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Ⅶ. 赤いシャツの男④ 自分の思い

毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定

 後日、エミールらは校長と共に学校の代表として殺されたキルシダー首相の葬儀に参列していた。首相の棺に花束を捧げ、賛美歌を歌い、埋葬して解散する。


「わたしの祖国は、共産主義国家だった」


自室に戻り、エミールはエリシアと話していた。


「祖国・ソ連の成立は暴力によって行われた。時の皇帝とその家族を殺害して、だ。わたしは、共産主義者だった」


「それは興味深いわね。で?」


「こっちの世界に来てからは祖国の家族を想うことはあっても、祖国や共産主義の同志を想うことはあまりなかったんだ。だが、この間の赤シャツ団の事件の時は、違った。不思議と彼らに親近感が沸いたんだ。いや、ここを抜け出して連中の仲間になりたいって訳じゃない。奴らと行動を共にしようとは思わない。だが、なんだろうな――自分でもよくわからない」


エミールの話を聞き、しばしの沈黙の後にエリシアが言う。


「わたしの固有スキルではあいにく、同種の心は読めない。でも――」


「……でも?」


「それは多分、<懐かしさ>からくるものじゃないかしら」


「懐かしさ?」


「そう。エミール、あなたの祖国は共産主義国家だったんでしょう? ならきっとそこでは共産主義はごく当たり前の思想だっただろうし、この国のように弾圧されるものじゃない。でも、ここでは違う。共産主義者は危険視されているし、ときには弾圧もされる。その差は、あなたにとっては違和感として感じられる。その違和感が転じて共産主義に懐かしさを感じているんじゃないかな? ま、あくまでわたしの勝手な想像だけど」


「フムン」


「この世界でのあなたの一番の目的はなんだったっけ?」


「……祖国には女房と一人娘がいる。わたしはそこに帰りたい」


「祖国のためではなく?」


「ああ、そうだな」


エミールは堂々と言う。


「ならこの問題は、大したことじゃないわね。家族愛に政治思想は関係ないでしょうから」


「ウム、そうだな」



「彼の様子はどうですか、我が主よ(マイ マスター)


彼はわたしに問いかける。


「問題はなさそうだね。計画に支障はない」


「そうですか。それは素晴らしい。あなたのご復活も秒読みでしょうな」


「ハハハ、それは少々気が早いわ。わたしの完全復活には、まだ時間が必要だよ」


「これは失礼しました、主よ」


「なに、構わない。遅かれ早かれわたしは復活するのだからね。――この世界は、わたしのものだ。誰にもわたさん」


「もちろん、この世界は主のものであります」


「だが、ここに土足で乗り込み、わたしの許可も得ずに好き勝手している連中がいる」


「まったく、不届きな連中ですな」


「わたしは奴らを完全に破壊する。破壊してやる」


「承知しております」


「敵は天使教教皇庁、悪魔教中央大寺院、ザレンベルク、ルスラニア、カザールスタン、オレシュ、華陽――」


「エーベンベルク、二重帝国、カジャナ、レフランド――」


「――この世界中にはびこっている」


「まったく、面倒な奴らですな」


「ええ、そうね。でも、すべてわたしが潰す。――喉が渇いたわね」


執事(バトラー)、主に紅茶を」


「御意」


「彼奴らの崩壊は近いぞ。彼はわたしに協力する運命にあるし、我が妹も、こちらの世界に来てから順調に力を取り戻しつつある」


「ハ。それに妹様も、連中の崩壊を今か今かと待ち望んでおられます」


「ハハハ、まったく血の気の多い娘だ。だが、それだけ頼もしくもある」


「わたしのことも、お忘れなく」


「勿論だよ。そのためにお前を吸血鬼にしてやったんじゃないか。それも最強の」


「ええ。それに見合った働きをしてみせましょう」


「ああ、期待しているよ」


 わたしは執事の煎れた紅茶を飲み、言う。


「我が従僕よ、わたしは今度、彼の能力を試してみようと思う」


「と、いいますと?」


「彼の持つ力は強大だ。だが、それを存分に発揮する機会はあまりなかった。だから、一度この目で見てみたいのよ。彼の<本気>を」


「フムン。主のお考えは理解しました。して、わたしはどうすれば?」


「そんなに難しいことじゃない。きみは――」


 わたしは従僕に耳打ちして言う。

 

「――承知しました。我が主(マイ マスター)

お読みいただきありがとうございます。


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