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緑と十の育成法   作者: 小市民
第三章 冒険
29/36

第四節 迂闊な少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

 日が暮れ始めた夕方頃。


 重い荷物を運んできたトウヤは自宅へとたどり着き、部屋のドアを何とか開ける事に成功して、中へと入っていった。


「ただいま~。 よっ、こらしょ、っと。ふぅ~! 大変重かったですね~」


 重い荷物を床に置いて、流れ出た汗を腕で拭き取るトウヤ。

 

「さってと! 問題はこれをどこに置いておくか、ですね……」


 言って、トウヤは家の中をキョロキョロと見渡す。

 すると、ミニマムカズマがトウヤの顔の前に来て、箱を指さしながら言った。


「おいトウヤ! 片付ける前に箱の中を見てみようぜ!」


「……はぁ。何を言ってるんですか、カズマさん。人の私物を漁るなんて、そんな泥棒みたいな」


 カズマの発言に呆れて、額に手を当てるトウヤ。


「でもよ! 前に貰った実みたいに使える実があるかも知んねぇだろ!

 さっきチラっと見たら、それっぽいのがあったじゃねぇか!」


「う、う~~~ん…………」


 た、確かに先ほど見たとき、ボクも実を何個か見つけました。

 カズマさんの言ってる事も、わからなくはない。

 使えそうな実があるなら、多いに越したことは無いですからね。


 トウヤはそう考えながら、箱の方に目を向ける。


「……ボクは団長さんから村長に箱を渡してくれと言われ、その村長からお前が預かれと言われました。

 つまり、ボクはこの箱の管理を任されたということです。

 だからこの箱の管理者として、中に危険なものがないかどうか確認する義務が、ボクにはありますね!

 これは決して、箱の中身に興味があるとか、そういう事ではないんです!

 致し方なく! 中身を確認せざるを得ないんですよ、ゼノさん!

 ということで、『カズマさん』の意見を採用します!」


「おっしゃ!」


 同意を得られ、喜びを表現するかの如くトウヤの周りを飛び回るカズマ。

 しかし、そんなカズマとは対照的に、冷ややかな表情でトウヤを見つめる者がいた。


「……見苦しい言い訳」


 シイカがそう、トウヤの発言に対して苦言を呈した。

 その言葉に、思うところがありすぎるトウヤは、体をピクリと反応させる。


「う!? ま、まぁシイカさんの言うとおりだとボクも思いますが。

 で、でもほら! ちょっと箱の中、興味あるでしょ?」


「……別に」


 そう言って、再びシイカはそっぽを向き始める。

 その様子に溜め息を吐きながら、しかし箱の中を漁り始めるトウヤ。


「さぁってと! 何がありますかね~。

 ……あ、これは『悪臭の実』。これは『激辛の実』。これは……」


 しばしの間、箱の中身を外に出し、机に並べる作業を繰り返すトウヤ。

 そして全ての中身を取り出した後、机の上を眺めながら、カズマに言った。


「……カズマさん。どうやら実に関しては、新しい物はないようですね」


「なんでぇ! 何か面白い実があるかと思ったのによ!」


「まぁ、確かにそれはボクも思いました。

 でもま、今考えると、あっても使い方がわからないんじゃどうしようもないんではないかと……」

 

 未知の実を使うなんて、そんな事できませんしね!

 それよりも……。


「確かに実はありませんでしたが、それでも何個か興味のあるものは出てきました。

 例えばこれ」


 トウヤは机の上に置いていたあるものを手に取り、それを目の前まで持ち上げた。


「これは『スリングショット』ですか? ゼノさんがこんな物を持っているとは」


「? おいトウヤ。『スリングショット』って何だ?」


「カズマさん知らないんですか? ……あ、記憶喪失でしたね。というかこういう道具まで忘れるものなんですかね?

