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緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
20/36

第七節 爆発する少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

 クロエを倒してからすでに数時間もの時が経ち、もうすぐ日が暮れ始めるかという頃。


 トウヤは現在、トリナの町の自衛団建物前で、ハトナに頭を下げられていた。


「トウヤくん! 本当に申し訳ありません! 

 協力をお願いしておきながら、私たちは何もすることができませんでした!」


 ハトナは、本当に申し訳なさそうな表情で、トウヤにそう告げた。


「あ、いえ。お気になさらず。こうして無事だったわけですし」


 そんなハトナに対し、トウヤは困惑してしまう。


 実際、ボクも何かをしたわけではないですし、そこまで謝られるのも。


 逆に、トウヤは申し訳ない気持ちで一杯だった。

 大体、何も出来なかったのではなく、自分たち、というかカズマの身勝手のために、やる事が無くっなっただけなのである。

 それを自分達の不甲斐なさに置き換えるハトナを見るのは、良心が痛くて仕方がなかった。


「で、でも! ハトナさん達がすぐにあの場に来てくれたおかげで、鳥人化能力者を捕える事が出来ました!

 それに、一人ぼっちでいたボクが、こうしてトリナの町にたどり着けたのもハトナさん達のおかげ!

 本当にありがとうございました!」


 何とかハトナの事を元気づけようと、トウヤは慌ててそう告げる。

 実際、『樹肉の実』は全て無くなってしまい、カズマを召喚できない状態であり、青髪の女性の方も、

 『レイズ』で呼び出したので、十分経過後、すぐに消失時間に移行してしまった。


 そんな状況の中、黒こげで気絶中とはいえ、主犯のクロエと二人っきりで、薄暗い森の中にいる。

 そんな事にならず、すぐに駆けつけてくれたハトナに、トウヤは本当に感謝の気持ちでいっぱいだった。


「カズマさんもいない中、どうしようかと思っていたところでしたし……」


 実際にはいるのだが、物理的にどうしようもない状況であるので、いないのと同じ扱いをするトウヤ。


「いえ。……そういえば、そのカズマさんは一体何処へ行ったのでしょうか?」


「え、あ、いや~。それは、ええと」


 ハトナの疑問に、トウヤは必死で言い訳を考える。

 そして、


「いや、『もう俺の用事は済んだ。後の事はあいつらに任せるわ』、と身勝手な事を言いましてね。

 ボクを置いて、どこかに姿を晦ましました。いや~、実に身勝手な男ですいませんです、はい」


「誰が身勝手だ!」


 トウヤの約10メートル左方向に位置しながら、トウヤの悪口に反応するカズマ。


「そうですか。まだお礼も言っていないのに。……しかし噂通りですね、カズマさんというお方は。

 あの鳥人化能力者を倒してしまうんですから」


「え!? いや、あはははは……」


 何とも言えず、笑って誤魔化すトウヤ。

 実際には、『青髪の女性』が倒したのであって、カズマは何もしていない。

 それどころかクロエに翻弄され、トウヤをピンチに陥らせてしまった、と言っても良いだろう。


 しかしトウヤは、先程まで行われていた取調の際、そこらへんの話をするのは面倒だったので、勝手にカズマのおかげ、という事にしたのである。


 死にそうになった瞬間、青く光った実から女性が召喚され、その人がクロエを倒した。

 そんな摩訶不思議な超常現象、言っても信じられないだろうし、ゼノとの約束から言いたくても言えないのである。

 それならば逸その事、カズマの手柄という事に。

 つまり、そういうことである。


「あ、そういえば。ハトナさん。この後ボクは、どうすればいいんでしょうか?」


 どうにか話を逸らさなければ、と考え、そこで今後どうすればいいのかハトナに尋ねるトウヤ。


「あ、そうですね! すみません、ここまで取調が長くなるとは思わず。

