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Ⅸ. 最終訓練・Ⅱ③ リベンジ・マッチ

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

「なぜお前がここにいる、吸血鬼!」


エミールは突如現れた吸血鬼、ジャン・ノスフェラトゥをキッと睨み付けて怒鳴るように問う。


「仕事だよ。わたしは職もなく自堕落に暮らしている駄目人間ではないのだよ。もっとも、いまはもう人間ではないがね」


エミールの、明らかに自分に向けられた敵意などお構いなしに、至って優しい口調でジャンが答える。


「これは貴様の仕業か、吸血鬼。貴様に殺されたクルシュナーとキムが襲ってきたのは、貴様が絡んでいるのか?」


「そうだ、と言ったら、どうする気かな?」


「殺してやる。否定しても殺すがな」


「それは理不尽だな」


「クルシュナーとキムを殺しておいてよく言えるよ」


「ハハハ、まあいいさ。で、横のお嬢ちゃんはどうするのかね?」


「そうね、わたしもエミールと一緒に戦おうかしら」


「お、おい、お前、いいのか?」


エミールが心配そうな顔でエリシアに訊く。


「なにも問題ないわよ。わたしたちの戦闘力に大差はないし」


「フムン、わたしはあまりあなたとは戦いたくないのだがね。まあいいだろう、二人まとめてかかってくるといい」


 ジャンがそう言うや否や、エミールとエリシアは同時にジャン目掛けて駆けだした。ジャンは一気に上昇すると、二人目掛けて様々な属性の魔弾の弾幕を張り、近づけないようにする。エミールとエリシア、自身の天馬に神速術式を発動。速度を底上げしてジャンの弾幕をかいくぐって接近する。そのままの勢いでエミールが抜刀し、ジャンに斬りかかる。ジャン、魔力で片手斧を生成して防御。その隙にエリシアが背後に回り込み、ゼロ距離射撃。背中を撃たれそうになったジャンは銃を突きつけられた箇所に咄嗟に小さい結界を展開して防御しつつ、体勢を変えないまま真下に急降下して離脱した。


 離脱したジャンは蛇のようにうねる敵機群の裏側へ逃走。エミールとエリシアは二手に分かれ、それぞれ別の方向からジャンを追跡する。


「ええい、邪魔くさいわね!」


 二人が分かれたとき、エリシアのほうに突然敵機群が群がっていった。


「エミール、こっちは小さいのの対処で手一杯になった。先に追って!」


「なに!? わかった。先に行く」


 エミールが敵機群の下側にまわり込んだとき、ちょうど正面からジャンが猛スピードで迫ってきていた。互いに剣と斧を握りしめ、刃と刃が激しくぶつかり合う。


「クルシュナーとキムについて質問されていたな。そうだ、あれはわたしの仕業だよ。この黒い大量のもな」


「やっぱり貴様か!」


 両者一旦離れ、再び激しく衝突。


「わたしの権能だ。わたしに血を吸われた死者の複製を自分の使い魔として召喚できるんだ。それだけじゃない。複製した使い魔を改造したり、使い魔同士をつなぎ合わせて新しい生物を作ったりすることもできる」


「そいつは暇しなさそうだな、自分の考えた最強の生物作りに没頭できるだろう」


「そうだ。これは素晴らしい。だから――」


 ジャン、一気に速度を乗せて離脱し、エミールと距離をとる。


「わたしの創った作品を少し、君に見せてやろう!」


 そう言うと、ジャンはコートの前をがばっと開けた。そして、露わになったコートの内側から巨大な生物が二体、勢いよく飛び出してきてエミールに襲いかかる。一体はドラゴンの頭部にコウモリの翼、蛇の尾――尾の先端には矢じりのような鋭い棘がある――を持ち、全身が緑のゴツゴツした鱗に覆われている。もう一体は九つの首を持った巨大な大蛇だ。