 ……まぁいいです。『スリングショット』って言うのはですね。こういうY字型の棒みたいなのに、ゴム紐を張ってですね。

 ゴム紐と、玉。まぁ例えば石ころとか。そういうのを一緒に思いっきり引っ張って、そして放す。

 すると、玉が勢い良く飛んでとても痛い事になる。つまりそういうものですよ」


「要は射撃道具ってことか」


 ふ~ん、と頷いて納得するカズマを見ながら、トウヤは『スリングショット』を再び机に置き、また別の物を観察していく。

 すると、一つの品が視界に入り、トウヤはそれを手にとって眺めることに。


「……何ですかね、これは?」


 それは、筒状に巻かれ、紐で縛られた大きめの紙だった。

 『何だろう』と思ったトウヤは、その紙を縛り付けている紐を解いて、広げてみた。


「……何にもありませんね?」


 広げた紙の中を見るも、何かが包まれている様子はない。

 それならば紙の方に何かあるのかと思い、広げた紙の方に目を向けると。


「? 何ですかこれは。地図ですか?」


 紙の裏には地図のようなものが描かれていた。

 黒い線で書かれた地図は、至るところに文字が書き込まれていた。

 特に一際目立つ大きなバツ印の傍には、強調するように太い文字で『遺跡』、『宝』と書かれていた。


「『宝の地図』ですかね。ゼノさん、何でこんなモノを?

 というか、この地形はベジル山の奥深くを描いたものですか。

 へぇ。こんな所に『遺跡』なんてあったんですね、知りませんでした」


 ここら一帯は確かとっても危険な区域とか、前に村長が言ってましたが。

 まさか遺跡があるなんてね。


「確かに遺跡に危険は付き物。それに遺跡と言えば宝!

 冒険物によくあるパターンですね。……まっ、興味ありませんからどうでもいいです。

 さ~て、他には何が……」


 言いながら、トウヤは地図を再び元の筒状に戻そうとする。

 しかし、


「おい待てよトウヤ! その地図をもっと良く見せろ!」


 何故か地図を片付ける事に反対しながら、目を大きく見開いて地図を眺めるカズマ。

 そんなカズマの様子に、始め疑問を抱いたトウヤだったが、すぐに何かを察して焦り始める。


「……ま、まさか!」


 ま、まずいですよ! これはとってもすっごくまずいですよ!

 この後、カズマさんが言ってくるであろう内容が、すんごく理解出来てしまいます!

 な、何とかして、カズマさんの気を別なモノに惹きつけなければ!


「カ、カズマさん! ほらそんな地図見てないで! 他にも面白そうな者が山ほど!

 あ、これは何なんでしょうね! 何だかとっても面白そうな匂いが……」


「トウヤ!」


「は、はい!」


 カズマの大声に、反射的に背筋をピンと伸ばしてしまうトウヤ。


「この地図に書かれている場所は、ここから近いんだよな!」


「え、いや、あの~」


 カズマの質問に答えたくないので、あやふやな態度で対応するトウヤ。

 しかし、それをカズマが許すはずもなく。


「はっきり答えろ! この地図のバツ印が書かれてる場所は、近いのか!

 本当に危険区域なのか! 遺跡があるってのは本当か! 宝は存在するのか!

 どうなんだトウヤ!」


「え、えっとですね! おそらくそのバツ印の場所には一日、二日あればつくやも!

 それと、確かに危険区域ではあります! ボクもよく知りませんが、村長がそう言ってました!

 それと残り二つの質問に対しては、ボクも初めて知ったので、よくわかりません!」


「そうか。わかった」


 言って、地図から目を離し、トウヤの顔の前に浮かび上がってくるカズマ。

 そして、


「いくぜトウヤ! 大冒険が俺たちを待ってる!」


「やっぱりですか! ああ言うと思った! 絶対言うと思った!

 もう何でそんなわかりやすいのか!」


 予想通りの反応、ありがた迷惑この上ないですよ!


「嫌です! 行きたくないです! 死にたくないです! 御免被ります!」


「巫山戯んな! 行くぞ! やるぞ! 闘うぞ!」


「何と闘うんですか! というかですね! 

 この遺跡とか、宝とか、本当にあるかどうかわかりませんよ!

 そんな不確かなモノの為に、何で危険区域に入って、命を危険にさらさなければならないんですか!」


 興奮するカズマに対し、必死に説得を試みるトウヤ。

 しかし、


「お前はホント、駄目だな! 本当にあるかどうかわかんないから、面白いんじゃねぇか!

 そういう未知の物に対して突っ込んでいくのが、大冒険なんだよ!

 お前が読んでる本でも、そういうもんだろ!」


「た、確かにそうかもしれません! でも、あれは物語であってですね……」


「そうだ、物語だ! よかったなトウヤ! 現実に大冒険が繰り広げられるぜ!」


「嫌ですってば! ボクは脳内で大冒険するだけで十分です! 

