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緑と十の育成法   作者: 小市民
第三章 冒険
31/36

第六節 尋ねる少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

「もう限界、です……」


 そう言って、近くに横たわっていた枯れ木に、膝を崩して倒れ込むように腰掛けるトウヤ。

 危険区域に入ってから既に数時間の時が流れていたが、その間に何があったのか、トウヤの顔は既に精魂尽きかけている様子が伺えた。

 

「……ボクは、今日だけで一体何十回死にかけたんでしょうかね? 良くまだ生きていられるな、と自分でも不思議に思います。

 何度猛禽類に襲われたか。何度危険な箇所を通って落下したことか。ふふふ。自分の運の無さがこれほどとは、思ってもいませんでした。

 本当に、カズマさんとシイカさんが居てくれなかったら、どうなっていたことか。……でも」


 トウヤは頭を上げるのも一苦労なのか、ゆっくりと前方を向いて、カズマとシイカを視界に入れた。


「お二人がいなかったら、そもそもこんな所に来ていなかったんですから、心の底から感謝出来ない自分がいます。

 本当に、何でこんな所にボクは来てしまったんでしょうか。はぁ~~~~~~」


 再びガックリと頭を落とすトウヤに、今まで黙って聞いていたカズマは、イライラを募らせて言った。


「本当にお前は、何度も何度も同じことを愚痴愚痴愚痴愚痴! いい加減諦めろっての! そしてさっさと先に行くぞ!」


「……もうすぐ日が暮れるというのに、これ以上先には行けないでしょ。危険すぎますよ」


 いつもなら元気よくカズマにツッコミを入れるトウヤも、この時ばかりはそんな元気も湧いてこないのか、力なくカズマに言い返す。


「……ちっ! わかったよ! 今日は此処で野宿だ!」


 そんなトウヤの様子を見て、さすがのカズマも限界だなと悟り、大人しくトウヤの言うことを聞く事に。


「ありがとうございます。ご理解感謝致します。……あ、シイカさんもそれでいいですか?」


「……それでいい」


 全く表情を変えずに、トウヤの提案に賛同するシイカ。


 はぁ~。これでやっと休めます。本当に限界だと、お二人も悟ったんでしょうね。

 これで先に行くぞとか言うほど、お二人が鬼ではなくて良かったです。

 ……どうせだったら返してくれればよかったですが、それは高望みと言うものでしょ。

 とにかく、休息が取れるとなっただけでも、良しとしましょう。


「……それでは、そろそろ日も暮れますし、野宿の準備でもしますかね。

 あ、近くに川がありますね。袋の中の野菜を洗って、食べるとしますか。

 ついでに魚がいると、尚嬉しいんですがね」


「なら俺は焚き火になる薪を集めてくっか」


 そう言って、カズマは森の中を散策しに出かける事に。

 そんなカズマの後ろ姿を見送った後、トウヤは川へと向かうために重い腰を上げて立ち上がる。


「あっ。シイカさんはどうしますか? ここで待ってますか?」


「……貴方についていく。一人にするとまたトラブルに巻き込まれるでしょ?」


「うぐっ!?」


 シイカの言い分が最も過ぎて、言葉もないトウヤ。

 

 た、確かにその可能性は大ですが、一々本人にそれを言わなくても!

 でも、ま。そんなボクを助けてくれると言ってくれてるんですから、ね。


「どうもありがとうございます。ご迷惑おかけします」


 トウヤは深々とシイカに頭を下げて、感謝した。


「……別に良い。それよりさっさと行く」


「あ、はい。そうですね。それでは参りましょうか!」


 トウヤはシイカを引き連れて、近くの川へと歩み出すのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 既に日も沈みきり、宵の時間が始まった頃。

 夜空に輝く満天の星を背景に、焚き火を囲んで話している三人の姿がそこにはあった。


「……で。結局魚は取れずじまいってか」


「ええ。川の流れが速すぎて、一匹も見つかりませんでした。

 というより物凄い速さでしたよ、流されたら一巻の終わりって感じです。ボクの場合」


 既に夕食を終え、川から汲んできた水を飲みながら、トウヤはそうカズマに答えた。


「ふぅ。でも、あの川に沿って下っていけば目的地に近づけるのは間違いありません。

 なので、明日の朝。日の出と共に川を下っていきましょう。それでいいですよね?」


「おう! ……でも、そうなると日の出まですっげぇ暇だな~」


 大きく伸びをして、地面に寝転がるカズマ。

 そんなカズマの様子に、トウヤは呆れながら言った。


「ちょっとカズマさん。暇なんてあるわけないでしょ。貴方がたには夜の間も、きっちりボクを守って頂かなければ!

