表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
24/36

エピローグ

(12/03/10)誤字・脱字修正

 『ヤタガラス』の襲撃から一夜明け、もう少しで太陽が南に昇りきるかという頃。


 トウヤはトリナの町入口前に一人ぼっちで座り込みながら、溜め息を吐いていた。

 トウヤの右足には包帯が巻かれており、それを見てさらに大きく溜め息を吐いて肩を落とすトウヤ。

 そんなトウヤの態度にいらついて、ミニマム状態で宙に浮いていたカズマとシイカは、トウヤの両肩からそれぞれ容赦のない言葉を浴びせる。


「だぁーーーーーー! うっぜぇ! まだ気にしてんのかよ! このアホ!」


「……うざい」


 しかしそんな言葉を耳にしても、トウヤは怒る様子を見せず。

 死んだ魚のような目をしながら、自身に罵声を浴びせる二人に顔を向けた。


「……だって、どう考えてもそうでしょ? ボクがもっと早くに町に戻っていれば。

 ボクがもっと早くお二人を召喚していれば。ボクがもっと早く……」


「ボクボクボクボクうぜぇ! 別にお前のせいじゃねぇだろうが! つうかお前の行動だけで全てが決まるか、このアホ!」


「……でも、あんなに簡単に『ヤタガラス』を倒す事ができたんですよ?

 『ヤタガラス』が来た時に、ボクがすぐさまお二人を『レイズ』で召喚してさえいれば、それで終わりだったはず。

 そうすれば町はこれほど破壊されずに、けが人も出なかったでしょうし……」


 さらに肩を落としてしょんぼりとするトウヤ。 

 そんなトウヤに、今度は呆れながらシイカが言った。


「……馬鹿じゃないの? 『クロックレイズ』中で召喚出来なかったのもう忘れたの?」


「それに関しても、ボクがあの時『クロックレイズ』で呼ばなかった良かっただけのことでしょ。

 なのにあんな無意味な事に召喚して、それを出来なくするなんて……」


「だ、か、ら! あん時はこんな事になるとは思わなかったんだから、しょうがねぇだろって何辺言わすんだ!」


「……しかし」


「だぁ! 今更んな事言ってもしょうがねぇだろ! もう気にすんな! いいな! つうかよ!」


 カズマは一歩前に出て、トウヤに指を差す。


「お前はあのハトコってガキを助けに町まで戻ってきて、そして助けた! お前にしては十分過ぎる程の働きを見せたんだから、それで良いだろうが!」


「……体が勝手に動いてしまったんです。今考えて見れば実に無意味な行動、いえ、むしろ裏目に出たなと思われます。

 見つけたまではいいですが、『ヤタガラス』に見つかり襲われて、焦って相手を暴れさせるような事をして、おまけに二人一緒に建物から落とされて。

 シイカさんがいなかったら二人揃って死んでお亡くなりに。ボクは何て愚かな事をしてしまったんでしょう。

 もしも自衛団の人にお願いしていたら、もっと安全にハトコちゃんは助けられたはずです。ああ、ボクは何でそれをしなかったんですか」


 町に入ってすぐにあったあの青年は、親子を助けなければならなかったのでしょうがありません。

 ですがあの時、他の場所でも自衛団が捜索していたはずなのですから、その人に頼めば良かっただけの事。

 それを何トチ狂って、自ら助けに行ったのか。


 トウヤはしょげて、足を抱え込みながら体を小さく丸める。

 そんなウジウジしたトウヤに、カズマは額に血管を浮かび上がらせながら怒鳴り散らした。


「お前はさっきからもしもの話ばっかだな!

 何がどうなろうと、結果的にお前はあのハトコってのを助けられたんだから、何の問題もねぇだろ!

 それをいつまでもうじうじと!

 それに体が勝手に動いただ! それでいいんだよ、このアホトウヤ!」


 そう言ってそっぽを向くカズマに、しかしトウヤは不思議そうな顔をして尋ねる。


「カズマさん、何で体が勝手に動いていいんですか? 無意味と分かっていながら勝手な事をするなんて、本当の馬鹿ですよ?」


「アホか! 無意味なんてこと、やってもないのにわかるか! 頭でわかった気でいるなんて根暗女とおんなじだぞ!」


 その言葉に、シイカは目を釣り上げて黙ってカズマを睨みつける。


「それに勝手に体が動いて何がわりぃ! 

 ハトコってのを助けたいとお前は『本能』で感じて、それを実行しただけじゃねぇか!

