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緑と十の育成法   作者: 小市民
第二章 討伐
14/36

第一節 日常の少年

(12/03/10)誤字・脱字修正

ここは農作業を主として、生計を立てている村、『ベジル村』。

人々は額に汗水を垂らし、今日も一生懸命に働いている。

皆が笑顔で働いている中、一人だけ酷く疲れた様子の少年が馬の世話をしていた。


特徴的な緑色の髪の毛に、ごく平凡な顔つき。右腕には木で出来た腕輪をつけている。

少年の名は『トウヤ』。ベジル村の外れに住んでいる、何の取り柄も無いごく普通の村人である。

少年は疲れた顔をしながらも、仕事には手を抜かずに馬の世話をしている。


「ああ、体が痛いです。助けてくださいよ、テンマ」


トウヤは世話をしていた馬に話しかけた。

すると、そんなトウヤの様子に何か思うことがあるのか、テンマはトウヤに顔を擦り寄せてくる。


「うう。ありがとうございますテンマ。ボクの心配をしてくれて」


「馬なんかに同情されてどうすんだ、トウヤ」


 そうトウヤに言ったのは、空に浮かんでいる赤い髪の三頭身の小人。

彼の名は『カズマ』。今はこんな姿をしているが、本当の姿は身長百八十ぐらいのしっかりとした八頭身の男である。

 何故そんな彼がこんな姿になっているのか、それは彼にもトウヤにもわからない。


カズマは記憶喪失で、トウヤにとってはどうでもいい事だからである。

それよりも重要なのは。


「馬『なんか』! 貴方は何て事をテンマに言うんですか。それは差別というものですよ!」


「うっせぇ! それよりももう一週間たったってのに、何でまだ体を痛めてんだよ。この軟弱野郎!」


「やっかましいですよ! 仕方ないでしょ。

 山賊に襲われて、その数日後に今度は山賊に誘拐されて、それで殺されそうになったと思ったら巨大二頭犬に襲われて。

 ボクにとっては肉体的にも精神的にも限界を突破してたんです!」


 カズマの発言に対し、憤慨して反論するトウヤ。


「カズマさんだって見てたでしょ! 村に帰って三日三晩寝込んでたの!」


「……まぁな。でも三日も寝込んでたんだから、もう大丈夫だろうが!」


「そう簡単に回復するほど、ボクの体は強くないんです! いい加減ボクが普通以下だと理解してくださいよ!」


まったく、といった表情で再びテンマの世話に戻るトウヤ。


「ああわかったわかった。それはもういいや。それよりも……」


カズマはトウヤの顔の前に出る。


「俺を早く大きくしろ! もう一週間もこのまんまだぞ!」


「またその話ですか! 一体何度説明すればわかってくれるんですか!」


 トウヤはカズマの理解力のなさに呆れた。


「? 何か言ったっけか?」


「おぅ。貴方の記憶力はどんだけ何ですか。一昨日も昨日も、そして今日の朝も言ったというのに」


「何だと! 俺のどこが馬鹿だってんだ!」


トウヤに詰め寄るカズマ。


「そんな事言ってません! でもあながち間違いでもありませんね」


 どこか納得するトウヤ。


「まぁそれはいいです。それよりももう一度だけ説明します。いいですか、今度はその無い頭にしっかりと刻み込んでくださいよ」


「おうよ!」


 トウヤの悪口に気付かず元気に答えるカズマ。

 やっぱりアホだ、とトウヤは思った。


「いいですか。ボクが今までカズマさんを召喚するのに使った実は5個。

 1個目は最初に山賊から助けてくれた時に使用。

 2個目はどのように召喚するのか確かめるのに使用。

 3個目はレイナ達を手助けするのと、『召喚時間』『消失時間』を測定する為に使用」


 ここまではいいですね、と視線でカズマに尋ねる。

 それに対し、頷いて答えるカズマ。


「そして4個目。これはゴリオさんを助けるため、後は山賊をボッコボコにする為に使用。

 最後に5個目。『オルトロス』を何とかするのに使用」


一度溜め息を吐き、トウヤは話しを続ける。


「最初にゼノさんから預かる事になった『ジュニクの実』は10個。つまり既に半分も使ってしまったんですよ」


 ほんの数日でこれだけ使うとは……。


