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緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
21/36

第八節 話し合う少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

「は~。すごく広い部屋ですね」


 部屋を見渡しながら、感嘆の溜め息を漏らすトウヤ。


 自分如きが、こんな立派な部屋に泊まっていいのだろうか?


 そんな事を思いながら、トウヤは部屋にあったテーブルに荷物を置き、椅子に座る。


「……なんだか落ち着きません。もう少し狭い部屋の方が良かったです。

 まっ、用意されておいて文句言うのもなんですね。あきらめましょう。……それよりも」


 トウヤは言いながら、両脇にいる二人に目をやった。


「……いいですか。しっかり! お話し合いしましょう。いいですね!」


 そんなトウヤの言葉に、二人は仕方ないな、と言った表情を浮かべ、


「わかってるっての!」


「……了解」


 しかし、肯定の意を示すのであった。

 そんな二人の様子に、トウヤは『良し』、と大きく頷き、テーブルに置いた荷袋の中をまさぐる。


「いや~。本当にこれを持ってきておいて良かったです。結局、討伐には間に合いませんでしたけどね」


 トウヤは荷袋の中から何かが生えた植木鉢を取り出し、テーブルの上に置く。

 それを見たカズマは、驚いてトウヤに近づく。


「おいトウヤ。これ、『実』じゃねぇか。持ってきてたのか?」


 それは、『樹肉の実』を育てた植木鉢であった。


「はい。一応持ってきてたんです。もしかしたら討伐中に実がしっかりなるかと思って。

 ……まぁそんな事を確認している暇はなかったんですが。あ! 出来てますね!」


 植木鉢で育った『樹肉の実』は、すっかりとその実を実らせていた。


「全部で10個の実が生っていますね。ということは1つの実で10の実を得ることが出来ると。

 しかも約10日間という日数で」


 なるほど、と頷きながら実を取っていくトウヤ。

 全ての実を取り終えると、再び植木鉢を荷袋に入れ、しっかりと固定する。


「良し! さぁてと、カズマさん。シイカさん。準備はいいですか?」


 トウヤは二つの実を右手に握りながら、そう二人に尋ねる。


「……あ? 何で実を使う必要があんだよ」


 トウヤの行動に、顔を顰めさせながらそんな事を言うカズマ。

 そんなカズマの言い分に、トウヤは吃驚した。


「おやビックリ。普段あれだけ元に戻せと煩いカズマさんが、元に戻すなだなんて」


 どこかで頭でも打ったんでしょうか?


「話し合うだけだろう! なら、このままでも問題ねぇ! 

 この『根暗女』と、同じ空気を吸いたくねぇんだ! 気分が悪くなる!」


「根暗女。シイカさんの事ですか?」


 中々的を得ているやも、やりますねカズマさん。


 トウヤは、カズマのネーミングセンスを、心の中で褒める。


「……うざい、脳筋。私はお前が視界に入るだけで、気分が悪くなってる。さっさと消滅しろ。目障り」


 カズマの根暗女発言に、カチンと来たのか、シイカがカズマを睨みつけて言った。


「んだと! この……」


「やっかましー!」


 思いきり良くテーブルを叩き、カズマの発言を止めるトウヤ。


「あのね! 今のはカズマさんが悪いですよ! 話し合おうって気が、全然ないじゃないですか!」


「何言ってんだ! しっかり話してんだろ! こうやって!」


「それを話し合うとは言いません! むしろ喧嘩を売ってますよ!」


 カズマに呆れながら、さらにトウヤは続ける。


「あのね、話し合うとはですね。しっかりと、お互いの意見を尊重し合い、さらに互いを理解し合うことを言うんです。

 それなのに、相手を貶すとは、何事ですか!」


「ぐっ!」


 トウヤの最もな意見に、苦い顔をして言葉を失うカズマ。

 そんなカズマの様子を見て、彼女が黙っているはずもなく。

 

「バ~カ」


 カズマを煽るかのように、ニヤつきながら暴言を吐くシイカ。

 トウヤはそんなシイカの様子に対し、再び頭を抱える。


「シイカさん、やめてください! 

 脳筋のカズマさんには理解できなくても、貴方には話し合うという事がどういう事か、理解できているでしょう! 

 それとも、やはりあなたはカズマさん以下ですか!」


「…………」


 その言葉に、再びトウヤを睨みつけるシイカ。


 ふ、ふん! 怖くないですよーだ!


