第三節 出会う少年
(12/03/10) 誤字・脱字修正
「てめぇ何者だ!」
いち早く口を開いたのはトウヤに話しかけていたあの山賊。
まぁここでは山賊Aとでもしておこう。
山賊Aは、トウヤの上にいる赤髪の青年に問いかけた。
「ぁあ? 俺に言ってんのか?」
まるで『どこの馬の骨が俺様にそんな口聞いてんだよ』的な答え方。
その様子を見て、トウヤは結論づけた。
このボクを跨いでいる赤髪さん(通称)は、天上天下唯我独尊の俺様至上主義な青年である、と。
山賊Aは『私怒ってます』といった表情を浮かべ、赤髪の青年を睨みつける。
対して赤髪の青年は。
「おい『俺に言ってんのか』って聞いてんだ。しっかり答えろよ。このモブ野郎」
「モ……」
盗賊Aは絶句した。それも当然である。
盗賊Aにとっては、今まさにその存在を全否定されたような物言い。
トウヤは命を狙われながらもその盗賊Aに少し同情してあげた。ほんの少し。
「もういい。てめぇが何者だろうが関係ねェ」
怒りに震えながら声を絞り出す、山賊A。いやモブA。
「てめぇらあいつをぶっ殺すぞ!」
そう言って、仲間とともに赤髪の青年に襲いかかるモブAとその他大勢。
というかやばい、やばいですってば!
こんな数の山賊を相手にしたら赤髪さんが。
「逃げ……」
トウヤは赤髪の青年に『逃げましょう』と声を掛けようとする。
しかし次の瞬間、トウヤは圧倒的という言葉の意味を理解した。
最初に突っ込んだのは、赤髪の青年に馬鹿にされた山賊Aであった。
しかし彼は、赤髪の青年の出した右ストレートを顔面に受け、直後、錐揉みしながら漆黒の空を飛ぶことになった。
そして数十メートル先の地面に落下。
人間ってあんなに飛ぶんですか、とトウヤは思った。
続いて三、四人の山賊達が赤髪の青年の四方から躍り掛る。
しかし赤髪の青年は拳で、肘で、膝で、足で。
四方から襲い来る攻撃を受け止め、そしてまたもや山賊達を空へと舞い上げていく。
トウヤには一連の攻防が全くと言っていいほど見えなかった。
一瞬の内に何かが起こって、山賊達が空を舞う。
トウヤは、まるで山賊たちが嵐に向かって攻撃を仕掛けているように感じた。
全ての攻撃が空を切り、逆に吹き飛ばされていく盗賊たち。
驚くべきことに、赤髪の青年は未だ立っていた場所から動いていないのだ。
あきらかな異常事態に、攻撃を仕掛けていなかった残りの山賊たちは焦った。
自分たちは何故こんな化け物と戦わなくてはならないのか。
そう考えた山賊たちは、自身の身の安全の為に、やられた仲間を置いて逃げ出そうとした。
しかし。
「何逃げ出そうとしてんだ。喧嘩売ってきたのはそっちだろうが」
赤髪の青年はそれを許さなかった。
彼は腰を少し落とし、右手を腰の横に据え置いて、左手を広げて山賊たちに向ける。
まるで大砲が狙い定めているようだ、とトウヤは錯覚した。
しかし、その錯覚は正しかった。
「覇ッ!」
掛け声と共に右拳を前方に放つ赤髪の青年。
次の瞬間、数分前に聞いた爆音が深夜の山置くに再び鳴り響いた。
トウヤは爆音に驚き、目を瞑って顔を伏せ、頭を抱えた。
しばらくして、辺りは再び元の静けさを取り戻す。
一体どうなったのかが気になったトウヤは、恐る恐る顔を上げて状況を確認する。
「あんがッ」
トウヤは開いた口が塞がらなかった。
森には大きな空洞が出来ていた。
山賊たちが逃げていった方向。
そこにあったはずの木々が根元からへし折られてなくなっていたのだ。
まるでそこだけ嵐が通過したような状況。
それを行なったのは未だに自分の上に跨っている青年
そう理解したトウヤは、何だか怖くなってきた。
山賊たちは確かに居なくなった。
しかし新たな問題が浮上。
山賊たちを文字通り吹き飛ばした赤髪の青年。
ボクは一体どうなるんだろう、と震え上がるトウヤ。
しかし震え上がっているだけでは何も進展するはずがない。
トウヤは勇気を振り絞って頭上の青年に話しかけることにした。
「あ、あのう」
「ぁん」
地面に這い蹲るトウヤと、それを上から見下ろす赤髪の青年。
怖い。怖すぎます。
「あの、いい天気ですね」
あまりの恐怖に意味不明な事を話し始めるトウヤ。
何を言ってるんでしか、ボクは!
