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緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
16/36

第三節 誤解される少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

「待ってくださいよレイラ!」


 駆け足で村長宅へと向かう最中、レイラを見つけて呼びかけるトウヤ。

 レイラは歩きながらトウヤに振り向く。


「何? さっさと家に行かねきゃならないんだけど」


 明らかに不機嫌な顔をするレイラ。

 トウヤはそれに怯えつつ、彼女に追いつき尋ねる。


「あ、あの。何の御用でボクの家に来ていただいたのかを聞いてなかったもので……」


 レイラの様子に若干ビビりながらも、トウヤは自身の疑問を口にした。


「ああその事。アンタに聞きたいことがあったんだけど、もう済んだから説明する必要ないわ」


「はぁ?」


 ボクごときに何を聞く必要が。それにもう済んだっていつですか。


 トウヤはレイラの言葉に頭を悩ませた。

 そんなトウヤから目を放しつつ、レイラは言った。


「それに『ゴリオ』さんも村に来てるの。アンタ会いたいでしょ?」


「えっ、ゴリオさんが!?」


 ゴリオの名が突然出てきたことに、トウヤは驚いた。


『ゴリオ(本名:ノリオ)』

トウヤが山賊に捕まった際に親しくなり、互いに命を助け合った親友である。

 『獣人化』能力の持ち主で、ゴリラに変化することが出来る心優しい元山賊。


 そう、『元』である。

 その理由は、


「でも良かったです。ちゃんと自衛団に入ることが出来たんですね!」


「まっ、誘拐された本人があんだけ必死になって頼むんだもん。団長だって無視できないわよ」


 実はトウヤ、あの後レイラの連絡で現れた団長に、どうかゴリオを見逃しててくれ、と頭を下げて頼み込んだのだ。


 最初は渋い顔をしたシゲマツ。

いくらトウヤの命を助けたとはいえ、山賊は山賊。

 やはり何らかの罰を与えるのは当然だ、とトウヤの考えを突っぱねる。


 しかしそこでトウヤの頭脳に突如閃きが。


『確かに彼は山賊でした。しかしそれは行き場を失ってやむ無く入っただけ。実際には悪事に手を付けてはいないのです。

 それに罰を与えるというならこういうのはどうでしょうか。ゴリオさんを自衛団に入れるというのは。

 今までの罪滅ぼしという意味で罰にもなりつつ、その上彼が再び悪事を働かないか監視も出来ます。

 これなら問題ないのでは?』


 シゲマツはトウヤの考えに一考した。

しかしすぐに『確かにそれは名案だ』と了承し、晴れてゴリオは自衛団の一員となったのだ。


「実にいい思いつきをしたものですね、ボクも」


 何度もうなづき、自画自賛するトウヤ。


「奇跡って、本当にあるのね」


「……ボクを何だと思ってるんですか」


 レイラの言葉にトウヤは落ち込んだ。


「……ん? ゴリオさんが何故この村に?」


「アンタにお礼を言いたいからだって。それに村長にお願いがあるとか」


「はぁ……」


 いまいち状況が掴めないトウヤ。

 だが久しぶりの親友との再会はとても嬉しく、それに。


「いや~、後の事を全て任せてしまいましたから、後ろめたい気持ちがあったので謝罪したかったところ。ちょうど良かったです」


「本当よ。アンタが帰ってそうそう倒れるから、全部ゴリオさんに聞くはめになったのよ。アンタ彼に感謝しなさいよ」


「全く持ってその通りではあります。それはそうと……」


 トウヤはレイラの顔を懐疑的な目で見つめた。