 そんなシイカの様子に、若干ビビりながらも、トウヤはなんとか持ちこたえる。


「それと、これから話し合うんですから、お互い元の姿に戻って、しっかり顔と顔を向き合わせて、一つのテーブルを囲むのが、何より重要なんです! 

 だから、元には戻ってもらいます。後、互いを罵りあるのは禁止! 良いですね!」


「ちっ! わかったよ」


 そう言って、了承するカズマと、


「…………」


 無言で首を縦に振るシイカ。


 ……なんか、もう疲れたんですけど。

 まだ、何にも話し合ってないのに。

 ……本当に、元に戻してもいいんでしょうか?


 そんな疑問も浮かび上がったが、しかしこれは今後を左右する重要なお話であるのも確か。

 それに、トウヤにはどうしてももう一つ確かめたい事があったのだ。


 二人同時の召喚は可能か、不可能か。

 今後のためにも、それは確認しておかねば!


 ということで、トウヤは致し方なく、本当に致し方なく、呪文を唱えることに。


「それでは行きますよ。来い、カズマ! シイカ!」


 そうトウヤが叫ぶと同時に、二人は実に吸い込まれ、二つの実はそれぞれ赤色と青色に発光。


 よし、行けそうです!


「『クロックレイズ』!」


 言った瞬間、それぞれの実はさらに激しく輝き、大きくなっていく。

 さらにその実から双葉が出てきて、実を覆いつくし、そして。


「良し! 成功です!」


 そこには、元に戻った二人の姿が。


「どんな調子ですか? お二人さん」


 トウヤは同時召喚による悪影響が出ていないか、二人に確かめる。

 しかし、そうトウヤが尋ねた直後、


「……『電離』」


 シイカは何を思ったのか、指先から青い雷を突然発生させる。


「ヒィ!」


 すぐさまカズマの陰に隠れるトウヤ。

 そして、カズマの陰から顔も出さずに。


「な、なんですか! 何か不都合でもありましたか!? 

 それなら謝りますので、どうかその危険なものを閉まってください! 雷怖い!」


 目を潤ませながら、トウヤはシイカに必死でお願いする。


「……はっ! それともまさか、油断させて元に戻らせて、ボクを亡き者にしようと!

 なんて狡猾な作戦! 卑怯にも程がありますよ、シイカさん!」


 この為に名前を教えてくれたんですか!


「こうなったらカズマさん! ボクを命を懸けて守ってください!」


 トウヤはカズマの背を押しながら、護衛をお願いする。

 

「やかましい! それより根暗女! 何のつもりだ!」


 シイカに対して戦闘態勢を取るカズマ。


「……何したの?」


「へっ?」


 出した雷を消しながら、シイカはトウヤに尋ねる。

 しかし、トウヤにはシイカの質問の意図がまるでわからない様子。


 はて、ボクは一体、貴方様に何をしてしまったのでしょうか?


「あの、何か問題ありましたか?」


 震えながらも、カズマの背から顔を出して、トウヤは質問する。


「……力が弱まってる」


「……ああ、そう言う事でしたか」


 そう言えば、シイカさんにとって『クロックレイズ』での召喚は初めての事。

 説明を忘れていたボクの不始末ですね。申し訳ありません。


「いや、前に呼び出した『レイズ』と違い、『クロックレイズ』は力が弱まってしまうんですよ。

 カズマさんが言うには、ですが」


 雷も消え、余裕を取り戻したトウヤは、カズマの背中から姿を現しつつ、シイカにそう告げる。


「しかし、利点もあります。

 『レイズ』は十分間しか元の姿に戻すことが出来ませんが、

 『クロックレイズ』だと十時間、そのお姿で居られましてですね」


「……ふ~ん」


 トウヤの説明に、納得した様子のシイカ。


 いや、大変な勘違いをしてしまいました。

 そうですか、確認のために雷を出したんですか。


 そんな事を思いながらシイカに近づいていくと、何故かトウヤの腕を掴んでくるシイカ。


「へっ、一体なんでしょう?」


 何事かと思い、トウヤがシイカの顔を見ると、その口元には歪んだ笑みが浮かび上がっており。


「……『電離』」


「ピギャッ!」


 シイカが呟いた瞬間、トウヤの腕に電流がはしった。


「ジーンって! ジーンって!」


 腕の痺れと痛みの為、その場に倒れ込むトウヤ。

 しばし腕の痺れに地面にうずくまり、なんとか痺れが引いた後、トウヤはシイカに詰め寄った。


「いきなり何をするんですか!」


「……復讐」


「なっ!」


 いきなり意味不明な事を! ボクが一体何をしたってんですか!?


