫じゃろ」


 村長は軽く答えた。


「そんなんで良いんですか。一応知り合いなんでしょ」


トウヤは知り合いに対する対応がそんなんでいいのか、と呆れた顔をする。


「まぁそうなんだが何とかなるじゃろ。今までもそうじゃったし」


「何かこんな事が今までにも多々あったように聞こえるんですが」


「うむ、結構な頻度での」


「なるほど」


 トウヤは一息呼吸置いて。


「それを知っていてボクを送り込んだんですか!」


 再び村長に掴みかかろうとする。

 しかしそれはレイナによって抑えられた。


「トウヤ。冷静に」


「冷静でいられるはずないでしょ。離してくださいレイナ。あの村長は死ぬべきだ」


「トウヤじゃ返り討ちだよ」


「ぐはっ」


 レイナの最もな解答にショックを受けるトウヤ。

 彼女はこうやってたまに急所を抉ることを言うので、トウヤは少し苦手だった。

 しかも無自覚だから怒るに怒れないのである。


「まぁ、そこまで酷いことになるとは思わなかったがの!」


「胸を張って言う台詞じゃありません!」


 なんて人だ。なんでこんなのが村長なんですか。

 しかしあれですね。類は友を呼ぶと言いますがまさにその通り。

 ゼノさんにしろこの村長にしろ。どっかネジが一本どころか全部抜けてるんじゃないですか。主に頭の。


「ボケるのも大概にしてくださいよ」


 悪態をつきつう再び席に戻るトウヤ。

 レイナの煎れてくれたお茶を一すすりし、若干冷静さを取り戻す。


「……あ。そういえば村長。ゼノさんって一体何を研究してたんですか」


「ム、ゼノの研究じゃと」


 トウヤの質問に対し、途端に真面目な顔をする村長。

 キリッとした目で見ないで欲しい、とトウヤは思った。


「ええ、ちょっとそういう話を逃げている最中に聞いたもので」


「ふむ、あやつの研究か……」


「ちょっと聞いたことがある事でもいいんです」


 考えてみると実にいい質問だったのではないか、トウヤは感じた。

  昨夜感じた疑問を解消するには、この人に聞くのは大当りのはず。

 ゼノと一応知り合いの村長なら何かしらそういう話も聞いていて、知っているかもしれないからだ。


「……おお、そういえば!」


「何かあるんですね!」


 さすが腐っても村長。こういう時には役に立つ。

 さぁなんでも言ってください。


「つい最近……」


「ええ!」


 これはビンゴだ、とトウヤは思いっきり村長の方に身を乗り出す。


「とても凄い実を発明したとかなんとか」


 思いっきり机に頭を打ち付けるトウヤ。


 知ってます。それはすでに体験済みです。


「なんかもっと他にはないんですか」


「他にはなんもない」


 ああ駄目だ。やっぱり所詮、村長は村長だったという事か。


「ボクが馬鹿でした。期待したボクが。ボクのアホ」


 わずかでも村長に期待してしまった自信を罵るトウヤ。


 というよりも、誰にも話さないように言った本人が、村長に話すはずないですよね。


 ドッと疲れた体に鞭打ち、そのまま村長の家から出ようとしたところ。


「トウヤ、何故ゼノの研究がそんなに気になる」


 いつになく真剣な口調で村長が問いかけた。


「いつも自分以外の事にそれほど関心を向けないお前が」


「そうですね。トウヤにしては珍しい」


 村長の疑問に対し、レイナも同意する。


 ボクはそんなに自己中心的ですかね。いやそうか。


「いや、まぁ少し思うところがありまして」


 だって自身の問題だもん。

 気になるのはあたり前じゃないですか。


「そんなお前が少し会っただけのゼノの研究に興味を持つとはの」


『今回のお使いは大成功じゃ、さすがワシ』という感じで何度も感慨深げに頷いている村長。

 その隣ではレイナが『あのトウヤが』と驚きながらも嬉しい表情を浮かべている。


 なんかいろんな事を勘違いしちゃっているようだけど、ほっとこう。今はそれどころじゃない。


 今だウムウム頷いて自分に酔っている村長と、うれしそうなレイナを置いて、とっとと外に出るトウヤであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 村長宅から出てさあ帰ろうとしたところで、トウヤはその人物に襲われた。