「ゴリオさんに謝ったんですか?」


「うっ! それは、まだ……」


 トウヤの言葉に苦い顔をするレイラ。


「……記憶を失ってるからといって、謝らないのはどうかと思いますよ。あんだけ綺麗に顔面に蹴りを入れておいて」


「だって山賊だと思ったんだもん! あ、あの時は山賊か。でも!」


「でも、ボクの命の恩人でした。その恩人の記憶と身体を吹き飛ばすとは……」


 大きく溜め息を吐くトウヤ。


 そう、レイラ達が駆けつけたあの後すぐに、その事件は起こった。

 まぁしょうがないと言えばしょうがないのだが、後ろからトウヤに近づいて来たゴリオを見たレイラは、

 その顔から山賊と判断して必殺の一撃を顔面にめり込ませたのである。


 哀れゴリオは、大きく吹き飛んで壁に激突し気絶。

次に目が覚めた時にはその時の記憶が綺麗さっぱり吹き飛んでいたのだ。


ちなみに、ゴリオが気絶中にトウヤがシゲマツと交渉したため、ゴリオは起きた後にその事を知り、

 トウヤを絞め殺さんばかりに熱い抱擁をしたのは言うまでもない。

おそらく三日三晩トウヤが寝込んだ原因もそこにあるのだろう。


「だって! あの顔を見てそんな人だと思う!」


「人を顔で判断する。それは正しいことなんでしょうかね~」


「くぅ~~~!」


 自身も顔で食べられると思っていたくせに、その事は棚に上げるトウヤ。


「さっさと行くわよ!」


 レイラはトウヤにいい任されて顔を真っ赤にし、早歩きで村長宅へと行ってしまった。

 それを後ろから眺めていたトウヤは、しかしどうするかと思い悩む。


「……さてどうしたもんですかね。『クロックレイズ』の効果時間がわからないのにこのまま行くのはあまりに危険です。

 カズマさんはどう思います?」


 今まで大人しくしていたカズマにそう尋ねるトウヤ。

 しかし帰ってきた答えは言うまでもなく、


「あっ? 知るか」


「言うと思いました。う~ん、でも何かカズマさんに用事があるっぽかったし、このまま帰るのも……。ってカズマさん!」


 トウヤが思い悩んでいる間にとっとと村長宅へと入っていくカズマ。


「ああもう! 本当に後先を考えないんだから!」


 頭を抱えるトウヤ。

しかしこのままこうしているわけにもいかないので。


「もうこうなったら、とっとと話を終わらせて帰りましょ!」


 カズマに続いてトウヤは村長宅へと入っていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「失礼しま~す」


 トウヤが挨拶してドアを開けると、そこは修羅場の一歩手前と貸していた。


「ちょ! 何やってんですかお二人とも!」


 トウヤの目の前には臨海体制を取る村長とカズマ。

 慌ててトウヤは二人の間に割って入った。

 そんなトウヤに村長が、


「そこを退けトウヤ! この不法侵入者を成敗する所じゃ!」


「おもしれぇ。やってみなジジイ!」


「しまった忘れてました!」


 村長とカズマの言葉に大事な事を忘れていたトウヤ。

 二人は初対面で、確かにカズマはこの村にとっては不法侵入者に違いない。

 さらにカズマにとっては、戦ってみたい相手候補の一人が村長である。


 会ってはならない二人が会ってしまった。

 トウヤは、村が壊滅するのは何としても避けたかったので、村長に事情を説明することに。


「村長! あのですね、この方は……」


「退けトウヤ! ワシの『獣人化』剛術で目にもの見せてくれるわ!」


「来な! 返り討ちにしてやんよ!」


 全く人の話を聞かない二人。


 このままでは真ん中にいるボクが最初の犠牲者に!