 そんなトウヤの疑問に対して、しかし納得のいく解答が返ってくる。


「……脳筋以下、と言った」


「どうも、申し訳ありませんでした」


 復讐の動機に納得し、すぐさま土下座するトウヤ。


 そうですね。言いましたよね、そんな事。調子に乗ってすいません。


「……バ~カ」


 トウヤの情けない姿に、さらに罵声を浴びせるシイカ。


「……うう、ボクのアホ!」


 情けなさと、すぐ調子に乗る性格に対し、トウヤは自分で自分を戒める。

 そんな事をしながらトウヤがノロノロと立ち上がっていると、今度はその脳天にお馴染みの衝撃が降ってきた。


「いった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!」


 突如襲いかかった痛みに、再びその場でのたうちまわるトウヤ。


「って! いきなり何するんですか、カズマさん!」


 変に耐性が付いたのか、トウヤはすぐさま立ち上がり、脳天にチョップを喰らわせただろうカズマにそう質問すると。


「脳筋脳筋って、何度も言ったろ!」


「誠に申し訳ありませんでした」


 シイカに続き、カズマにも土下座をするアホなトウヤ。


 もう、本当に、なんで、こんなにも、ボクはアホなんですか!

 これですか! 召喚する際に感じた違和感! なぜそれに気づかなかったのか!


「ボクのアホ!」


「「全く(だ)」」


 トウヤの言葉に対し、同時に同意する二人。

 そんな二人の言葉に、トウヤは確信した。


 くぅ~! つまり、こういうことですか!


 カズマ(弱体化)≒ シイカ(弱体化)>>>>>>> 絶対に越えられない壁 >>>>>>>>トウヤ


 またしてもトウヤの前に立ちはだかる、とても高く、とても分厚い壁。


「ああ、なんてこった」


 席に戻りながら、もう何回思った事か、世の不条理に嘆くトウヤ。


 この世は、なんて、あまりにも、こんなにも、ボクにやさしさの欠片もない要素で、出来ているのか!

 

 しかし、悲しんだ所で何かが変わるわけでもなく。

 それよりもさっさと話し合わねば、と頭を摩りながらトウヤは二人を席に座らせて、話し始める。


「……ええ、色々大変、申し訳ありませんでした。

 しかし、こうして一つのテーブルを囲ってお話合いが出来る事を、大変うれしく思い、同時に感謝したいと思います」


 若干棒読み気味のトウヤだが、しっかり最初に謝罪を入れることを忘れない。

 逆ピラミッドの頂点に立つ者の宿命である。

 

「それで、と。あっ、話し合う前に一つ。シイカさんに質問したいのですが」


「……何?」


「あの、力が出ないって、通常の時のどのくらいかわかりますか?」


 カズマさんは『かなり』力が出ないと言っていましたが、具体的にどのくらいなのか?


「……だいたいで良いなら」


「はい! それで一向に構いません!」


「……約十分の一」


 おお、そんなにも!


「なるほど。ありがとうございます、シイカさん!」


「…………」


 再び無言を貫くシイカ。

 もう慣れたので、そんなシイカをスルーして話しを続けることに。


「えっと。後、シイカさんの事をお聞かせ願いませんか?」


「……何で?」


 心底嫌な顔をして、シイカはトウヤの顔を見る。


「いや、あの。お互いの事を、良く知った方がいいではないですか。今後のためにも」


「…………」


「ボクの事は話しましたよね。今度はシイカさんの番ですよ」


「……そっちの脳筋は?」


「何!?」


「ストップ! ケンカは無しで!」


 再び喧嘩になりそうだったので、すぐさま止めに入るトウヤ。


「こちらは『カズマ』さんと言って、あなたと同じように、ボクの助けに応えてくださった、最初の人です。

 それでですね……」


 ……何て言えばいいんでしょうか? ボクもよくわかってませんし。


 何を言えばいいのかわからず、話しを止めてしまうトウヤ。


「えっと。記憶喪失でして、ボクからは何とも。カズマさん、自分で何か言うことは……」


「ねぇよ!」


 不機嫌そうな表情を隠しもせず、そっぽを向いて答えるカズマ。


「……以上です」


 何とも言えない空気に包まれる部屋。


 こんなんで、シイカさんが自分の事を話してくれるんでしょうか?


 どうしたもんか、と頭を抱えるトウヤだったが。


「……そう」


 何故か納得した様子を見せるシイカ。


「おお! 納得していただけましたか!」


 奇跡だ!