 昼間にあれだけ大量の猛獣たちが襲ってきたんです。夜なんて、もう考えるのも恐ろしい程……」


 自分で言っておきながら、体を震わせて怯え始めるトウヤ。

 しかし、そんなトウヤとは対照的に、暇そうな顔から一転し、面白そうな顔になるカズマ。


「おお! 退屈しないで済みそうだな! どんな猛獣が出てくるか楽しみだぜ!」


「楽しまないでください! どういう神経してるんですか! ね、シイカさんもそう思うでしょ!」


 そう質問するトウヤの視線の先には、こちらに見向きもせずに本を読んでいるシイカの姿があった。


「……どうでもいい」


「……ですよね。聞いてみただけです。……はぁ」


 シイカの予想通りの答えに、トウヤは肩をガックリとさせて溜め息を吐いた。


 なんとかシイカさんと仲良くなりたくて、こうして何度もボク達の会話の中に入れようと試みてきましたが、一向に前進の兆しが見えません。

 ……やっぱり、仲良くなるのは無理なんでしょうかね? 

 確かにボク如きでは、シイカさんのような美人さんとは、このような関係でもなければお近づきする事も出来ないはず。

 それでもほんの少し会話をしてくれているんですから、これ以上を望んではいけないんでしょうかね?


 一向に進展しないシイカとの交友関係に、頭を悩ませ意気消沈するトウヤ。

 そんな時、『クロックレイズ』の効力が消えたのか、それぞれ固有の光に包まれて姿を消すカズマとシイカ。

 それを見たトウヤは、『もうそんな時間ですか』と思いながら、『家宝の腰袋』に手を突っ込み、二つの『樹肉の実』を準備する。


 そして、カズマとシイカが消えてから10秒後。


「来い。カズマ。シイカ。『クロックレイズ』!」


 トウヤは『クロックレイズ』を唱え、再びカズマとシイカを元の姿に戻す。


「もう10時間。時が経つのは早いですね」


 召喚されたばかりの二人に、そう話しかけるトウヤ。


「だな」


「……そう」


「まっ、それはさておき。これから再び十時間。ええっと、おそらく日の出頃までですかね?

 とにかくボクの護衛、よろしくお願い致します! お二人共!」


「……了解」


 トウヤの言葉に、本を読みながら頷くシイカ。

 そして、

 

「おうよ!」


 元気よく返事を返し、そのまま森の奥深くへと歩き出すカズマ。


 ……ん? 歩き出す?


「ちょ!? どこに行く気ですか、カズマさん!」


 トウヤは慌ててカズマを呼び止め、事の真意を確かめるべく質問をした。


「あ? どこって、どっかそこらへんに……」


「無計画!? どこにいくかも決めて無かったんですか!?

 いえ、それについてはまぁ、どうでもいいですが。

 本当はよくありませんけどね。

 というかですね! カズマさん、今元気良く返事を返したでしょ!

 ボクを守ってくれると! それなのにどこ行く気ですか!?

 言ってることとやってることが違うでしょ!? アホなんですか!? そうなんですね!」


「断定すんな! アホじゃねぇよ! つうかこれには理由があんだよ!」


「どんな理由ですか!? ボクが納得できる理由なんでしょうね!?」


 その場のノリとか、何となくとか、そんな理由は許しませんよ!?


 激しくカズマを睨みつけ、アホ発言は絶対許さないといった雰囲気を醸し出すトウヤ。 


「近くにあぶねぇのが居ねぇかどうか確認しにいくんだよ! 此処に一々猛獣とか来たら、お前また大騒ぎすんだろうが!

 なら事前に見つけて、追い返す! どうだ、いい考えだろ!」


 自信満々に胸を張り、自分の考えをトウヤに放すカズマ。

 そんなカズマの提案に、トウヤは衝撃を受けた。


「カ、カズマさん! カズマさんがそこまで考えているなんて!」


 激しく狼狽し、信じられないといった表情でカズマを見つめるトウヤ。


「へっ! どうだ驚いたろ! 俺は脳筋じゃねぇからな!」


 そんなトウヤの反応に、さらに気を良くして胸を逸らすカズマ。

 しかし。


「明日は一体何が起こるってんですか!? ああなんてこった!」


「おま! 失礼にも程があんぞ! なんだその反応は!?」


 自身の頑張りを、まるで不幸の前兆のように言うトウヤに、憤りを感じてトウヤの胸ぐらを左手で掴み上げるカズマ。

 だが、そんなカズマに構うことなく、ブランブラン宙に浮いたままトウヤは話しを続けた。


「だって! カズマさんが頭を使うなんて事、今まで無かったじゃないですか! 

