エピローグ
これにて第三章を終わります。
時間がかかって申し訳ありませんでした。
第四章は途中で終わらないよう、全て書き終えてから投稿します。
後、感想・ご意見・評価、よろしくお願いします。
もうあと少しで夜明けとなる時刻。
森の中には、くぐもった音が鳴り響いていた。
「グス。グス、グス」
それは焚き火の前で涙を流している、トウヤの泣き声であった。
顔面をびしょびしょに濡らし、鼻水まで流している様は実に情けないと言えるだろう。
そんな情けないトウヤに、寝転がってイライラしていたカズマは勢い良く体を起こし、トウヤに文句を言った。
「いつまでも泣いてんじゃねぇ! まだそうと決まったわけじゃねぇだろ! つうかうるせぇんだよ!」
「だって! だって! もう九時間以上も経つんですよ! なのに、未だに姿を現さないなんて……。
もう、もうシイカさんは!」
「だ・か・ら! まだそうと決まってねぇだろ! もしかしたら明日にはひょっこり現れるかもしんねぇだろ!」
「何故そんな悠長な事が言えるんです! というか何でそんな冷静なんです! シイカさんが死、死……!」
「だからうっせぇっての! 根暗女の事なんて知るか!」
「なんて冷たい態度! お友達でしょ!」
「いつ俺があいつと友達なんかになった! 巫山戯んな!」
そう言うと、カズマは再び地面に寝転がるのであった。
「グス! なんて冷たい人でしょ! 少なからず一緒に過ごしてきた人に対して、その態度はいけないと思いますよ!」
「知るか!」
なんて人でしょ! 仲が悪いと言っても、一緒にいたんですから知らない仲じゃないでしょうに。
ここまで淡白になれるなんて、信じられません!
トウヤはカズマの態度に憤りを感じていた。
そんなトウヤの感情を察してか、カズマは寝転びながら言った。
「大体よ。あの女が大丈夫つったんだろ? なら大丈夫なんだって思っとけよ」
「で、でも、破滅の力ですよ? そんな力を使って、ただで済むとは……」
「かもな。でも、根暗女は大丈夫って言って、お前はそれを信じたんだろ?
だったら信じてろ! あとうるせぇから泣き止め! この泣き虫やろう!」
「グス」
た、確かにそうかもしれません。シイカさんは大丈夫と言い、それをボクは信じました。
なら、絶対に大丈夫だと、ボクは信じる必要があるんですよね。
でも……。
「グス。ってあわ!」
そんなトウヤの泣き顔を、今まで黙って横に座っていたポチが舐め上げた。
「ポチ……。慰めてくれてるんですね? カズマさんとは大違いです」
「うるっせぇよ! つうかそろそろ寝とけ! 夜が明けたら出発するんだろ? 体力もたねぇぞ!」
「……そうですね。泣いていても仕方ありませんし、寝ますか……」
もしかしたら、起きたらシイカさんが現れてくれるかも。
そして嫌味ったらしくボクに言ってくるかもしれません。
「……何泣いてるの? 情けない」
「そうそう。こんな感じで……、って、え!?」
トウヤは被っていた毛布を弾き飛ばし、飛び起きて声のした方に目をやった。
すると、そこにはいつもと変わらない姿のミニマムシイカの姿が。
「シ、シイカさん!」
「ちっ、やっぱ生きてたか……」
シイカの登場に舌打ちをするカズマ。
そしてトウヤは、感激のあまりシイカに飛びついた。
しかし、シイカはそれを避け、トウヤはそのまま地面に落下。
「いった~~~~~い! ちょ、ちょっとシイカさん! 何で避けてるんですか!」
「……キモイから」
「キモ!?」
トウヤはとてつもないショックを受けた。
こ、これだけ心配していたというのに、それがキモイ!
ボクは大変傷つきましたよ!
「酷いです! あんまりです!」
「……それで、時間は?」
シイカはトウヤの訴えを無視して、時間を聞いてきた。
「無視ですか! って時間? え、今の時間ですか? 今は……」
「……そうじゃない。私が消えていた時間」
「あ、そっちですか! ええと、さっき九時間を経過して、あ、ちょうど十時間ですね」
「……やっぱり」
え? やっぱりって?
