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緑と十の育成法   作者: 小市民
第三章 冒険
33/36

第八節 辿り着く少年

諸事情により長らく続きを書けていませんでしたが、これからは少しずつ書いていけるよう、努力したいと思います。

それでは続きをどうぞ。

「え!? それってどういう事ですか、村長!?」


 切羽詰まった表情をしながら、レイナは村長に詰め寄った。


「うむ。つまりそういう事じゃ」

「そういう事じゃわかりません! なんでトウヤがベジル山の奥に!

 あそこは危険地帯だから入ってはいけないって。トウヤも知ってるはずなのに!」


 ついさっき村へと戻ってきたレイナは、村長からの突然の報告に愕然とした。

 村長の話によれば、トウヤは昨日からベジル山の奥に行ったという。

 そんな事、レイナの常識では考えられなかった。


「何でトウヤはそんな危ないことを。危ない事に関しては絶対避けてたのに、なんで……」


 それは、村長も同じ思いだったようだが、しかしこちらは何とも落ち着いた様子を見せていた。


「ふむ。確かに今までにはなかった事だ。

 あやつが自主的に村から出て、しかも危険区域に向かうなど世界の終わりが来るよりもないことだと思っとった。

 しかし、現にこうしてトウヤは書置きを残しておるからの」


 そう言って、村長は紙切れをレイナに手渡した。

 そこにはトウヤの字で、『ベジル村の奥に行ってきます。トウヤより』と書かれていた。

 それを見たレイナは、なにかの間違いではないかと何度も読み返した。

 しかし内容が変わるはずはなく、では何かの下記間違いではないかと考えて、村長に訪ねてみた。


「何かと間違ったんじゃないですか!? ベジル村の奥ではなくて、あの、その……」

「まぁ言いたいことはわかるがの。しかし、下記間違いではないだろう。ワシもなんとなくだがそんな事を言ってたような気も……」

「ど、どういうことですか!?」


 村長の、あまりに聞捨てならない台詞に、レイナは村長に詰め寄った。


「え、いや、その、のう……」

「村長聞いてたんですか! 私には書置きで知ったって言ってましたよね! 嘘をついたんですか!」

「いや、ちがう! ちがうぞレイナよ!」


 鬼気迫る態度を見せるレイナに、村長は怯えつつ釈明した。


「わ、わしはついさっきまで寝込んでおっての。その間、多分昨日の朝方だと思うんじゃが。

 とにかくトウヤが一度家に来て、何か言っておった気がしての。

 しかし不幸にもワシは体調が悪かった。そのせいで頭がぼやけておっての。

 何を言っていたかあまり理解できなかったんじゃが。今考えると、そんなような事を……」

「何でこんな大変な時に寝込んでるんですか!」


 レイナは村長に怒鳴った。


「普段、健康すぎるぐらい健康なのに、何でこういう時に限って村長は!」

「いや! しかしこれはトウヤのせいであっての……」

「言い訳しないでください!」


 有無も言わさず村長を黙らせるレイナ。

 村長はそんなレイナの言葉に『酷いわい』とショックを受けて涙目になる。


