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緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
18/36

第五節 置き去りの少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

「あわわわわわわわわわわわわわわわわあわわわ……」


「うっせぇな、いい加減覚悟決めろっての。もう森に入っちまったんだからよ」


 トウヤ達が森に入ってから十数分、未だ恐怖で震え上がっているトウヤに、カズマはいらついてそう言った。

 しかし、そのカズマの言葉に言いたいことがあったトウヤは、抱えられながらもカズマを睨みつけた。


「入りたくて入ったんじゃありません。入りたくもないのに連れ込まれたんですよ! それなのに覚悟なんて出来ますか! 

 それとも死ぬ覚悟ですか!? それこそ出来るわけないでしょ!」


「ああ、うっせぇうっせぇ。 それよりも鳥野郎はどこにいんだよ!」


 トウヤの言い分を無視して、カズマは辺りを見回した。


「話を逸らさないでください! ……まぁ、もう少し奥の方なんじゃないですか? 

 こんな森の中で人を襲うような輩なんですから、もっと人目のつかない場所に隠れてるんですよ」


 物語によくある、森に隠れ住みながら人を襲う悪役の行動を思い出しつつ、トウヤはカズマにそう言った。


「けっ、臆病もんめ。コソコソ隠れてねぇで潔く俺たちの前に出てこいってんだよ」


「……ボクとしては出てきて欲しくありません。というよりも、先にハトナさん達が出会い、倒して頂けると大変ありがたいです。

 むしろそれがボクにとっての最良の結果」


「巫山戯んな! 何のために俺達が来たと思ってんだよ!」


「協力しに来たんですよ! 別にボク達が倒したり捕まえたり、戦う必要はないんです! 

 それにボクは来たくて来たんじゃありません!」


 トウヤは、カズマの戦闘狂的発言にイライラしながら、そう言った。


「ったくよ」


 舌打ちをして、不満タラタラの顔になるカズマ。

 しかしそんな彼の目に、あるモノが見えた。


「お! あれが鳥野郎の根城か?」


「えっ!?」


 カズマの言葉を聞き、彼の見ている方向を向いて目をむき出しにするトウヤ。


 見るとそこには、古びた小屋が建っていた。

 何年も人が住み着いていないような、古めかしい様子を醸し出す小屋。

しかしその煙突からは煙が出ているため、そこに人が住んでいるという事がわかるトウヤ。


「ま、ままっま、まさか……」


 再び恐怖で震え出すトウヤ。


 つ、つまりあそこには、調査隊を全滅寸前まで追い込んだ張本人がいらっしゃる、と……。


「カ、カズマさん。か、帰りましょう? いえ、それが出来なくともハトナさんたちに居場所を教えに、一旦引きましょうよ」


 トウヤは声を低くして、そうカズマに提案する。

 だがすぐに、そんな提案が無駄であるとトウヤは悟る。


 ああ、どうせカズマさんのことだ。

帰るなんて絶対しないし、ハトナさん達に居場所を教えるわけもない。

それにボクの言うことなんて聞くような人じゃないもんな……。


 そう考えて、項垂れるトウヤ。

 しかし奇跡は起きた。


「……そうだな。帰るか」


「えっ!?」


 カズマの意外過ぎる発言に、勢い良く振り向いて顔を凝視してしまうトウヤ。


 な、何故!? あれだけ戦いたがっていたのに、この心境の変化は一体?

 で、でもそんな事はどうでもいいか! カズマさんが帰ると言ってるんだ。

 ボクはその言葉に異論はありませんし、むしろバッチ来い!


 トウヤは感動の涙を流した。


「そ、そうですか! 帰りますか! なら……」


「おう! さっさと突入して、さっさと終わらせて、さっさと帰るぞ!」


 勢い良く小屋へと向かっていくカズマ。

 そして、


「やっぱりそうなりますか! 何を勘違いしてたんだ、ボクのアホ!」


カズマに抱えられながら、トウヤは甘い考えをしていた自分を罵倒するのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「覇ッ!」