 そう思ったトウヤは大声で言った。


「あのですね! この方はボクの命の恩人なんですよ!」


「はぁああああああ、はぁ?」


 戦闘体制に入ろうとした村長は、トウヤの発言に目を丸くして構えを解いた。


「どういうことじゃ、トウヤ」


「だから、山賊から助けてくれた話をしたでしょ! その人がこのカズマさんなんですよ!」


「な、なんと! しかし何故この村の中に入っていたのじゃ?」


「えっと、それはちょうどこの村の近くにカズマさんがいるのを見かけたボクが、独自の判断で村に入れてしまい。

 あの、申し訳ありませんでした!」


 トウヤは何とか誤魔化すために、頭を深々と下げて、謝るふりをする。


「む、む~~~~。それなら、まぁ許さんでもない。しかし今後はワシに相談してから入れるように。よいな!」


 そう言って何とかカズマの件から引いてくれた村長。


 ふぅ~、何とかなりました。


 額の汗を拭いながら安堵するトウヤ。

 しかしそんなトウヤに不機嫌な顔をしてカズマが言った。


「おい! 余計な真似すんなよ、折角戦え……」


「駄目だっつったでしょ! もう忘れたんですか!」


 以前言った『戦ってはいけません』宣言を、すでに忘れて、そうのたまうカズマにトウヤは憤慨した。


「何でそう、すぐ忘れるんですか!」


「俺は戦わないとはいってないぞ!」


「確かに。でもどっちにしろ今は力が弱まってるんだからいい勝負なんて出来ないでしょ? だからここは引いてくださいよ」


「う、それもそうか」


 やっとの事でカズマを引かせることに成功する。


 全く。何で村長宅に来てそうそう、こんな苦労しなくちゃならないんですか。


「というかレイラ。それにレイナも止めてくださいよ。知ってるでしょカズマさんの事」


 トウヤがそばに立っていたレイラとレイナを睨みつけながら言うと、


「あ、いやついうっかり。戦うのを見てみたいかな~、と」とのたまうレイラ。

「私は一瞬誰だったか忘れてて。ごめんね」と謝罪するレイナ。


「……まっ、いいです。それより一体何の御用で?」


 トウヤは呼び出された内容を確認したく周りを見回すと、そこには知っている顔が二人と知らない顔が一人。


「あ、団長さん。それにゴリオさん!」


 知っている顔二人は、シゲマツとゴリオであった。


「久しぶりだなトウヤ君。元気そうでなによりだ」


「ひ、久しぶりなんだなトウヤ君」


 二人はトウヤの顔を見ながら挨拶した。


「はい! ……で、一体どのようなご要件で? 何やらボクに聞きたいことがあるとか……」


「ああ。それについては一つずつ説明していきたい。まぁまず席についてくれないかな。いいですかな『ムサシ』殿」


「うむ」


『ムサシ』こと村長はシゲマツの言葉に頷いて許可を与えた。


「……村長の本名。久しぶりに聞きましたよ」


「私もよ」


「私も」


 トウヤの呟いた言葉に、レイラとレイナも同意する。


 何でこんな村長が『ムサシ』なんて立派な名前を。この村の七不思議の一つですね。


 トウヤはそんな事を思いながら、席に着く。

 見ればカズマもレイラも席につき、レイナは皆にお茶を配っている。


「それでは、説明させていただこう」


 シゲマツは皆が席に着いた事を確認し、話を始める。


「まず一つ目。これは約一週間前の山賊の件の報告だ。当事者のトウヤ君にも報告をしなければと思ってね」


「なるほど」


 トウヤはシゲマツの言葉に納得し、うなづく。


「山賊達だが、王国の衛兵が近々、王国直轄の牢獄に奴らを投獄するために引き取りにくることになっている。

 そうなればもうこの近辺に現れることはなくなるだろう。安心してくれ」