「村長! 私、これからトウヤの所に行ってきます! 許可をください!」


 一刻も早くトウヤを助け出そうと、レイナはそう村長に言った。

 しかし、


「ならん」


 村長は涙顔から一転、真面目な顔をしてレイナにそう告げた。


「な!? なんでですか? トウヤが危ないかもしれないのに!いえ、絶対危ない事に会ってます!」

「……かもしれんの」

「だ、だったらなおの事……」

「だからこそ、じゃ!」

「!?」


 今度は村長がレイナを一括して黙らせた。


「今回、トウヤは自らの意志でベジル山の奥へと足を踏み入れていった。危険区域だと知っててなお、の。

 つまり、この件は既に我々がどうにかする問題ではない、ということじゃ」

「そ、そんな無責任です!」

「無責任? いや違うの。むしろ逆に聞くとしよう。レイナ、お主過保護過ぎやせんか?」

「か、過保護?」


 レイナは、まさかそんな事を言われるとは思っておらず、唖然とした。


「うむ。レイナ、お主は過保護。わしにはそう見えるの。

 トウヤのやる事成すことに、一々反応し過ぎじゃ。昔からの」

「で、でも! だって今回はトウヤ、危険区域に入ったんですよ? それなのに助けに行くのが過保護なんですか!」


 レイナは村長の物言いに対し、怒りを露わにした。

 しかし、村長も負けてはいなかった。


「レイナ、トウヤは危険と知りながら、おいそれと危ないところに行くほどおろかかの?」

「そ、それは……」

「ワシはそれほど愚か者ではないと思っておる。何かしら考えがあって、今回危険区域に出向いたのじゃろ。

 それならば、ワシはトウヤのその考えを信じ、尊重することが大事だと思っとる。そうじゃろレイナ」

「は、はい。で、でも……」

「……いつまでも、子供ではないのじゃ。物覚えの悪いトウヤも色々な出来事に巻き込まれ、ようやく自分の意思で前に進む努力をし始めたのじゃ。

 それなのに、その意志を捻じ曲げて助けにいく。それでは本当の意味で前に進むことなど出来んと、ワシは思っとる」

「…………」


 もう、レイナは黙って村長の話しを聞いていた。


「トウヤを信じるのじゃ。レイナ、お主に必要なのはまさにそれよ。いつまでもトウヤの心配ばかりしていては、トウヤの成長を妨げる事になる。

 トウヤが成長をするのが嫌というなら別じゃが……」

「そんなことありません!」


 レイナは怒りを込めて村長の言葉を否定した。


「ならば、トウヤを信じて、村に帰ってくるのを待っていられるのじゃな」


 レイナは少し考えて、しかし覚悟の表情を村長に向けて。


「はい。トウヤを信じます」


 そう、はっきりと言い切ったのであった。


 村長はその言葉に一つ大きく頷いた後、窓からベジル山の方へと視線を向けて、思った。


『トウヤよ。無事に帰ってくるんじゃぞ。男なら、冒険の一つも満足に出来なくてはいかんからの』



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はっ、くしゅん! うぅう! 誰かボクの噂でもしてるんですかね。……レイラ辺りが」


