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偽物と本物

貴賓室ギルドマスタールームには、今すぐ帰りたくなるほどの存在感を放つ二人が、豪奢なテーブルを挟んで好き勝手な姿勢で座っていた。

その姿を見ただけでオレは胸が熱くなる。


「た、ただいま‥?かな」


「改めて!!おかえりなさいレイドくん!」


フレアがエイリーン先生と並びながら、皿に盛られた菓子や果物とカップで緑茶を丁寧に運んでくる。

どれも華ノ国原産のものだろう。

ただ、オレは口をつけなかった。


森を挟んで王都のすぐ北に隣接する某国は、王都北部に多文化的な影響を最も与えた国だ。そのためか王都北部にも忍者や刀剣士、獣人が多くいるのだ。


「改めて。おかえりなさい、レイド君。やっぱりレイド君がいるとずいぶん賑やかになるわね」


エイリーン先生が涼やかに微笑み、自然な動作でオレを愛撫する。金糸の髪が揺れ、青い瞳が柔らかく細められるだけで、空気がふっと落ち着く。


……本当に、この人の存在感は異常だ。


「ごめん、ちょっとトイレ。すぐ戻ってくるから」


その一言を絞り出すために、緊張から数十秒かかった。どうしてか?心臓が落ち着かず押し潰されるように痛むから。これが正真正銘、最後になるんだ。


「はーい」とフレアだけが返してくれる。オレはもうすぐにでも泣き出しそうだった。

ただもう少しだけここにいたかった。

でも、そんな姿を見られるわけにはいかなかったんだ

 


◇◆◇



「ただいま〜!!!!ってあれ?驚かないの?」


オレが両手を広げ、バン!!っと大きな音を立てて扉を開くと、何やら冷たい視線が集まる。

こんなに大きな音を立ててまで驚かそうとしたのに‥


「で、レイド。長いこと潜伏してたじゃねぇか。どこ行ってた」


大剣を片手で担げるその太い腕を無造作にソファへ投げながら、ローズが低い声で言う。

長い赤髪をひとつに結んだ横顔は、女顔なのに妙に迫力がある。

 

この男の名はローズ・ベルト。その奇抜な見た目から空想の赤い幻獣である《猩々緋》の二つ名を持つ。身長は2メートル近く、体重は100キロ以上。片手で大剣を振り回すパワー特化の冒険者だ。


「アーン」


「……は?」


オレは爪楊枝に刺した桃をローズの口元へ差し出す。

ローズは一瞬固まった後、ため息混じりに髪を耳にかけて、パクッと食べた。


「……お前。やめろ、そういうの」


「?あれ、ローズの髪ほどけてるよ」


ついでに彼の赤髪をほどき、指先で手早く整え直してやる。この手のことには慣れたのか、ローズは特に抵抗することもなく溜め息を一つついて脱力する。


窮屈そうに締め上げられた長い髪を一度解いて、もう一度丁寧に結い直す。

サラサラ具合はフレアといい勝負だな、本当に美しい男だ。

横で見ていたフレアが頬をぷくっ膨らませて抗議の顔をするのが可愛い。


「で、どこへ行ってたんだピエロ。フン、まさかオレの知らない魔物でも食べてきたのか?」


「皇国のドラゴンとちょっと戯れてきただけだよ。あと、ピエロじゃなくてクラウンね」


するとレヴェルトが、組んだ脚を崩すことなく呆れた声を上げた。


「ロビーには長期討伐依頼中ってデカデカと書いてあったろ。あとこの男にお前のようなゲテモノ喰いの趣味はない……は?……“戯れてきた”??」


「あ?てめぇ何様だよ。公爵家のお世話係野郎が水を差しやがって」

 

ソファに深々と王のように座ったローズが相手の目を見て恫喝するように返す。

ローズが睨みつけるが、レヴェルトはそれを無視して静かに紅茶を口に運んだ。


「俺はレヴェルト・レオンハルト。“貴族野郎”で結構。達成金額で俺を超えてから文句を言え女王様」


「フン、それがどうした。だが、確かに一理あるかもなぁ紫頭」

 

ローズの筋肉質な頬が、一瞬だが悔しげに引き攣るのをオレは見逃さなかった。

 

彼はオレを含めて誰かに“負け”を認めるのが、生理的に受け付けない男だ。


「近いうちにテメェの最高記録とやらを俺が塗り替えて置くとするか」

 

「それは勝手にしろ。不可能だ。心底興味がない」

 

二人とも好戦的だな。オレの横に座っているこの毒舌なイケメンはレヴェルト・レオンハルト。

薄い紫色の珍しい髪色に、狼を思わせるキリッとした目つきが特徴だ。かなりの高身長に、華奢な印象ながらわりと筋肉質。


彼は国営ギルドが誇る、累計の達成依頼金額で世界最高値を叩き出した、唯一無二の天才である。

 

嫡子ながら貴族のような立ち居振る舞いができ、その威風堂々とした風格は、上級貴族階級の女子にとってまさに理想の配偶者の具現化。

その存在感だけで場を圧倒する。

ちなみに彼もローズと同じく《七銀聖》だ。


エイリーン先生が微笑み、軽く肩を竦める。


「あなたたち。ここはギルドマスタールームよ? 少しは落ち着いてくれると嬉しいのだけれど」


その声だけで二人は不思議と静かになった。


先生が一枚の紙を差し出す。

《※ギルド学園 入学前招待状》──オレたち四人を含めた、よく知った名前がいくつも並んでいる。


「これ、覚えてるでしょう? レイド君だけ返事がなかったから心配していたの」


「返事……?」


「…………でしょうね」


完全に呆れられた。


フレアが、指を折りながら楽しげに言った。


「先生が言ってたよ。新学園長のメアリーさんは『イケメン大好きで、世界をぶっ壊したいタイプの天才』だって」


「めちゃくちゃだな」


「でも、気になるでしょ?」


「気にならない」


レヴェルトがまた紙を差し出した。


「教師も一新されている。見ろ、元※《黄金七聖》が二人だ」


レイ・クリスタ、アローネ・リタ──王国軍の対人最強コンビの名。他にもかなり実践タイプを感じさせる場所出身の教師名がずらりと並ぶ。


「……ぶちのめし甲斐のある教師共だな。ふん、一人ずつ潰して回るか」

 

ローズはそれを聞いて鼻を鳴らす。

 

やれやれ、とフレアが苦く笑い、オレは肩をすくめた。


退屈な世界が少しだけ動き始めた気がして、胸の奥にわずかなノイズが生まれる。


期待じゃない。

ただの興味だ。


いや……たぶん、それすら違う。もっとこう、何か。

 

◆◇◆

ギルド学園

王都中央部に位置する。もとは貴族主義の魔術師学園であったが、メアリーによってその制度は破壊され、良くも悪くも王国に新たな風を吹かせている。

◆◇◆

黄金七聖

圧倒的な武勇と貢献から、レオン皇帝陛下に毎年選ばれる7人の英雄を指す。通常七銀聖とは“格”が違うが、どうやら今年の七銀聖は何か違いがありそうだ。

◆◇◆

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