 そのシゲマツの言葉に『ほっ』と溜め息を付くトウヤ。


 これでもう山賊に襲われることも誘拐されることもない。

いやよかったよかった。


仕返しもないだろうと思い、しかしトウヤには疑問が一つ。


「……あ、あの。そういえばあの巨大二頭犬は」


 閉じ込めた『オルトロス』の事が気になり、重松に尋ねると、


「うむ。あれについては我々にもどうしようもなくてな。山賊たちと一緒に王国が引き取っていくらしい。

 何故あんな化け物が存在するのか調査もかねて、ということだ」


「なるほど。後、あの犬を連れてきた謎の人物達は……」


「それもゴリオからすでに聞いて調べたのだが、そちらの方は……」


 シゲマツは暗い顔をして、トウヤの質問に答えた。


 なんだか悪いことを聞いてしまったな。


 トウヤは少し後悔し、話しの続きを聞くことに。


「それで、他にお話は?」


「あ、ああ。今までの話が一つ目。そして二つ目はゴリオの件だ」


 そう言ってゴリオに顔で合図を送るシゲマツ。


「ト、トウヤ君。実は今回俺が来たのは、改めて君にお礼を言いたかったからなんだな。

 今こうして自衛団で働けているのも、全てトウヤ君の御陰なんだな。本当にありがとう」


 ゴリオは頭を下げつつ、お礼を口にする。

 そんなゴリオの態度に、トウヤは慌てた。


「な、何をおっしゃいますかゴリオさん。貴方の御陰で、ボクもこうして生きていられるんです。お互い様ですよ」


「ト、トウヤ君!」


 トウヤの優しい心遣いに感動して涙ぐむゴリオ。

 しかしすぐに涙を拭い、ゴリオは村長の方に顔を向けた。


「そ、それと今回は『ムサシ』さんに話があってきたんだな!」


「む、ワシに?」


 ゴリオの言葉に怪訝な顔をする村長。

 それに構うことなくゴリオは真剣な面持ちで言った。


「お、俺を、弟子にしてくださいなんだな!」


「な、なんですと~~~~~~~~~~~!」


「うそ!?」


「正気なんですか!?」


 ゴリオの発言に、目を丸くして驚くトウヤとレイラとレイナ。


「お主ら。ワシをなんじゃと思っとるんだ! ゴホン! 理由は?」


 若干酷い物言いの三人に、村長は顔を顰めつつもゴリオに理由を尋ねる。


「俺は『獣人化』を極めたいんだな! 今回の件で自分の力の無さを実感した、それを何とかするためにも『伝説の傭兵・ムサシ』さんにご教授願いたいんだな!」


 ゴリオは席から立ち、床に土下座をして村長にお願いした。


「……うむ、よかろう。ただしワシは甘くないぞ。ビシビシ鍛えるから、そのつもりでの」


 村長は腕を組み、どこか偉そうにしてそうゴリオに告げる。


「ありがとうなんだな!」


 村長の言葉に感謝し、再び頭を下げるゴリオ。


 しかしそんな二人をよそに、コソコソ話しをする三人の姿が部屋の隅にあった。


「『伝説の傭兵』? 村長がですか? ありえません、断じて!」


「いえ、本当らしいわよ。団長にも聞いたんだけど、昔は王国にまで雇われてたらしいの」


「今じゃ考えられないよね。ただのボケたお爺さんなのに……」


「お主ら! 全部聞こえとるぞ! というかボケとらんわ!」


 トウヤとレイナとレイラ、三人の物言いに怒りをあらわにする村長。

 しかしそんな村長に、三人は懐疑的な目をして答えた。


「普段あれだけおちゃらけてるのに、信じろという方が無理な話です」


「村長、私にも負けるじゃないですか」


「それにボケてる人に限って『ボケてない』って言うんですよ?」


「やっかましいわい! ほれシゲマツ、さっさと話を勧めぃ!」


 三人のあまりの尊敬の念もない言葉に、村長は話をそらすためシゲマツに怒鳴った。