今は夜中ですよ! いや、そうじゃなくて。
落ち着け、落ち着け。しっかりとした会話をしないと変人だと思われます!
「まぁ、雲がねぇからな」
会話が通じた! 奇跡だ!
トウヤは感激した。
「というかお前、いつまでその体勢でいるつもりだ」
「あ、これは失礼」
すぐさま起立するトウヤ。
話をしようというのにあの体制はあまりにも失礼でしたね。
相手は中々に話のわかる方のよう。もっとキッチリとしなければ。
予想以上に話しやすい赤髪の青年に対して、段々と余裕が出てくるトウヤ。
「大変お見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした。ゴホン。それであなたのお名前は何と」
「俺の名前か。『カズマ』だ」
先ほどの山賊たちに対する態度と違い、実に清々しい好青年っぷりを醸し出しているカズマ。
これはいける、とトウヤは確信した。
「よろしくお願いします、カズマさん。あっ、ボクの名前は……」
「いい」
「へっ?」
しかしその確信は早々に打ち砕かれた。
「でも、ボクも名前を言った方が……」
「いいって言ってんだろ。弱い奴の名前なんて憶えてもしょうがない」
「んな!?」
余りの物言いに、トウヤは唖然とする。
「言っとくが、今回のこれもお前を助けたわけじゃないからな」
「……じゃあ何故」
「弱い奴はどうでもいいが、弱いくせに自分より弱い奴にしか拳を振るえねぇ、くそ野郎共を懲らしめたくて出てきただけだ」
「……」
「だいたいお前も情けなさ過ぎだ。『誰か助けて』なんて、他力本願な野郎は見ててムカつくんだ。
自分に降りかかってきた火の粉ぐらい自分でどうにかしろよ」
「……」
「ったく。しかも女の名前を叫ぶとはな。女々しいったらねぇぜ。この軟弱野郎」
「……しい」
カズマの話を黙って聞いていたトウヤは何かを呟いた。
「あ、何か言ったか」
「……かましい」
「聞こえねぇんだよ。ハッキリしゃべれ!」
トウヤの態度に、段々怒りを募らせるカズマ。
しかしトウヤはそれ以上に怒り、爆発した。
「『やっかましい!』って言ってんですよ!」
「どわっ」
突然の怒声に驚くカズマ。
「お前、いきなり大声……」
「さっきから聞いてれば弱いだの情けないだの女々しいだの軟弱野郎だの!」
「本当の事だろうが!」
「言われなくてもわかってんですよ!」
「はぁ?」
突然の告白に、逆に唖然とするカズマ。
そんなことはお構いなしにトウヤは続けた。
「そんな事。ボクはしっかり理解してますよ。
何ですか、レイラみたいな事言って。
ハイハイ、悪かったですね。虚弱で、脆弱で、軟弱で、アホづらで!」
「いや、俺はそこまで言ってねぇ」
トウヤは何やら過去と現在を混同し、憤慨しているようだった。
「けど人には得手不得手があるんですよ。ケンカに強い奴が偉いとは限らないでしょうが!」
「なんだとぉ」
「あれ? 図星を刺されて言葉もないですか、カズマさん」
「おいくそガキ、あんまり調子に乗ってんとただじゃおかねぇぞ」
トウヤの逆切れに、唖然としていたカズマも段々と怒り出す。
「はいはい。強い人は口で勝てなくなるとすぐ暴力を振るうんですよね。わかります」
「もう一度言うぞ。あんま調子に乗ってんと……」
「調子に乗ってるのはどっちですか!」
トウヤはカズマを睨みつける。
今現在、トウヤは誰にケンカを吹っかけているのか、は百も承知だった。
自身の命を奪おうとした輩を、ポンポン弾き飛ばしていった猛者であり、同時に命の恩人でもある。
普通は感謝こそすれ、ケンカを吹っかけるなど言語道断なのだが、トウヤはカズマの言い分には腹が立って仕方がない。
「カズマさんは命の恩人です。だから普通は礼を言うのが筋ってもんですけどね」
「けど、なんだくそガキ」
「さっさと目の前から、消えてください!」
そう言い放った瞬間、カズマの体は赤く発光した。
トウヤは突然の事に目を瞑った。
しばらくして目を開けてみると、そこには誰もいなかった。
地面には『ジュニクの実』が粉々になって落ちているだけ。
カズマの姿はどこにも見当たらない。
少しの間呆然と佇んでいたトウヤだったが、朝日が出てきたことに気づくと、
山賊たちをそのままにして村へと帰ることにした。
帰る最中、トウヤは思った。
もうこんな厄介ごとにはかかわらりません。
金輪際! 絶対に! 二度とかかわってたまりますか!