 何分、全てを見ていたのはトウヤくんだけだったので、事細かに状況を聞く必要があったので。

 本当に申し訳ありません」


 そう言って、再びトウヤに頭を下げるハトナ。


「それで、もうこんな時間になってしまいましたので、今晩はこの町の宿屋に泊まって頂きたいと。

 もちろん、宿泊費は私たちの方から出しますから、そこらへんは気になさらないでください」


「え!? いえしかし、そこまでしていただくわけには……」


 トリナの町の自衛団にそこまでされるとあって、困惑ししてしまうトウヤ。


「いえ、この町を救ってくれた恩人に対して、これでもお返しは少ないと思っているんです。

 本当に気にしないでください、トウヤくん」


 そう言って、朗らかな笑みを見せるハトナ。

 そのハトナの様子を見て、逆に断るのも失礼だと思ったトウヤは、その気遣いを甘んじて受け入れることにした。


「……わかりました。そのご行為、ありがたく受け取らせていただきます。ありがとうございます、ハトナさん」


「いえ、では私が宿屋まで……」


「お姉ちゃん!」


 お送りします、とハトナが言おうとしたその時、トウヤの後方から可愛らしい声が二人の耳に聞こえてきた。

 何事かと思いトウヤが後方に振り向くと、そこにはとても可愛らしい顔立ちをした、

トウヤと背が同じぐらいの女の子が一人、駆け寄ってくるのが見えた。


「『ハトコ』! あ、トウヤくん。あの子は妹の『ハトコ』と言って。ちょっとすみません」


 少女『ハトコ』の姿を見て驚いたハトナは、トウヤに妹を簡単に紹介すると、ハトコに駆け寄って言った。


「何しているのこんな時間に!」


 ハトコを睨みつけるハトナ。


「え、えっとね、おねえちゃんを迎えに来たんだけど」

 

 ハトコは、まさか姉に怒られるとは思わなかったらしく、泣きそうな顔になる。


「言ったでしょ! 物騒だから子供は日が暮れる前に家にいなきゃいけないって!」


「……うん。あ、でも、その子は外に出てるよ」


 そう言って、ハトコはトウヤを指さす。


「……え? ボクですか?」


 まさか姉妹の話に、自身が関わるとは夢にも思わず、トウヤは驚いて目を丸くした。


「あの子も私とおんなじぐらいなのに、外に出てるよ」


「ちょっと待ってください!」


 どう見ても年下な少女に、同い年扱いされて話に加わざるを得なくなってしまったトウヤ。


「えっと、ハトコちゃんでしたよね。 どうもトウヤと申します。

 女の子に対し、いきなりこんな事を聞くのもなんなんですが、ハトコちゃんはおいくつですか?」


 なるべく平常心を保ちながら、しかし若干顔をひきつらせてトウヤはハトコに質問した。


「10歳だよ」


「なるほどなるほど。ボクは14歳です。つまり、同い年ではありませんよ」


 優しく、諭すようにハトコに言い聞かすトウヤ。

 しかし、


「……嘘は駄目だよ。トウヤくん」


 まるで同い年の相手に、悪いことはいけません、といった口調でハトコは言った。


「ま!?」


 嘘!? ボクは14歳ではないと! こんな少女に間違われるボクは、一体どんだけですか!


 ショックのあまり、固まってしまうトウヤ。

 そんなトウヤをフォローすべく、慌ててハトナはハトコに言った。


「ハトコ! トウヤくんの言った事は本当よ! ごめんなさいトウヤくん。妹が……」


「えっ!? 本当に14歳なの!? そんなにちっちゃいのに?」


「アンガッ!?」


 ハトコの一言に、さらにガラスの心が粉々になるトウヤ。


「こ、こら、ハトコ! ご、ごめんなさい、トウヤくん」


 本当に申し訳ない顔をして、トウヤに謝罪するハトナ。


 や、止めてください、ハトナさん。

 その同情的な眼差し、ボクにはさらに毒になりますよ!


「ハ、ハトナさん。気にしないでください。今まで散々に言われて、すでに慣れてしまっています。

 どうぞお気になさらず」


 レイラとか、レイナとか。後はその他諸々。

 今更気にした所で仕方がありません!