「あ、はぁ。それでは三つ目を。君たちも席に座ってくれるかね」


 未だ懐疑的な目を村長に向けつつも、仕方なく席に戻る三人。

 シゲマツは三人が席についた事を確認すると、大きく咳払いを一つ。

 そして、今までより一層真剣な表情でトウヤと、さらにカズマに顔を向けて言った。


「……実はこれから話す話が一番重要でな。これのために今回ここを訪れたと言っても過言ではない。すみませんが、お話し願えますかな?」


 そう言って、シゲマツは今まで黙っていた、トウヤの知らない顔の人に話を促した。

 その人物は女性であった。メガネを懸けて理知的な感じをさせながらも、そのぴっしりとした性格が軍人のような雰囲気を醸し出していた。


「お初にお目にかかります。私は『トリナの町』からやってきました、『ハトナ』というものです。よろしくお願いいたします」


 そう言って頭を下げるハトナ。


「あ、どうも。こちらこそ初めまして」


 トウヤもしっかりとした挨拶に対して、きっちりと挨拶を返す。


「……実は、我々の町で現在、謎の失踪事件が発生しておりまして。その件でこちらにお願いがあり、やってきた次第です」


「失踪事件、ですか?」


レイナが暗い顔をしながらハトナに尋ねる。


「はい。約二週間前になりますが、町の近くにある森で事件は起こりました。

 山菜などを探しに森に入っていった者たちが、全く帰ってこなくなったのです。

 特に迷いやすい森でもなく、猛獣なども出たことがないので、我々自衛団は不思議に思いながらも経過を待つことにしたのです。

 しかし……」


 ハトナは表情をしかめつつ、話を続ける。


「しかしそれが間違いでした。

 事件から一週間経った後、森から奇妙な唸り声が聞こえると通報があり、森に何らかの異変が起きている事を我々は初めて察知しました。

 すぐに森に入って行方不明者を探しつつ、森の異変を調べるための調査隊が組まれたのですが……」


 両手を強く握りしめ、苦痛の表情を浮かべるハトナ。


「調査隊は一人を残し全滅。生き残った一人は何とか森から逃げ帰り、町に滞在していた我々に事態の深刻さを報告してくれました。

 森の中には『鳥人化』の能力者が、しかも多数の鳥を使役した人物がいて、その者の手により調査隊と、そして森で行方不明になっていたものが襲われ殺されたのだ、と」


「あ、あわ、あわ、あわわわわわわわわわわわ……」


 トウヤはハトナの話を聞き、恐怖で体を小刻みに震わせる。

 そんなトウヤを肘でつつきつつ、、カズマは小声で聞いた。


「おいトウヤ。『鳥人化』って何だ?」


「え、ええと。『獣人化』が哺乳類の変化能力者でしたよね。『鳥人化』はその名の通り鳥類に変化出来るんです、た、たしか」


 カタカタ震えながらもカズマの問いに答えるトウヤ。

 そんな二人をよそに話は続いていく。


「その情報を元に討伐隊を組み、森へと突入しようとしたんですが……」


 そこでハトナは黙り込み、シゲマツの方に目線を向ける。


「……言った通り調査隊がほぼ全滅。『トリナの町』の自衛団の数は大幅に減ってしまった。

 そこで我々に話が来たのだが、我々も山賊達の引渡しがあるので人員を裂けん。

 だが『鳥人化』能力者の件も放って置くわけにはいかん。そこで……」


 シゲマツがカズマの方に顔を向けた。


「本来なら君と知り合いだというトウヤ君にお願いして、話しを受けてもらおうかと思ったが。

 ここにいてくれたのなら好都合。直に君を見定め、依頼をする事が出来る」


「ま、まさか……」


 シゲマツの言葉に段々と顔を青くさせていくトウヤ。

 トウヤは察した。この後に起こるであろう話しの流れを。


 ま、不味い! これは非常に不味い!