 トウヤは、実を使わざるを得ない状況に、これだけ遭遇した己の不運を呪った。


「わかりましたか。その状況で意味も無く実を消費するなんて出来るわけないでしょ?」


「まだ五個『も』あんじゃねぇか! 一個ぐらい……」


「五個『しか』ないんです! それにその内1個は現在使用中でしょ! 実際は後、4個しかないんですよ!」


「あ、そっか……」


 トウヤの言葉に気付き、おとなしくなるカズマ。

 しかし。


「でも後4個『も』……」


「『しか』! もういい加減にしてくださいよぅ」


 何でこんなに無計画で行きあたりばったりなんだろう?

 トウヤはカズマの頭の中を少し覗いてみたくなってきた。

 どうせ何も入ってないんでしょうね~。


「とにかく! 今行なっている実験が成功するまで大人しくしててくださいよ!」


「くそっ! わかったよ!」


 そう言ってそっぽを向くカズマ。


「あ、後。もう今言った事は忘れないでくださいよ? また説明するなんて御免ですからね」


「わかってるってんだ! 誰が忘れるか!」


「貴方忘れてたでしょうが!」


 ついさっきまで忘れてたからもう一度説明したというのに、それも忘れたんですか!


 トウヤは、カズマが脳筋である事を理解した。

 あきれながらも仕事に戻ろうとすると、そこに一人の少女がやってきた。


「お疲れ様トウヤ。もう体は大丈夫?」


「あ、『レイナ』。おはようございます」


 幼馴染の一人、『レイナ』であった。

 彼女の質問に、トウヤは顔を顰める。


「それがまだ少々痛みまして。まぁ仕事には対して影響してないんですけど、ね」


「あまり無理しないでね。ただでさえ大変な目にあったんだから」


 レイナは心配そうな面持ちでそう言った。


「はい。後ありがとうございました。助けに来てくれて」


 トウヤは山賊に誘拐された後の事を思い出しながら言った。

 しかし、お礼を言われたレイナは暗い顔をする。


「当然だよ。私のせいでトウヤが攫われたんだから」


「あ、いえ。別にレイナのせいではないと思うんですが……」


「ううん。私がしっかり守ってれば、トウヤは連れて行かれなくて良かったんだもん。やっぱり私のせいだよ」


 さらに気を落とすレイナ。

 それに気まずくなったトウヤは話を逸らすことにした。


「あ~。そ、そういえば良く山賊のアジトの場所がわかりましたね! とても早く助けに来てくれたので驚きましたよ?」


 実際は山賊に殺されそうになった後でなのだが、それでも早く助けに来たなと思うトウヤ。


「あ、うん。団長のシゲマツさんが情報で得たアジトの場所を教えてくれて……」


「なるほど。それですぐに来れたと……」


 なるほどな~、と感心するトウヤ。

 しかし、レイナは首を横に振った。


「そのアジトの場所はダミーだったの。どうやら偽情報だったらしくて。私たちがたどり着いた所には山賊たちが待ち伏せしてて……」


「何と! 大丈夫だったんですか、怪我しなかったんですか!?」


「うん。数も少なかったし、すぐに決着は付いたよ。ただ本当のアジトの場所がわからなくて」


「はぁ。それで山賊達に話させて来た、と」


 なるほどなぁ……、うん?


「よく素直に話しましたね。場所を」


 そういうのはそうそう口を割るものではないのではないだろうか。

 トウヤは疑問に思い、しかしふと気付く。


「『レイラ』ですか。力による『オハナシ』で口を割ったんですね?」


 トウヤは疑問が解け、何度も頷く、が。


「違うの。『レイラ』じゃなくて『私』なの」


「へっ?」


 自身の考えが違った事にも驚いたが、それよりもレイナが『オハナシ』をした事に驚愕するトウヤ。


「……だってあの人達。トウヤが危険な所で怯えて泣いてるって時に、無駄な時間を過ごさせて……」


 段々と黒いオーラを纏わせつつ、レイナは続ける。


「それなのに全然トウヤの居場所を言わない。おかしいよね何考えてるんだろ。そんなに苦しみたいのかなだったら望み通りにしてあげる。

 どんなに悲鳴を上げてももう止めてあげない。何を怯えているのアナタタチがノゾンダコトでショ。

 ワタシノジャマヲシテルンダカラトウゼンデショ? 

 アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」


 目を見開き、口を歪めてケタケタ笑いだすレイナ。


「ヒィ!?」


トウヤは怯えてテンマの影に隠れる。

隠れられたテンマも、体を小刻みに震わせている。


「何だこの女?」


 今まで話しを聞いていたカズマも、レイナの様子に完全に引いている。

 トウヤはこのままではまた寝込むことになると思い、レイナを現実に引き戻すことに。


「レイナ、正気に戻ってください! ここにはもう貴方の邪魔をする愚か者はいませんよ!」


「ハハハハハハ……、ハッ! あ、ゴメンねトウヤ。悪い癖が出ちゃった」


 ゴメンね、と手を合わせて謝罪するレイナ。


「いえいえいえいえいえいえいえ。とんでもございません! 

 レイナの御陰でボクはこうして生きていられる、本当にありがとうございました! 

 さぁそろそろレイナは仕事に戻らないと。ボクなんかに構わずに!」


 未だテンマに隠れつつもレイナにそう促すトウヤ。


「あ、うん、そうだね。それじゃ私はこれで。無理はしないでねトウヤ」


 さわやかな笑みを浮かべてレイナは去っていった。

 完全にレイナの後ろ姿が消えた事を確認したトウヤは、やっとテンマの影から姿を現した。


「ひ、ひさしぶりの『黒レイナ』。山賊達め、全滅しながら何て置土産を置いてくんですか!」


 ああ怖かった。


 額の冷や汗を拭い、安堵の溜め息を吐くトウヤ。

 テンマもほっとした様子をみせる。


「おい、何だあの女は?」


 カズマがトウヤに質問した。


「えっと、まぁ。人には何かしら欠点というものがありまして……」


 微妙そうな表情を浮かべるトウヤ。


「普段は大変お淑やかで、何事も完璧にこなして強くてかわいい。まぁ少々天然気味のところもありますが。実に世界に優しい女性なんですよ、本当は」


 しかし、と話を続ける。


「彼女の中にある触れてはいけない琴線に触れてしまうと、さっきの『黒レイナ』が出現するんですよ」


 あれは確か何年前の事だったろうか?

 トウヤは過去を振り返る。


 あれはそう、確かレイラとボクの二人だけで近くの川に行った時だったか。

 といってもボクは無理矢理レイラに連れて行かれたんですけどね。

 その日は確かレイナが少し風邪気味で、ベッドで大人するよう村長に言われてたんですよね。


 そんなレイナに何かしてあげようと、レイラが川で取った魚で料理を振る舞おうとしたんですよ、確かそうだったはず。

 んで、レイラの看病を村長に言い渡されたボクを強制的に連れていき、一緒に川で魚を取らされるはめに。ああ何回溺れそうになった事か。

 結局ボクは一匹も取れずに、レイナが四匹捕まえて村長宅へ引き上げたところで、そこに『黒レイナ』が現れたんですよね~。


 それは恐怖の光景だった。


 自宅に帰ったトウヤ達は、ベッドにいるはずのレイナがいないことに気付いて家中を探した。


 そして台所に、それはいた。


 明かりも付けずに床に座り込み、まな板の上に置かれたお肉に包丁を何度も突き刺すレイナ。

 背中を向けているため表情が見えなかったが、何かを呟いていて時たまクスクス笑いまで漏らすその姿に、唖然とする二人。

 具合でも悪くなったのかとレイラが彼女に呼びかけると、レイナはゆっくりとトウヤ達に顔を向けた。


 目を大きく見開き、それ以外は無表情で振り向くレイナ。

 それを見た瞬間、トウヤは恐怖のあまり気絶した。


 しばらくして目を覚ますと、そこにはいつも通りのレイナが心配そうな顔でトウヤをのぞき込んでいた。

 あれは夢だったのだろうか、と思い辺りを見回すトウヤ。

 しかし部屋の隅にはカタカタと震えるレイラの姿。


 トウヤは何があったのかレイラに尋ねるも『ゴメンナサイ』としか彼女は答えず。

 ならばともう一人の知ってそうな人物に聞くも、『なんでもないよ』としか言わないレイナ。


 真相は闇に葬られた。


 しかし、トウヤは何となく原因に心当たりがあった。


 川で魚を取っていた際、背中にはしった悪寒。

 誰かに見られているような気がして辺りを見回すが誰もおらず、ならばずぶ濡れになって体を冷やしたかなとその時は思ったのだが。

 おそらくレイナは自身を放って何をと思い自分たちの後を負ったのだ。


 そしてそこには川で遊んでいるように見える二人。

 風邪を引いた自分を放って置いて、二人で遊ぶだなんて!