 それなのにいきなりそんな考えがカズマさんの口から出るなんて! もうこの世は終わりだ!」


「巫山戯んな! 俺が頭を使ってこの世が終わるか! 大体もう一つ理由があんだよ!」


「え!? まだ理由があるんですか!? もう止めてくださいよ!」


 これ以上、何かが起こって欲しくないトウヤは、本気でそうカズマに懇願した。

 しかし、そんなトウヤの願いを無視して、話しを続けるカズマ。


「お前、この後寝るんだろ!?」


「へ? ……ええ、まぁ、そうですが?」


 何を当たり前の事を言ってるんでしょうか?

 

 カズマの意味不明な質問に対し、首を傾げざるを得ないトウヤ。

 しかし、そんなトウヤに構うことなく、カズマは話しを続けた。


「つまりだ! お前が寝るってことは、その後この場で起きているのが俺と、そこの根暗女だけになるだろうが!」


「……なるほど」


 今度の理由で、トウヤはカズマの言いたいことを全て理解する事が出来た。


 ボクが就寝後、シイカさんと二人っきりでいたくないから、どこかに行く。

 つまり、そういう事ですか。

 

 カズマの言い分に呆れながらも、どこか安心し、納得するトウヤ。


 良かった。いつものカズマさんです。

 そりゃそうですよね。人間、そうそう変わるわけありませんもんね。

 つまり、明日以降も世界は平穏を維持できるという事ですか。良かった良かった。


 それに、相変わらずボクが寝た後は仲悪いの継続してるんですねぇ。

 とにかく互いが視界に入らないよう、極限まで離れているのは知っていましたが。

 ここ最近、ボクが起きている間はしっかり近くにいたので、それも大丈夫かと思ったんですがね~。


「いい加減。子供みたいに維持を張ってないで、少しは仲良く出来るよう歩み寄ってはいかがですか?」


「断る!」


「……拒否する」


 トウヤの提案に拒絶し、そっぽを向くカズマとシイカ。

 そんな子供みたいな反応を見せる二人に、呆れて溜め息を吐くしかないトウヤ。

 しかし、トウヤはそこであることに気がついた。


 ……これは、ひょっとしてチャンスなのでは?

 カズマさんがここから立ち去れば、ボクとシイカさんの二人っきりになります。

 いつもはカズマさんがいることで、余り話をしないシイカさんですが、ボクだけだったらどうでしょうか?


 調子に乗っているわけではありませんが、シイカさんは割とボクとはお話をしてくれている感じがします。

 つまり、この機会にじっくりとシイカさんと二人でお話をして、交友関係を密にせねば!

 そう、これはチャンスです! ナイス考え、カズマさん!


「わかりました! そういう事ならカズマさんのお好きなようになさってくださって結構です!

 でも、あんまり遠くには行かないでくださいよ? それだけは守ってくださいよ?」


「わかってるよ! そんじゃ行ってくるわ!」


 そう言って、カズマは一人暗い森の中へと、その姿を消すのであった。

 そして、残されたのはカズマの後ろ姿に手を振って見送るトウヤと、見向きもせず黙って本を読み続けるシイカの二人。


「……………………」


「……………………」


 しばしの間、二人の間を沈黙が支配することに。

 

 ど、どうしましょ! これはチャンスなんですが、しかしどうやって話しを切り出したらいいのか。

 ボク、あまりシイカさんの事を知らないですから、何が彼女の心の琴線に触れるのか、全くわかりませんよ!

 野菜について、興味はあ、るわけないですよね。では一体どうしたら……


 どうすればいいのか、頭を抱えてアタフタとするしかないトウヤ。

 そんなトウヤに、呆れながらシイカは言った。


「……なにしてるの?」 


「え!? いや、その、あのですね!?」


 奇跡!? 対象人物から話しかけられました! このチャンスをものにせねば!

 でも、何をすれば……。ええい! そんな事、話しながら考えればいいんですよ!

 

 トウヤは突然降って湧いてきたチャンスをモノにするため、無計画で行動を開始する事を決意した。


「あ、あの! シイカさん!」


「……何?」


「ええとですね! その、ボク達そんなに長く一緒にいるわけではありませんが、しかしもう一ヶ月近く行動を共にしているわけですよね!

 なのでここらで一つ、互いの事を少しでも知っておく必要があるかと、ボクは考えていましてですね!」



 トウヤは真剣な面持ちで、シイカにそう自身の気持ちを素直に告げた。

 しかし、


「……面倒。後うざい」


「ぐはっ!?」


 二言でトウヤの覚悟を両断するシイカに、なすすべもないトウヤ。


 うう! ボクの必死の覚悟が面倒で、うざいとは! 

