Ⅵ. エンゲージメント⑤ 魔弾之射手
毎週木・金・日、15時~20時の間に投稿予定
決闘の一部始終の報告を受け、わたし、レオン・ラファレウスは驚愕した。決闘の最中に吸血鬼が乱入し、落ちこぼれ二人が死亡。エミールが応戦したが撃破には至らず、自動拳銃をエミールに授けて飛び去っていった。
エミールでも殺しきれなかった魔物、だ? それはつまり、転生者と同等以上の力を持っているわけだ。もしそんな奴が戦場に現れ、こちらの転生者を食い止めることがあれば、我ら人類の勝機は格段に下がってしまう。これは由々しき事態だ。
エミールとエリシアが置いていったレポートを机に置き、わたしはため息をついた。そして、三十年前のことを思い出す。セバスティアン・ジョーンズ少年。あのときわたしが彼を思いやってやれていたら、また状況は違ったのだろうか。エミールとセバスティアンが同時にいたら、例の吸血鬼の撃破は容易なのだろうか。勝利が駆け足で我々のもとにやってきてくれるのだろうか。
いやいやラファレウス、そんなことを考えてもどうしようもないだろう。過ぎたことだ。いまさら後悔したところでどうにもならん。わたしは、そう、自分に言い聞かせた。
ザレンベルク帝国陸軍旗に包まれた二つの棺が埋められる様子を、わたし、エミールは眺めていた。ひとつはクルシュナーの棺、もうひとつは、キムの。クルシュナーの遺体は切り離された胴体と首をつなぎ合わせ、血などが拭き取られ、綺麗な状態だった。しかし、一方でキムの遺体は、見るに堪えなかった。あのあと基地の職員総出で吹き飛んだ肉片を回収し、形を保っていた左半身と一緒に棺に入れた、らしい。
遺体の埋葬が完了し、「帝国英霊を称える歌」を斉唱して葬儀は終了した。大学校に戻り、わたしは自室には行かず、誰もいない演習場にやってきていた。ジャンに渡された拳銃の実験のためだ。
「それがジャンからもらった拳銃、ね。拳銃と呼ぶには相当大きいわ」
横からエリシアが銃をのぞき込んで言う。
わたしはエリシアに離れるように言い、彼女が距離をとったのを確認して銃を構える。狙いは約五十メートル先の演習用静止標的。引き金に指をかけ、思い切り引いてみる。と、かすかに身体の中心から銃を持つ手に魔力が移動する感じがした。そして銃口から魔弾が勢いよく飛び出すと、それはまっすぐに飛んでいき、標的のど真ん中に命中した。
「お見事」
エリシアが拍手して言う。
わたしは続けて二、三発と撃つ。撃ってみた感じ、消費魔力はたいしたことはなかった。が、それよりも不可解なことがあった。弾が若干曲がって飛んでいっているように見えるのだ。そして、撃った弾のすべてが標的のど真ん中に命中する。
試しにこんどは、的からまったく外れた方に向かって撃ってみた。すると弾丸があり得ない挙動をし、的に吸い込まれるように命中した。
「なんだこりゃ……」
わたしは思わずエリシアの元に駆け寄り、事情を話す。そのうち、頭の中にある言葉が浮かんできた。
「魔弾之射手……」
気がつくとわたしは小さく、その言葉を呟いていた。
「魔弾之射手、ね。それはきっと固有スキルだわ。あなた、新しくスキルを獲得したみたいね。おめでとう」
と、エリシア。
「二つ目の固有スキル、か。それって一人が何個も持つものなのか?」
「まあ、あるんじゃない? いまのあなたがまさにそうじゃない」
「ウム、まあそうなのだが……」
そう言われてはなにも言い返せない。
二つ目の固有スキル、魔弾之射手。これはどうやら、撃った弾が必ず的に命中するまで追尾するようになるスキルのようだ。このスキルと以前獲得した射撃之名手、これらを駆使すればあの吸血鬼を倒すことも可能なのだろうか?
いや、可能にするのだ。
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