Ⅱ. 異世界・夏② 燃える闘志
毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定
エミールとエリシアは順調にトーナメントを勝ち進み、準々決勝進出に至った。
「あなたの準々決勝の相手は......レオナ・フィアモーレね」
エリシアはエミールとトーナメント表を見ながら言う。
「レオナ・フィアモーレ? 誰だ、それ」
「あなた、同期を知らなすぎじゃないかしら? ま、かく言うわたしもあんまり彼女のことは知らないんだけどね。まあでも、一年最強の火属性術式使いと言われていることくらいは知っている」
「火が得意なのか」
エミールはこれまで、火属性を主体として戦ってきた。が、この試合ばかりはそうはいかなそうだとエミールは思う。戦術を変える必要がある。
「ええ。だから、火属性術式は有効じゃないわね」
「そうだな。――じゃ、行ってくる」
そう言ってエミールはアリーナへと向かう。
エミール対フィアモーレの試合は夕方、昼間の暑さも少しばかり和らいできた頃に始まった。本日最後の試合だ。
試合開始。フィアモーレが先制攻撃を仕掛ける。術式・炎弾幕、無数の炎の弾を召喚し、それらを雨のようにエミールに降り注がせる。エミールは神速術式を自分にかけ、超高速でそれらを回避。フィアモーレはそこへさらに、広範囲に強烈な爆風と熱線を発する炎の弾を撃ち込む。術式・爆焔弾だ。
「フム、すごい威力だ」
エミールは一瞬でフィアモーレの真上にジャンプしつつ、思わずフィアモーレの術式の威力に感心して呟く。
「どうしたシュタインハルト、さっきから逃げてばかりだぞ。わたしの術式に恐れをなしたか!?」
フィアモーレがエミールを煽る。
エミールは彼女の言葉に返事はせず、術式・凍土凶波を発動。アリーナ全体の地面を凍らせ、そこから巨大な氷の波を生み出してフィアモーレの術式をすべて呑み込み、消滅させる。氷の波はそのままフィアモーレへ突進。フィアモーレは術式・炎翼で炎の翼を背中に召喚し、飛んで回避。そのまま炎の剣を召喚し、エミール目掛けて突撃、斬りかかる。エミールはこれを避けることなく、同じく炎の剣を召喚して受ける。両者の剣のぶつかる衝撃はすさまじく、炎の波が荒々しく辺り一面に飛び散る。結界によってそれは観客席までは届かないが、観客らはあまりのすごさに、実際に熱波を食らったように感じた。
両者はいったん距離を取る。エミールは距離を取るやいなや、フィアモーレ目掛けて鋭い氷の弾幕を飛ばす。フィアモーレも負けじと広範囲に熱線を放ち、氷の弾幕を相殺しつつエミールを狙う。が、炎の翼に被弾。翼を打ち消されて落下する。エミールはフィアモーレの着地点を予測し、そこに術式・氷陣を発動。着地したフィアモーレの足を凍らせ、動きを一時的に封じる。が、フィアモーレほどの者ならば脱出にたいした時間はかからない。そう判断したエミールは間髪入れずに術式を発動、フィアモーレの全周に無数の氷の粒を召喚。それらをすべて彼女に撃ち込む。
フィアモーレは炎翼からの一連の攻撃で魔力と体力を使い果たしたのか、避けることも防御することもできなかった。エミール、勝利。準決勝進出。
試合を終え、エミールとエリシアが闘技場から出ようとしたとき、不意に大声でエミールの名が叫ばれた。エミールは何事だと思い、振り返る。と、そこには顔を茹でだこのごとく真っ赤にしたレオナ・フィアモーレが立っていた。
「何か用かな、フィアモーレ君」
エミールが訊く。
フィアモーレはうつむき、無言でエミールに詰め寄って言う。
「あ、あの、エミール・シュタインハルト......さん......」
「なんだ」
「そ、その......わたしと結婚してください!!」
「......は?」
エミールの思考が一瞬停止する。いきなりなにを言っているんだこの女は、と、エミールは思う。
「わたし、先ほどのあなたとの戦闘で確信したんです、あなたこそが、わたしの将来の王子様であると。あなたの一切無駄のない戦術、強くも美しい術式、すべてがわたしの心を射貫くキューピッドの矢でした。だ、だから、どうか、わたしと――」
「ちょっといいかしら」
と、熱く語るフィアモーレを遮り、エリシアが言う。
「あなた、いきなり現れて一体何のつもり? エミールがあなたの王子様だって? 馬鹿も休み休み言いなさいよ」
「ま、まあ落ち着け、二人とも」
このままでは新たな試合を始めてしまいそうな二人を見かねたエミールが割って入り、言う。
「な、いったん落ち着こう。――フィアモーレ君、さすがに急にそんなことを言われても二つ返事でOKもNOも出せんよ。第一わたしは、君のことをなにも知らない」
「で、でも、わたしは......」
「じゃあ、こうしよう。とりあえず友人からではどうだ。いきなり結婚は気が早いが、これならいいだろう、な?」
なかなか食い下がって退きそうにないフィアモーレを突っぱねることを諦めたエミールは、代わりの提案をする。
「ま、まあ。そういうなら、それでもかまいませんよ。でも、絶対将来はわたしと結婚してくださいね?」
「それは君をよく知ってから決めるよ。とにかく、よろしくな」
そう言って二人は握手を交わす。フィアモーレは自分の部屋に戻り、エミールは再びエリシアと二人きりになる。
「なんであの女、突っぱねなかったのよ」
と、エリシア。
「なんでって、できるわけないじゃないか。あんなに熱心に言われちゃ」
「へえ、そう。わたしという女がいるというのにあなたは、そんなことするんだ」
「なんだ、怒ってるのか?」
「別に」
それきりエリシアはそっぽを向いてしまった。
エミールはどうすればいいかわからず、呆然とする。そういえば前世で、まだ結婚する前、後の妻となるガールフレンドに「あなたはもっと乙女心というのを理解したほうがいいわね」と言われたことがあったのを思い出す。もしかしたらいまエリシアが拗ねている原因も、その乙女心というやつなのだろうかとエミールは思う。が、そもそも乙女心がなんなのか理解できていないエミールにとっては結局、どうにかできるわけではなかった。
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