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緑と十の育成法   作者: 小市民
第三章 冒険
26/36

第一節 逞しくなった少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

 さんさんと照りつける太陽が、ベジル村を彩り豊かに染め上げる今日この頃。


 その村から少し離れた場所で、一人の少年が黙々と作業をしている姿が見えた。

 色とりどりに咲いた花に水をあげながら、鼻歌を歌って上機嫌な様子を見せる少年。

 その特徴的な緑色の髪を風に揺らす少年こと『トウヤ』は、青々とした空を仰いで笑顔を浮かべながら言った。


「いや~! 実にいい天気です! お花たちがとっても喜んでいるのを、ボクはヒシヒシと感じます! もうほんと、青空最高!」


 何故か以上にテンションが高まっているトウヤは、そう言いながら水の切れた如雨露を片手に近くの小川へと近づいていく。


 あのトリナの町の戦いから、すでに三週間もの月日が流れていた。


 あの後ケガが治ったトウヤは、すぐに村には帰らずトリナの町の復興作業をしばらく手伝った。

 あのような惨状を見ながら何もしないなどトウヤには出来ず、トリナの町の人と共に働く事に。

 そうやって町の人々が頑張っていると、ニアの町を含む東部地区の自衛団の面々や民間の協力者が多数、トリナの町に現れた。


 彼らはトリナの町の惨状を聞いて、助けになろうとやってきたのである。

 その中には、トウヤの知っている人物。レイナやレイラ、ゴリオの姿もあった。

 そんな助力もあり、トリナの町はすぐさま最低限の生活が遅れる環境を確保できたのである。


 そして、約一週間前。

 自身に出来る事はもう無いと、テンマと共にトリナの町を後にしようとしたトウヤは、2週間ぶりに村へと帰りついたのであった。


「ホント、あれだけ長く村から出たことはありませんでした。

 それに、あれほど大勢の方々と一緒に頑張った事もありませんでした。

 不謹慎な言い方ですが、とてもいい経験になった、とボクは激しく思いましたよ」


 ハトコちゃんとハトナさんも、別れ際にありがとうとお礼を言ってくれました。

 皆さんのお役に少しでもなれたのだと、そう思いたいものですね。


 トウヤは冷たい水を如雨露に入れながら、そんな事を思った。

 そんなトウヤの横から、赤髪の小人男、カズマがトウヤの成長ぶりに頷きながら言った。


「へっ! 段々と『漢』らしくなってきやがったな! それに被害妄想も少しは落ち着いた!

 この調子だぞトウヤ! お前は少しずつ成長してる! 討伐にいったのは無駄じゃなかったな!

 ならまたどっかに行って、『漢』を上げるぞ! そら、早くしろ!」


「またそれですか! 帰ってからそればっかですね! 要は、どっかに連れてけって事でしょ!

 あのね! ついこの間まで村から出ていたのに、何でまたすぐにどこかに行かなきゃならないんですか!

 少しは休ませてくださいよ! ボクはカズマさんみたいに体力もないし、脳筋でもないんです!」


 三日前からどこかに連れてけと駄々を捏ねるカズマに、幸せそうな顔からしかめっ面に表情を変えざるを得ないトウヤ。


「おま! 褒めてやったのに脳筋とか、言うんじゃねぇよ!」


「言います! 何で貴方はそう、ジッとしていられないんですか! 

 少しは平和な日々を送るという事に、幸せを噛み締めて、ゆっくりしようとは思わないんですか!」


「思わねぇよ! つうか戦いの中に身を置くのが俺の平和だ! それで幸せを噛み締める事が出来るぜ!」


「何ですかその平和基準は! ああもう、シイカさんも何か言ってやってくださいよ!」


 二人からだいぶ離れた所で、どこから取り出したのかミニマムサイズの本を読んでいた、

 これまた小人のような二頭身姿の青髪の女性、シイカに話しかけるトウヤ。

 しかし、


「……ウザイ。どうでもいい事に私を巻き込まないで」


 トウヤの言葉に反応するも、シイカは本から目を離さずに、心底面倒くさいといった感じで答える。

 その様子を見て、カズマの事とは別に頭をさらに抱えるトウヤ。


「ああもう! シイカさんもまたそれですか! 少しぐらい人と話しても、罰は当たらないでしょ!