 カズマさんに頼む理由はわかります。山賊たちをたった一人でお片付けした程の猛者。

 人手が足りない『トリナの町』の人々にとっては、まさに百人力と言っても過言ではない存在でしょう。

 確かにボクだってそれは正しいと思います。実に正しい判断です。


 トウヤはカズマの顔を見る。


 しかしそれは、カズマさんが普通の人間だった場合。

 実際は、ボクに召喚される事で十分間だけ実体化する吃驚人間です。

今は『クロックレイズ』で十分以上出現してますが、それでもいつ消えるか分かったもんじゃありません。


それに長時間出ていられたとしても、普段よりかなり力が出ない状態では意味がありません。

もしかしたらやられてしまうかもしれないんですから。


ゆえにカズマさんが行くとしたら、必然的に『レイズ』でなければいけないわけで。

つまりそれは、十分間で戦えるようにボクも現地に赴かなければならず……。


「そんな事は何としても避けなければ!」


 トウヤは小声で呟きながら決意した。


 とにかく、団長さんがお願いしたら即、お断りしよう。

 折角頼りにして来ていただいたのに心苦しいですが、ボクの命も大事です。

 本当に申し訳ありませんが、今回の話は無かったと言うことで……。


 トウヤはすぐに断れるよう、身構えてシゲマツの言葉を待つ。

 そしてシゲマツが口を開いた。


「カズマ君の姿を見て、相当な腕前だと確信した。それに山賊たちからトウヤ君達を助けてくれたその正義感。

 君なら問題無いと言える。カズマ君!」


「あ?」


 シゲマツの言葉に眉を潜めて失礼な返事を返すカズマ。

 いつもならそんなカズマに一言言うトウヤだったが、今はそんな時では無いので仕方なく無視した。


「単刀直入に言う。君の助けが必要だ。力を貸してもらえないだろうか?」


「おこと……」


「いいぞ」


 トウヤが即お断りしようとするのを遮り、即了承の意を伝えるカズマ。


「まっ!?」


 トウヤは驚き、カズマに勢い良く振り向く。


「な、何を言ってんですか!?」


 一目もはばからず、目に涙を浮かべながらカズマに掴みかかるトウヤ。

 そんなトウヤを睨みつけてカズマは言った。


「あ? なんだよ。ってか離れろ」


「『なんだよ?』じゃないですよ! 何を言ってんですか、アホなんですか、そうなんですね!」


 全く理解していないカズマの肩を、激しく揺さぶるトウヤ。


「誰がアホだ!」


「貴方ですよ! 何でそんな簡単に引き受けるんですか!? 少しは考えてからモノを言いなさい、この脳筋!」


「うっせぇ、お前には関係ねぇだろ。いい加減離せ!」


 カズマはトウヤを自身から引きはがし、襟首を掴んで空中にぶら下げた。

 そして、


「おう、ハトナって言ったな。俺はいいぜ、その鳥野郎をぶっ飛ばす!」


「あ、ありがとうございます!」


 カズマの言葉に頭を下げるハトナ。

 本人の了解を得て、話しは終わったと皆が思う中。

 しかし、トウヤだけはそれに納得しなかった。


「ちょっと放してくださいカズマさん!」


「ちょっとトウヤ! アンタには関係ないんだから黙ってなさい!」


「そうだよ。トウヤが行くわけじゃないんだから……」


「関係あるし、行くことになってしまうんですよ!」


 トウヤはレイナとレイラにそう叫ぶと、カズマの耳元で呟いた。


「カズマさん! 話がありますので隅の方へ!」


「あ? 何で……」


「いいから!」


 カズマは仕方なく席を立ち、トウヤをぶら下げながら部屋の隅に行き、トウヤを放した。

 他の面々は何事かと首を傾げる。

 そんな事は気にせずに、放されたトウヤはカズマを無言で睨みつけた。


「一体なんなんだよ」


「わかんないんですか。わかんないんですか!」


 トウヤはあまりのカズマのアホっぷりに、同じことを二度言って怒りをあらわにする。


「あのね、貴方はどういう存在か忘れたんですか! 

 ボクが召喚しないと実体化出来ない吃驚人間でしょ! 

 なのに何であんな安請け合いするんですか!」


「はぁ? それが何なんだよ?」


「本当にわからんのですか! 

 短時間しか実体化出来ない貴方が、どうやって『トリナの町』まで行って、敵を倒して、帰ってくるってんですか!

 無理に決まってんでしょうが!」


「お前はアホか。そんな事わかってるっての」


 トウヤの言い分に、カズマは呆れた目で彼を見る。


「アホにアホと言われたくありませんよ! ならどうすると言うんですか!」


 トウヤは答えを理解していたが、それが現実に起こらないよう祈りながらカズマに質問した。

 しかしやはり。


「んなもん、お前も来ればいいだろ」


「やっぱりか!」


 自身の考えた最悪の結果を、当然の事だと言い切るカズマに憎しみを抱き、睨みつけるトウヤ。


 何故ボクがそんな危ないことに首を突っ込まなきゃいけないんですか!


 そんな事を思っているトウヤに、カズマはあきれた顔で言った。


「……ったく。あの駄犬の時に少しは成長したと思ったら、また怖気付きやがって。この根性ナシが」


「あのね! あの時と今では状況が違うんですよ! あの時は頑張らなきゃ死んでしまうのであって、今回は別でしょ! 