 村長とレイナに心配されている事など全く考えていないトウヤはというと、今現在自身の持ってきた袋の中を漁っている真っ最中であった。

 そんなトウヤの近くには、暗い中で辺りがしっかり見えるように青い炎を灯しているシイカと、イライラしながらトウヤを待っているカズマの姿があった。


「おいトウヤ! まだ目的のもんは見つからねぇのかよ!」

「もう少しだけ待ってください。確かに入れてきたと……。あ! ありましたありました!」


 そう言って、トウヤは袋の中から腕を取り出した。


「おお! それがあれか!」

「はい、小型植木鉢です!」


 トウヤが手に持っていたのは、掌に乗るぐらいに小型の植木鉢であった。


「さて! これに『蛍光の実』を植えて、と。もう少しだけお願いしますねシイカさん!」

「……了解」


 トウヤはシイカそう言いながら、『家宝の腰袋』に手を突っ込み、目的の実を取り出して、『小型植木鉢』に植えた。

 すると、


「おお! 相変わらずいい光具合です!」


 『蛍光の実』はすぐさま光を発し、トウヤ達を照らし出した。


「おっし! これで準備万端だな! 行くぞトウヤ!」

「はいはい。あ、シイカさん。もう炎を消していいですよ。ありがとうございました」

「……別に」

「はは。さ~てと! うわぁ~、やっぱり底が見えないほど深いですね~」


 トウヤは自分たちが立っている場所から下の空洞に目をやった。


 そこには『蛍光の実』の光で見えないのか、それともあまりにも深くて確認できないのかわからないほどの穴が、地下へと続いていた。

 そしてその空洞には螺旋を描きながら地下へと向かう階段が。


「……この階段を降りていけばいい。そう考えていいんですかね?」

「だろ?」

「……おそらく」

「なるほど。では行きましょうか! ……カズマさんからお願いします」


 地下へと降りていくのはいいとして、先頭を歩いていくのは遠慮したい小心者のトウヤ。


「ったく、しょうがねぇな。ほれいくぞ。その植木鉢貸せ」


 トウヤの言葉に呆れながらも、カズマは自身が先頭を歩くことに文句はない様子。

 むしろ、好奇心で顔がほころんでいるのが映し出されていた。


「んじゃいくぞ!」


 そう言って、カズマが歩き始める。

 その後ろをトウヤ。その後をシイカが。

 螺旋の階段を甲高い音を立てながら降りていく。


 しばらく進んでいると、トウヤがシイカに質問した。


「シイカさん。この階段や壁、何で出来ているんですかね?

 鉄のような、でも全然錆び付いてませんし……」


「……わからない。でも、相当高度な技術で作られているのは確か」


「高度な技術ですか……」


 トウヤは言いながら足元を再度確認した。


 鉄で出来た階段というのも聞いたことがないのに、この階段は鉄とは違う、何かで出来ている、と。

 う~ん。そういえばこの穴の入口に使われていた扉も、鉄とは違っているような気がしないでもないですね。


 その後、トウヤ達三人は無言で階段を降り続けた。

 

 どのくらいの時間がたったのだろう。

 永遠と続くのではないかと思われた螺旋階段は、しかし唐突に終わりを告げた。

 

「おいトウヤ! 見ろよ!」


 そう言って地下を指さすカズマ。

 その指につられて、トウヤとシイカが地下を見る。するとそこには上の方では見えなかった何か大きな物体の姿が。


「何ですか? あの物体は?」


「知るか」


「……近くに行ってみないとわからない」


「ですか。なら近くに行ってみますか」


 そう言って、トウヤ達は再び階段を降りていった。

 そして、


「……なんか階段も終わりみたいですね。結構降りましたけど、どのくらい地下まで来たんでしょうか?」


「……感覚的にみて約50メートル」


「はぁ、50メートル」


 そんな事を二人で話していると、先に降りたと思われるカズマが、トウヤに向けていった。


「おい! この物体は調べなくていいのかよ!」


「あ、そうでした!」


 カズマの言葉に、トウヤは急いで階段を降りきった。

 そして、目の前には先ほど目についた謎の物体。いや、円筒の形をした直径3メートル程、高さ2メートル程の鉄の箱だった。

 さらにその箱には穴が空いており、中に入れる構造となっていた。


「なんですかねこれ? 箱の上と下にはよくわからない石? のような物までついてますし……」


 そんな疑問を投げかけるも、どうやらトウヤと同じく目の前の物体が何かわからず首を傾げる二人。


「う~ん、……あ、これ以外には何かないんですかね?」


 トウヤはそう言って、直径5メートル程の地下内を見回してみた。

 すると、降りてきた階段とは反対側に、何やら扉のようなものがひとつあることに、トウヤは気がついた。


「これは扉、……でいいんですよね? カズマさん。明かりを返してもらえますか?」


「おう」


 カズマから小型植木鉢を返してもらったトウヤは、そのまま扉らしきものに近づいていく。

 そして『蛍光の実』の明かりで詳しく扉を調べると。


「う~ん。この扉、取っ手が見当たりませんね~」


「じゃぁ扉じゃねぇんじゃねぇか?」


「でも、どう見たって扉ですよね、これ。それにこれ以外には何もないでしょ?