 

 トウヤは舞い上がった。


「それでは、こちらの紹介は終えましたので、シイカさんの事についてお聞かせ願えますか?」


「……嫌」


「何ですと!」


 トウヤは席から勢い良く立ち上がる。


「どうしてですか! 確かにカズマさんの事に関しては、あまり伝えられませんでしたが。

 しかし、ボクの事についてはしっかり伝えることは出来たでしょ!

 ならいいじゃないですか!」


「……別に、貴方たちが話したら私も話す、とは言っていない」


「アンガッ!」


 開いた口が塞がらないとはまさにこの事である、とトウヤは理解した。

 しかし、理解はできても納得できるわけではなく。


「そんな! 少しぐらい言ってくれても! 貴方たちの正体がわかるかもしれないのに!」


 一体カズマ達は何者なのか。それを知るためにも、シイカについて知りたかったのだが。


「……嫌」

「くぅ! 何て協調性の無い! お願いしますよ!」


「……うざい。……じゃあ、私も記憶喪失」

「『じゃあ』って言ってますよ! ああもう!」


 髪の毛を激しく掻き毟り、テーブルに突っ伏すトウヤ。

 しかし、すぐに顔を挙げて。


「もういいです! それは一先ず置いておきましょう!

 それでは、今度は今後の事について話し合いましょう!」


 シイカの事について、もう放って置くことにしたトウヤは、もっと大事な話に移ることにする。

 お互いを知らなくても、これから一緒にやっていかなければならないかもしれないのだ。


「まずはっきりと申し上げます。これが一番重要であり、守って頂きたいことです」


 言って、二人の顔を交互に見比べる後、トウヤは腹の奥底から声を出して告げる。


「今後、ボクに迷惑をかけるような行動は、慎んでください!」


 これだけは守っていただかなければ!


「今回、こんな事に巻き込まれたのも、カズマさん! アナタの勝手な行動があったからこそです!」

「何だと!?」


 トウヤの言い分に、カズマは身を乗り出して睨みつける。


「そうでしょうが! あのね、言ったでしょ! 

 ボクは、何回も、何度も、これでもかって程、嫌だって! 

 足手纏いになるからって! ずっと!」


 すっごい言いましたよ!


「現に今回、ボクは足手まといだったでしょうが! アナタもそう言ったでしょ!」


「ぐっ! 確かに言ったけどよ……」


 苦い顔をするカズマ。


「そうです! 確かに言いました! 

 別にそれについて謝れとか、土下座しろとか、そう言う事をいってるんじゃないですよ!

 言いたいことはただ一つ! ボクを巻き込まないでください!」


 もう、怖い思いをするのは御免被ります!


「わかりましたか!」


「ヤダね!」


 トウヤの必死のお願いも、しかしカズマには一ミリも届かなかった。


「何でですか!」


  何故わかってくれないのか、と泣きそうな顔になりながら、トウヤはカズマに詰め寄る。


「だから、何べんも言わすな! 何で俺が……」


「またそれですか!?」


 貴方はどんだけ唯我独尊なんですか!?


 これ以上カズマと話しても、意味がないと悟ったトウヤは、今度はシイカの方に顔を向ける。


「シイカさん。あなたは理解していただけますよね。今後、ボクに迷惑を掛けないように、お願い致します」


 ゆっくりと、丁寧に、シイカの頭に入り込むよう語りかけるトウヤ。


「……別に、貴方に迷惑かけてない」


 そんなトウヤの小馬鹿にした態度に、若干顔を歪ませながらシイカは答えた、が。


「迷惑を掛けてるんですよ!」


 シイカの言い分に言いたい事だらけで、今度はシイカに詰め寄るトウヤ。


「今日だけで一体、何回迷惑をかけたと思ってるんですか! カズマさんを無意味に挑発して! 

 『脳筋』って言ったらカズマさん、すぐ沸点に達する事なんて見ればわかるでしょ! そのせいで被害がこちらの方にも来るんですよ!」


「……脳筋が突っかかってくるから」


「また『脳筋』って言いやがったな! しかもトウヤ! どさくさにまぎれてお前まで!」


 脳筋発言に、再び怒りが沸点に達するカズマ。


「ちょっと待ちなさいってば! 戦闘態勢を取らないで! カズマさん、シイカさんの言う事一々気にし過ぎ!」


 少しは耐えるって言葉を知って、覚えて、実行しなさい!


