第2話
デビュタント当日。
今まで過保護な家族に見守られ引きこもり生活をしていた私だが、とうとう正式なお披露目会という行事が回ってきたのだ。
それまで美し過ぎる(笑)が故にしていたヴェールを人前で外すことになり、朝から辟易していた。前日から全身をもみくちゃにされ、これでもかというくらいに化粧水やらクリームやらを塗りこまれ、さすがにもういいよと言いたくなった。
朝早くから半日ほどかけて準備された顔面。
……これのどこにそんな時間をかけたんだろう?
そう、不思議に思ったのは内緒である。
「綺麗だよ、メル」
純白のドレスを纏った私をそう言って褒めてくれる家族には悪いが、正直自分の姿がぼんやりとしか記憶にない。特徴のない顔である。
会場には両親とお兄様たちと馬車で向かったが、主役である子供たちは後から入場するらしく待機場所へ案内された。
すでに傾き始めている陽とヴェールのお陰で私の顔は全く見えないはずなのに注目されていた。
「あの子が……?」
「顔見えない、ヴェール取ってくれないかなぁ」
ヒソヒソと友人たちと会話する周囲に居心地が悪くてため息をつきたい気持ちを必死で我慢した。心の中でお父様に助けを求めていたくらいだ。視界が悪いせいでせっかくのお城を堪能できないことは少し残念だったが、その時だけは自分の表情が見えないことにほっとしていた。
だって、絶対顔が引きつってたし。
次々と名前を呼ばれて会場に順番に入っていく。
私も自分の番に会場に入り、待っていた家族の元に向かう。
ジロジロと遠慮ない視線にうんざりしてお父様に視線を向けると、大丈夫というようにぽんと頭に手が置かれた。普段の緩みきった顔は引き締められていて感心してしまった。
「早く挨拶して帰ろうか」
私を隠すようにして歩み出したお父様と、両脇から挟むようにしてエスコートをするお兄様たちに連れられて国王陛下のいる壇上へ近づく。
国王陛下の隣には王妃様と二人の王子様たちが並んでいる。
貴族教育で学んだが、確か第一王子がレオン・ロワ・クロウウェル様、第二王子がセドリック・ロワ・クロウウェル様。どっちも美形で優秀だと有名である。
そんな人たちに挨拶をする順番が回ってきて、気合いを入れ直した私はそっとヴェールを外した。
ざわざわとしていたはずの会場はほんの少し静まり返ってまたざわめきに変わる。驚愕や恍惚としたような視線が痛くていたたまれない。
少し間を置いてハッとした国王陛下から声がかかる。
「今日はよく来てくれた」
「もったいないお言葉です。こちらが娘のメリーベルです」
お父様からの紹介でゆったりとお辞儀をする。
「メリーベル・フローレスと申します。陛下にご挨拶できたこと光栄に存じます」
「うむ……それにしても、聞いていた以上に美しいな。これでは心配事も多かろうな」
そう言って国王陛下は横に目線をずらして王子たちに挨拶を促した。
「えっと……レオン・ロワ・クロウウェルだ。俺のことはレオンと呼んでくれて構わない――」
「お、俺はセドリック・ロワ・クロウウェル。俺とも仲良くしてくれると嬉しい――」
順番に挨拶してくれた王子たちに失礼にならないように言葉を返す。
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
正直、緊張していた私は彼らが何を言っていたかなんてあまり覚えていない。きっと、ありきたりな挨拶だったんじゃないかな。
だって、私伯爵令嬢だし。
私の顔をガン見されていた気もしなくもないけど、身分的に釣り合わないからね。
「では、私たちは失礼します」
挨拶を終えてお父様の言葉で我に返る。
ちゃんと出来ていたか不安だが何も言われなかったのでセーフだと思いたい。
「もう帰るのか?」
少し残念そうな陛下にお父様はちら、と後ろに視線をやって「これ以上は」と言葉を濁した。なにかに納得した陛下は苦笑しながら「ああ、そうだな」と言っていた。
会場をあとしてようやく息をつくことができた私は疲れてそのまま馬車の中で眠ってしまっていたみたいで、朝食の時に話したいことがあるとお父様からの伝言を受け取っていたのだ。