 ありましたか?」


「いや、別にねぇな」


「でしょ? シイカさんの方はどうですか?」


「……ない」


「やっぱり」


 となると、もう目の前の扉しか道は残されていないのは明白であった。

 だが、その扉を開く方法が思いつかない。


「……あ。そうです。取っ手が無くても押すことは出来ます」


 そう言って、トウヤは小型植木鉢を地面に置き、扉を押して見ることにした。

 しかし、


「フン、ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 どれだけ力を入れても、扉は一向に開く様子を見せなかった。


 力が足りないのではないか?


 そう考えたトウヤはカズマにお願いをして見た。

 だが結果は。


「ちっ、開かねぇな。それにすげぇ頑丈だ。こりゃぶん殴っても壊れねぇどころか傷一つつかねぇんじゃねぇか?」


「カズマさんの力でもですか? でも今は『クロックレイズ』中ですから『レイズ』でやってみれば……」


「それならなんとかなるか? でもよ、当分『レイズ』は使えねぇんじゃねぇか?」


「あ」


 早朝召喚してからまだ5時間。後5時間経たなければ『レイズ』は使用できない。


「う~ん。ではどうすればいいのか……」


「……引き戸」


「へ? 何ですって?」


 突然のシイカの発言に、トウヤは思わず聞き返してしまった。


「……引き戸なんじゃないの? 押してもだめなら……」


「なるほど! 引いてみろ! カズマさん、お願いします!」


「根暗女の助言ってのが気に入らねぇが、まぁいい。いくぞ!」


 そう言って、カズマは右側に扉を引いてみることにした。

 すると、少しずつだが開いていく扉の姿がそこにあった。


「おお! シイカさんの言うとおり、引き戸だったんですね!」


 そして、完全に扉が開ききる。


「そらよ! ったく、重てぇ扉だったぜ。つうか引き戸ならそれ用の手を掛ける所を作っとけっての」


「確かに。それにカズマさんが『クロックレイズ』状態ですが『重い』と言った扉を引き戸にしていた意味がわかりません。

 ボクなら絶対開けられないじゃないですか」


 そう言いながら、トウヤは開いた扉の中を恐る恐る覗いてみた。

 扉の中には、ある程度の広さがある部屋があった。


「……はぁ」


 部屋の広さはトウヤの自宅と同じぐらい。

 しかし、中にある家財などは似ても似つかないようなものばかりが存在していた。

 机のようなものはいいとして、鉄のようなもので出来ている箱が数個。

 大きなガラスビンのようなもの。大量の薬瓶。他にも色々。


「こ、ここは一体」


 トウヤは『蛍光の実』で部屋を照らしつつ、そんな言葉を漏らした。

 すると、トウヤの横をシイカが横切り、部屋に入る。


「あ、シイカさん! 何があるかわからないのにそんな無用心な」


「……ならずっとそこにいるの?」


「え? いや、それは……」


「……ならさっさと調べましょ」


 そう言って、シイカは近くにあったものから調べていくのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 部屋を発見してから一時間。