 おそらくそういうことなのだろう。


 まぁ結局レイナも、それにレイラも元に戻ったのだ。それで良しとしよう。

トウヤはこの件に関して一切関与しないよう心がけた。

決して深いところまで知るのが怖いからではないし、またあれが出現してはこっちの身が持たない、と自分に言い聞かせて。

だがしかし。


「再び現れてしまいましたか。まぁ直接的被害は山賊達にいったので構いません。しかしこちらにまで影響を及ぼさないで欲しいものです」


 どっと疲れたトウヤ。

 折角日常を取り戻したというのに、面倒ごとをこれ以上増やさないで欲しかった。


「……忘れましょ。気にしてもしょうがありませんし」


 気を取り直して、トウヤは仕事を再開する事にした。


 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「村長。お仕事完了しましたよ」


「うむ。ご苦労だったのトウヤ」


 本日の仕事を終わらせ、村長に報告しにきたトウヤ。

 それでは、と言ってそのまま自宅に戻ろうとするトウヤに村長が言った。


「ああ、待て待てトウヤ。少し話がある」


「? 一体何ですか?」


 トウヤは不思議そうな顔で、村長に近づく。


「うむ。まぁ座れ」


「はぁ」


 席に付くよう促され、椅子に座るトウヤ。


「それで、一体ご要件は?」


「山賊達との一件じゃ。大変な目にあったの~」


 ホッホッホッ、と笑い声をあげる村長。

 しかしトウヤにとっては笑い事ではなかった。


「笑い事じゃありませんよ! 死ぬとこだったんですよ、もう少しで!」


「まぁの。しかしワシもお前ぐらいの年の頃に山賊と戦っての~。懐かしくて懐かしくて」


「懐かしまないでください! 一体どういう人生を送ってたんですか!」


 山賊と戦ってた? ボクより小さい時とか何してたんですか一体!

 村長の異常性に呆れるトウヤ。


「奪い、奪われる時代じゃったからな。今よりもかなり治安が悪かったしの。そんな中で生き残っていけば色々経験するはめにもなるわい」


「ボクは心底その時代に生まれなくてよかったと思います」


「まっ、確かにの。だがその経験から得られるものもあるんじゃぞ」


「得られるもの? 失うものならわかりますが……」


 命とか。


「……今ではワシも『獣人化』することが出来るがの、実は昔から出来たわけではない」


「えっ!? そうなんですか?」


「うむ。それどころか他の者たちよりも能力的劣っておった。それこそ、お主に近かったかもしれん」


「ホントですか!?」


 椅子から立ち上がり、村長に詰め寄るトウヤ。


「初耳ですよ、そんなの!」


「まぁ言ってないからの。お主に初めて話したんじゃないかの」


 村長はお茶を一すすりし、話を続けた。


「そんなワシが能力に目覚めたのは、幾多もの危機を乗り越えてきたからじゃ。山賊しかり、猛獣や海獣、戦争にも出たからの。何度命を失いかけたことか」


 昔を懐かしむ村長。


「困難を乗り越えてこそ得られるものもある。今回の件で、少なからずともお主も強くなったはずじゃ」


「……特に強くなったとは思えませんが」


 あいかわらず力もないし、体も弱いままです。

 微妙な顔を浮かべるトウヤに、村長は言った。


「何も強さとは力だけではないぞ。一番大事なのは心の強さ。力があろうと恐怖で竦んでしまえば何も出来んじゃろ?」


「はぁ……」


 トウヤはゴリオの事を思い出した。

 力があってもそれを振るう心に問題のあったゴリオ。しかし彼はトウヤのためにそれを振るう勇気を身に付けた。


「確かにお前には何の能力もないかもしれん。しかし心の弱さは克服できる。そうじゃろ?」


「……まぁ。少しは成長したかな、とは思いますが。心の方だけ」


 でも体の方は、と大きく溜め息を吐くトウヤ。


「心配するな。もしかしたらワシのように、極限状態で能力に目覚めるかもしれんしの」


「本当ですか~」


 疑いの眼差しで村長を見る、がそこでトウヤは気づいた。


「……ん? まさか前回のお使いとかは」


「ん? ああ、そのためじゃ。ついでに山賊に襲われたと聞いてこれは来たか! と思ったんじゃがな~」


 残念そうに溜め息を吐く村長。


「何が来たんですか! ボクの死期ですか!? 