「トウヤ!」


「フギャ!」


 突如背後から来た衝撃により前方に吹っ飛ぶトウヤ。

 そのまま近くの藁に突っ込んでしまう。


「レイラ! いきなり何するんですか!」


 藁の中から這い出し、口に入った藁を吐き出しながら自信を吹き飛ばした人物に抗議する。


「ただ背中を叩いただけよ。というかそれだけ何であんなに吹っ飛ぶのよ」


 吹き飛ばした女性『レイラ』は悪びれもせずそう告げた。

濃い緑色の髪を肩で切りそろえ、男らしいというより凛々しいという雰囲気を身に纏う女性。

トウヤはそんなレイラの発言に対して抗議した。


「あのね! レイラの馬鹿力で叩いたらボクみたいな紙切れは吹き飛ぶんですよ」


「馬鹿力ですって!」


トウヤはしまった、と思ったが後の祭り。

レイラはトウヤの襟を掴み、持ち上げる。


「私のどこに馬鹿力があるって!」


「今まさにボクを持ち上げてるでしょうが!」


「うるっさいわね! 心配して帰ってきたのに、なんて言い草よ!」


「心配!? レイラがボクの事を心配!?」


「なんか文句あるの!」


「いえいえありません。しかしレイラが……」


「あ、勘違いしないでよ。アタシの舎弟、いえ下僕として心配だっただけだから」


「ボクは下僕ではありません! 舎弟……、まぁ舎弟のようなもんではあるかもしれませんが……」


(昔から危ないときには何度も助けて頂きましたし……)