 トウヤ、カズマ、シイカの三人は、部屋の中を散策し続けていた。


 部屋の中には見るも物珍しい品ばかりで、トウヤの頭では到底理解できないものばかりが存在していた。

 いや、一つだけわかったのは、机らしきもの。

 その机も木で出来てはおらず、これまた鉄のようなもので作られたものではあったが、しかし引き出しの存在ぐらいは知っているトウヤ。

 引き出しを一段一段開けて、中を確認してみる。

 しかし、中には何も入っておらず、トウヤは途方にくれた。

 それはカズマも同様で、意味不明な物品に対してお手上げ状態。

 早々に諦めて部屋から出ると、床に寝転がってしまう始末である。

 実際、トウヤもカズマにならって横になろうかと思ったのだが、しかし三人の内の一人、シイカが懸命に捜し物をしている最中に

 その態度はいかがなものかと、形だけは捜し物をしているように見せているのであった。


 そして、特に何か目に付くものがなくなってきたトウヤは、シイカに質問してみることにした。


「あの、シイカさん?」


「……何?」


 探しものをしている手を止めることなく、トウヤの答えるシイカ。


「この部屋のことなんですけど、何かわかりましたか? ボクにはチンプンカンプンで、何が何やらわからないんですが……」


「……詳しくは私もわからない。でも、何かの研究室だったのかも」


「研究室……」


 トウヤはシイカの言葉を聞いて、驚きの表情を浮かべた。


「あの、一体どんな研究をしていたんでしょうかね? 薬とかの研究ですかね?」


「……詳しくはわからないと言った」


「あ、そうですか」


「……でも」


「でも?」


 シイカは調べものの手を止め、トウヤの方に目を向けた。


「……何かしらの『計画』を行うための、研究室だったと思われる」


「『計画』? 何故それがわかるんです?」


 トウヤの疑問に対し、シイカは一つの紙切れを手渡した。

 トウヤはその紙切れを受け取り、眺めてみる。

 すると、そこには何かしらの文字が書かれている事が、トウヤにはわかった。

 しかし、その内容まではわからない。


「? なんて書いてあるんですか? というかこれは文字なんですか?」


「……文字。でも今は使われていない、はず」


「使われていない?」


「……そう。それは『古代文字』。遥昔に人々が使っていたとされる文字」


「はぁ~」


「……でも、その一語なら私も何とか読める。『ら計画』」


「あ、それで! ……って、『ら』?」


 何ですかそれは?

 

 『ら計画』。トウヤには意味がわからなかった。


「……ちなみに、シイカさんが『ら』の意味が……」


「……わからない」


「ですよね」


 さすがにシイカさんでも『ら』じゃ意味がわかりませんよね~。


「まぁとにかく。その何かしらの『計画』のためにこの場所が使われていた、と」


「……おそらく」


 なんだかなぁ、と言った表情を浮かべるトウヤ。


 なんですかね、結局ほとんど何も分からずじまい。

 宝の『た』の字も出てきませんよ。『ら』はありましたけど。

 ……いえ、待ってくださいよ? もしかして、この部屋にある意味不明な物品が宝、とか?

 まぁ珍しいというか、知らない物が多々存在しているので、宝と言ってもいいかもしれませんが。

 そんなの物珍しい物に興味がある人にしか思われないでしょ。


「でも、確かにゼノさんにとっては宝なのかも?」


「ま、あの爺にとってはそうかもな」


「あ、カズマさん」


 外で横になっていた筈のカズマが、近くにあったものを手に取り、物珍しそうに眺めながら言った。


「こんなもん変わりもんぐらいだろ? 宝だと思うのは」


「う~ん。確かに変わり者と思われるゼノさんなら、これを宝と言っても過言ではないのかも。

 でもそう考えると、地図に書いてあった事は本当だったってことですね。

 古代文字があると言うことはここは『遺跡』だと思われますし。そしてゼノさん好みの『宝』があった。

 何やら少しばかり方向性が違いましたが、ま、でも何もないよりマシですからね。

 今回の大冒険にも意味があったってもんです!」


 何度も頷いて、冒険の結末に満足の意を露わすトウヤ。


「それでは! これにて大冒険を終えるとしましょう!