 何で自分から死地に赴かなきゃいけないんですか!」


「死ぬかどうかわかんねぇだろうが! おい、ハトナ! トウヤも行くって言ってるから連れてってもいいよな?」


 カズマは顔だけ向けて、そうハトナに言った。


「ちょ、勝手に……」


「ト、トウヤが自分から!」


「嘘……」


 レイナとレイラは心底驚いた様子を見せ、トウヤの顔を凝視した。


「いえ、二人ともちが……」


「さ、さすがトウヤ君なんだな! 実に勇気があるんだな!」


 尊敬の眼差しでトウヤを見つめるゴリオ。

 さらに。


「何と! 自ら『トリナの町』の住人の為に立ち上がるとは……」


「あ、ありがとうございます。トウヤくん」


シゲマツとハトナもいい方向に勘違いする始末。

 そして。


「ト、トウヤよ……」


「へっ?」


 トウヤは自身を呼ぶ声に振り向く。

するとそこには、両腕を組んで、閉じた眼から大量の涙を零す村長の姿が。

世に言う男泣きである。


「トウヤよ。知らん内にそこまで成長していたのか。昨日までは自分に自身が無いような表情を浮かべておったのに。

 男子三日会わずば刮目してみよと言うが、お主の場合はたった一日で! これほど嬉しいことはない!」


 眉間を抑え、流れ出る涙を必死に止めようとする村長。

 しかし、トウヤにとってはとんでもない勘違いをしているに、ほかならなかった。


「ちょっと待ってください! 今のはカズマさんの勝手な言い分。

 だいたい考えればわかるでしょうが。ボクが行った所で何が出来るってんですか!」


 皆の目を覚まさせようと、自身の実力のなさを再認識させようとするも。


「け、謙遜なんだなトウヤ君。君はあの『オルトロス』の動きを止めた男なんだな!」


「おお! そういえば報告で聞いたぞ。それに閉じ込められていた『オルトロス』を気絶させたのもトウヤ君だったとか……」


 二人の凄い方向での勘違いに、慌てるトウヤ。


「ゴリオさん! ボクは動きを止めたと言っても一瞬で! 

 それと『オルトロス』が気絶したのは、まぁボクがやった行動で、結果的にああなった事は事実ですが……」


「そうなのトウヤ!」


「嘘だよね、嘘だと言って!」


 さらに驚くレイラと、何故か『そんなトウヤ信じたくない』とでも言いたげなレイナ。


「そこまで驚くとはボクを何だと、いえこの場合はそれでいいのか。それよりレイナ、大変失礼な態度ですよ! 

 というか、ああもうどうしたら……」


 自身ではもうこの流れを止められないと考え、トウヤはカズマに顔を向ける。


「カズマさん! 貴方の勝手な発言から、ここまで事態が大きくなってしまったんですよ! 責任をとって……」


「おいトウヤ、いい加減にしろよ。お前言ったじゃねぇか!」


 カズマに怒ろうとして、逆に怒られたトウヤは目を丸くした。


「……一体何を?」


 ボクは何かカズマさんに言いましたっけ?


 トウヤは思い出そうと、過去を振り返る。

 その一瞬のスキをついて、最後の誤解という名の爆弾を、カズマは爆発させた。


「お前『ボクは絶対変わってみせます!』って言ってたじゃねぇか!」


「言ってねぇですよ! ボクがそんな事言うわけないでしょうが!」


 『少しずつ変わっていけるよう努力はしてみたい』と思っただけです! 

捏造とかそういうレベルの話しじゃないですよ、これは!


異次元を通り抜けて大きく捻じ曲がってしまった自身の発言に、カズマを睨みつけて殺す勢いのトウヤ。

すぐに皆に誤解だと告げようとしたが、


「良くぞ言ったトウヤよ!」


 村長のせいで、トウヤは発言の機会を逃した。


「お主の心意気には天晴! 強大な的に立ち向かう勇気、そして敵を倒してもそれを誇らずに黙っている男らしさ。

 さらには自分を変えようと立ち上がったその心に強さ。実に素晴らしい……」


 涙を流しながらそんな事をのたまう村長に、トウヤは唖然として何も言えなくなる。


 一体、どこのご立派な方のお話をしているんですか?


 誰の話をしているのか、トウヤはわからなくなった。

 そんなトウヤに指を向けて、村長は言った。


「ゆけ、トウヤよ! お主はもう、ワシの手から羽ばたいた!」


 その言葉を発端に、周りはさらに加熱していく。トウヤを除いて。


「が、頑張ってくれなんだなトウヤ君。君なら必ず出来る!」


「うむ。トウヤ君の生き様、ワシも見たくなってきた」


「お願いしますトウヤくん。私たちの町を救ってください!」


「ぐすっ。アンタがこんなに立派になるなんて、ちょっと感動しちゃった」


「お、お赤飯炊かなきゃ。今夜はお祝いだね! あとカズマさん。トウヤの事よろしくお願いします」


「ったりめぇだ。トウヤは俺が必ず男の中の男にしてやる!」


 そんあ大盛り上がりの周りに距離を感じながら、地面へとヘタリ込むトウヤ。

 もう自分にこの流れを止めることは出来ない、とトウヤは悟り、諦めた。


「……やっぱりボクは天に見放されてる。フフ、そんなもんさボクなんて」


 ……こうして、トウヤの新たな冒険の幕は切って落とされたのである。 

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