 カズマは小屋の扉を蹴り壊し、そのまま中へと突入する。

 そして抱えていたトウヤを解放した。

 それに驚きつつも、しっかりと着地したトウヤは、カズマに言った。


「いきなり放さないでくださいよ! あと、何て失礼な入り方を!」


「うっせぇ! 敵の根城の事なんて気にすんな!」


「しかし……、うん?」


 カズマに文句を言おうとしたトウヤは、何かに気づいてそちらに顔を向けた。

 トウヤが見つめるその先には、黒い衣装で身を包んだ何者かの後ろ姿が写っていた。


「……人の家のドアを蹴り飛ばすなんて、どこの馬鹿者だい?」


 黒い衣装の人物は、そう言ってトウヤ達の方へと顔を向ける。

 振り向いた顔を見て、驚くトウヤ。


「じょ、女性の、方?」


「おや、私が男に見えるってのかい?」


「あ、いえ。男性だと思っていたもので……」


 まさか調査隊を全滅させたのが、黒い衣装を身に纏っているとはいえ、美人の類に入る女性だったとは……

 トウヤがそう考えていると、カズマが言った。


「おい! お前が鳥野郎か!」


「鳥『野郎』? おやおや、そっちの赤髪の坊やも私を男扱いかい。こんな美人に向かってさ」


 女性は口を手で隠しながら、クスクスと笑い声をあげた。


「どっちだっていい! 鳥野郎だろうが鳥女だろうが。お前が調査隊を全滅させた奴だって事には変わりねぇだろ!」


 女性に指を指して、そう尋ねるカズマ。


「私の名前は『クロエ』。鳥女なんて言うんじゃないよ。それと調査隊? 