「どちらもわたしの傑作品だよ。緑のはわたしの母国で最も人気な竜の図像の一つ、ワイバーン。 もう一体、九つの頭の大蛇はギリシア神話の怪物、ヒュドラをモデルに創った。どちらも君にとっては戦いがいのある相手だろうから、存分に楽しんでくれたまえ」


「待て、吸血鬼!」


 エミールは二体の怪物、ワイバーンとヒュドラを放出して逃げたジャンを追いかけようとした。が、巨大な二体の攻撃に阻まれる。


「ええい、クソッタレ!」


 ワイバーンは空を自由自在に飛び回り、口から炎のブレスを吐いて攻撃してきた。ブレス攻撃の持つ熱は膨大で、直撃したらまず一瞬で蒸発、至近で避けてもその熱波で焼けてしまいそうだとエミールは思う。一方でヒュドラは空こそ飛べないが、九つある頭を使って濃い紫の、毒々しいブレスを連射してくる。こちらは熱波こそないが、見るからに毒だろうというまがまがしさがあった。どちらも被弾したらただでは済まなそうだ。


「ヒュドラは飛べないし、大して動きもしない、か。なら、動き回れるワイバーンのほうから叩く!」


 エミールは攻撃対象をワイバーンに絞った。ヒュドラの毒ブレスに当たらないよう注意しつつ、ワイバーンに攻撃を叩き込む。が、どの攻撃もワイバーンの堅い鱗に阻まれてしまい、まともにダメージが入らない。比較的柔らかそうな腹や、首の内側などを重点的に狙ってみても駄目だった。


「どこなら攻撃が通るんだよ、コイツ」


 そういえば、と、エミールは思った。さっきからヒュドラの毒ブレスがワイバーンに一切当たっていないのだ。なんなら、ワイバーンが楯になってヒュドラから自分の姿が見えないときは完全にブレス攻撃が止まっていた。


「あいつ、自分のブレスがこいつに当たらないようにしているな……」


 いくら防御が堅いワイバーンとは言え、ヒュドラの毒ブレスにはあまり耐性がないのだろうとエミールは予測した。それにワイバーンもだ。ワイバーンの炎ブレスの攻撃する面の範囲はエミールよりずっと大きい。したがって、エミールの先にヒュドラがいる状態でブレスを吐けば、もれなくヒュドラにも当たってしまう。そのような状況下では、ワイバーンはブレス攻撃をしてこなかった。恐らくヒュドラも、ワイバーンの炎ブレスには耐えられないのだ。


「怪物のくせに大した連携を見せてくれるじゃないか……だったら――」


 エミールは自分の予想に賭けた。いままでは毒ブレスを防ぐために、そして少しでも魔術や弾丸の威力減衰を減らすためにできるだけワイバーンに肉薄していた。それをやめ、エミールは急加速してワイバーンから離れる。それにあわせてワイバーンもエミールを追いかける。


「よしよし、ちゃんとついて来いよ……」


 ワイバーンがしっかりと自分を追いかけてることを確認すると、一気にヒュドラのほうへ突っ込んでいった。さらに、後方のワイバーンをすっぽり覆うほどの巨大な防御結界を前方に展開。これによってヒュドラは毒ブレスを吐いても結界にぶつかり、ワイバーンには当たらなくなった。一方で、結界は外からの攻撃には耐性があるが、内側からの攻撃にはまるで弱い。したがってワイバーンは前方を飛ぶエミールを攻撃できないでいた。ここで炎ブレスを吐けば、エミールの結界を突き破ってヒュドラまで届いてしまう恐れがあるからだ。