しかし、多くの疑問が残っているのも事実だった。
一体、この『腕輪』と『実』はなんなのか。
カズマは『大いなる力』の正体なのか。
そしてカズマはどこに消えたのか。
「……あ、後ゼノさんはどうなったんでしょうね」
……まぁとにかく、今は村に戻り、体を休めましょう。
もうクタクタです。家に帰ったらベッドに直行、これで決まりです。
いざいかん、安息の地へ。
トウヤは疑問を棚上げする事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。
トウヤは起きて早々に目の前の光景に仰天した。
昨日のお昼ごろに何とか村にまで帰還するができたトウヤは、村長や色々な人たちの質問を押しのけて『とにかく寝かせてくれ』と懇願。
そのままベッドに直行。深い眠りについた。
一日近くたっぶり寝たことで、睡眠欲を大いに満足させたトウヤは、さぁ今日もがんばろうと上半身を持ち上げ、そして現状に至る。
目の前に謎の物体が浮いていた。その物体はトウヤに向かって言葉を発した。
「よう、くそガキ」
目を擦り、もう一度目の前を凝視するトウヤ。
そこには昨日、赤い光に包まれて消え去ったはずのカズマ、のような三頭身の小人(手のひらサイズ)の姿があった。
「えっと、間違っていたらごめんなさい。カズマさん、で合ってますよね?」
「そうだよ、くそガキ」
「何でそんなお姿に!」
「俺が知るか!」
そんな愛くるしい姿で凄んでも、全く怖くありませんよ。
「というか消えたんじゃなかったんですか!?」
ボクが消えろと言ったから、本当に消えたと心配したものですよ。ほんの少し。
一応口は悪くとも命の恩人のため、姿が見れてホッとするトウヤ。
「ちっ、その様子じゃお前もどうしてこんなことになってるのか、知らねぇんだな」
それにはトウヤも同意することしかできない。
いったい何がどうなっているのだろうか。
「つーかお前。昨日はよくも無視し続けてくれたな」
「はぁ? 無視ですか?」
はて、と考え込むトウヤ。
「テメエが村に帰って寝るまで、ずっと無視し続けてただろうが!」
「……ああ。何やら喚き散らしている人がいるなと思ったらカズマさんでしたか」
昨日の帰宅時をトウヤは思い返した。
確かあの時は、とにかく寝たい眠りたいとずっと思い続けていて、どうやって帰って来たかさえ覚えていません。
帰ったら一発殴ろうと思っていた村長も殴らず、とにかく寝たかったぐらいですからね。
そういえばおぼろげながら耳元で『おいこら』とか『無視すんじゃねぇ』とか。
いろいろ聞こえた気もしますが、疲れからくる幻聴だと思って聞き流していました。
いやむしろうるさいこのタコ、とも思っていたような。
「……まぁ、どんまいということで」
「何が『どんまい』、だ!」
「しょうがないでしょ。疲れ切ってたんですから。少しは労わっても罰は当たらないと思いますよ」
「誰がお前を労わるか!」
そうですよね、とある意味納得するトウヤ。
それよりも気になることがあった。
「あなたは一体何者なんですか?」
一番知りたかったこと。山賊から助けてくれたときは人間の姿だったのに、今はチンチクリンの愛らしい姿。
トウヤは人間じゃないと断定し、質問した。
「知らねぇよ。つーか知っててもお前に言う必要があるか」
「……ボクに知られたくないほど恥ずかしい過去なんですね。すみません。そんな人の過去を詮索しようなんて」
カズマの物言いにカチンときたトウヤは、わざとらしく言い放った。
「何?」
「ああいいんです。いいんですよ。恥ずかしい過去は自分の心の奥底にしまっておくのが一番ですから」
「おい、ちょっと待て!」
カズマの反応に、トウヤは一人ほくそ笑んだ。
「なんでしょうか」
「誰が恥ずかしい過去なんて言った!」
「ハイハイわかってます。わかってますよ」
「違うってんだよ! 思い出せねぇんだよ!」
「なら、最初からそう言えばいいのに。全く、無駄な時間を過ごしてしまいました」
期待した解答が得られずガッカリするトウヤ。
「おい、俺の所為かよ」
「いや、まぁ、どうなんでしょうね。とにかくあなたの過去から何かが分かるという可能性は潰えた、という事実はありますから。
あなたの所為というのも考えられますが……」
「一発殴らせろ!」
そう言ってトウヤに殴りかかるカズマ。
ミニマムサイズでは痛くないだろうからほっとこう、と思ったトウヤだったが昨夜の事を思い出す。
いや待ってくださいよ。昨日の山賊たちの惨状から推測するに、
このサイズでもある程度の攻撃力があるものと推測され……、やばい!