 現実にそんなことしたら、絶対死んじゃいますよ!」


「お前はまたそんな腰抜け発言を! やっぱり行くぞ! その根性を叩き直す!」


「だから行かないってば! もうシイカさんも何か言って! ……シイカさん?」


 シイカに話しを振ったトウヤは、先ほどまで居た場所にシイカがいない事に気がつく。


「あれ? シイカさん? どこですか?」


「……何?」


「え? あっ! そこに! ……そこで何してんですか?」


 シイカの声がした頭上の方を見上げると、シイカが机の方を見下ろしながら佇んでいる姿がそこにあった。


「……別に」


 言って、トウヤから顔を逸らすシイカ。


「はぁ。……あ、そうだ! カズマさん! それにシイカさん! 多数決をしましょ!」


「な!? また多数決か!」


 トウヤの多数決発言に、昼前の出来事を思い出して苦い顔をするカズマ。


「当然です! 団体行動を取るのなら、全員の意見をしっかり聞かなければ!

 それでは多数決を取ります! 議題は『大冒険に行く事に賛成か反対か』!」


 ふふん! どうせまた引き分けになるんです!

 そして現状維持を理由に、行かないようにすればいい!

 今日のボクは何て冴えてるんでしょ!


 トウヤは負けるわけが無いと、自信に満ち溢れた顔をした。


「それでは賛成の人! 反対の人! どうでもいい人!」


 二人を見もせず、トウヤはどんどん話しを進める。


「はい。賛成1。反対1。どうでもいい1。

 よって、意見が綺麗に分かれましたので、現状維持とします。

 つまり、どこにも行きません。ご協力ありがとうございました。

 はい解散! さぁ、他には何がありますかね~」


 これで話は終わり、と再びゼノの私物を調べ始めるトウヤ。

 しかし、


「おいトウヤ!」


 再びカズマが突っかかってきて、トウヤは面倒くさそうな表情をしながら振り向くことに。


「もうまたですか? 言ったでしょ。何回やっても結果は……」


「何で引き分けなんだ! あきらかに賛成が多かったぞ!」


「……はぁ?」


 カズマの言っている事が理解できず、目を点にするトウヤ。


 何を言ってるんですかカズマさんは。まさか数の数え方も忘れたんですか?


「カズマさん。賛成1。反対1。どうでもいい1。

 どう考えたって賛成が多いはずないでしょ? なのに……」


「そこだそこ! 何でそうなるんだよ!

 しっかり見てたのか!

 賛成2。反対1。どうでもいい0。だったろうが!」


「はぁ!? そ、そんな馬鹿な! ボクは反対に手をあげましたよ!

 だから、……ってあ!」


 真実に気付き、自身の思惑を粉々に打ち砕いた人物の方に顔を向けるトウヤ。

 トウヤの視線の先には、澄ました表情で宙に浮かぶシイカの姿が。


「シ、シイカさん! 一体どういう事ですか! 何故貴方がカズマさんの意見に賛成を!

 ……ま、まさか! カ、カズマさんととっても仲良く!?」


「……殺されたいの?」


「御免なさい!」


 物凄く怖い目で睨みつけてくるシイカに、すかさず土下座して謝るトウヤ。

 しかし、それでもやっぱり気になるので、再び顔を上げてトウヤは質問した。


「な、ならシイカさんは何で賛成を!」


「……遺跡というのに興味がある。それだけ」


「んな!?」


 そ、そんな馬鹿な! シイカさんが遺跡に興味を持ってしまうなんて!

 ということはあれですか! つまりこういうことですか!


「大冒険に、ボクもいかなければならないということですか!」


「ったりめぇだろ!」


「……もちろん」


「なんてこった!」


 驚愕の事実を突きつけられ、絶望したトウヤは床に膝をついてしまう。


 な、何て事ですか! こ、こんな事になるなら、多数決などするべきではありませんでした!

 ああもう! 一度うまくいったからって、またすぐ調子に乗って!

 本当にボクのアホ!


 頭を抱え込みながら、苦悩して自分を卑下するトウヤ。


 今更多数決は無効などと、二人に言えるはずありません!

 ボクが提案し、行なった事なのですから。

 ここでボクが拒否したら、今後どうなってしまうか、考えただけでも恐ろしい!


 今後起こりうるであろう惨劇に恐怖し、トウヤは体を震わせる。


 召喚した後に必ず何らかのオシオキが待っている事は間違いありません。

 何より、危機陥った時に今後助けてくれなくなることもありえます!