 トウヤは、顔を上に向けて、涙を堪えながら、そうハトナに言った。


「ぐすっ。 ……あ、それよりも! ハトナさん。ハトコちゃん達子供が、外に出てはいけないというのは、もしかして……」


 涙を拭いつつ、しかしふと疑問に思ったので質問すると、


「あ、はい。例の能力者の問題が片付くまで、子供たちは日が暮れる前に帰宅するようにさせていて」


「やはり……」


 何が起こるかわからない状況でしたしね。安全対策は実に大事です。

 ボクも山賊がいる頃に、家で大人しくしてるよう言われればあんな事には。


 少し前の事を思い出し、自身の村の放任主義さ加減に悲しくなったトウヤ。


「……おねえちゃん。まだ犯人は捕まってないの?」


 不安そうな顔をするハトコに、しかしハトナは笑顔で答えた。


「いいえ。もう捕まえたから大丈夫よ。トウヤくんが捕まえてくれたから」


「何ですと!」


 ハトナの言葉に、ハトコではなくトウヤが吃驚仰天してしまう。


「え? トウヤくん、じゃなくてトウヤおにいちゃんが?」


 トウヤ程ではないが、ハトコも驚きの表情を浮かべる。


「いえいえいえいえ! ボクではなくて、カズマさんという方がですね!」


「そのカズマさんと、トウヤくんが捕まえてくれたの」


「んな!?」


 どうあっても、ハトナはトウヤの手柄にしたい模様。

 ハトナなりの感謝の表れなのだろうが、トウヤにとってはまさにありがた迷惑の何ものでもなかった。


「すごい、トウヤおにいちゃん!」


 純粋な心でその話しを信じ、尊敬の眼差しをトウヤに向けるハトコに対し、否定の言葉を発することなど出来るはずも無く。


「……はい。なので、もう安心ですよ」


 ぐったりとした面持ちで、ハトコにそう言うしかないトウヤであった。

 

 ああ、また嘘を付いてしまった。ボクは何て罪深い人。

 御免なさい女神様。ボクはアホです。どうか罰を!


 トウヤは天に向かって謝罪した。


「……でもハトコ。まだ安心はできないから、早くおうちに帰ってなさい。

 私はこれからトウヤくんを送らなきゃいけないから……」


「あ、うん。わかったよ、おねえちゃん」


 ハトナの言葉に、寂しそうな表情を浮かべるハトコ。

 その様子を見逃すほど、出来の悪いトウヤではなかった。


「あ、それならお気になさらず! ボクは自分で宿屋を探しますから、ハトナさんはハトコちゃんと一緒に帰ってあげてください!」


「え? しかし……」


 ハトナはトウヤの申し出に、しかし申し訳なさそうな顔をする。

 そんなハトナに、さらにトウヤは、


「いえ、実はボクも宿屋に行く前にやらねばいけないことがありまして。テンマの事とか」


 現在、テンマは町の馬小屋にて待機しており、その様子が気になって仕方がないトウヤ。

 まぁ、実際には他にも理由があるのだが。


「なので、ハトコちゃんと帰ってあげてください」


「……トウヤくん。どうもありがとう」


 ハトナは微笑みながら、トウヤに頭を下げた。


「それではご好意に甘えさせてもらいます。宿屋には私の方から話を通しておくので、私の名前を言って泊まってください」


「はい。ありがとうございます」


「トウヤおにいちゃん。ありがとう」


 話の流れはあまりわからなかったハトコであったが、ハトナがお礼を言ったので自分もと思い、トウヤにお礼を言う。


「いえいえ。ではボクはこれで」


 トウヤはそんなハトコに手を振りながら、テンマのいる馬小屋へと歩きだすのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 