 ああ、トリナの町の奴らの事。そう、そいつらをやったのは私。それで?」


「良し、それだけわかれば十分だ。お前を……」


「ちょ、ちょっと待ってください! カズマさん!」


 今にも飛び掛かりそうなカズマを、止めるトウヤ。


「何だよトウヤ! 邪魔すんな!」


「ちょっとだけですよ! あ、あの。クロエさん」


 トウヤは若干震えながら、クロエに話しかけた。


「何だい坊や?」


「な、なんで貴方のような方が調査隊を? それにこの森に入った人を殺したのも、貴方だとか……」


 トウヤは、どうも目の前の人物がそんな事をするようには見えなかった。


「……ふ~ん。私がそんな事をするように見えないって顔だね」


 クロエは口元を歪めながら、トウヤの顔を見つめた。

 そんなクロエに、トウヤは背筋が凍りついた。


「……何で私がそんな事をしたか、教えて上げようか? 別に殺したくて殺したわけじゃないよ。ただ、必要だから殺したまでさ」


「ひ、必要?」


 トウヤは喉を鳴らし、クロエを見つめた。


「ああそうさ。私の可愛い子供達のために、ね?」


 そう言ってクロエは、左腕を肩まであげる。

 すると一羽の黒い鳥が小屋の中に飛び込んできて、彼女の左腕につかまったとまった。


「カ、カラス?」


 彼女の腕に止まっていたのは、カラスだった。

 そのカラスは、獲物を見るような目をしてトウヤを見つめている。


「この子達は私が育てていてね。可愛くてとっても頭の良い、私の子供みたいなもんさ」


 腕にとまっているカラスの首筋を撫でながら、クロエは言った。


「この子達はよく食べる子でね。近くの動物や虫なんかの死骸を食べて、大きくなってるんだよ」


「へ、へぇ~~」


 トウヤは『死骸』という言葉に顔を青くした。


「でも、最近この森に住む動物達の量が減ってきてね。まぁとても元気な子が一羽いるから。

 それでどうしようかと思っていたところに、ちょうど良い獲物が現れたのさ」


 歪んだ口元をさらに歪ませて、トウヤの顔を見つめるクロエ。


「最初は偶然でね。こんな森の中で何をしたら野垂れ死ぬのかわからないけど、それが始まりだった。

 その餌をこの子達は大層気に入って、私におねだりするようになったんだよ。

 でも、そうそう簡単に得られる餌でもないから、私も困ってねぇ」


 ふぅ、とため息を吐くクロエ。


「この前は本当に大量だったよ。まさか餌の方から大量に来てくれるとは思わなかった。

 御陰でこの子達も大変満足してくれた、本当に良かったよ」


「あ、あ、ああ」


 クロエの言葉に、何を言いたいのか気付くトウヤ。


 つ、つまり、それは……。


 今まで以上に体を震え上がらせ、額には冷や汗が大量に流れ出ている。


「フフ。分かったかい? それが殺した理由。それとこれがその成れの果てだよ」


 クロエは近くにあった大釜に手を掛け、地面へと転がした。

 その中から、白い何かが大量にトウヤ達の方へと転がってくる。

 それが何か、と白い物体を見つめるトウヤ。


 それは、まるで、人の……。


「トウッ!」


 トウヤは、その物体が何であるかを認識する前に、小屋から文字通り飛び出した。

 そして小屋の壁に背をあずけてヘタリ込み、頭を抱えて呟いた。


「ボクハミテナイボクハミテナイボクハミテナイボクハミテナイボクハミテナイ……」


 必死で暗示を唱え、自身に思い込ませようとするトウヤ。

 そんなトウヤにお構いなしに、小屋の中では話が進んだ。


「ハハハ! どうやらまた、大量の餌が来てくれたみたいだね! うれしいよ!」


「黙れよ鳥女! お前は今日ここで、俺に倒されんだから、餌の心配もいらねぇよ!」


 カズマはクロエに向かって戦闘態勢を取る。

 そんなカズマの姿を見て、クロエは笑った。


「倒される? 私がかい? 面白い、やってみなよ!」


 そう言って両手を大きく広げるクロエ。

 それと同時に彼女の背中から黒い翼が生える。


「面白ぇ! それが『鳥人化』か!」


 カズマはクロエに飛びかかった。

 しかし、


「いきな! カラス達!」


 クロエの合図とともに、大量のカラスが小屋の窓を突き破り、カズマへと襲いかかる。


「ちっ!」


 カズマはこの狭い小屋の中では戦えないと考え、小屋の外にと飛び出した。


「カ、カズマさん!」


 外に飛び出したカズマに、突然の戦闘開始に腰が抜けたトウヤが、涙を流して話しかける。


「一旦引くぞ!」


「こ、腰が。腰が抜けて……」


「このアホ!」


 カズマはトウヤを脇に抱え込む。


「逃がさないよ、大事な餌なんだからね! お前たち!」


 クロエの命令により、大量のカラスが小屋から飛び出してくる。


「ヒィ!?」


「いくぞトウヤ!」


 大量のカラスの姿にビビるトウヤを抱えながら、カズマは森の中へと走りだした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「カズマさん! もっと速く! 追いつかれますよ!」


 後ろから追ってくるカラスたちを見て、トウヤはカズマの背を叩きながら言った。


「うっせぇ黙れ! くそっ、カラスなんて使いやがって、一対一で勝負しやがれ!」


 クロエの卑怯ぶりに、頭に血を昇らせて吠えるカズマ。


「アホですか! 一対一なんて決闘じゃあるまいし! そんな文句言ってないで速く速く!」


「だからうっせぇ、ってあぶね!」


 一羽のカラスが、鋭い嘴を向けてカズマに特攻を仕掛けてきた。

 ギリギリでそれを回避するカズマ。


「なっ、なっ、なっ……」


 トウヤがカラスの突っ込んでいった方を見ると、そこにはカラスの大きさ程の穴があいた地面の姿が。


「ちっ! まぁまぁ威力があんじゃねぇか!」


「『まぁまぁ』!? 『かなり』の間違いでしょ! あんなの食らったら一溜りもありませんよ!」


 あんなのカラスが出来る事じゃない! あのクロエって人が何かしたんですか!?