 何か持って帰って手土産にしてもいいんですが、誰かのものだったら大変です。

 まぁ、金銀財宝ではないのでもって帰ってもしょうがないってのがありますが……」


「……ちょっと待って」


 突然、シイカがトウヤに待ったの合図をかけた。



「え? な、なんですかシイカさん? 何かあったんですか?」


 トウヤはシイカに近づきながら、質問をした。

 すると、シイカが何かを持って、眺めている姿がそこにあった。


「? 何ですかシイカさん、それ?」


「……黙って」


「? はぁ、わかりました」


 真剣な面持ちで鉄の板のようなものを眺めているシイカの言葉に、よくわからないが了承の意を表すトウヤ。


 その後、しばらくの間『蛍光の実』に照らされながらシイカは鉄の板を眺め続けた。

 トウヤはというと、シイカの邪魔をしないようカズマを引き連れて部屋の外に出て、硬い床の上で座りながらシイカが出てくるのを待つのであった。


 そして数十分後。

 小型植木鉢と謎の鉄板を手に持ち、無言で部屋から出てくるシイカ。


「あ、シイカさん。もういいんですか? それでは村に帰りま……」


「……『クロックレイズ』」


「へ? 『クロックレイズ』がどうかしましたか? もう『クロックレイズ』の終わる時間ですか?」


 トウヤは懐中時計を確認するも、しかし『クロックレイズ』終了までまだまだ時間があった。


「あ、大丈夫ですよ。まだ時間に余裕が……」


「……『腕輪を付け、実を握りし者。偽りの長き時をもって蘇らせん。その呪文の名を此処に記す「クロックレイズ」』」


「……え?」


 トウヤは、シイカの言った言葉が一瞬理解できず、呆然とシイカの顔を眺めていた。

 しかし、少しずつその言葉の意味を理解すると、トウヤは驚きの声を上げて、シイカに詰め寄った。


「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 シ、シイカさん! ど、どうしてその言葉! いえ、というか何で、え、え!」


「うるっせぇなトウヤ。根暗女の言った事が何なんだよ」


 あまりに煩いトウヤの声に苛立ちながら、カズマが体をお越して文句を言ってきた。

 しかし、トウヤにカズマの事を気にしている暇はなかった。


「シイカさん! 『腕輪を付け、実を握りし者。偽りの長き時をもって蘇らせん』って何ですか! 

 ボクはクロックレイズの呪文名しか知りませんよ! なのに何でその呪文の本質を言っているような文言を!」


「……じゃあ、貴方は知ってるの? 『レイズ』の文を」


「は、はい! ゼノさんから聞きまして。えっと確か『腕輪を付け、実を握りし者。大いなる力を蘇らせん』だったような」


「……そう」


 トウヤの言葉を聞いて、シイカは確信に満ちた目をしてトウヤを捉えた。


「……この鉄の板。ここにさっきの言葉が書いてあった。『クロックレイズ』事が」


「な、なんですって!」


 トウヤはシイカかから鉄板を渡してもらい、地面に降ろして確認してみた。

 しかし、


「…………本当に、書いてあるんですか?」


 そこには、先ほど見た古代文字に似た形の文章があった。

 もちろん、そんなものをトウヤが読めるはずもない。

 そんなトウヤに、シイカが文章を指さしながら説明した。


「……私も全てを読めたわけではない。わかる内容と文の前後の関係から内容を推測しただけ。

 けど、貴方の話を聞いたら確信した。私の解読内容はあっていると」


「た、確かに! でも、何でこんな鉄の板らしきものに呪文が書いてあるんでしょうか」


「……それはわからない。けど、この存在をゼノという人物は知っていたんじゃないの?」


「え? ゼノさんが? ……あ、『宝』!?」


「……そう。彼にとっての『宝』とは、これの事だったと思われる」


「な、なるほど~」


 トウヤはシイカの説明に感心し、同時にゼノを見直した。


 ゼノさん、ただの変わり者ではなかったんですね~。

 しっかりと呪文の事について情報を残していたとは、見直しましたよ。


「ははぁ~。……ん? でも、『クロックレイズ』の事がわかったって、今更しょうがないですよね?」


 だって、もう知っているもの。


「……ということはあれですか。ゼノさんも実はここに来ていて、その呪文を見つけていて、そしてボクに教えたと。

 ってことは何ですか? ここに来た意味、あんまり無かったって事ですか?」


 そりゃあないよ、とトウヤはガックリと項垂れた。

 しかし、シイカはそんなトウヤにさらなる驚愕の事実を告げるのであった。


「……まだある」


「え? 何がですか? ……って、まさか!」


「……そう、しかも後二つ」


「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 こうして、予期せぬところで新たな呪文を手に入れるトウヤなのであった。

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