 酷すぎると思います! ボクの歩み寄ろうとする必死な気持ちを返してください!

 ……でもまぁそうですよね。ボク何かと、お話したくありませんよね。


 意気消沈し、どんよりとした暗いオーラを身に纏い始めるトウヤ。

 そんなトウヤを見て、若干悪い事をしたかと思ったシイカは、小さく舌打ちをしてから本を閉じ、トウヤの方に体を向けた。


「……で、何?」


「え?」


 トウヤはシイカの言葉に驚き、伏せていた顔を勢いよくあげた。


「……だから、何が知りたいの?」


「お、教えていただけるんですか!」


 不機嫌そうな表情を見せながら、しかしトウヤの質問に答えようとするシイカの態度に、トウヤは感動し涙を流した。


 や、やってみるもんです! 例え確率の低い事柄だとしても、何もしていなければ零!

 でも行動すれば奇跡は起きる! ボ、ボクはその低い確率をモノにすることができましたよ!


「ヤッホ~~~~~イ!」


 あまりに嬉しい出来事に、その場で回転しながら満面の笑みを顔に張り付かせるトウヤ。

 そんなトウヤの行動を見て、少々苛立ちを見せたシイカは。


「……やっぱり止めた」


 そう言って、再び本を読もうとし始める。


「御免なさい! 調子に乗りました! だから質問に答えてください!」


 折角掴んだチャンスを自身のアホな行動で潰したくないトウヤは、潔くシイカに土下座をして謝罪した。


 ボクは何を調子に乗ってるんですか! 少し自分の思い通りになったからと言って!

 勘違いしてはいけませんよトウヤ! これはシイカさんが見せた気まぐれ!

 決して自分の素直な気持ちが招いた事柄では無いことを自覚せねば!


「ええ、それではシイカさんに質問何ですが、……あっ!? そうです!

 シイカさんって魔法使いだったんですか? 凄いですね! まさか現実に魔法使いがいるとは、夢にも想いませんでしたよ!」


 今までの戦いなどから、シイカを魔法使いであると判断したトウヤ。

 しかし、そんなトウヤに呆れた表情を見せて、シイカは言った。


「……何言ってるの? 魔法使いなんてこの世にいるわけないでしょ?」


「へっ? で、でも、こう炎を出したり、氷を出したり。ボクは雷でビリビリさせられましたよ!」


 あれ、物凄く痺れて痛いんですよ!


 トウヤは過去を思い出し、体を少し痙攣させた。


「……まぁ、確かに魔法のように見えなくもないかも」


「でしょ! そうでしょ! でも魔法じゃないんですか?」


「……魔法じゃない。あれは『ソウスイジュツ』」


「『ソウスイジュツ』?」


 全く聞いたこともない単語に、トウヤは頭から特大の疑問符を出さざるを得なかった。

 そんなトウヤの様子を見て、さらにシイカは詳しく説明する事に。


「……『水』を『操』る『術』。だから『操水術』。納得した?」


「あ! なるほど、それで『操水術』! 納得しま、……出来ませんよ!?

 水を操る術なら、まぁ氷はいいですよ? でも炎とか雷とか、なんで出てくるんですか!?

 それともボクの常識が間違ってますか? あれ、常識って言うなら炎も雷も出ませんね?