 あのね村長。そんな命懸けで能力を目覚めさせるなんて危ないこと、二度とさせないでくださいよ!」


 あのお使いにそんなしょうもない理由があると知り、憤慨するトウヤ。


「ああわかっとるわい。レイナ達にも言われたわい。特にレイラには『ゼノさんが狙われてるなんて聞いてない!』と本気で怒っての~。

 まぁトウヤの為を思って賛成したお使いが、お主の命を失うかもしれんと知ってショックじゃったんだろう。

 だから町にレイナと一緒にいくように言ったんじゃが、まさか山賊に攫われるとは。お主の運のなさにはビックリじゃ!」


「『じゃ』じゃないですよ! というか町へのお使いもそんな理由があったんですか! 

 ならなんで『レイナを無傷で』なんて付け加えたんですか。意味が分かりません!」


「いや、ただ町に行くだけではいかんと思っての。プレッシャーを少しでもかけようと思って。だいたいレイナが誰に傷つけられるんじゃ」


「プレッシャーをかけるな! ボクはそんな事になったら、あなたに殺されるかと思ったんですよ!」


「おお! それはいい具合にプレッシャーがかかったの~」


「いい具合? ものすっごい具合ですよ! もう余計な事はしないでください。今のままでボクは大変満足してるんですから!」


 トウヤはこれ以上目の前のボケ村長には付き合いきれん、と席を立ちドアに向かう。


「……トウヤよ」


「何ですか!」


 イライラしながらドアノブに手をかけ振り返るトウヤ。


「いつまでもそのままでいい、と本当に思っておるのか?」


「うぐっ」


 村長の言葉に図星を刺されるトウヤ。

 確かにいいとは思っていません。けどそう簡単に変われるとは……。

 トウヤは顔を伏せる。


「……焦るなトウヤ。自ずとお主にも力は付いてくる。ただ、お主の場合それがゆっくりというだけじゃ。

 懸命に何かを成していけばゆっくりと、しかし確実にお主は強くなる」


 村長は真剣な眼差しでトウヤを見つめた。


「……失礼します」


 トウヤは村長に一礼してから外へと出ていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



無言のまま家へと向かうトウヤ。

そんなトウヤにカズマが言った。


「結構まともな事言うじゃねぇか、あのジジイ」


「……本当に、極稀に真っ当な事を言うんですよ。普段は、はっちゃけたことしかしないのに」


 本当に久しぶり見ましたよ、あんな真面目な村長。


「……ボクは、強くなれるんでしょうか?」


 先ほど村長に言われた事をどうにも信じきれず、トウヤはカズマに確認してみた。

 しかし、


「あっ? 知るか」


「何て冷たい対応! そこは『なれるに決まってんだろ!』とか言う所でしょ!」


 あんまりな対応に、トウヤはカズマにそう突っかかる。


「あのな。何でお前が強くなるかどうか俺が知ってんだ。そんなのお前が感じる事だろうが」


「うっ! まぁ確かに」


 カズマからの最もな意見にトウヤは納得した。


 ……ボクが強く、ねぇ。


「ボクは変わっていけるでしょうか?」


「お前次第だろっての。さっきから弱気な発言ばっかしやがって。こういう時は『変わってみせます!』って言えってんだよ」


 トウヤの弱気な発言に若干イライラしながら答えるカズマ。


「そこまで断言は出来ません。が、少しずつ変わっていけるよう努力はしてみたい、と思います」


「かぁー! 相変わらずの逃げの発言かよ。まぁでも、変わりたいって思っただけでも少しはましか。前のお前から考えれば」


「うるっさいですよ!」


 そんな言い合いをしながら目の前の小屋に入っていくトウヤとカズマであった。


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