第八節 話し合う少年
(12/03/10)誤字・脱字修正
「は~。すごく広い部屋ですね」
部屋を見渡しながら、感嘆の溜め息を漏らすトウヤ。
自分如きが、こんな立派な部屋に泊まっていいのだろうか?
そんな事を思いながら、トウヤは部屋にあったテーブルに荷物を置き、椅子に座る。
「……なんだか落ち着きません。もう少し狭い部屋の方が良かったです。
まっ、用意されておいて文句言うのもなんですね。あきらめましょう。……それよりも」
トウヤは言いながら、両脇にいる二人に目をやった。
「……いいですか。しっかり! お話し合いしましょう。いいですね!」
そんなトウヤの言葉に、二人は仕方ないな、と言った表情を浮かべ、
「わかってるっての!」
「……了解」
しかし、肯定の意を示すのであった。
そんな二人の様子に、トウヤは『良し』、と大きく頷き、テーブルに置いた荷袋の中をまさぐる。
「いや~。本当にこれを持ってきておいて良かったです。結局、討伐には間に合いませんでしたけどね」
トウヤは荷袋の中から何かが生えた植木鉢を取り出し、テーブルの上に置く。
それを見たカズマは、驚いてトウヤに近づく。
「おいトウヤ。これ、『実』じゃねぇか。持ってきてたのか?」
それは、『樹肉の実』を育てた植木鉢であった。
「はい。一応持ってきてたんです。もしかしたら討伐中に実がしっかりなるかと思って。
……まぁそんな事を確認している暇はなかったんですが。あ! 出来てますね!」
植木鉢で育った『樹肉の実』は、すっかりとその実を実らせていた。
「全部で10個の実が生っていますね。ということは1つの実で10の実を得ることが出来ると。
しかも約10日間という日数で」
なるほど、と頷きながら実を取っていくトウヤ。
全ての実を取り終えると、再び植木鉢を荷袋に入れ、しっかりと固定する。
「良し! さぁてと、カズマさん。シイカさん。準備はいいですか?」
トウヤは二つの実を右手に握りながら、そう二人に尋ねる。
「……あ? 何で実を使う必要があんだよ」
トウヤの行動に、顔を顰めさせながらそんな事を言うカズマ。
そんなカズマの言い分に、トウヤは吃驚した。
「おやビックリ。普段あれだけ元に戻せと煩いカズマさんが、元に戻すなだなんて」
どこかで頭でも打ったんでしょうか?
「話し合うだけだろう! なら、このままでも問題ねぇ!
この『根暗女』と、同じ空気を吸いたくねぇんだ! 気分が悪くなる!」
「根暗女。シイカさんの事ですか?」
中々的を得ているやも、やりますねカズマさん。
トウヤは、カズマのネーミングセンスを、心の中で褒める。
「……うざい、脳筋。私はお前が視界に入るだけで、気分が悪くなってる。さっさと消滅しろ。目障り」
カズマの根暗女発言に、カチンと来たのか、シイカがカズマを睨みつけて言った。
「んだと! この……」
「やっかましー!」
思いきり良くテーブルを叩き、カズマの発言を止めるトウヤ。
「あのね! 今のはカズマさんが悪いですよ! 話し合おうって気が、全然ないじゃないですか!」
「何言ってんだ! しっかり話してんだろ! こうやって!」
「それを話し合うとは言いません! むしろ喧嘩を売ってますよ!」
カズマに呆れながら、さらにトウヤは続ける。
「あのね、話し合うとはですね。しっかりと、お互いの意見を尊重し合い、さらに互いを理解し合うことを言うんです。
それなのに、相手を貶すとは、何事ですか!」
「ぐっ!」
トウヤの最もな意見に、苦い顔をして言葉を失うカズマ。
そんなカズマの様子を見て、彼女が黙っているはずもなく。
「バ~カ」
カズマを煽るかのように、ニヤつきながら暴言を吐くシイカ。
トウヤはそんなシイカの様子に対し、再び頭を抱える。
「シイカさん、やめてください!
脳筋のカズマさんには理解できなくても、貴方には話し合うという事がどういう事か、理解できているでしょう!
それとも、やはりあなたはカズマさん以下ですか!」
「…………」
その言葉に、再びトウヤを睨みつけるシイカ。
ふ、ふん! 怖くないですよーだ!