「……会いたかったですよ、テンマ。本当に」


 馬小屋でテンマを見つけたトウヤは、怪しい笑みを浮かべてテンマへとにじり寄っていった。

 そんなトウヤの様子にびくついて、テンマは逃げ出そうとする。

 しかし、トウヤがテンマの轡を握り、それは叶わなかった。


「テンマ! 見損ないましたよ! 世話主のボクを置き去りに、一人、いえ一頭で逃げるなんて!」


 トウヤは本日、自身を置き去りに逃げ去ったテンマの行動を、忘れてはいなかったのだ。


「あれだけいつも世話しているというのにあの仕打ち! ボクは大変傷つきましたよ!」


「ヒヒ~ン!」


 トウヤの尋常ならざる様子に、鳴き声を挙げて謝るような仕草を見せるテンマ。

 そんなテンマの様子を見て、トウヤも幾分か落ち着きを取り戻した。


「む~。……まぁいいです。今回は許してあげるとしましょう。身の危険を感じたら逃げる、確かにその行動は正しいです。

 しかしテンマいいですか。今度逃げるときは、ボクも一緒に連れていくように! いいですね!」


 テンマそれに対し、首を振って肯定の意を表した、ようにトウヤは感じた。

 なのでこの件についてはもういいだろう、とトウヤは納得したのだが。


「良し。……さ~て、テンマの件はこれでいいとして」


 しかし、トウヤにとって、これで全ての問題が解決したわけではなかった。

 いや、むしろこれからが本題といったところか。


「……いい加減、近づいてきてくれませんかね、お二人とも」


 そう言って、トウヤは左右を向きつつ問題の人物たちに話かける。

 しかし、


「ふん! やなこった!」


 トウヤより左方向、約10メートルの位置にいるミニマムカズマは、鼻息を荒くして答えるだけ。

 さらには、


「…………」


 トウヤより右方向、これまた約10メートルの位置にて、そっぽを向いて黙秘し続けるミニマム青髪の女性。

 トウヤはそんな様子の二人を見て、大きく溜め息を吐いた。

 実は、このような状態が、あの二人の喧嘩(?)後からずっと続けられているのである。

 

 あの後、『レイズ』の召喚時間を終了し、消失時間に移行した青髪の女性。

 さらに十分後には、カズマと同じミニマム状態で再び姿を現した。


 やれやれ、と思いながらも、トウヤは青髪の女性と話をしようとしたのだが。

 なんと、当の青髪の女性は、トウヤとも話したくないのか、トウヤから離れられる限界ギリギリのところまで離れてしまったのである。


 さて、これには困ってしまったトウヤ。

 どうしたもんかと考えていると、しかしさらに事態は悪化することに。

 なんと、カズマまでもがトウヤから距離を取るように離れてしまったのである。


 まぁトウヤから、というよりも青髪の女性から少しでも遠くに離れたいと思ったのか、青髪の女性から一番遠くになる位置に移動しただけのことなのだが。

 なので、カズマはトウヤの問いにはしっかりと答えはする。


「まぁ、カズマさんの事は放っておきましょう。もう一人の方をなんとかすればいいのですから」


 テンマの毛を撫でながら、しかしどうしたものかとトウヤは思い悩む。

 青髪の女性は、カズマとはまた違った意味、問題児であったからだ。


 カズマさんは直進しかできない猪脳筋男。

 しかしそれでも、何とか会話をする事は出来るのでいいでしょう。

 ……例え、人の話しを聞いていなかったとしても。


 それに比べて青髪さん(仮)。

 一見、カズマさんと違って大人しく、物静かな印象を受けましたが、しかしその本質は大いに違ってました。

 あれは、他人との関係を拒絶し、コミュニケーション能力が欠如した根暗な女性、と言った部類ですね。


 話しをしようにも、一向にこちらの声に答えてくれない。

 カズマさんとはまた違った意味で、非常にやりづらいお人。

 ……というか、なんでこんな性格に難のある方ばかりが召喚されるんでしょうか。


 心底疲れたといった感じで、再び大きな溜め息を吐くトウヤ。


「テンマ。本当にもう疲れてしましました。何故ボクがこんな目に」


 テンマに言った所で何が変わる訳ではないのだが、しかし話さずにはいられないトウヤの心境。

 

 一体、何故ボクは人間関係でこれほどまでに大きく悩まなければならないのでしょうか?