 トウヤがそんな事を考えている間にも、大量のカラスが先程のように嘴を向けてトウヤ達に突っ込んでくる。


「来ました! 来ましたよ!」


「くそっ!」


 カズマはトウヤを担ぎつつカラスたちの攻撃を避けていく。

 四方八方から襲いかかる攻撃をギリギリで紙一重で躱し、時には右手で反撃する。

 しかし余りにも膨大な量のカラスたちに、段々と傷を追っていくカズマ。


 そして、


「! トウヤ、投げんぞ! 受身取れよ!」


「えっ!? っておわーーーーーーーー!」


 突如カズマに、空中へと放り投げられるトウヤ。

 一瞬の浮遊感の後、地面へと転がり込んで、そのまま近くの木に頭からぶつかる。


「いったーーーーーーーーー! いきなり何すんですか!」


 トウヤは頭をさすりながら、カズマに文句を言った。

 そしてカズマの方を見る。


「へっ?」


 目の前の光景に唖然とするトウヤ。

 そこには、体にカラスの嘴が多数突き刺さり、口から血を吐くカズマの姿があった。


「く、っそ……」


 苦しみながらも、自身の体を貫いたカラスたちを睨みつけるカズマ。

 しかし、その身体は段々と赤い光に包まれていく。


 そして。


「カ、カズマさん?」


 光が消え去ったあと、そこにカズマの姿はなかった。

 まだ『クロックレイズ』をしてから10時間は経っていない。

 なのにその姿は消え去り、残ったのは呆然とカズマのいたところを見つめるトウヤと、


「カァ!」


 カズマの体を貫いたカラスたちだけ。

 トウヤは呆然自失状態となっていたものの、カラスの鳴き声を聞くと、すぐに体をお越して逃げ始めた。


「な、なんで。どうして!」


 死んだ? 死んだんですか、カズマさん?

 ボクをこんな所に連れ込んどいて、自分はまっ先に死んでしまったんですか?

 そんな、そんな……。


「カズマさんの無責任男!」


 自分を守って死んだ男に対して、大変酷い物言いであった。


「誰が無責任だ! ぶん殴るぞ!」


「カ、カズマさん!?」


 突如現れたミニマムカズマに、トウヤは驚きの声をあげた。


「よ、良かった! 生きてたんですね!」


 トウヤは涙を流して、カズマの生存を喜んだ。主に自分の為に。


「うっせ! そんな事言ってる場合じゃねぇだろ! 後ろ見ろ! さっさと召喚しねぇと死ぬぞ!」


 カズマは後ろを指さして、召喚するようトウヤに促す。

 トウヤが後ろを見ると、そこには大量のカラスがトウヤに狙いを定めて飛ぶ姿が。


「そ、そうでした! では行きますよ! 来いカズマ!」


 すぐさま袋から残り二個の『樹肉の実』の内、一個を手に取りカズマを実へと呼び込む。

 さらに懐中時計を確認し、時刻を把握。

 そして、


「『レイズ』!」


 呪文を唱えた瞬間、実は激しく光だした。

その実は段々と大きくなっていき、双葉が生え、その双葉が実を包んでいく。

直後、そこには元の姿に戻ったカズマの姿が。


「よっしゃあ! あのカラス共吹き飛ばしてやるぜ!」


 そう言って、カラス達の方に左手で狙いを定め、右拳を腰元まで引き。


「覇ッ!」


 掛け声と共に引いていた拳を前に突き出すカズマ。

 その直後、森の中に嵐が発生した。


「カッ!」


 カラス達はその嵐に飲み込まれ、まわりの木々と共に吹き飛んでいく。


「良し! 行くぜ!」


 カズマはカラスたちを撃退した事を確認すると、クロエがいる小屋へと向かって駆け出した。

 ちなみに、トウヤはというと。


「だから! 大技を! ところかまわず! 使わないでくださいよ! カズマさん、……っていない!?」


 カズマの攻撃の余波で吹き飛んだトウヤは、カズマがいないことに気付き、慌てる。


「ちょ、ちょっと! 置いてかないでくださいよ!」


 たった一人で危険な森の中に取り残されたくなかったトウヤは、カズマの後を追って小屋の方へと向かっていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「!? お前!?」