そんなシイカの様子に、若干ビビりながらも、トウヤはなんとか持ちこたえる。
「それと、これから話し合うんですから、お互い元の姿に戻って、しっかり顔と顔を向き合わせて、一つのテーブルを囲むのが、何より重要なんです!
だから、元には戻ってもらいます。後、互いを罵りあるのは禁止! 良いですね!」
「ちっ! わかったよ」
そう言って、了承するカズマと、
「…………」
無言で首を縦に振るシイカ。
……なんか、もう疲れたんですけど。
まだ、何にも話し合ってないのに。
……本当に、元に戻してもいいんでしょうか?
そんな疑問も浮かび上がったが、しかしこれは今後を左右する重要なお話であるのも確か。
それに、トウヤにはどうしてももう一つ確かめたい事があったのだ。
二人同時の召喚は可能か、不可能か。
今後のためにも、それは確認しておかねば!
ということで、トウヤは致し方なく、本当に致し方なく、呪文を唱えることに。
「それでは行きますよ。来い、カズマ! シイカ!」
そうトウヤが叫ぶと同時に、二人は実に吸い込まれ、二つの実はそれぞれ赤色と青色に発光。
よし、行けそうです!
「『クロックレイズ』!」
言った瞬間、それぞれの実はさらに激しく輝き、大きくなっていく。
さらにその実から双葉が出てきて、実を覆いつくし、そして。
「良し! 成功です!」
そこには、元に戻った二人の姿が。
「どんな調子ですか? お二人さん」
トウヤは同時召喚による悪影響が出ていないか、二人に確かめる。
しかし、そうトウヤが尋ねた直後、
「……『電離』」
シイカは何を思ったのか、指先から青い雷を突然発生させる。
「ヒィ!」
すぐさまカズマの陰に隠れるトウヤ。
そして、カズマの陰から顔も出さずに。
「な、なんですか! 何か不都合でもありましたか!?
それなら謝りますので、どうかその危険なものを閉まってください! 雷怖い!」
目を潤ませながら、トウヤはシイカに必死でお願いする。
「……はっ! それともまさか、油断させて元に戻らせて、ボクを亡き者にしようと!
なんて狡猾な作戦! 卑怯にも程がありますよ、シイカさん!」
この為に名前を教えてくれたんですか!
「こうなったらカズマさん! ボクを命を懸けて守ってください!」
トウヤはカズマの背を押しながら、護衛をお願いする。
「やかましい! それより根暗女! 何のつもりだ!」
シイカに対して戦闘態勢を取るカズマ。
「……何したの?」
「へっ?」
出した雷を消しながら、シイカはトウヤに尋ねる。
しかし、トウヤにはシイカの質問の意図がまるでわからない様子。
はて、ボクは一体、貴方様に何をしてしまったのでしょうか?
「あの、何か問題ありましたか?」
震えながらも、カズマの背から顔を出して、トウヤは質問する。
「……力が弱まってる」
「……ああ、そう言う事でしたか」
そう言えば、シイカさんにとって『クロックレイズ』での召喚は初めての事。
説明を忘れていたボクの不始末ですね。申し訳ありません。
「いや、前に呼び出した『レイズ』と違い、『クロックレイズ』は力が弱まってしまうんですよ。
カズマさんが言うには、ですが」
雷も消え、余裕を取り戻したトウヤは、カズマの背中から姿を現しつつ、シイカにそう告げる。
「しかし、利点もあります。
『レイズ』は十分間しか元の姿に戻すことが出来ませんが、
『クロックレイズ』だと十時間、そのお姿で居られましてですね」
「……ふ~ん」
トウヤの説明に、納得した様子のシイカ。
いや、大変な勘違いをしてしまいました。
そうですか、確認のために雷を出したんですか。
そんな事を思いながらシイカに近づいていくと、何故かトウヤの腕を掴んでくるシイカ。
「へっ、一体なんでしょう?」
何事かと思い、トウヤがシイカの顔を見ると、その口元には歪んだ笑みが浮かび上がっており。
「……『電離』」
「ピギャッ!」
シイカが呟いた瞬間、トウヤの腕に電流がはしった。
「ジーンって! ジーンって!」
腕の痺れと痛みの為、その場に倒れ込むトウヤ。
しばし腕の痺れに地面にうずくまり、なんとか痺れが引いた後、トウヤはシイカに詰め寄った。
「いきなり何をするんですか!」
「……復讐」
「なっ!」
いきなり意味不明な事を! ボクが一体何をしたってんですか!?