「まさか! シイカさん知ってたんですか? 『バーストレイズ』の効果を!」
「……別に分かってない。ただ、今までの呪文の効果と『バーストレイズ』の効果を考慮してそう思っただけ。
『レイズ』が召喚時間10分。消失時間10分。
『クロックレイズ』が召喚時間10時間。消失時間10秒。
そして、今回『バーストレイズ』が召喚時間10秒。ということは……」
「……『バーストレイズ』の消失時間は10時間?」
「……そういうこと」
なんてこった。そんな単純な事だったんですか。
泣いて損した!
「ボクの水分、返してください!」
「……『バーストレイズ』の効果と時間を考えれば、普通そんな考えが浮かぶと思うけど。トウヤじゃ……」
「ぐさっ!」
うう。無事だったからよかったですけど、何もここまで言わなくても……、ってあれ?
「シイカさん! ボクの名前を!」
「……まぁ、少しは認めてあげる。それだけだから勘違いはしないで……」
「はっ、はい」
しかし、トウヤはシイカが自分の名前を言ってくれた事に感動した。
カズマさんの時もそうでしたが、認められるというのはとても嬉しいです!
こう、成長したって思いますもんね!
そんな事をトウヤが考えていると、トウヤの横に座り込んでいたポチがおもむろに立ち上がり、森の中へと駆け出していった。
そして、その姿は暗い森の中へと消えていくのであった。
そのポチの行動に、トウヤは驚いた。
「あ、ど、どこにいくんですか!?」
そんなトウヤの疑問に、答えたのはカズマだった。
「借りを返したから、自分の住処に帰るんじゃねぇのか?」
「そ、そんな借りって。ボクの方がどれだけ助けられたか!」
ポチが居なければ、一体何度死んだ事か!
「お、追いかけましょう!」
「追いかけてどうすんだよ」
「そりゃ……、一緒に村に連れてって、そして一緒に……」
「あんな巨大な犬、村で暮らせるか。他の奴らが吃驚するだろうが」
「で、でも。ちゃんと説明「それに!」!?」
トウヤの言葉をカズマが遮った。
「……あの犬があの遺跡にいたのは、何かわけがあんじゃねぇか?
なんかよ、あそこを守ってたって感じだったじゃねぇか」
「た、確かに……」
悪臭の実で追い払ってしまった後も、あそこに戻ってきてました。
「……つまり、あそこが彼の居るべき場所って事ですか?」
「そういうこった。だから連れ戻そうなんてするなよ」
そう言って、カズマは再び無言になった。
……そうですよね。ポチにはポチの居るべき場所があるんです。
その居場所を、奪ってはいけません。
というか、勝手に遺跡に入ってすいませんでした。
「ポチーーーー! どうもすいませんでしたーーーー!
そして、ありがとうございましたーーーー!」
トウヤは、おもむろに立ち上がり、ポチが向かった方角に向かって叫んだ。
達者に暮らしてください、ポチ。
そんな風に自身の言葉の余韻に浸っていると、後ろからシイカの声が。
「……ポチって何?」
「え? それはあの狼さんの名前ですけど?」
「…………」
シイカはその答えに口元を手で覆い隠した。
「なんですかその反応は!」
「……………………別に(クスッ)」
「その間はなんですか! あと今笑いましたね!」
「ダハハハハハ!」
「カズマさんも大声で笑うな! もう! 本当は仲がいいんじゃないんですか! 二人とも!」
「「……冗談(じゃねぇ!)」」
「……ボクは、とっても仲が良いと思いますがね」
……でも、ま、いいです。
こうしてまた、三人一緒になれたんですから。
仲が悪くても、これからまた仲良くなっていけばいい。
そうですとも! 今は助かったことを喜びましょう。
そんな事を考えながら、夜明け前の星空を眺めるトウヤなのであった。
- 第三章 完 -