 トウヤ、よくやったぜ! それでこそ『漢』ってもんだ!」


 今までずっと怒っていたカズマは、途端に嬉しそうな顔をして高笑いを始める。

 そんなカズマを呆れた目で見つめるトウヤとシイカ。


「『本能』? 『漢』? カズマさんが何を言っているのかさっぱりです。シイカさんわかりますか?」


「……脳筋の考えなんてわかるわけないでしょ。何も考えてないんだから」


「お前らうるせぇよ! つうか根暗女! 負けたくせにその態度は何だ!」


 高笑いから一転。

 シイカの言葉にすぐさま噛み付くカズマ。


「……はぁ? 何言ってるの、脳筋の負けでしょ? 誰が見たって」


「お前の目は節穴か! 俺の攻撃でアホ鳥は焼き鳥になったんだよ!」


「……焼かれたんでしょ? なら私の勝ち。そして脳筋の負け」


「ふざけんな!」


 言い合いをしながら、前と同様にトウヤの周りをグルグル追いかけっこし始める二人。

 その姿を見ても、突っ込む気力がないトウヤは溜め息を吐いて二人の喧嘩を眺める事に。


 どうしてこれほど仲が悪いのに、あれほど息のあった攻撃が出来たのか、謎です。

 まぁ『ヤタガラス』ともども、相手を殺す気で攻撃していたような気もしますが。


 しばらくそのままでいると、トウヤの背後からハトコの声がトウヤの耳に聞こえてきた。


「トウヤくん。こんな所にいたの?」


「え? ハ、ハトコちゃん!? 足を怪我しているのに歩いてはいけませんよ!」


「もう大丈夫だよ」


 その場で何度も飛び跳ねて、自身の足が治っている事をアピールするハトコ。


「トウヤくんが塗ってくれた薬のおかげでもう治っちゃった。

 それよりもトウヤくん。こんな所で何してるの?

 もうお昼だよ? ご飯一緒に食べよ?」


「あ、呼びに来てくれたんですか。ありがとうございます」


 トウヤはそう言ってに右足に気を使いながらゆっくりと立ち上がり、びっこを引きながらハトコと共に歩き出す。

 しばらく無言で歩いていた二人だったが、突然ハトコがトウヤに聞いてきた。


「トウヤくん。何であんな所にいたの? 怪我してるのに動いちゃ駄目だよ」


「え、いや。どうも気まずくて」


 町が壊れたのもけが人が出たのも、ボクが原因なような気がして。

 考えすぎだとわかってはいるんですが。はぁ~。


「? どうして気まずいの?

 一緒にいた赤い男の人と青い女の人と、それにトウヤくんの御陰で私達助かったんだよ?

 おねえちゃんも皆も、三人にすごく感謝してたよ?」


「……赤い男の人と青い女の人、二人の御陰、ですよ。

 あの二人が『ヤタガラス』を倒してくれたんです。

 ボクは何もしていません。足を怪我しただけです」


 本当に、何もしていません。ハトコちゃんを助けに行っても、結局危険に晒しただけ。


 肩を落としながらそんな事を思うトウヤに、しかしハトコは怒りながら言った。


「何もしてなくないよ! トウヤくんは私を助けてくれたよ!

 私が足を怪我して一人ぼっちで泣いている所に、トウヤくんは来てくれたよ!

 私すごくうれしくて、怖くなくなったんだよ! だから、トウヤくんは何もしてなくないよ!」


「…………………………そう。そうですか。ありがとうございます、ハトコちゃん」

 

 自身が助けに行ったところで、結局何も出来ずにいたと思っていたトウヤ。

 しかし、それはどうやら少し違っていたようだ。


 ボクが助けに行ったことで、ハトコちゃんの恐怖を少しでも取り除けたのだとしたら、

 ボクのやった事はほんとに少しだけですが、意味があったのかもしれませんね。

 ハトコちゃんがこうして言ってくれたんです。ボクはハトコちゃんの言葉を信じます。

 本当にありがとうございます。ハトコちゃん。


 少し元気を取り戻したトウヤは、そのままハトコとともに町の広場へと歩いていくのであった。 


- 第二章 完 -

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。

この第二章を持ちまして、導入篇を終わらせて頂きます。

次の第三章を早く挙げられるよう、頑張りたいと思います。


どうぞ今後とも、緑と十の育成法をよろしくお願い致します。

それではこのへんで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