 そんな事になったら、ボクは即死亡! 間違いなく即死亡です!


 それなら、危険な場所に行くことにはなってしまいますが、

 まだボクを守ってくれるだろう大冒険に出かける方がまだまし。

 そう考えられます。というか、行かなきゃダメなんでしょうね。


 トウヤは一つ大きく溜め息を吐き、虚ろな瞳で二人を見る。


「……わかりました。多数決で皆で決めた事です。

 ボクはそれに従うしかありません。

 行きましょう。大冒険へ。……あ、でも待ってください!」


 トウヤはあることに気づいて、待ったの声を二人にかける。


「なんだよトウヤ! まさか今更やめようとか言うんじゃ……」


「言いませんよ! そんなこと言っても、二人とも許さないでしょ!

 そうじゃなくて、出発する日の事です!」


「出発する日? 今から行くんじゃねぇのか?」


 そんな事を宣うカズマに、トウヤとシイカが同時に溜め息を吐き出した。


「はぁ。あのですね、カズマさん。

 何やら色々忘れているようなので、説明させていただきますが。

 まず、冒険に出るには準備というものが必要でして。

 かなり長い道のりになりますし、険しい道のため馬を連れていくことも出来ません。

 なので、しっかりと準備を整えて、それから出発しなければ」


 『わかりましたか?』と目でカズマに確認するも、理解できるはずもなく。


「わかった! 10秒で支度しな!」


「出来ません! というか、せめて10分とか、10時間とか言ってくださいよ!

 秒って、一体何が出来るんですか!

 それに、準備だけの問題じゃないんです!

 『樹肉の実』の残りが三個しか無いこと、お忘れですか!」


「? …………あ、そういえば」


「理解するのが遅いですよ!」


 ホント、脳筋なんだから!


 カズマの頭の回転の遅さに、頭が痛くなってきたトウヤ。


「後三日しないと、新たな実は出来ません! なので、最低でも三日は待ってください!

 その間に準備をして、それで出発です。いいですねカズマさん! それにシイカさんも!」


 二人の顔を交互に見ながら、確認を取るトウヤ。


「三日。三日かぁ~。う~ん。……ま、いいか!」


「……了解。それで構わない」


「ご理解感謝します。それでは、早速準備に取り掛かるとしましょう。仕方なく!

 ……あ、その前にゼノさんの荷物を片付けなきゃ」


 そう言って、トウヤはゼノの私物の片付けと、大冒険へ向かうための準備を開始するのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 大冒険へ行くことが決まった日から、三日後の早朝。

 

 憂鬱な気分で目を覚ましながらも、起きてベッドから立ち上がるトウヤ。

 ふと窓から外の様子を伺うと、雲一つ無い青空が顔を出しているのが目に入り。

 

「くぅ~! ムカつくほど青々と晴れるなんて、ボクへの当てつけですか!」


 言って、家の天井を眺めるトウヤ。

 するとそこには、多くのてるてるぼうずが逆さに吊り下げられている姿が。


「これだけ吊るしたのに、全く効果が無いなんて! 

 テルテル坊主の裏切り者! それと青空最低!」


 ブツブツ文句を言いながらも、しかたなく着替えを始めるトウヤ。

 すると、この三日間冒険に早く出たくてずっとウズウズしていたミニマムカズマが、テンションを上げてトウヤに言ってきた。


「おいトウヤ! 早くしろ! 実もなってるぞ!」


「わかりましたから、急がせないでくださいよ、カズマさん!

 シイカさんを見なさい! 落ち着いたもんでしょ」


 言って、シイカの方を指さすトウヤ。

 そこには、いつも通りどこからか本を取り出して読みふけっている、ミニマムシイカの姿があった。


「ね? カズマさんもシイカさんみたいに、大人しくしててください。

 子供ですか貴方は。」


「誰が子供だ! つうかあんな根暗女と比べるな!」


 シイカと比べられ、怒りを露にするカズマ。


「ああはいはい。わかりましたわかりましたよ。

 もうちょっと待ってくださいよ。今最後の準備をしますから」


 言って、袋を持ち上げながら家の隅に置いてある古い木箱へと向かうトウヤ。

 そして、その箱を開けると、中から小さな腰袋を取り出して、机の上に置いた。


「? 何だそりゃ?」


 謎の袋を見て、疑問を口にするカズマ。

 見ればシイカの方も、興味があるらしくこちらの方に目を向けていた。


「これですか? いつもご飯時に使ってるでしょ?