「……とにかく、こちらから時間を掛けて交渉する以外、道はありません。しかし……」


 10メートルもの距離を開かれた状況で、話し合いをすることは可能なのだろうか。

 いや、トウヤが大声で青髪の女性に話しかければ、それも無理な事ではない。

 しかし、それには大きな問題があった。


「そんな事をこの場でしたら、ボクは唯の変質者ですよ」


 他人から見たら、誰もいない方向に向かって、大声をあげる変人。

 そんなものに、トウヤはなりたくはなかった。

 しかし、それ以外に方法はないわけで。


「う~む」


 しばし思い悩むトウヤ。

 しかし、そんな彼に突如、名案が浮かんできた。


「これです! 確かこの袋の中に……」


 そう言って、トウヤは腰袋の中に手を入れて、中を探り出す。

 そして袋の中から、青いさくらんぼのような実、『応答の実』を取り出した。


「これならいけます!」


 大声で話すより、ボソボソと話している方がまだ変態度は低いはず!


 トウヤは早速、2つの実内の1つを取って、青髪の女性の方へと投げた。

 しかし、実はあらぬ方向へと向かって飛んでいってしまう。


「……いいですよ。どうせ制球力『も』ない男ですよ」


 ブツブツ文句を言いながらも、投げた実を取りに行くトウヤ。

 そして先程まで青髪の女性がいた場所に実を置いて、再びテンマの近くへと戻ることに。


「さて、この実はまだ試していないので、うまくいくかどうか。ゴホン。もしもし?」


 大きく咳払いをし、トウヤは実に向かって喋り始めた。


「えっと。聞こえてますか、青髪さん。あ、いや、青髪さんというのは、ボクがまだあなたのお名前を聞いておらず。

 しかし何か名称をつけなければいけなくてですね。すみませんが、お名前が分かるまでこう呼ばせて頂きます。

 あ、もしこの名前が嫌なのでしたら、名前を名乗ってもらえると、嬉しいかな~と」


 そこでトウヤは一度話しを止め、実を耳の方へと近づけていく。

 もしかしたら名前を言ってくれるやも、という僅かながらの期待を込めての行動であったが。


「……反応なし、ですか」


 予想通り、何の答えも返してこない青髪の女性。

 しかし、トウヤにとっては予想内の出来事なので、そのまま話を続ける事に。


「えっと……、あ、そう言えば。まだボクの名前を教えていませんでしたね。

 人に名前を尋ねておきながら、自分の名前を言ってないんて。

 失礼にも程がありました。大変失礼。

 あの、ボクはトウヤと申します。ベジル村で農作業を主とした仕事をし、日々生活をしています。

 後は、馬の世話何かをですね。あ、その世話している馬というのが、ここにいるテンマなんですよ!」


 そう言って、テンマの方を見るトウヤ。

 テンマの方は、晩ご飯の干し草を食べている真っ最中である。


「そう言えば、まだ晩ご飯を食べてませんでした。……って! いえ、こちらの話ですのでお気になさらず。

 えっと、それでですね。ボクとしましては、青髪さんとこうして巡り会ったのも何かの縁、と申しますか。

 一つ、お話し合いをしたいと思いまして。別にカズマさんと一緒に、ってわけではないので、ご安心を。


 あ、もしかしたらカズマさんと言っても誰の事かわからないかもしれませんね。

 この人はですね、数時間前、青髪さんに失礼な態度を取った脳筋野郎の事でして。

 あれについては大変申し訳ありませんでした。何せ育ちが悪いもので」


 カズマが聞いてないことを良いことに、散々悪口をいうトウヤ。


「と、とにかくですね! ボクが青髪さんに言いたいことはですね。

 ……本当は、こういうのは面と向かって言うものだと思うんですが」


 トウヤはここで一度、話しを区切り、深呼吸をする。

 そして、


「あの、助けて頂き、どうもありがとうございました」


 青髪の女性に、トウヤは感謝の言葉を伝えた。


「あの時、青髪さんがいなければ、ボクは今頃どうなっていたことか。

 感謝してもしきれないです。本当にどうもありがとうございます。

 おかげでボク、まだ生きてます」


 本当に、心の底から、感謝です。


 トウヤは『応答の実』越しだというのに、深々とお辞儀をした。


 しばし、二人の間を沈黙が流れた。

 すると、


『……別に、貴方のためじゃない』


 おお! 応えてくれました! やった、……て!?