 というか、もっとこう協調性をですね!」


 しかし、トウヤの言葉に今度は全く反応せず、そのまま本を読み続けるシイカ。


「また無視ですか! ホントにもう!」


「おいトウヤ! あんなのほっといて、それよりも行くぞ! 大冒険へ! 戦いの匂いがする場所へ!」


「しません! 大冒険ならまだしも戦いを求めるな! ボクは絶対にいきませんからね!」


 トウヤはそう言ったものの、しかしそんな事でカズマが納得するとは全く思っていなかった。


 どうしましょう。このままではずっとこうやって突っかかってきて、ボクの精神はどんどん衰弱していくやも。

 そんな事にならないためにも、何とか平和的手段でカズマさんに納得していただけねば。


 未だに大騒ぎをしているカズマの横で、ウンウン唸っていたトウヤだったが、突如頭に閃きが。


「あ、これです! カズマさん、わかりました。ならばこうしましょう!」


「何だ!? どうするんだ!?」


「まぁまぁ落ち着いて。シイカさんも聞いててくださいよ! 別に答えなくてもいいですから!」


「…………」


「ゴホン! えぇそれでは。まず話を整理していきたいと思います。

 まずカズマさんの言い分は、いい加減此処でのんびりするのも飽きたので、自分をどこかに行かせろ!

 そういう事でいいですよね」


「おう!」


「正直に言いますが、それを叶えるための方法は二通りあるんですよ、一応。

 まず一つは、カズマさんを『クロックレイズ』で召喚して、一人でどっかに行かせる事です。

 これをすれば、ボクはどこかに行くことも必要なくなりますし、カズマさんも十時間とはいえ思いっきり羽を伸ばせます。

 ですよね?」


「まぁ、それなら……」


 渋々といった感じで、しかし頷いて納得するカズマ。


「でも、今言った方法には問題があります。

 それは、『クロックレイズ』を行うために『樹肉の実』が必要になるという事です。

 現在、カズマさんも知っていますように、『樹肉の実』の残り半分は育て中で、手元に残っているのは全部で三個。

 そんな残り少ない実を、無意味な事に使うのはあまりにも勿体無い。

 それに前回の件で、いざという時のためにしっかり実のストックを残しておき、かつ要領よく使うべきである、とボクは身にしみて理解しました。

 そして、これが最も駄目だと思われる理由なんですが……」


 そう言って、カズマを睨みつけるトウヤ。


「カズマさんをどっかに一人で行かせるなんて危険な事、出来るわけありません!

 よって、この方法は絶対に無しです!」


「巫山戯んな! 何で一人で行かせるのが危険なんだ! ガキじゃねぇんだぞ!

 俺が危険な目に会うなんて、んな事あるか! 余計な心配、つうか余計なお世話だ!」


「誰がカズマさんの心配なんかしますか! 

 どうせ危ない目に会ってお亡くなりになったとしても、すぐにミニマム状態に戻るだけでしょうが!

 そうじゃなくて、カズマさんが危険だから、ボクは嫌だと言ってるんです!」


「何!?」


「だってそうでしょ!? カズマさん、絶対何かしますもん! 

 これは予知とか予測とかではなく、絶対起こりうるであろう確定事項です!

 そんな危険指定動物以上の存在を、一人野放しに出来ますか!

 何かあったら責任取るのはボクなんですよ! 

 そんな事になるのは絶対に嫌なので、この方法は無し!

 しかし、これでカズマさんが納得するとは、ボクごときでも思えません。でしょ?」


「当たり前だ!」


 頭がら湯気を噴出させながら、怒りをあらわにするカズマ。


「やっぱり。まぁそこでもう一つの方法が出てくる訳ですが。

 つまり、カズマさんを一人野放しに出来ないなら、誰かが一緒について行けば良いんです。

 まぁこの場合、ボクになってしまうんでしょうがね。

 でもこの方法なら一々召喚しなくともどこかに行けますし、いざって時にだけ召喚すればいいわけで。

 まぁ結局、この方法でも実が多々必要になってくるわけですから、せめて今育てている実が出来上がるまで待って貰わないといけませんが……」


「へっ! 後三日だろ! そんぐらいなら我慢できるぜ! よしトウヤ! その案で行こうぜ!」


「早合点しないで頂きたい! まだ話は終わってません! 確かに3日後、実は30個出来て充分? 

