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Ⅸ. 最終訓練・Ⅱ① 再会

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 無数の敵機群と戦闘していた友軍の顔に、エミールは覚えがあった。バーで出会い、喧嘩をふっかけられ、彼らの駐屯地で圧倒した落ちこぼれ兵士――


「ゾムスキーさん……」


「エミール・シュタインハルト……」


「なぜここにいるんです、あなたは新兵ではないでしょう」


エミールが彼に問う。


「再訓練だ。悪いか?」


「再訓練だって? なんでまた……」


「こっちの勝手だ。それよりも、ここで雑談している暇はねぇぜ。あの真っ黒い野郎共はまだうじゃうじゃいるんだ。――援護は感謝する。弾も魔力も尽きて危ないところだった」


「ム、それもそうだ。――あとは我々に任せてください。あなた方は帰還を」


「了解。幸運を祈る」


 そう言うと、ゾムスキーらはリノ、ムンクと編隊を組んで帰投していった。


「なんだ、知り合いですか?」


と、ヤコヴレフがエミールに訊く。


「まあ、そんなところだ。――っと、来るぞ。仕事の時間だ」


 真っ黒い敵機の群れが一斉にエミールら目掛けて襲いかかってきた。数もいままでのとは比べものにならない。見渡す限り真っ黒い敵機の塊だ。


 エミールは再びフェンリルを構え、権能の発動と共に引き金を引く。立て続けに二、三発。それらすべてがそれぞれの敵機に向かって飛翔し、確実に風穴を開けていく。殺虫剤をかけられた小バエの群れのように、次々とぼとぼと墜落していった。一発の魔弾でざっと一○○機は墜とせているだろうか。


「もうだいぶ墜としていると思うが、減る気がしないな……」


 三桁単位で敵機を墜とし続けていたエミールだったが、それで敵の数が減っているようには思えなかった。相変わらず、見渡す限りに黒い敵機がぶんぶん飛んでいる。いったい全部で何機いるんだ、と、エミールは思う。と、そのときだった。


「お、おい、お前、どこにいくんだ!」


 フェンリルから新たに放たれた魔弾、それがまったく敵機を追尾しないのだ。しっかりと敵に狙いはつけた。魔力切れにはまだほど遠い。他もいままでとなにも変わったことはない。なのに、魔弾のコントロールがまるで効かないのだ。いったい、どうしてしまったんだ…… エミールは冷や汗をかき始めた。さらに、それに追い打ちをかけるかのように魔弾が味方を狙い始めてしまった。魔弾の飛ぶ先にいるのは、エリシアだった。


「おい待て、それは敵じゃないぞ! ――避けろ、エリシア!」


咄嗟にエミールが叫ぶ。


「なにっ!? ――っ危ないな。なにするのよエミール」


エリシアがエミールを問い詰めて言う。


 魔弾はエリシアを狙っていたかに思えた。が、エリシアに当たる直前で軌道を変え、空の彼方に飛んでいって見えなくなった。


「待ってくれ、わざとじゃない。わたしは確かに敵を狙った。なのに、弾がちゃんと飛ばないんだ!」


「なんだって? どういうことよ、それ」


「知るか、わたしが聞きたいよ」


押し寄せる敵機を魔術で振り払いながら二人は言い合う。


「なにかまずったんじゃないの? もう一回撃ってみなよ」


と、エリシアが言う。


 エリシアに言われ、エミールはもう一度権能を発動した。銃の照準、体内の魔力残量、弾倉への魔力の注入、すべていつもと変わらない。そうして、彼は慎重に引き金を引く。が、


「クソ、まただ。またコントロールが効かない!」


魔弾は先ほどと同じようにエミールの意図しない軌道を描き、空の彼方へと飛んでいって見えなくなってしまった。


「畜生、なんでなんだ。どうしたって言うんだよ……」


 そういえば、と、エミールは思う。いつも権能・魔弾之射手を発動して撃つときは大型拳銃・フェンリルを使っていた。なら騎兵銃で発動したら、どうなるんだ? もしかしたら自分ではなく、フェンリルの不調なのかも知れない。


 ――試してみるか。


 エミールはフェンリルをしまい、代わりに騎兵銃を構える。至って普通の、特別な細工など一切ない騎兵用の小銃だ。弾は実弾。だが、弾に術式を付与することもできる。


「これでちゃんと墜としてくれるといいんだが……」


 エミール、再度権能・魔弾之射手を発動。弾倉に直接魔力を流し込むのではなく、代わりに実弾に術式を刻む。そして、発砲。が、やはり弾が狙った方向に飛ばない。また弾は軌道を変え、エリシアを追尾していった。


「エリシア、まただ、避けろ!」


「問題ない。撃墜する」


そう言うや否や、エリシアは自分目掛けて飛んでくる魔弾に氷魔術をぶつけ、相殺する。


 ひとまず同士討ちの危機は去った。だが、根本的な問題が解決されていない。突然魔弾之射手がうまく発動しなくなった。どういうことだ? エミールは自問する。いや、権能自体はなにも問題なく発動されていたように思える。なにも違和感などなかった。銃の問題でもなさそうだ。とすると敵機の妨害ジャミングか、それとも、そもそも権能がこういうものなのか。などと考えているエミールにエリシアが叫んで言う。