そんなトウヤの疑問に対して、しかし納得のいく解答が返ってくる。
「……脳筋以下、と言った」
「どうも、申し訳ありませんでした」
復讐の動機に納得し、すぐさま土下座するトウヤ。
そうですね。言いましたよね、そんな事。調子に乗ってすいません。
「……バ~カ」
トウヤの情けない姿に、さらに罵声を浴びせるシイカ。
「……うう、ボクのアホ!」
情けなさと、すぐ調子に乗る性格に対し、トウヤは自分で自分を戒める。
そんな事をしながらトウヤがノロノロと立ち上がっていると、今度はその脳天にお馴染みの衝撃が降ってきた。
「いった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!」
突如襲いかかった痛みに、再びその場でのたうちまわるトウヤ。
「って! いきなり何するんですか、カズマさん!」
変に耐性が付いたのか、トウヤはすぐさま立ち上がり、脳天にチョップを喰らわせただろうカズマにそう質問すると。
「脳筋脳筋って、何度も言ったろ!」
「誠に申し訳ありませんでした」
シイカに続き、カズマにも土下座をするアホなトウヤ。
もう、本当に、なんで、こんなにも、ボクはアホなんですか!
これですか! 召喚する際に感じた違和感! なぜそれに気づかなかったのか!
「ボクのアホ!」
「「全く(だ)」」
トウヤの言葉に対し、同時に同意する二人。
そんな二人の言葉に、トウヤは確信した。
くぅ~! つまり、こういうことですか!
カズマ(弱体化)≒ シイカ(弱体化)>>>>>>> 絶対に越えられない壁 >>>>>>>>トウヤ
またしてもトウヤの前に立ちはだかる、とても高く、とても分厚い壁。
「ああ、なんてこった」
席に戻りながら、もう何回思った事か、世の不条理に嘆くトウヤ。
この世は、なんて、あまりにも、こんなにも、ボクにやさしさの欠片もない要素で、出来ているのか!
しかし、悲しんだ所で何かが変わるわけでもなく。
それよりもさっさと話し合わねば、と頭を摩りながらトウヤは二人を席に座らせて、話し始める。
「……ええ、色々大変、申し訳ありませんでした。
しかし、こうして一つのテーブルを囲ってお話合いが出来る事を、大変うれしく思い、同時に感謝したいと思います」
若干棒読み気味のトウヤだが、しっかり最初に謝罪を入れることを忘れない。
逆ピラミッドの頂点に立つ者の宿命である。
「それで、と。あっ、話し合う前に一つ。シイカさんに質問したいのですが」
「……何?」
「あの、力が出ないって、通常の時のどのくらいかわかりますか?」
カズマさんは『かなり』力が出ないと言っていましたが、具体的にどのくらいなのか?
「……だいたいで良いなら」
「はい! それで一向に構いません!」
「……約十分の一」
おお、そんなにも!
「なるほど。ありがとうございます、シイカさん!」
「…………」
再び無言を貫くシイカ。
もう慣れたので、そんなシイカをスルーして話しを続けることに。
「えっと。後、シイカさんの事をお聞かせ願いませんか?」
「……何で?」
心底嫌な顔をして、シイカはトウヤの顔を見る。
「いや、あの。お互いの事を、良く知った方がいいではないですか。今後のためにも」
「…………」
「ボクの事は話しましたよね。今度はシイカさんの番ですよ」
「……そっちの脳筋は?」
「何!?」
「ストップ! ケンカは無しで!」
再び喧嘩になりそうだったので、すぐさま止めに入るトウヤ。
「こちらは『カズマ』さんと言って、あなたと同じように、ボクの助けに応えてくださった、最初の人です。
それでですね……」
……何て言えばいいんでしょうか? ボクもよくわかってませんし。
何を言えばいいのかわからず、話しを止めてしまうトウヤ。
「えっと。記憶喪失でして、ボクからは何とも。カズマさん、自分で何か言うことは……」
「ねぇよ!」
不機嫌そうな表情を隠しもせず、そっぽを向いて答えるカズマ。
「……以上です」
何とも言えない空気に包まれる部屋。
こんなんで、シイカさんが自分の事を話してくれるんでしょうか?
どうしたもんか、と頭を抱えるトウヤだったが。
「……そう」
何故か納得した様子を見せるシイカ。
「おお! 納得していただけましたか!」
奇跡だ!