 あ、そうでしたね。直接見せた事はありませんでした。

 いつも、箱の中で取り出してましたからね。」


 トウヤは一つ咳払いを入れ、袋を机に置きながら話しを続けた。


「これはですね、ボクのご先祖さまから代々受け継がれてきた、家宝なのです!

 すごいんですよこれ! この中に野菜を保存できるんですから!」


「はぁ? 何言ってんだお前。そんな小さな袋に野菜を入れてるだ?

 んな事出来るかよ! 馬鹿にすんなよ!」


「別に馬鹿にしてませんよ。本当の事ですもん。ほら」


 トウヤはそう言って、開いた袋の中に手を突っ込む。

 そして、その袋には絶対入りきらないであろう大きさの大根を取り出し、二人に見せつけた。


「何!?」


「……どうなってるの?」


 トウヤの起こした現象に、目を丸くして驚愕するカズマとシイカ。

 それに気を良くしたトウヤは、さらに袋の事を詳しく話し始めた。


「すごいでしょ! ボクもおばあちゃんから教えて貰った時はびっくりしました!

 どういう仕掛けなんでしょうね、これ。

 どんなに入れても大きさが変わらないですし、どんなに入れても重くならないんですよ。

 しかも、いれた野菜は新鮮なまま保存してくれますからね。

 ボクの家には冷蔵施設がないんで、すごく便利で助かってます」


 トウヤは袋を持ち上げながら、満面の笑みを浮かべた。

 しかし、そんな説明で二人が納得するはずもなく。


「ちょっと待て! おかしいだろ!? どうなってんだその袋は!?

 つうかまだ入ってるのかその中に!」


「え? ええ。そうですけど……」


「……異常だと思わない? そんな事、普通はありえないって」


 シイカが危険な物を見るような目で、トウヤの持つ古びた『袋』を見つめた。


「……まぁ、確かにボクも最初は思いましたよ?

 この袋の異常性を。何故なのか、どうしてなのか。

 ……でも、ボク如きの頭ではどうなってるのか考えた所でさっぱりでして。

 それに、別に変でもいいんじゃないかな、と段々思っていったんです。

 だって、別にこの袋に取って食われるわけではないんですから。

 危険度はまるで零! むしろ便利でボクに優しい! そこが一番重要です」


「お前の判断基準はそこか!」


 カズマが律儀にツッコミをいれた。


「それに。何でもこの中に入るわけではありませんよ?

 この袋の中には、植物しか入れる事ができないんです。

 植物以外を入れようとすると、袋が閉じないし、野菜みたいススッと入らないんですよ」


「……植物限定? 何故そうなっているの? そもそも、何故そんな物がこの家に?」


 謎の袋に対し、疑問が尽きない様子のシイカ。

 首を捻り、どうなっているのか思案にふけっているようである。


「まっ、言いたいことは多々あるでしょうけどね。

 でもボクにとって重要なのは、この袋ではなく、中の野菜です。

 旅に出るんですから食料を一杯持っていかないと!

 それに、荷物が多い中でこの袋は大変便利です!

 何たって、どんなに詰め込んでも軽い軽い!

 それに、これから実を大量に持っていかなければならないんですから、

 この袋は必要不可欠です!」


 言って、古びた『家宝の袋』にゼノのくれた実をどんどん詰め込んでいくトウヤ。

 しかし『家宝の袋』は、大量の実を入れられているにも関わらず、その容積を全く変化させることはなかった。 


「さ、これで良しです。後はこの袋を腰に付けて。

 そしてこの荷物を背負って、っとこっしょ! 

 さぁ二人とも、とっと行って、とっとと帰りますか!

 それとも行きませんか? ボクとしてはそっちの方が良いんですけどね?」


 『家宝の袋』に目を奪われていた二人は、しかしトウヤの言葉にそれぞれ反応を見せた。


「行くに決まってんだろ!」


「……行く」


「ならそんな顔してないで、行きましょうよ。

 あ、しっかりボクの事は守ってくださいね!

 それだけは約束してくださいよ! 絶対ですよ!」


 そう二人に言い聞かせて、重い袋を肩に担ぎ上げながら外へと出ていくトウヤ。


「お、おい待てよ!」


「…………」


 カズマとシイカは未だ納得していないといった表情を浮かべながらも、急いでトウヤの後についていくのであった。


大冒険の始まり? です!

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