「ボクの為ではないとは?」


 ならば一体何のために、とトウヤが質問しようとする前に、青髪の女性は答えた。


『……「助けて」って、耳障りだったから。黙らせる為に助けたの、勘違いしないで』


「…………」


 唖然とし、言葉も出ないトウヤ。

 

 え? 何ですかそれは? そんな理由?

 というか耳障りって!


 青髪の女性の物言いに、トウヤは段々と腹が立ってきた。


 くぅ~! こちらが下手に出ているからと、いい気になって!

 ……まぁ、確実にこちらが下手なのですから、しょうがないですけど。

 それでも『耳障り』! ボクの助けを呼ぶ声が『耳障り』!

 ふざけんじゃないですよーーーーーーーーーーーーーーー!


 生命の恩人に対して罵声を浴びせる事など出来ないため、心の中で叫び声をあげることしか出来ないトウヤ。


 鼻息を荒くして我慢するトウヤだったが、しかしふと疑問に思うことが一つ。

 

「……あの。ボク騒ぎましたっけ?」


 心の中で騒ぎまくってても、声に出してはそんなんではなかったような?


『心の中の声が聴こえた。無様に「誰か助けて!」って』


「大きなお世話です!」


 無様と言われ、反射的に大声を出してしまうトウヤ。


「フンだ! そうですよ、無様ですよ! 悪かったですね、無様で!」


 トウヤは段々と、青髪の女性に遠慮していた自分が、馬鹿みたいに思えてきた。

 なので遠慮なしに、本音で話しをする方向でいくことにした。


「その無様なボクから質問ですが! そろそろ貴方のお名前ぐらいお聞かせ願えませんか!」


『…………』


 再び無言になる『応答の実』の向こう側。

 しかしそれに構うことなく、トウヤはさらに話しを続けた。


「別に名前ぐらい良いじゃないですか! こっちも名乗ったんですから、名乗り返すのが筋ってもんでしょ!」


『…………』


「ちょっと! 聴いてるんですか、青髪さん!」


『…………』


「青髪さんてば!」


「……『シイカ』」 


「フギャ!」


 突然、実からではなく、耳元から声が聞こえ、驚きの声を上げてしまうトウヤ。


「な、な、なんですか! 突然!」


 トウヤが声のした方に振り向くと、そこにはミニマム姿の青髪の女性が佇んでいた。

 突然姿を現した事に、しばし呆然としてしまうトウヤ。

 しかし、すぐさま気を取り直し、青髪の女性に質問する。


「ま、まさか。ボクの誠心誠意の言葉が通じて! ……そんなわけないですよね。というか『シイカ』?」


 一体なんの呪文だろうか?