トウヤは舞い上がった。
「それでは、こちらの紹介は終えましたので、シイカさんの事についてお聞かせ願えますか?」
「……嫌」
「何ですと!」
トウヤは席から勢い良く立ち上がる。
「どうしてですか! 確かにカズマさんの事に関しては、あまり伝えられませんでしたが。
しかし、ボクの事についてはしっかり伝えることは出来たでしょ!
ならいいじゃないですか!」
「……別に、貴方たちが話したら私も話す、とは言っていない」
「アンガッ!」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事である、とトウヤは理解した。
しかし、理解はできても納得できるわけではなく。
「そんな! 少しぐらい言ってくれても! 貴方たちの正体がわかるかもしれないのに!」
一体カズマ達は何者なのか。それを知るためにも、シイカについて知りたかったのだが。
「……嫌」
「くぅ! 何て協調性の無い! お願いしますよ!」
「……うざい。……じゃあ、私も記憶喪失」
「『じゃあ』って言ってますよ! ああもう!」
髪の毛を激しく掻き毟り、テーブルに突っ伏すトウヤ。
しかし、すぐに顔を挙げて。
「もういいです! それは一先ず置いておきましょう!
それでは、今度は今後の事について話し合いましょう!」
シイカの事について、もう放って置くことにしたトウヤは、もっと大事な話に移ることにする。
お互いを知らなくても、これから一緒にやっていかなければならないかもしれないのだ。
「まずはっきりと申し上げます。これが一番重要であり、守って頂きたいことです」
言って、二人の顔を交互に見比べる後、トウヤは腹の奥底から声を出して告げる。
「今後、ボクに迷惑をかけるような行動は、慎んでください!」
これだけは守っていただかなければ!
「今回、こんな事に巻き込まれたのも、カズマさん! アナタの勝手な行動があったからこそです!」
「何だと!?」
トウヤの言い分に、カズマは身を乗り出して睨みつける。
「そうでしょうが! あのね、言ったでしょ!
ボクは、何回も、何度も、これでもかって程、嫌だって!
足手纏いになるからって! ずっと!」
すっごい言いましたよ!
「現に今回、ボクは足手まといだったでしょうが! アナタもそう言ったでしょ!」
「ぐっ! 確かに言ったけどよ……」
苦い顔をするカズマ。
「そうです! 確かに言いました!
別にそれについて謝れとか、土下座しろとか、そう言う事をいってるんじゃないですよ!
言いたいことはただ一つ! ボクを巻き込まないでください!」
もう、怖い思いをするのは御免被ります!
「わかりましたか!」
「ヤダね!」
トウヤの必死のお願いも、しかしカズマには一ミリも届かなかった。
「何でですか!」
何故わかってくれないのか、と泣きそうな顔になりながら、トウヤはカズマに詰め寄る。
「だから、何べんも言わすな! 何で俺が……」
「またそれですか!?」
貴方はどんだけ唯我独尊なんですか!?
これ以上カズマと話しても、意味がないと悟ったトウヤは、今度はシイカの方に顔を向ける。
「シイカさん。あなたは理解していただけますよね。今後、ボクに迷惑を掛けないように、お願い致します」
ゆっくりと、丁寧に、シイカの頭に入り込むよう語りかけるトウヤ。
「……別に、貴方に迷惑かけてない」
そんなトウヤの小馬鹿にした態度に、若干顔を歪ませながらシイカは答えた、が。
「迷惑を掛けてるんですよ!」
シイカの言い分に言いたい事だらけで、今度はシイカに詰め寄るトウヤ。
「今日だけで一体、何回迷惑をかけたと思ってるんですか! カズマさんを無意味に挑発して!
『脳筋』って言ったらカズマさん、すぐ沸点に達する事なんて見ればわかるでしょ! そのせいで被害がこちらの方にも来るんですよ!」
「……脳筋が突っかかってくるから」
「また『脳筋』って言いやがったな! しかもトウヤ! どさくさにまぎれてお前まで!」
脳筋発言に、再び怒りが沸点に達するカズマ。
「ちょっと待ちなさいってば! 戦闘態勢を取らないで! カズマさん、シイカさんの言う事一々気にし過ぎ!」
少しは耐えるって言葉を知って、覚えて、実行しなさい!