 ああもう、この世は一体どうなっているというんですか!?」


 余計訳が分からなくなり、頭の中が大混乱状態に陥ってしまうトウヤ。

 シイカは大きく溜め息を吐き、混乱しているトウヤにわかりやすいように、さらに詳しく説明する事にした。


「……『操水術』の基本原理は『物質の状態変化』。

 『水』は冷やせば『氷』に。熱すれば『水蒸気』になる。さらに『水蒸気』を高温で熱すれば電離して『プラズマ』化する。

 貴方が言った『炎』とか『雷』は、その『プラズマ』を利用して引き起こしている。『水』を利用してね。

 これらを『四大元素』と言われるものに当てはめると、『水』『風』『土』『火』をそれぞれ指している。

 だから、魔法と似ていると言えば似ているかもしれない。

 でも『魔力』というのは一切使ってないし、『マナ』なんてあるかどうかもわからないものを使ってもいない。

 だから『魔法』じゃない」


 そこまで言って、シイカは横に立てかけていた杖を取り、トウヤに見せた。


「……これは『指揮杖』というもの。特殊な金属体を主体として製造されていて、これを用いる事で初めて『操水術』は使用できる。

 さっき『魔力』も『マナ』も使わないと言ったけど、『精神力』『集中力』は扱う。

 脳でイメージした内容が、電気信号となって手を通して杖に伝わり、イメージした内容を実現させるため特殊金属体が活性化。

 周りの『気体』を操作する事が出来るようになって、その『気体』を熱したり、冷やしたりして……」


 そこまで言って、あることに気付いたシイカは話しを止めて、ある一点を見つめる事に。

 そこには、シイカの余りにも難しい話の内容に脳が全くついて行かず、しかしシイカが折角説明してくれているので何とか理解しようと頑張ったものの、

 ついに脳が限界を迎えて頭から煙を上げて倒れ込んでいるトウヤの姿があった。


「………………理解できない?」


「す、すみません。必死に理解しようとしたんですが、もう何が何やらちんぷんかんぷんで。

 え、えっと。つまり、魔法だけど魔法じゃない? いえ、魔法じゃないけど魔法?」


「……もう魔法で良い」


 シイカは、トウヤが話しを理解することを完全に諦めた。


「うぅ……、すみません。折角シイカさんが一生懸命説明してくれたというのに、話の半分もボクは理解できませんでした」


 自身の頭の悪さに、情けなくて涙をこぼすしかないトウヤ。


「……別にいい。それと、貴方は半分どころか全く理解できていないから」


「うっ! ……本当に申し訳ありません。で、でもあれですね! シイカさんは大変頭が良くて、羨ましい限りです!」


 シイカの呆れた表情に、何とか話題を逸らそうとトウヤはシイカを褒め始める事にした。


「あれですか! シイカさんは学者さんとか、そういったものなんですか!」


「……それに近い者だった」


「あ! やっぱり! ……だった?」


 何故過去形? まるで今は違うみたいな言い方ですね。……あっ、そういえば!


「……前から不思議に思っていたんですが、何でシイカさんもカズマさんもあの小さな二頭身姿になってしまったんですか?

 それに何故、『樹肉の実』や『腕輪』、それに『呪文』を使うと元のお姿に戻るのか。

 何か知っていらっしゃるなら、教えて欲しいんですが……」


「……私にもわからない」


「そ、そうですか……」


 そんな簡単に何かわかるほど、世の中うまく出来てませんよね。 

 

 シイカの返答に、肩を落としてガックリと項垂れるトウヤ。

 しかし。


「……でも、それがわかるかもしれない」


「え!? 何故ですか!?」


 シイカの発言に、驚きシイカに詰め寄るトウヤ。

 そんなトウヤを片手で引き離しながら、シイカは話しを続けた。


「……貴方が見つけた地図。それが鍵だと私は思う。

 ゼノという老人は、貴方にその『腕輪』と『実』と、そして『呪文』を渡したんでしょ?

 なら、その彼が持っていた地図がそれと無関係だとは思えない。何らかの繋がりがあると思うのが普通」


「な、なるほど! あっ! ということは、今回カズマさんの冒険に賛同したのもそれが目的で!」


「……そう。でも、あの脳筋に賛同してはいない。キモイ勘違いしないで」


 心底嫌そうな顔をして、そうトウヤに言ってくるシイカ。

 しかし、トウヤとしてはそれを気にしているどころではなかった。


「そうですか! そうでしたか! 凄いです、さすがシイカさん!

 ボクとカズマさんだけでは、決してそんな考えを思いつく事など出来ませんでした!

 本当に、シイカさんが一緒に居てくれて良かったです!」


 『ヤッホーイ!』とその場で回転しながらシイカに満面の笑みを見せて感謝するトウヤ。

 そんなトウヤの様子を見て、再び呆れた表情を浮かべたシイカは、トウヤに言った。


「……言っておくけど、これは私の為で貴方の為ではない。勘違いしないで」


「わかってます! でも、そうだとしても感謝の気持ちでいっぱいです!

 本当にありがとうございますシイカさん! さぁて! そろそろ寝て、明日に備えるとしますか!

 それではシイカさん、おやすみなさい!」


 そう言って、荷袋の中から毛布を取り出し、体をくるんで横になるトウヤ。


 明日には遺跡に辿りつくと思われます。そしたら、この摩訶不思議なアイテムの事が少しはわかるかもしれません。

 それに、カズマさんやシイカさんの事も! 早く明日にならないかな!


 期待に胸を躍らせながら、深い眠りへ付くトウヤ。

 そんなトウヤの様子を見て、シイカは呆れながら、しかし少しだけ口元を緩ませて、再び本を読み始めるのであった。

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