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「うっせぇ!」
ああ、死にました。飛んだお笑い草ですよ。
山賊に殺されなかったけど小人に一発殴られて昇天とか。
しかしながらいつまでたっても衝撃がくることはなく、トウヤは不審に思いカズマの方を見た。
「えっと、何してらっしゃるんですか」
「くそっ! くそっ!」
そこには必死でトウヤを殴ろうとしつつも、攻撃がすり抜けてテンヤワンヤのカズマ。
「攻撃がすり抜ける。何故」
「知るかこの! この!」
いまだ諦めず殴り続けるカズマ。
トウヤは、そんなカズマの事を放っておくことにした。
「他に何か調べる必要があるものは……」
「トウヤ起きてる?」
外から心配そうな声で語りかける女性の声が。
この声は。
「はい、起きてますよ『レイナ』」
「そう。じゃあ入るわね」
……ってちょっと待ってください。カズマさんが!
「ちょっと待……」
「おはようトウヤ。もう元気になった?」
トウヤの静止も虚しくその女性は入ってきた。
その女性を一言で表すと『可憐』。
穏やかな物腰に可愛らしく幼さの残る顔。
髪は薄い緑色で腰までの長さがあるストレート。
あまり色恋に関心のないトウヤでも可愛いと感じさせるものを、この女性『レイナ』は持っていた。
だがトウヤにとって、今そんな事はどうでも良かった。
それよりも問題が。
カズマさんを隠すの忘れてました!
こんな不思議生物なんて説明すればいいんですか!?
「ぁあ? なんだこの女」
「いや、えっと、その……」
「どうしたのトウヤ?」
「えっとですね……」
二人に質問されて狼狽するトウヤ。
ああ、どうすれば。
森の中で拾ってきた妖精さんですとでも言えばいいのでしょうか。
しかしこんな性格が悪くて口も悪いカズマを妖精だなんて。
あ、でも妖精ってそんなもんですよね。
いろいろ考えていたトウヤに、レイナは心配そうな顔をした。
「どうしたの、まだ具合悪いの?」
「……あれ?」
レイナの態度にある種の可能性を感じ始めたトウヤは質問した。
「えっと、レイナ。ここに何があるかわかりますか?」
そう言ってミニマムカズマを指す。
「おい、くそガキ。だからこいつはなんなんだ」
カズマの事は完全に無視してレイナに答えを促す。
「えっと、ナゾナゾ?」
う~ん、と必死に悩むレイナ。
「『空気』かな? あ、でも少し舞ってる『埃』かも」
「いえ『空気』扱いで結構です」
概ね正しいと言えた。
「『空気』が正解なんだ。良かった」
「おい、誰が『空気』だ!」
少し静かにしてください、といった目でトウヤはカズマを睨む。
「それでレイナ。何かご用ですか」
「あ、うん。村長が報告に来てって」
「……ああ、昨日の報告ですか」
「昨日、トウヤがもうすぐ死ぬ一歩手前の顔してたから、すごく心配だったんだけど。もう大丈夫なの?」
レイナは再び心配そうな顔でトウヤを見る。
「そんなに死にそうな顔でしたか」
「うん、もう相当大変な目にあった上に寝てもいない、って顔だった」
はい正解です、と心の中で呟くトウヤ。
「それじゃ、もう少ししたら行きます、と村長に言っておいてくれますか」
「わかった、でも無理しないでね」
そう言って家から出ていこうとするレイナ。しかし途中で立ち止まり、こちらに振り向く。
「後、『レイラ』も居るから……」
「なんですと!」
トウヤにとって、それは由々しき事態だった。
「なんでレイラが!? 仕事はどうしたんですか!」
「私がトウヤの事を話したら帰ってきたの。昨日の夜」
「なんてこった」
予想外の出来事に、慌てふためくトウヤ。
そんなトウヤの姿に、レイナは苦笑した。
「……あいかわらずレイラが苦手なんだね」
「いえ、別に苦手とかそんなんじゃないんですよ。ただなんというか……」
無茶苦茶な事をするからなぁ。
トウヤは、心の中でため息を吐く。
「……頑張ってね」
そう言って、そそくさと家から出ていくレイナ。
おそらく過去の事を振り返り、トウヤを哀れんだものと思われる。
「はぁ、どうしたもんか」
「おい。だからあの女はなんなんだよ!」
