第4話
賑やかな会話が交わされた日から数日後。
私は、毎日のように届くプレゼントや手紙の山にうんざりとしていた。一度お父様が目を通して、問題の無いものだけ私に届けられているようだが、あの怒り心頭の顔を見るに変なものも結構紛れているのだろう。
内容を聞いてみたところ「メルは知らなくていいことだよ」とニッコリ黒い笑顔を向けられたので気にしないことにした。
「あ、これ、今流行りの香水ですよー。こっちの箱は……わぁ、綺麗な栞ですねー」
「そうね……」
「あ!これはものすごく珍しいと噂のピンクサファイアのブローチですね!とても綺麗ですよ!」
「これで一部って……ノイローゼになりそうだわ」
部屋の中央に積み重なった箱を、嬉々として整理をするステラを横目に窓の外を眺めて現実逃避をする。
あぁ、今世でまだ見てない不細工(私にとってイケメン)が見たい。
ここ数日「顔じゃなくて性格で選びたい」と力説していたところ、家族や使用人たちから「心まで美しい」という謎評価を貰って余計窮屈な思いをしているところだ。
私は顔より性格派、なんて、いい子ちゃんじゃない。
一緒にいるなら絶対好みの顔がいいし、適度に鍛えられた厚みのある体がいい。ほっそりとした麗しい感じがモテるのは知ってるけど、ひょろひょろで頼りないのはごめんだ。寄りかかってふらつかれたらゲンナリしちゃう。
もちろん地味顔だからって差別はしないよ?
だって私が地味顔だからね。
はぁ、どこかに私好みの男、落ちてないかなぁ……。
「お嬢様、見ないんですか?」
お高そうで綺麗な箱を手に首を傾げたステラに、現実に意識を戻した私は曖昧に笑う。
前世は普通の平民だ。
宝石なんて縁遠いものだったし、オシャレは好きなのだが、仕上がった顔があまりにも地味すぎてドレスに負ける。
高価な品なんて壊したら怖いし、使えればいいでしょ、という貧乏症な私にはもったいないと思ってしまう。
身分に合わせて、ある程度は経済を回すようにと思っているが領収書の類は見ないようにしている。きっと、持つ時に手が震えちゃう。
「せっかく頂いたんだもの。傷つけたら嫌だし閉まっておいてくれる?」
「分かりました!後で頂いた方の名前と一緒に表にしておきますから、目を通しておいてくださいね」
「ありがとう。凄く助かるわ」
テキパキと片付けを始めた傍らで、机の上にある手紙の山を呆然と見つめた。
返事なんて書かなくてもいいよ、とお父様は言っていたけど、わざわざ贈り物をしてくれたんだ。数が多すぎて長い文章は書けないけど、お礼くらいは伝えた方がいいと思う。
「いつ終わんの、これ」
すでに十数枚、手紙を書いているが終わりそうにないことに気が遠くなった。
同じ文章に同じ文字。静かな空間に紙の上をはしるペンの音だけが響いて周りの音が遠くなる。
だんだんと自分の名前すら「なんでこんな字を書くんだろう」と疑問に思い始めて手を止めた。
「休憩にしましょうか」
ちょうどお茶を運んできたステラと目が合って安堵する。危ない、危ない。もうちょっとで新たな扉が開かれるところだったよ。
「ええ、ありがとうステラ。ステラも疲れたでしょう?」
彼女の入れてくれたハーブティーを飲む。
カモミールの香りが気分を落ち着かせてくれて体の力が抜けた。
「いえいえ!私は見ているだけでも凄く楽しいですよ!あれらで着飾ったお嬢様を想像するだけで……!」
「あぁ……そうなのね、良かったわ。ステラが元気で……」
手を顔の前で組んだステラは、なにかを思い浮かべるように目をつぶって楽しげだ。そんな彼女の邪魔をするのも悪いので聞き流すことにした。
少し経って現実に戻ってきたステラは、思い出したかのように「ところで、気になる方はいましたか?」と無邪気に聞いてくる。
「文章だけじゃ、なんとも……」
『朝露のように眩しく美しい姫』だとか『百合の花のように儚い貴方』とか、正直何言ってるか分からないし、さむい。
「この貴族的な言い回し、あまり好きじゃないのよね……」
私が小さくそう言うと、ステラはきょとんとした。
「そうなんですね、でしたら騎士様とかいいかもしれませんね〜。実力主義で実直な方が多いですし。まぁ、容姿に難アリの方が多いので旦那様たちが許されるかは――」
「騎士様……っ!なるほど、いいかもしれないわ」
「お、お嬢様……?」
戸惑ったようなステラの声が聞こえたが、すでに新しい思考に耽った私にはもう届かなかった。
やる気のでた私は、黒いインクで汚れ、ペンの持ちすぎで疲れた手を再び動かし始めた。




