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「……さて、契約は完了ですわ」



 署名(サイン)の横に真紅の蜜蝋を垂らし、印璽(いんじ)を落とす。

 ブラッドベリー公爵家の家紋にシェイラの魔法印を混ぜ合わせた刻印が現れ、それと同時に契約書は光の粒になって消えていく。



「これでわたくしは貴方が『あるべき場所へ戻れる』よう、そして貴方はわたくしの『死刑を回避することに協力する』という魔法契約が成立しましたわ」


『──これを破ればどうなる?』


「……先程も確認しましたわよね? この契約書に書かれたことは基本的には破ることはできませんわ」



 魔法契約書は互いの魂を担保に誓約する。

 その禁則事項に抵触すれば相応の(ペナルティ)が課せられる。例えば秘密情報第1条、『互いの秘密を他者へ漏洩させてはならない』に関わるような言動は、この契約書によって制限されることになる。

 


『……どのくらいの制限がかかるんだ?』


「ち、近いですわ……!! お約束しましたわよね、『必要以上にまとわり憑かない(・・・・・・・・・)』と!」


『無理だと言っているだろう? 離れたくとも霊体(からだ)が言うことを聞かないのだから』



 急に距離を詰めてきた彼に、思わず近くにあったクッションを投げつける。宙を舞ったクッションは、半透明の身体をすり抜けて壁にべしゃり。力なくずりずりと落ちていく様はシェイラの気持ちを代弁しているかのよう。


 投げられた本霊(ほんにん)は、といえば。

 当たらないことを最初からわかっているので、氷のように涼しい顔。その実、内心では開き直っているのを知っているので、むっと眉を吊り上げる。


 

「わたくしは公爵令嬢なのですよ!? そんなに気安く近寄らないでいただきたいですわ……!」


『それはそちらの勝手だろう? 君の都合を押しつけられるこちらの気持ちにもなって欲しいものだが』



 すいーっと近寄ってくるのは、国宝クラスの美男子(イケメン)。黒の髪は空気の澄んだ夜空のように艶めいているし、紫の瞳は暮れゆく夕暮れを思い起こさせる。悔しいけど、シェイラの好みど真ん中(どストライク)。自分の顔が熱くなるのがわかって慌てて後ずさる。



「〜〜っ! いいから、少しでいいから離れててくださいましーーーー!!!!」



 思いっきり叫ぶと僅かに驚いたように目を丸くする幽霊。

 ……その顔ですら美しいんだから反則だ、勝てる気がしない。


 こんな調子で処刑回避なんてできるんだろうか、とシェイラは重い重いため息を吐いた。




 

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