今まで無視されていたカズマがトウヤに詰め寄る。
「あ、そういえばいたんでしたね。彼女は『レイナ』。幼馴染ですよ」
「ふ~ん」
すぐにレイナから興味をなくすカズマ。
そんなことよりも。
「何でカズマさんの姿がレイナには見えなかったんでしょうね」
「俺が知るか!」
「でしょうね」
さらに謎が増えるも、一向に解決に向かわないことに、トウヤはため息を吐く。
「ま、とにかくその事は後回しです。今は村長の所にいき、殴らなければ」
その際、村の人にカズマさんの姿が見えるかどうか検証するのも悪くない。
「ということでカズマさん。ちょっと一緒に……」
「断る」
予想通りの反応を見せるカズマ。
「でも他の人に『見える』か『見えない』か。それを確認すれば何かわかってくるかもしれないですし」
「それだったらお前以外には見えてねぇんじゃねぇか。昨日お前と一緒に歩いてても誰も俺に突っ込まなかったしな」
「あ、そうなんですか」
ということは少なくともこの村の中ではボク以外にカズマさんを見ることが出来る人はいない、と。
そう結論付けて構わないのでしょうか。
しかしそうなると新たな疑問が。
一体全体なぜボクには見えるのだろうか。
「まぁ、なんとなく想像は付きますが」
昨夜の事を振り返りながら呟く。
それが正解で間違いないだろう。
とりあえず今は村長の所に報告に行こう、と立ち上がるトウヤ。
「それでは行ってきますので、その間留守番をよろしくお願いします」
「ふざけんな! なんで俺が留守番……」
カズマが言い終わる前に、家から出るトウヤ。
一々受け答えしているのも面倒です。
どうせ何を言っても反発するんのですから。
そんな事を思いながら、トウヤは村長の家を目指す。
しかし、歩いて少し経つと、何故か後方からついさっきまで聞いていた声が、トウヤの耳に聴こえてきた。
何事かと振り返ってみるトウヤ。
するとトウヤの後方約10メートルあたりにカズマがいた。しかも何かに引っ張られている様子。
「何してんですか?」
トウヤは、少し大きい声で尋ねる。
「だから、俺が、知るか」
精一杯反抗しています、という声で答えを返すカズマ。
何とかトウヤのいる方とは逆に行こうとするも、それ以上進めない模様。
ふむ、もしかして……
無言で再び村長の家を目指すトウヤ。
それを一定の間隔で引っ張れるカズマ。
やはり、そういうことですか。
トウヤは確信した。
「ボクからある一定以上、この場合約10メートルと仮定しますが、離れる事はできないようですね」
立ち止まり、振り向きざまにそうカズマに教える。
「くっそ、なんだってんだよ、この!」
「無駄なことしてないで潔く付いてきてくださいよ。ずっと引っ張られてるつもりなんですか」
「うる、せぇ! こん、ぐらい!」
本当に、無駄な努力が好きですね。
どう考えたって、ボクとの間に何らかの縛りみたいのがあると考えられるのに。
トウヤは呆れた様子でカズマを眺めた。
仕方がないです、あの手でいきますか。
「まぁそうですね。本当の所、あなたみたいな『お荷物』にはついてきて欲しくないというか」
「何!」
トウヤの言葉に、勢い良くすっ飛んでくるカズマ。
予想通りの反応、ありがとうございます。
「いやだって、どう考えても『お荷物』にしかならないと、思うじゃないですか」
「俺が、いつ、『お荷物』に、なったって」
「ん? だって、ねぇ」
トウヤの物言いに、カズマはプルプルと体を震わせる。
「それとも、一緒に来ても『お荷物』にならないとでも」
「当たり前だ! 俺は『お荷物』じゃねぇ! ほらいくぞ!」
そう言ってトウヤの前を歩きはじめるカズマ。
ホント扱いやすくて助かりますね、とトウヤはカズマの単純さに感謝した。
トウヤは、前方を行くカズマの後を追い、歩き初める。
しかし少ししてトウヤは疑問を感じ、カズマに尋ねる。
「あの~、カズマさん」
「なんだよ」
「村長の家、知ってるんですか?」
ふと疑問に思ったんですが。
「………………」
トウヤの質問に対し、無言で返事をするカズマ。
そんな様子のカズマに、『ですよね』と呆れて首を横に振るトウヤだった。
読了、ありがとうございます。
どうでしょうか?