 案の定、ワイバーンへの被弾リスクがなくなったヒュドラは毒ブレスを連射し、ワイバーンは攻撃してこなかった。エミールは賭けに勝ったのだ。だが、誤算もあった。


「クソ、こいつのブレス、結界を浸食するのかよ」


 ヒュドラの毒ブレスが結界をだんだんと浸食し、ヒビが入るようになったのだ。そのためエミールは追加で二重、三重と結界を展開し、強引にヒュドラに突っ込んでいく。ヒュドラとの距離が一○○○、九○○、八○○、七○○とどんどん小さくなっていく。距離が一○○を切ったところでエミール、結界をすべて解除すると共に急上昇。一瞬でヒュドラとワイバーンの間からいなくなる。


「よし、成功だ」


 エミールの結界で防がれるはずだった毒ブレスが、結界が急に消えたことでワイバーンに命中したのだ。距離が極めて至近であったことも相まって、ワイバーンにとっても回避困難だったろう。ヒュドラの毒ブレスをもろに食らったワイバーンは急上昇したエミールを追う力を失い、ヒュドラの頭上を通り抜けて森のなかに墜落したきり動かなくなった。


「これであと一体……」


 ワイバーンが退場したことで自由に毒ブレスを吐けるようになったヒュドラは、ブレス攻撃のペースをあげてきた。九つの頭を駆使して常にエミールのいるところへブレスを吐いてくる。が、エミールにとっては、よく見れば回避は容易だった。ブレスとブレスの合間を縫って接近し、ひとつずつ頭を確実に潰していく。が、


「こいつ、頭再生するのか!?」


 潰したはずの頭が即座に再生してしまうのだ。潰されてから再生まではおおよそ三秒程度か。さらに首を潰すと、再生時に首が一つ増えている。つまり、無闇に首を潰せば潰すだけ首が増えるのだ。そうなればそれだけブレス弾幕も濃くなる。


「驚いただろう、エミール君。そいつはほとんど不死身と言っていい。さあ、どうこう攻略するのかな?」


どこからともなくジャンの声が響き渡る。


「まったく、悪趣味な野郎だ……」


 エミール、爆槍を九本召喚。それを一斉に発射し、こんどはヒュドラの九つの頭を同時に吹き飛ばしてみる。が、やはり再生されてしまい、ダメージを与えることはかなわなかった。おまけに首は現在二十個。ブレス攻撃は最初の二倍以上に激しくなっていた。


「ええい、どうすれば……待てよ、あいつ、ギリシア神話と言ったか?」


 ヒュドラはギリシア神話に出てくる怪物だ。テュポンとエキドナの間に産まれた怪物。そしてこいつを倒したのはヘラクレス神だ。その際、ヘラクレスは甥のイオラーオスの助言で首の傷口を焼き、首の再生を防いだという。ジャンの創ったヒュドラが神話のヒュドラとその辺りが同じなら、傷口を焼いてしまえば首の再生はなくなるかもしれない。


「また、賭けか……」


 爆槍で爆破したときは傷口は燃えなかった。したがってエミールは、首を潰した直後に改めて炎系の術式をぶつけて燃やしてみる。多数ある首の一つに狙いを定め、ヒュドラの懐、首の根元まで肉薄して剣で叩き斬る。そして瞬時に炎の術式を浴びせて傷口を焼いた。


 結果は、成功だった。焼かれた傷口から首が再生することはなかった。


 同じ要領でエミールは次々と首を落としては焼き、墜としては焼きを繰り返していった。そして最終的に首は残り一つとなった。が、最後の一つの首がくせ者だったのだ。一向に攻撃が通らない。騎兵銃の弾丸は弾かれ、剣は刃が入らず、魔術もまるきり駄目だった。


 確かに神話のヒュドラも、真ん中にある一つの首は不死だった。神話のほうは切断こそできたが、こっちはそれすらかなわない。


「なら、いっそこのまま……」


 エミール、ヒュドラの頭上に巨大な岩石を生成。それを勢いよく最後の首に落とした。


 岩石が当たる直前、ヒュドラはクルシュナーのときと同じように形が崩れ、大量の血となって消えてしまった。向こうで動かなくなったワイバーンも同じ状態になっている。


「フムン、よく倒したな、エミール君」

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