 舎弟発言には思うところがあり、トウヤも言い返せない様子。

 しかし、そんな事よりトウヤは気になることがあった。


「というかレイラ。村に戻ってきて大丈夫なんですか? お仕事の方はどうしたんですか?」


「大丈夫。年休よ」


「……自衛団に年休ってありましたっけ」


サボったな、とトウヤは悟った。


「そんな事どうでもいいのよ。それより一体何があったの」


「ああ、ええとですね」


 トウヤは村長に話したのと同じ内容をレイラに説明した。

 しかし、説明し終えたトウヤに対し、レイラこう言い放った。


「嘘ね」


「何を!」


レイラの嘘つき発言にトウヤは怒りを露わにした。


「何でボクが嘘をつかなきゃならないんですか!」


「アンタが山賊に襲われて、無事なはずないじゃない」


「ぐっ!」


痛いところを突かれ、トウヤはうめき声をあげた。


「いや、まぁ確かにそうですが。まぁ何とか逃げ延びたというか」


「……アンタ何か隠してるわね」


「ギク」


 あまりにも鋭いレイラに対し、トウヤは焦った。


「全て吐きなさい」


 レイラはトウヤに対し『嘘は許さない』という雰囲気を醸し出しつつ、そう命令した。

 まさに女王様である。


う~。どうしたもんですか。

 全てを話してもいいんですが、『腕輪』のことや『実』の事をペラペラ喋るのもねぇ。

ゼノさんの言うように危険が降りかかるかもしれない事を、しゃべるわけにもいけませんし。


 まぁ、レイラにしろ、レイナにしろ。

 話したところで降りかかってくる火の粉を振り払う実力はあるわけですし。

 ボクと違って……、自分で言って悲しくなってしまいますが。


 トウヤは少ししょんぼりとした。


 でも、だからと言ってわざわざ彼女たちを危険に晒す事もないわけですよね。

 というよりも、ボクのせいでそんな事になったとレイラが知ったら、ボクが殺されます。レイラに。

 ならば嘘をつくしかないわけで、しかし……。


 未だに自身を睨みつけているレイラを恐る恐る見るトウヤ。


 トウヤは幼馴染ゆえに理解していた。

 この状態のレイラに一切嘘は通じない、と。

 ならばどうすればいいのか。


「実はある人物に助けられたんですよ」


 肝心な部分を覆い隠した真実を、トウヤは話すことにした。


「その人は『カズマ』という名で、突如ボクのピンチにさっそうと現れ助けてくれましてね」


「…………」


 無言で続きを促すレイラ。


「そのカズマさんのお力で山賊たちは倒され、そしてボクも命が助かった。その後カズマさんはボクの前から消えてしまいました」


 嘘は言っていなかった。

 確かにカズマに助けられ、山賊たちは倒された。

 そして確かに目の前から消えたのだ。そこに嘘偽りはなかった。


 ただ、さっそうと現れたのはゼノから預かったアイテムのおかげであるのだが、そこは嘘を付いたのではなく言っていないだけである。何ら問題は無い。


「何、じゃあ本当に山賊に襲われたの?」


 段々とトウヤの話に真実の匂いを感じてきたレイラ。


「だから本当ですってば。その証拠にこうして焼かれそうになった後が」

 

 そう言って服の焦げた部分を見せるトウヤ。

 その瞬間、レイラは突如立ち上がった。


「ど、どうしたんですか? ボクは嘘なんてついてませんよ」


 少々真実を覆い隠しましたが。


「あの山猿共!」


 怒り狂った表情で、突如叫び出すレイラ。

 トウヤはその様子に怯え、腰を抜かしてしまう。

 ちょうど村長宅から出てきたレイナも、レイラの様子に驚いた。


「どうしたのレイラ。トウヤ、一体何があったの?」


「ボクも何が何やら」


 地面を這いながら、近くの樽の後ろに隠れようとするトウヤ。

 そんなトウヤに対して、レイラが叫んだ。


「トウヤ!」


「はい!」


 レイラの呼ぶ声に、直立不動で答えるトウヤ。


 何ですか。嘘は言ってませんよ!


「山猿どもの事は私に任せなさい。アンタにした悪逆非道の数々。私がきっちり返してやるわ!」


 男らしく言い切るレイラ。間違わないでもらいたいがレイラは女性である。


「レイナ、私町に戻るわ。後よろしく」


「あ、うん。気を付けてね」


「それじゃ」


 レイラはそのまま村から出ていった。

 後には、未だ直立姿勢を崩せないでいるトウヤと、何となく事態を察したレイナの二人。


「……一体全体何がどうなったんですか」


 トウヤはレイナに尋ねた。


「フフ。トウヤが襲われたって知って怒ったんだと思うな。レイラも女の子って事」


「……あの発言はどう見ても男のそれのような気もしますが」


 まるでお姫様の為に覚悟する勇者のようなレイラ。


ん? つまりあれか、ボクはお姫様ですか?


「……なんとも情けない」


「大丈夫。それはいつもの事だよ」


「グフッ!」


 レイナの発言に再び心を抉られ、地面に崩れ落ちるトウヤ。


「でも気にしなくていいと思うよ」


「フフフ。飴と鞭ですか。いや無知なのか?」


 悪気がないからな。


「トウヤはそのままでいいと思う。私はね」


「私は?」


「レイラは違うみたい」


「……そうですね。今回のお使いに賛成したのは村長とレイラですし」


 唯一反対してくれたのはレイナでした。


「レイラも村長もトウヤに男らしくなって欲しいんだよ」


「無理に決まってんでしょ。ボクなんかに」


 男らしく成れるもんなら、とっくに成ってます。


「ボクは『無能力者』ですよ。何の力も持たない、ただの人間です。レイラやレイナみたいな力を、欠片も持ってません」


「そういう事じゃないと思うんだけど。それに何も無いってことはないんじゃないかな」


「強くもない。賢くもない。顔も良くないし意気地なしで根性なし。ついでにお金も運もない。ナイナイづくしですよ」


 自分で言って落ち込むトウヤ。

 そんなトウヤを見てレイナは呟く。


「……私ももう少し男らしくなって欲しいかな」


「なんか言いましたか?」


「ううん」


「……ボク帰ります。それでは」


「あ、うん。お疲れ様。また明日」


「はい」


 トウヤはレイナに手を振りつつ、自宅へと向かっていった。



読了ありがとうございます。


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