 かどうかはわかりませんが、まぁちょっと出かけるぐらいならそれで事足りるでしょう。

 しかし、ここで二つの問題点が浮上してくるのです。それは……」


「それは?」


 不思議そうにするカズマに対し、トウヤは真剣な眼差しを向けて、


「シイカさんも強制的に行く事になってしまう、という事です。

 カズマさんも知っての通り、貴方がたはボクから10メートル以上離れられませんからね。

 引きずって行くことになってしまいます。シイカさんを無理矢理連れて行くわけにもいかないでしょ?」


「知るか! あんな根暗女どうでもいい!」


「そういうわけには行きません。なんの因果か、こうして一緒にいる事になったんです。

 それが例え短い期間だったとしても、しっかりお互いの意見を聞き入れて、尊重し合わねば。

 ということで、多数決を取ります」


「多数決だ!?」


「はい。皆さんの意見をしっかりと反映し、公平に裁決を下せる素晴らしい方法です。

 文句ありますか?」


「ある! 多数決なんて面倒な事、何でしなきゃいけねぇんだ!」


「別に面倒じゃないでしょ? 三人しか居ないんだから。

 それとも何ですか? 自分の意見が通らないかもしれないから、怖いんですか?」


「何!? んなわけねぇだろ! よし、やるぞ多数決!」


 トウヤの『怖いんですか』発言に、見事に釣られる哀れなカズマ。


「それではカズマさんも承諾しましたので、これから多数決をしたいと思います。

 『どこかに行く』というカズマさんの意見に、賛成の人」


「おう!」


 と、勢い良く右手を挙げるカズマ。


「反対の人」


 言って、右手をゆっくりと挙げるトウヤ。


「どうでもいい人」


 本を読みながら、面倒臭そうに左手を挙げるシイカ。

 つまり。


「賛成1。反対1。どうでもいい1。

 結果、綺麗に意見が別れたため、現状維持とします。

 つまりどこにも行きません。ご協力ありがとうございました。

 はい解散」


 言って、トウヤは空になった如雨露を肩に担ぎ上げ、自宅へと戻ろうとする、が。


「ちょっと待て! 何だそりゃ!」


 トウヤの裁決を聞いて、しばらく固まっていたカズマは勢い良くトウヤに詰め寄った。


「何だ今のは! お前何で反対してんだよ! 『どうでもいい』って何だ!

 つうか現状維持でどこにも行かないって、お前の反対意見が通ってるじゃねぇか! 

 どういうことだこりゃ!」


 余りにも突っ込みどころの多い結果に興奮するカズマ。

 そんなカズマの疑問に対し、面倒くさいといった表情で足を止めて振り返り、トウヤは言った。


「何故ボクが反対したかというと、行きたくないからです。

 『どうでもいい』というのは、『どちらでもかまわないですよね』と同義と考えてください。

 後、別にボクの意見が通っている訳ではありません。

 そうですね、カズマさんにわかりやすい話でいくと。

 例えば、格闘大会があったとしますね?

 王者と挑戦者の戦いで、今みたいに引き分け的な事が起こったら、カズマさんどうするんですか? 

 王者の勝ちではありませんよね? しかし挑戦者の勝ちでもない。

 ゆえに、王者は王者のまま。挑戦者は挑戦者のまま。それで試合は終了。

 現状維持ってことですよね。試合前と後で何も変えない。

 では、それを今回の議題に当てはめるとどうなるでしょう。

 議題は『どこかに行くのに賛成か、反対か』です

 結果、引き分けになりましたので、行く訳にもいきませんし、行かない訳にもいきません。

 なので現状維持。多数決を取る前と何も変わらない、つまりそういう事です」


「なっ!?」


 トウヤの意見に対し、そんな理不尽な事があるか、といった表情を浮かべるカズマ。

 そんなカズマの様子を見て、再び自宅へと戻ろうとトウヤだったが、再び再起動したカズマがトウヤの前に回り込む。


「ちょ、ちょっと待て! 再試合だ! 決着が付かなかったら再試合があるだろ! 今の多数決だってもう一度やれば!」


「……はぁ~。別にいいですよ。ではもう一度。

 シイカさん、面倒くさいでしょうがもう一度ご協力お願いします。

 カズマさんの意見に賛成の人」


 再び勢い良く手を挙げるカズマ。

 

「反対の人」


 面倒臭そうに手を挙げるトウヤ。


「どうでもいい人」


 しょうがなく手を挙げるシイカ。

 という事で。


「賛成1。反対1。どうでもいい1。

 結果、再び綺麗に意見が別れたため、現状維持とします。

 ご協力ありがとうございました。再び解散」


「巫山戯んな!」


 カズマは悲痛な雄叫びをあげた。


「もう一回だ! もう一回!」


「あのね、いい加減気づいてくださいよ。

 何回やっても結果は変わらないに決まってんでしょ?