「シイカさんも! 言ったそばから挑発しないでくださいよ! 目障りなら無視してください!」


「……無視したら、この脳筋が突っかかってきたんでしょ」


「……あ。そういえばそうでしたね」


 事の発端はやはりカズマであった事を、再認識するトウヤ。


 やはりカズマさんが面倒ごとの発端? しかし、シイカさんも煽らなければ……。


 トウヤがそう思い悩んでいる間にも、ほか二人の言い合いは段々とヒートアップしていく。

 

「この根暗女! また俺を!」


「……根暗女って言うな。この脳筋」


「な、ん、だ、と~~~~~~!」


「…………」


 言い合いから、今度は睨み合いを始めだす二人。

 このままでは折角用意された宿泊部屋で、全面戦争が勃発してしまう。

 そんな事になるのはどうしても避けたかったトウヤは、二人を見ながらアタフタし始めた。


 どうしましょうどうしましょう!

 このままで二人の戦いでこの部屋は、というかこの建物が崩壊する危険性が!

 駄目ですよそんな事! 修理費用プラス迷惑料を払える程、ボクは豊かな生活を送ってはいません!


 ……って! そうではなくて! このままではボクまで巻き込まれてしまいます!

 そんな事は、何としても避けなければ!

 ならばどうすればいいのか!


 トウヤは必死にどうしようか考えて、そちて結論に達した。


 ……ふぅ。もう、これしか手はありませんね。


「……そうですか。そう言う事なら、わかりました」


「「?」」


トウヤの発言に、睨み合っていた二人は疑問符を浮かべ、トウヤの方を凝視する。


 理解しました。ああ、理解しましたとも。

 ようするにこのお二人は、水と油。炎と氷。脳筋と根暗。

 ……最後は違いますが、決して交わる事のない、そういうもんだと、ボクは理解しましたよ。

 

 ならば、これしか手は無い!


「お二人とも! 今後一切! 互いに話し合う事を禁じます!」


 そうとも、全面戦争より冷戦の方が、まだボクに被害が来ない!


「もうお互い、先ほどの外でのように極限まで離れ合い、無視しあってください! 

 話し合おうと無駄な努力をした、このボクが愚かでした。ああ、ボクのアホ!」


 何とか少しでも歩み寄ろうと、調子に乗った数十分前の自分が憎くなるトウヤ。


「そして、ボクに、今後、一切! 迷惑を掛けることを禁じます! もうやってられるか!」


 だいたい、こんなの最初から無理だったんです! 

 こんな、自分絶対主義の典型的な二人を! 

 ……まぁ、ボクも若干その毛がありますが。


 とにかく! 同じ席に座らせて仲良く会話するなどという、高次元な事をやるなど。

 レイラがボクに優しくなるのと同じぐらい、不可能な話!

 一体ボクは、何て無駄な時間を過ごしたのか!


「それでは、これにてお話し合いを終わらせていただきます。とっとと解散してください。

 あ、後、同じ空気を吸いたくないのなら、呼吸を止めてください。

 この世界に住んでいる以上、同じ空気を吸うのは致し方ない事です。死んでも良ければそうしてくださって結構。

 それと、こんな奴と同じ部屋に居られるか、とも思われるでしょうが、それについては我慢してください。

 この部屋の正反対の場所に『これでもか!』って程、ギリギリに離れてくださっても結構ですが、外に出るのはやめてくださいね。

 カズマさんは帰ったことになっていますし、シイカさんに至っては、どこの誰だかも説明していません。

 なので、あなた方が外に出ると、ボ、ク、に! 大変迷惑がかかります。

 なので、絶対に! 必ず! 死んでも! この部屋から、一切出ないでくださいね。わかりましたか!」


 トウヤは一気にそう捲し立て、二人を睨みつけた。

 すると、


「ちっ!」


 舌打ちをし、窓際の方に腰掛けるカズマ。

 そして、


「…………」


 部屋に在った本を取り、カズマとは全く逆の方に椅子を引っ張っていき、座って本を読みだすシイカ。

 ついでに。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~」


 大きく息を吐き出しながら、テーブルに突っぷすトウヤ。

 その体は、今までの緊張状態から開放されたことで、思いっきり力が抜けている様子である。


 ……疲れました。本当に疲れました。

 何で話し合うだけで、これほど疲れなけれなならないんでしょうか?

 ……いずれにしろ、もう二度と同じ過ちは繰り返しませんよ。


 そう決意しつつ、目を閉じて休み始めるトウヤ。


 ……とにもかくにも、こうしてトウヤ発案の『お話し合い』は終了、という事になったのである。




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