「危ない、エミール! 考え事している場合じゃないよ!」


 エミールの背後から敵機が猛スピードで迫ってきていた。彼はエミールの忠告でとっさに回避し、カウンターで撃墜。エリシアの注意がなければ攻撃を食らっていた、危なかったとエミールは思う。


「ありがとう、エリシア。もう大丈夫だ」


 いまはあれこれ考えている場合ではない。いまはひとまず魔弾之射手は封印して戦おう。エミールはそう切り替えて、敵機を撃墜していく。相変わらず数が減っているようには感じられない。いくら自分の魔力量が他よりずば抜けているからといって、無限ではない。ずっと続けていればいずれ底をつく。


「このままじゃじり貧、か……」


 そのときだった。いままでのとは明らかに違う、別の気配をエミールは感じ取った。いま自分の周りをうろちょろしているのとはまるで格が違う。もっと大きく、速く、そして魔力量も桁違いだ。


「なんだ、新手か……?」


 気配は二つ。いずれも前方から猛スピードで突っ込んでくる。速度はいままでの敵機の三倍はありそうだ。などと考えていると、遠くがキラッと光った。


「危ない――」


 エミールは本能的に危険を感じた。頭が思うよりも速く、身体が動いていた。手綱を左に引き、咄嗟に左にブレイク。その直後、先ほどまで自分が飛んでいたところに四本のどす黒いビーム光線が撃ち込まれる。ビームが通った方を見ると、敵機が多数巻き込まれていた。身体の半分が消し飛んだもの、全身をビームに包まれて灰も残らず消滅したもの、かすっただけで力を失い、よろよろと落下していくもの、エトセトラ、エトセトラ。


「全員無事か!?」


 エミールはすぐさま無線機で全員の安否を確認する。幸い、あのビームに当たった者はいなかった。


「……新手だ。来るぞ!」


 先ほどのビーム攻撃によって開けた道を通り、二機の大型機がエミールの目の前を超高速で突っ切っていく。これもまた全身がカラスよりも黒く、細部の形がはっきりしない。だが、サイズは他のよりも確実に大きかった。五倍くらいはあるだろうか。


「気をつけろ、こいつらは、強い!」


 二機の大型機は左右に分かれると上昇し、反転。インメルマンターン。再びエミール目掛けてビームを撃ちながら突っ込んでくる。エミールはそれを上昇して回避し、そのまま突き抜けていった片方の大型機の六時を占位。騎兵銃で射撃する。が、すばしっこく上下左右に機動されてうまく当たらない。権能・射撃之名手を使っても、着弾の瞬間の一瞬の機動で避けられてしまう。さらに、後方に向かってもビームを撃ってくるので自分も回避をしなければならない。面倒な相手だ。魔弾之射手が使えたらもっと楽だっただろうと、エミールは心の中で舌打ちする。


「こいつ、でかい癖にちょこまかと……!」


 追いかけ、後ろへのビームを避けながら攻撃をしていると、こんどはもう一機がエミールの下方から突き上げてきた。下方の敵と前方を逃げる敵がタイミングを見計らったかのように、同じタイミングでビーム射撃。それぞれ四本ずつ。放たれた四本のビームは一カ所にまとまると、それぞれが絡み合ってドリルのように回転する一本の極太ビームとなり、エミールに襲いかかる。


「ええい、クソッタレ!」


 エミール、全周に防御結界を展開。ビームを受け止める。が、ビームが堅い岩盤を削る掘削機のように結界を少しずつ削り、だんだんと結界にヒビが入っていく。エミール、さらにその内側に二重に結界を展開。三重の結界でビーム攻撃を防ぐ。最終的にビームは二枚の結界を割って貫通し、最後の最も内側の結界で力尽きて消滅した。ビーム消滅とともにエミールは右へブレイク。下方の敵機の突進攻撃を避ける。


「なんて威力だ、блядь(ちくしょう)


 エミールへの攻撃に失敗した二機は再び編隊を組むと、反転してエミールの正面から突撃してきた。ヘッドオン。と、そのとき、二機の背部に変化が生じた。背部が盛り上がり、泥汚れを流水で洗い流すように盛り上がった先端から真っ黒い色が剥がれ落ちていく。そうして現れたのは、紛れもない、人間だった。真っ黒い機体から人間が出てきたのだ。


 そのまま二機は突撃を続け、機体のビームと出てきた人の魔術でエミールに攻撃を仕掛ける。エミールはそれを避けながら小銃でカウンター射撃をお見舞いし、二機と一人は交差する。交差するその瞬間、エミールは背部の人の顔をはっきりと視認することができた。そして、驚愕した。


「クルシュナーさんに、キムさん……だと!?」

お読みいただきありがとうございます。


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