 シイカさんも、ボクも。意見変えると思いますか?」


「ぐっ!?」


「ね? 無意味な事してないで、現実を受け入れてくださいよ。

 何かしらの要因がない限り、この現状は変わりません。

 大人しく諦めてください」


「…………」


 真っ白に燃え尽きるカズマ。


「まったく。あ、シイカさん! もう家に戻りますので、行きましょう!」


「…………」


 無言で本をしまいながら、シイカはトウヤに近づいていく。

 そしてトウヤの側にたどり着くと、呆れた顔をしながらトウヤに向かって珍しくシイカから話しかけた。


「……貴方、あんな騒がしい脳筋と良く一緒にいられるわね」


「え、まぁ。別に一緒にいたいわけではありませんが、何かとお世話になってますし」


 というか、もう半ば諦めているというか。


 トウヤはがっかりしながら溜め息を吐いた。


「……こんな結果の分かりきっている方法に乗るなんて、やっぱり脳筋」


「でも、それで助かったというのも事実です。これで当分の間は大人しくなることでしょう」


「……当分?」


 トウヤの言葉に引っかかり、シイカは疑問符を浮かべた。

 

「はい。どうせ二、三日もすれば今日の事を忘れて再び騒ぎ始めるに決まってます。

 そしてまた同じ事が繰り返されるのです。今のうちに次の手を考えなければ」


「……本当に脳筋。しかもウザイ」


「ボクは、そのシイカさんの意見を否定できません。何故ああなのか」


 そう嘆きながらも、シイカと共に自宅方面へと向かっていくトウヤ。

 その10メートル後ろを、カズマは未だに真っ白に燃え尽きながら引きずられていくのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 自宅に帰ってお昼を食べ、再び仕事に取り掛かろうと準備を始めるトウヤ。


 すでにカズマも燃え尽きた状態から復活を果たしていた。

 復活した当初はブツブツ文句を言っていたカズマだったが、しかし公正な方法で出た決議に文句を言えず、不満顔を浮かべながらトウヤの横をプカプカと浮いていた。

 そんな事もありながら、とにもかくにも外に出ようとトウヤがドアに手を掛けようとしたその時。


「トウヤ。いる?」


 自宅のドアをノックしながら聞こえてきた声に、トウヤは目を丸くした。


 あれ? 何でレイナが?


「いますよ。どうぞ中へ」


「うん。それじゃ失礼するね」


 自宅の扉が開き、一人の女性が入ってくる。

 特徴的な薄い緑色の髪を腰まで伸ばし、町を歩けばほとんどの人が振り返る程の可憐な顔立ちをした女性。

 トウヤの幼馴染の一人、レイナである。


 スレンダーだがしっかりと出るところは出ている女性らしい体つきと、トウヤよりも頭一つ程飛び出した身長。

 これによってトウヤより年上だと思われがちだが、これでも歴とした14歳で、トウヤと同い年である。


「レイナ。今日は町に行ったんじゃなかったんですか? もう用事が終わったんですか?」


 本日、レイナは村長の頼みもあってベジル村の近くにあるニアの町に、お使いに行っていた。

 そんな彼女が何故ここにいるのか、トウヤは疑問符を頭に浮かべる。


「ううん。まだだよ。一旦帰ってきただけで、またこれから町に戻るの」


「へぇ~、そうなんですか。 ……ん? では何故ここへ?」


 ボクの家なんかに寄ってていいんですか?


 トウヤがそんな事を思っていると、レイナはどうにも言いにくそうな表情を浮かべて言った。


「あの、実はトウヤにお願いがあって……」


「……はぁ」


「実はね。その、これから町の方に育てた花を大量に持っていかなきゃならないんだけど、人手が足りなくて……」


 あ、そういう事ですか。


「手伝ってくれって事ですね? いいですよ。手伝います」


「…………」


 トウヤの了承に対し、何故か無言でトウヤを見続けるレイナ。


「? 何ですかレイナ? ボクの顔に何かついてますか?」


「あ。ううん。そうじゃなくて、その……」


「はい」


「トウヤ、変わったなって」


 変わった? 何がですか?