「シイカさんも! 言ったそばから挑発しないでくださいよ! 目障りなら無視してください!」
「……無視したら、この脳筋が突っかかってきたんでしょ」
「……あ。そういえばそうでしたね」
事の発端はやはりカズマであった事を、再認識するトウヤ。
やはりカズマさんが面倒ごとの発端? しかし、シイカさんも煽らなければ……。
トウヤがそう思い悩んでいる間にも、ほか二人の言い合いは段々とヒートアップしていく。
「この根暗女! また俺を!」
「……根暗女って言うな。この脳筋」
「な、ん、だ、と~~~~~~!」
「…………」
言い合いから、今度は睨み合いを始めだす二人。
このままでは折角用意された宿泊部屋で、全面戦争が勃発してしまう。
そんな事になるのはどうしても避けたかったトウヤは、二人を見ながらアタフタし始めた。
どうしましょうどうしましょう!
このままで二人の戦いでこの部屋は、というかこの建物が崩壊する危険性が!
駄目ですよそんな事! 修理費用プラス迷惑料を払える程、ボクは豊かな生活を送ってはいません!
……って! そうではなくて! このままではボクまで巻き込まれてしまいます!
そんな事は、何としても避けなければ!
ならばどうすればいいのか!
トウヤは必死にどうしようか考えて、そちて結論に達した。
……ふぅ。もう、これしか手はありませんね。
「……そうですか。そう言う事なら、わかりました」
「「?」」
トウヤの発言に、睨み合っていた二人は疑問符を浮かべ、トウヤの方を凝視する。
理解しました。ああ、理解しましたとも。
ようするにこのお二人は、水と油。炎と氷。脳筋と根暗。
……最後は違いますが、決して交わる事のない、そういうもんだと、ボクは理解しましたよ。
ならば、これしか手は無い!
「お二人とも! 今後一切! 互いに話し合う事を禁じます!」
そうとも、全面戦争より冷戦の方が、まだボクに被害が来ない!
「もうお互い、先ほどの外でのように極限まで離れ合い、無視しあってください!
話し合おうと無駄な努力をした、このボクが愚かでした。ああ、ボクのアホ!」
何とか少しでも歩み寄ろうと、調子に乗った数十分前の自分が憎くなるトウヤ。
「そして、ボクに、今後、一切! 迷惑を掛けることを禁じます! もうやってられるか!」
だいたい、こんなの最初から無理だったんです!
こんな、自分絶対主義の典型的な二人を!
……まぁ、ボクも若干その毛がありますが。
とにかく! 同じ席に座らせて仲良く会話するなどという、高次元な事をやるなど。
レイラがボクに優しくなるのと同じぐらい、不可能な話!
一体ボクは、何て無駄な時間を過ごしたのか!
「それでは、これにてお話し合いを終わらせていただきます。とっとと解散してください。
あ、後、同じ空気を吸いたくないのなら、呼吸を止めてください。
この世界に住んでいる以上、同じ空気を吸うのは致し方ない事です。死んでも良ければそうしてくださって結構。
それと、こんな奴と同じ部屋に居られるか、とも思われるでしょうが、それについては我慢してください。
この部屋の正反対の場所に『これでもか!』って程、ギリギリに離れてくださっても結構ですが、外に出るのはやめてくださいね。
カズマさんは帰ったことになっていますし、シイカさんに至っては、どこの誰だかも説明していません。
なので、あなた方が外に出ると、ボ、ク、に! 大変迷惑がかかります。
なので、絶対に! 必ず! 死んでも! この部屋から、一切出ないでくださいね。わかりましたか!」
トウヤは一気にそう捲し立て、二人を睨みつけた。
すると、
「ちっ!」
舌打ちをし、窓際の方に腰掛けるカズマ。
そして、
「…………」
部屋に在った本を取り、カズマとは全く逆の方に椅子を引っ張っていき、座って本を読みだすシイカ。
ついでに。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~」
大きく息を吐き出しながら、テーブルに突っぷすトウヤ。
その体は、今までの緊張状態から開放されたことで、思いっきり力が抜けている様子である。
……疲れました。本当に疲れました。
何で話し合うだけで、これほど疲れなけれなならないんでしょうか?
……いずれにしろ、もう二度と同じ過ちは繰り返しませんよ。
そう決意しつつ、目を閉じて休み始めるトウヤ。
……とにもかくにも、こうしてトウヤ発案の『お話し合い』は終了、という事になったのである。