 突如小屋の屋根を吹き飛ばして降り立ったカズマを見て、驚きの表情を浮かべるクロエ。


「よう、さっきぶりだな。てかぶっ飛ばす!」


 有無を言わさずクロエに突っ込むカズマ。


「ちっ!」


 カズマの突進から逃れるため、クロエは翼を羽ばたかせて吹き飛ばされた小屋の屋根から空中へと飛翔する。


「待ちやがれ!」


 それを見て、自身も跳んで後を追うカズマ。

 しかしカズマが外に出ると、クロエが上空で音波による攻撃態勢をとっていた。

 そして、


「カッ!」


 クロエが叫んだと同時に、カズマに襲いかかる音の衝撃波。


「なろ!」


 カズマは一瞬その衝撃波にたじろくも、すぐに態勢を立て直してクロエへと再び跳躍した。

 そして、飛翔しているクロエに対し、右拳を振るった。


「くっ!」


 それを辛うじて避ける事が出来たクロエだったが、横を通り過ぎた拳圧に顔を顰めた。


「何て威力の攻撃だい!」


 冷や汗を流してカズマに叫ぶクロエ。


「ちっ! 避けてんじゃねぇよ!」


 カズマは舌打ちをしながら、今度は左拳で追撃するも、


「当たらないよ!」


 空中戦はクロエに分があり、またもやカズマの攻撃は空を切る。


「くそっ!」


 二撃目も避けられ、そのまま地面へと落ちていくカズマ。

 そんなカズマを見て、クロエは思考する。


 奴の攻撃力は大したもんだけど、こっちは空中にいるんだ。そうそう当たらないね!

 でも念には念をいれて……


 自身の安全を確保するため、クロエは攻撃が届かないようさらに上昇していった。

 そうすればこちらからの攻撃だけが届く、そう考えての行動だったが。

 しかし、


「? 何をしてんだい?」


地面に落ちたカズマが、何やら構えを取っているのを視界にいれ、疑問符を浮かべるクロエ。

だが次の瞬間。


「覇ッ!」


「な!?」


 突如カズマから放たれた拳圧の嵐に吹き飛ばされ、クロエは飛行不能状態に陥る。

 なんとか態勢を取り直し、再び空中を飛べるようになったものの、彼女の顔には焦りの表情が浮かんでいた。


「な、何て攻撃するんだい! このままじゃ地面に落とされちまうよ!」


 クロエはこのままカズマと戦う事に危険を感じ、逃げ出すことにした。


「待て! 逃げんじゃねぇ!」


 しかしカズマはそんなクロエの後を、人間とは思えない超スピードで追いかける。

 空中を飛んで逃げるクロエに、段々と距離を詰めるカズマ。


 このままでは逃げる事も出来ない、と感じたクロエは口に指を加えて、指笛を発した。

 するとその音に反応して、森の奥から大量のカラスたちが姿を現す。


「頼むよ、お前たち」


 クロエは、自身の口から音を発して音の鎧をカラスたちにまとわりつかせる。

そして、


「いきな!」


 クロエがそう命令すると、カラスたちは一斉にカズマに襲いかかった。

 先ほどカズマが致命傷を与えられた攻撃。普通ならまたやられるのは目に見えている。

 しかし、


「しゃらくせぇんだよ!」


 目にも止まらぬ速さで拳を振るい、高速で突撃してくるカラスを撃退するカズマ。

さきほどまでの『クロックレイズ』とは違い、本来の力を発揮できる『レイズ』のカズマにとっては、カラスの攻撃など赤子の手をひねるようなものだった。


「ペットに攻撃ばっかさせてねぇで、自分から来ねぇのかよ!」


 カラス達を軽くなぎ払いながら、クロエに近づいていくカズマ。

 そんなカズマにクロエは恐怖した。


 このままでは奴にぶちのめされて捕まっちまうよ! 

 かと言ってあの子を使うわけにもいかないし、そんな事をすれば奴らに何て言われるか……。

 くそっ、どうすりゃいいんだい!

 

 逃げながらもどう対処すべきか考慮するクロエ。


「! そ、そうだ。その手があったじゃないかい」


 何かを思いつき、クロエは口を歪ませる。

 そしてカズマの方に振り向き、言った。


「カズマとか言ったね! アンタの強さはとんでもないよ! 私じゃアンタにかなわない! けどね!」


「あ?」


 クロエの言葉に、何を言っているのかと顔を顰めるカズマ。

 そんなカズマに構うことなく、クロエは歪んだ顔をさらに歪ませて言った。


「けどあの坊やはどうなんだろうね! 私のカラスたちを倒すどころか、逃げることもできないだろう?」


「!?」


「いきな! カラスたち!」


 クロエの言葉に、カラスたちは一斉に動き出す。

 その目標は、カズマではなく今も森さまよっているであろう、トウヤの元。


「くそっ!」


 カズマはトウヤが危ないと悟り、クロエを放って今来た道を引き返していった。


「アハハハハハハ! はやくいかないと坊やは死んじゃうよ! アハハハハハハ!」


 クロエは、そんなカズマの様子を見て、不気味な笑い声を上げて見送るのであった。


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