 

 レイナの言っている事が分からず、首を傾げるトウヤ。


「前は町にいくのも嫌がってたのに、今はそうじゃなくて。

 それに、トリナの町の人のために討伐にも行って、さらに復興にも自分から協力してて。

 その、たくましくなったというか……」


「……ああ、なるほど」


 討伐の件は、まぁ無理矢理連れて行かれたので置いといて。

 確かに、今までのボクからしたら、復興とかに自ら協力したり、町に行くのを簡単に了承したり。

 絶対しないですよね、何ででしょ?


「村から出て、少しずつ成長してる。そんな風に私は感じる。

 なんか、本当に嬉しいな。私の事みたいでとっても」


 満面の笑みをトウヤに向けるレイナ。

 その笑顔が眩しすぎて、どうにも居心地が悪いトウヤ。


「で、でも。たかが町に行くとか、それだけですよ?

 普通の人ならそんな事、普通にしている事です。

 そんな当たり前の事が出来たからといって……」


「でも、昔のトウヤからしたら、すごい事だと思うよ?

 確かに普通のことかもしれないけど、トウヤにとっては大きな進歩だよ」


「……そんなものですかね?」


 どうにも今一、実感が湧かないトウヤ。


 うーん。あれですかね? 色々あったせいで耐性付いてきちゃったとか、そんな感じなんですかね?

 今までの事を思い返してみると、山賊に襲われ、山賊に攫われ、『オルトロス』に襲われて。

 無数のカラスに襲われ、『ヤタガラス』に襲われ、建物から落下して。


 ……今思ったんですけど、よく生きてられましたね、ボク。


 過去を振り返り、今更ながら震え出すトウヤ。

 運が良いのか悪いのか、しかし何とか生きてられた事に対して、トウヤは天に感謝した。

 

「天よ、ありがとうございます。出来ればトラブルに巻き込まないで欲しかったですが」


「? 何言ってるの、トウヤ?」


「あ、こっちの話です。まぁ、色々ありましたからね。本当に色々と」


 トウヤはちょっと泣けてきた。


「……あ!? というか、こんな事してていいんですか? 花を運ぶんでしょ?」


「あ、そうだったね! トウヤ、村の入口で待っててね。馬車とか用意するから」


「はいはい。了解しました」


 レイナは手を振りながら、トウヤの自宅から外に出ていった。


「……カズマさん、シイカさん。ボク、そんなに変わりましたか?」


 自分ではあまり実感出来なかったので、二人に質問してみるトウヤ。


「へっ! 当然じゃねぇか! 初めてあった時に比べたらもんのすごい違うぜ!」


「……知らない。どうでもいい」


 全く正反対の反応を見せる二人。

 トウヤはとにかくカズマの言葉に対してだけ反応する事にした。


「……ボクは少しだけですけど変わることが出来た訳ですか。まぁ、本当にほんの少しだけですが」


「おうよ! この調子でどんどんいこうぜ! つうわけでどっかに行くぞ!」


 もう先ほどの多数決の件を忘れ、おんなじことを言い出すカズマ。


「今回は一日も持ちませんでしたか。……まぁいいです。

 カズマさん、わかりました。行きましょう、試練の旅へ!」


「おお! トウヤ、お前にもやっとわかったか! 『漢』には試練が必要だってことがよ!」


「はい! では『町に花を届ける』という試練を達成するため、レッツゴー!」


 そう言って扉に手を掛けるトウヤ。

 しかし、


「ちょっと待て! 試練って『花を届ける事』かよ! しかもあの町に!?

 そんな試練ねぇだろ!」


「ありますよ! 前に『町まで行って帰る』試練あったでしょ! それと同じです!」


「ちげぇよ! あん時から成長したんだからもっと派手で、困難で、絶対絶命みたいな窮地に立たされてよ!」


「そんなの嫌ですよ! さぁ、貴方の『どこかに行こう』と言う意見を聞いたんですから、つべこべ言わないで行きますよ!」


 言って、机の引き出しから残り三個の『樹肉の実』を引っ掴んで、外へと出ていくトウヤ。


「おま! 巫山戯んな! 俺は認めねぇぞ!」


 トウヤに続いて慌てて外に飛び出すカズマ。

 そして、


「……バ~カ」


 そんな二人を冷めた目で見つめながらそう言い放ち、シイカは二人の後に付いていくのであった。


ご心配なく。この程度の試練ですむはずがありません。

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