 トウヤは青髪の女性が発した言葉の意味を理解できなかった。

 しかし、


「……私の名前。『シイカ』」


「……あ! 名前」


 トウヤが言葉の意味を理解すると、シイカはすぐさま先程の定位置に戻ろうと、トウヤに背を向ける。

 そんな彼女の背後に、慌ててトウヤは質問を投げかけた。


「あ、あの! 何でボクに名前を?」


 突然名前を告げられ、困惑するトウヤ。

 そんなトウヤの言葉に反応し、シイカは動きを止めて、背を向けたまま答える。


「貴方の鬱陶しい声、もう聴きたくないから、助けて欲しい時に呼んで。それに……」


 言いながら、シイカはトウヤの方に顔だけ振り向かせる。

 その彼女の口元には、人を小馬鹿にするような笑みが浮かび上がっていた。


「あの脳筋じゃ、役に立たないでしょ」


「んだと! このアマ!」


 何故そんなに離れた位置にいながら聞こえたのかはわからないが、シイカの悪口を聞いて、文字通りすっ飛んでくるカズマ。


「なんて言った! 今、俺の事!」


 言いながら、カズマはものすごい勢いでシイカに詰め寄る。


「……脳筋って言ったの。一度で理解できないの、バ~カ」


「うるせぇ! 分かってて聞いたんだよ! このアマ!」


「……分かってるのに聞いたの。本当に脳筋」


「んだと! この! もう簡便なんねぇ!」


 そう言って、ものすごい勢いでシイカに詰め寄るカズマ。

 そして、


「うざい。寄るな。キモい」


 カズマを挑発しながら、逃げるシイカ。

 しかもトウヤの周りを、グルグルグルグルグルグルと。

 はたから見れば、まるで子供の喧嘩をしているとしか思えない二人。


 そんな二人が駆け回る円の中心で、トウヤは体を震わせていた。

 子供の喧嘩を、自分を中心にして行われれば、それはもう我慢が出来るわけもなく。


「もう、いい加減に、してくださーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


 激しい怒りの篭った叫び声を、トウヤは辺り一体に響きわたらせた。

 トウヤの叫び声に驚いた子供二人は、唖然とした面持ちでトウヤを見つめる。

 そんな二人に構うことなく、たまったものを一気に放出するトウヤ。


「ボクより歳が上だと思われるお二人が! 何、子供みたいなケンカしてるんですか! 大概にしてください!」


 しかもボクを中心に、アンタ方、何やってんですか!


「もうこうなったらボクは決めました。今日は! とことん! 三人で! 話し合いましょう!」


「はぁ! いきなり何言ってんだ! 何で俺がこんなアマと!」


「ウザい。私に関わるないで」


「黙って聞け! このアホ二人!」


 二人に噛み付く勢いで、怒鳴り散らすトウヤ。


「ふざけんな、俺が何でお前の……」


「忘れたとは言わせませんよ! カズマさん! あなた言いましたよね! ボクの言う事を、しっかり、聞いて、それを、貴方の、無い頭に、叩きつけると!」


「ぐっ! いや、それは!」


 言いましたよ! 約束守れ!


「それとシイカさん!」


 カズマを黙らせたトウヤは、今度はシイカを睨みつける。


「何? 私は……」


「あなたは、カズマさんの事を『脳筋』と言っていましたね!」


「……それが何?」


「確かに、その意見には同意します」


「おい! トウヤ!」


 黙ってなさい!


「しかし、あなたは、その脳筋のカズマさんにも劣る!」


「…………」


 無言でトウヤを睨むシイカ。

 それもそのはず、あろうことかカズマ以下と言われたのだ。

 どんなにプライドの低い人間でも、これには頭に来る事間違いない。


 そんなシイカの様子に、若干びくつきながらも、しかしトウヤは止まらなかった。


「人との最低限のコミュニケーションも取れない貴方に! カズマさんを脳筋と言う資格は無い! なぜなら、貴方は社会不適合者だからです!」


 そう言って、未だに睨み続けるシイカに、指を指すトウヤ。


 社会不適合者予備軍のボクが言うのもなんですが、しかしボクはまだ予備軍!


「どんなに脳筋なカズマさんでも、ボクとはしっかりお話し合いをすることが出来ました。例え脳筋でも!」


「おい! 脳筋脳筋言うな!」


 トウヤの『脳筋』連発発言に、一度は黙ったカズマもツッコミを入れてくる。

 しかし、そんな事を気にするトウヤではなかった、今回は。


「黙っててください! そんな脳筋のカズマに出来ることが、シイカさん! 貴方には出来ないという! これを、カズマさん以下と言わずに、何と言いますか!」


 そう言い切ったトウヤを、しばし無言でにらみ続けるシイカ。

 しかし、


「……了解。話し合いましょう」


 そっぽを向きながら、トウヤの意見に肯定の言葉を返した。


 ……勝った。ボクは、


「やっほ~い」



 あまりの嬉しさに、我を忘れてその場で回転し出すトウヤ。

 それを横から、アホを見る目で見る、先ほどまでいがみ合っていた二人。


 いいもん! 今、ボクは清々しい気分です! 

 なんとか生き残る事が出来た上、普通だったら逃げ出しそうな怖い人に、口で勝つごとが出来たのだから!


 しばらくそうやってクルクル回っていると、次第に辺りが暗くなってくる。

 日が沈みかけ、時刻が夜へと移り始めたのだ。


「おっと。もうこんな時間ですか。とにかく話の続きは宿屋でしましょう。

 そして、じっくりと、ゆっくりと。時間を懸けて話し合うとしましょう! ヤッフー!」


 未だ異常なテンションを維持しながら、トウヤは二人を引き連れて、宿屋へと向かっていくのであった。

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